フォートレス・ライブラリー⑧
先手を打った私は先手を打った筈なのに全く距離が詰められず。蹴りは空を切り、そのまま回転して正面に立ち。上から下ろされる大剣を義手で受け止めて受け流す。強いと言うような意識があるが怖さはなかった。
「……君、なかなかやるね。何故戦うか教えてほしい……ほしい物を僕はなんでも用意できる」
「戦いながら口説きですか……その、申し訳ありません……既に既婚者です」
「そ、そうかい。じゃぁ…………………」
男は狼狽え、そして悩んだのちに決める。
「倒そう、殺しはしないよ」
「……」
なんとも言えない悪寒だけがずっと走る。それはなにかズレを伴っており、拳に力が入りずらい。
「それよりも僕ばかりに構ってて大丈夫かな?」
「……」
私は余裕の笑みを向ける男の話が背後のシィとクロの事を言っているのだと理解する。私は一人先行してしまい離れたため、後ろでは囲まれているのだろうとわかっていた。なお、最初からそういうつもりではあった。
「君はタンク職だろう。後ろが疎かだよ」
「……はい」
義手から遠くへと繋がる縁に魔力を流し、義眼に遠い位置からの視線が届く。そのままその視線の先は屋根に上がった。私は女性たちにロックサイトが狙いを定める。弾種設定は「焼夷徹甲弾」であり、魔族に被害が出せそうな口径で狙い。放つ。そう、新しく用意した過去の遺物を召喚している。
「「!?」」
大きな轟音とともに屋根の上にいた少女の上半身が消し飛び、ページが燃え上がる。その弾頭はそのまま遠くへ飛んでいき再度爆発音がした。私と目の前の黒髪の男は驚く。私は皮膚に防がれた所に爆発炎上を期待したのだが、簡単に貫通してしまった事に驚いたのだ。魔族より柔らかい。
「な、なんだあれは!? な、なんでロボットがここに!?」
遠くにいる私が用意した新たな罠を見つけたようだ。女性たちはそのまま建物に身を隠して震え、私はそのロボットで家を狙って破壊行動を行う。
「くぅ、ファンタジーに!! あんなロボットはNGだ!!」
男が叫び、私の脇を抜けて屋根に上がって機体に向かう。怒りの男を追いかけようとし、背後で膨大な魔力を感じて慌ててシィの隣に向かった。シィは悪い悪い笑みを浮かべ、二つの魔法を唱え終える。一つは防御魔法。そして、もう一つは大量破壊魔法だ。
「……星の光、星の力、それは形を成して降り注げ。スターズエンシェントソード!!」
輝いた空から膨大な光の細剣が雨のように降り注ぎ、防御魔法以外の場所に突き刺さる。周りの建物は切り刻まれ、突かれ、私の機体さえ、刺さり爆発する。無差別大量破壊の禁呪文にクロと私は身を寄せる。
「やりすぎでは?」
「お母様、笑顔です」
「そうね……シィ」
「だって!! 一度使ってみたかった呪文だもん」
この妹は無邪気に鼻を鳴らしながら、雨が止まるのを待っている。私たちも待ち、周りも環境が激変する。降ったあと光は炎へと変異し、燃えていき。炭化したページに本ばかりの地獄絵図となる。そして、雨がやみ。防御を解放したとき。悪寒が走る。
「……死ね」
声の響きと共に、無傷の男が怒りを見せながら何もない大地を走ってくる。周りの環境が変わり荒野となり、私達に迫り、私は慌てて盾になる。大きい大剣を降らず男は大きく手を出して叫ぶ。
「死ね!! 即死魔法!!」
「「「!?」」」
そんな上級な魔法をこの男は放てるのかと驚きながら私たちは身構えた。最低限の防御魔法しか使えない私は「即死魔法」の影響を考えて………ゆっくり時間がすぎる。
「「「…………?」」」
「なぜだ!? くぅ、創造魔法!!」
次に男は魔法の究極の到達点である物を唱え、空から大きい剣が一本落ちてくる。それを私たちはバラけてよけた。男はそのまま体勢を崩したシィに接近し、剣を斬り下ろす。シィはその剣を杖で防御した。
