義手義足、宝石の目の夢魔
大きい屋敷で私には2人の義姉さんと義妹がいる。そして、私たちは日々、義母さまの元で教育と戦闘訓練を行っていた。私たちはそんな日々でも楽しかった。
戦闘訓練の休憩時間はいつも、お義母さんはおやつを持ってきてくれる。
「休憩ですよ、皆さん」
屋敷の訓練所から私たちはお義母さんの声に導かれし、東屋の椅子に座り休憩する。赤い髪の長姉は剣と盾を置き、次女である青い髪の姉は槍を置き。三女である私は何も置かず。四女である緑髪の妹は杖と魔法書を置く。
4人とも、違う物が得意であり。性格も姿も違っていた。お義母さんは噂の女性によく似ており、私もお義母さんに似ている姿をしていた。お義母さんにはその話を聞いており、私たち姉妹の目指すべき頂点と教えられていた。
「皆さん、中々上達が早くて素晴らしいですね。お義父さんも期待してますよ」
「そうだろそうだろ!! 俺様!! 強くなったんだぜ」
「ワン姉さん、はしたないのでクッキーほうばりながら喋るのやめよう」
「なんだぁ、ニィ。お前のクッキーとっちまうぞ」
「だめです。私はゆっくり食べるんです」
「お二人とも、沢山焼いてるので大丈夫ですよ」
その優しい言葉に私は首を振った。
「お義母様、夕御飯が食べられなくなります。それにバランスのいい食事をしなくては強い体にはなりません」
「夕飯残したことあったかしらね?」
夕飯は少なめなためか、食べ過ぎず。適量であり、残すことはない。黙々と静かに食べるシィが私におねだりする。
「サン姉ちゃん……もっと食べたい」
「………ダメです」
「むぅ……」
「でも、私のを上げますので我慢してください」
「え、なら……いらない」
「うん、わかりました」
私は金属の義手の手でクッキーを優しく掴み、食べる。昔はこれを砕いてしまっていたが、今は丁寧に義手を使えた。思い出すのは優しい声と優しい手。義手を扱えるように教えてくれた人を思い出しながら私はクッキーを食べ終える。それを見届けたお義母様は食器を片付ける私たちもそれを手伝う。
屋敷には私たち以外の使用人はいない。本当に私たちだけであり、そして……お義父様は他の屋敷ももっており。ここは別荘のような扱いである。
「お義父様は今日は帰ってこられるのですか?」
「いいえ、今日は帰って来ません。エルフ族長様は」
「………?」
私は違和感を覚える。そしてその違和感を口にした。
「お義母様はご主人様かグレデンデ様とお呼びしてました。何かあったのですか?」
私の違和感に姉妹もそれぞれ反応する。
「サン、考えすぎでは? たまに呼び方変わることはあるよ」
「ワン姉さんの言うとおりです」
「………そうですね。考えすぎですね」
「シィはサンお姉ちゃんの違和感わかった気がする。お義母さん……今、お仕事中でしょ」
「そうですね。お仕事中です。なんのお仕事かと言いますと……あなたたちの近況をお伝えするお仕事です。見ていますよ」
「え、オヤジ帰って来てるんの!? どこどこ!!」
「ワンお姉さん落ち着いて。お義母さんの目に居ます。見たものをお義父さんが見てるんです」
「偉い、そうです。なので、あまり粗相があると心象がわるくなります」
「………でも、帰ってこねぇんだろオヤジ。サン、どう思う?」
「私はお義母さまが可哀想と思います」
「サン姉ちゃん……そうだよね」
「私も、シィとサンに同じ。お義母さんはどう思うの?」
「……非常に忙しくされており、また……今は大切な時期です。わがままを言ってる暇はありません。それにあなたたちが居ます」
私はその言葉に「我慢」と言うのを感じる。それは私に通じるものがあった。胸の奥にある、思い出の人に私は会いたい。しかし、会うには多くの物が足りない。なので、私は正直に答えた。
「会えるのに会えないのは苦しいですね。お義母様」
「そうですね」
「わがまま、言ってもいいと思います。お義母さん泣いてます。一人で」
「え、いや。泣いてないけど……」
「娘たちの前ではです。ねぇ、シィ」
「うん」
私の反応を素晴らしい反応で返してくれる。無邪気そうな反応だが。それは「嘘」に加担した返事だ。
「………ふふ、バレてましたか」
そして、お義母様も加担する。満面の笑みにきっとお義父様の声が聞こえているのだろう。
「ご主人様、グレデンデ様は3日後に帰って来るそうです」
私は「よかったですね、お義母様」とお伝えし、席を立ち、そのまま義手を触った。
私に足と手を作ってくれた方は今は何処に居るか……私にはわからないのだ。そして、会いたいと願い続ける。
*
「お風呂お風呂~」
「ワン姉さん。騒いではダメです」
「じゃぁ、お風呂入ってくるね。サン姉ちゃん」
「はい」
夕刻、一生懸命動いた体を清めるために用意した湯船へと姉妹向かう。私はそれを見送り、水と布をもって自室へ向かう。私は四肢がない。義手義足で入ればいいがメンテナンスや整備が時間がかかる事や、耐久が減ったりと悪いことばかりなので私は風呂に入らず。水と布で体を清める。
使用人服を脱ぎ、義手の手で体を拭く。それが終わると戦闘用ではない。義手と義足に付け替え、そのまま義手を手入れを行う。
教えて貰った整備方法とそれをしない場合の状況も全てわかっており。丁寧に魔法で汚れなどを除去し、潤滑油を塗布する。非常に高価な贅沢品の義手義足を私は先生からいただいた。
「サンお姉ちゃん、いる?」
私が整備してるとドア越しからシィの声が聞こえ、工具を置いてドアを開ける。そこにはシィだけがおり、手には本を持っていた。
「今日はそれを読んでほしいの?」
「うん!!」
私は彼女を部屋に招き入れる。シィは嬉しそうに部屋に入り、ベットに腰かける。私は隣に座り、受け取った本を見つめた。義眼の右目がうずき、魔力の残滓と魔法陣の模様が浮かぶ。
「お姉ちゃん。何か見える?」
「ええ、火の魔法ですね。初歩的な魔法です」
私には扱えない魔法。私の魔力は全て義手義足を動かすための潤滑油の役割をしており、魔法は扱えない。だが、シィは非常に魔力、魔法が得意である。しかし、魔法書を読むのどうも苦手なのか私に頼るのだ。
「お姉ちゃん……火でどんな事が出来るの?」
「障壁など、守る術が書かれてます」
本の文字、呪文を読み上げてシィはそれを復唱した。どんどん吸収する妹に私は時間を忘れて教えて行く。その行為に私は満足する。そう、私は先生の真似事に幸福感を覚える。そして、寂しさも思い出す。
「……サン姉ちゃん。また、悲しい顔をしてる」
「あ、ごめんなさい。何でもないです」
「姉ちゃん。ずっと隠し事してる。ずっと」
「………」
「隠し事は悲しい事?」
「………」
私は答えに窮する。何を言えばいいかわからず、目を閉じて悩み。シィに伝えた。
「そうですね悲しい事と言うより。寂しく思うのです」
「お姉ちゃん……」
「ごめんなさい。私は幸せですよ。でも……幸せだからこそ考えるんです。考えてしまう」
「シィにはわからない」
「ごめんなさい。私にもわからない」
トントン
「あなたたち、もう寝なさい。授業ですよ」
扉を叩く音とお義母様の声が重なる。私たちは夢魔であり、夢を自在に操る事が出来る。夢ではお義母様が先生で多くを学ぶ。現実では出来ないような実物教育も出来るため私たいは短期間に多くの知識を入れた。
「はーい、お姉ちゃん。いつかわかるといいね」
「ええ、おやすみなさい」
「うん、おやすみ」
便宜的な挨拶のあと妹は部屋を去る。私はそのまま義眼の宝石で出来た右目を撫でる。そして、その瞼の裏に居る。優しい表情の男性を思い出す。
「しぇんせぇい……」
口足らずな発音を漏らしならが、私はベットに横になって右目を触れ続けた。ぽっかり空いた胸の奥の感情はわからないままに。私は夢へ向かうのだった。