「俺に付き従うなら許そう。さぁ、もう一度。ヒロインになれ」
「………思い出した。私は『人質』を取られてたから潔く敗けを認めたんだ。お断り」
「なら、消えろ!!」
剣に力を入れる男。だが、一向に斬れる気配がない。それは何故なのかもわからない。強い筈なのに違和感しかない。
「くぅ、お前らは一体!!」
「同じ事を問います。あなたは一体!!」
「俺は……俺は……」
苦しそうな表情と共に問いに答える。
「主人公だ」
「主人公?」
「物語の主人公だ」
まるで言い聞かせるように問い、私はその主人公とシィの間に割って入るように黒い剣を付き出した。切り払い致命傷を与えられたまま、距離を開けて黒い魔法を打ち出す。黒い塊は呪いが練られた物で私はそれに当てられる。
「今度こそ!! 即死能力だ」
「………?」
だが、一向に苦しむこともなく彼も私は立っていた。両方が傷つかず。全く手応えもない。それに驚く主人公は眉を歪ませて「召喚」と言葉を発し、また女性らの部隊が展開される。女性ばかりなのは何故だろうか。確かに私たちも女性ばかりに見えるメンバーだが、たまたま女性を選んだ夢魔が多かったためである。元男もいるので半々だろう。
「女性ばかりなのは何故ですか?」
「それは男向けだからな」
「……お父義さんみたいですね。サン姉ちゃん、もう一回やるよ」
男向け。私はエルフ族長であるお義父さんを思い出す。「女好きなのだ」と。だからこそ最低な戦法を思い付いた。致命傷を与えたのにダメージがない事は何故なのかわからないが私はクロに小さな声で合図を送る。クロもそれに答えるように動き出す。
「お姉ちゃん? どうしたの?」
「シィ、あなたが一番……胸が大きかったですよね?」
「え、お姉ちゃん?」
「今です」
私はシィの服を全力で切り、下着を千切った。ビリビリに魔法使いの服を破き、肌が露出する。周りの空気が凍り、私は小さくほくそ笑む。
「お姉ちゃんあああああああああん!?」
「昔より少し大きくなったね」
「今はそれどころじゃ!!」
シィが恥ずかしいようだが、主人公はと言うとビックリした表情と共に……背後からクロに光る剣を差し込まれていた。クロは私を真似てしっかりと隠密をし、そして……笑顔で応えてくれた。クロに渡していた剣、切り札が発動する。
「お母様、よろしいのでしょうか?」
「はい、そのまま真っ二つです」
貫かれたからなのか、主人公はそのまま体の内側から燃え、真っ二つに切り上げられて断末魔をあげながら燃えていく。燃える中でももがき苦しむが全く炎には影響がなく。内側から「抹消」されているのがわかった。取り巻きの女性たちも一冊の本になり、地面が揺らぎ空から本の束が降ってくる。私はマントを生み出して被せる。そして、クロと私たちの目の前で六枚の翼を持った女性が立ち私たちを覆い被せた。
「女王陛下!!」
「よくやりましたクロさん。いいえ、『ネクロノミコン』と言う名前のこの本の世界の管理者。あなたが倒し、あなたが治める。さぁ、醒めましょう」
本の瓦礫を耐え……崩壊する図書館の砦の夢から醒める。私は女王陛下の力を思い知らされる。絶対的な終幕を招くその力を。
*
黒衛兵事件簿、報告します。今回、起きた事件の詳細。一冊の本に魔力と魔石による干渉により発動し、内部で「本の怨念」が誕生し本の中での独裁者として拉致事件が起きました。無事、「本の怨念」を退治し正常化。探索隊も無事に目が醒める結果になりました。
本の砦を女王陛下と共に潜入し、無事に炎上し、内部から協力者とともに破壊。「ネクロノミコン」と命名指定。禁書指定し、管理者を「シィ・エルフ」が任命され、個人として「危険であり、部隊の力バランスが悪くなる」理由により魔法部隊長の脱退。黒衛兵として編入されました。
以上が今回、起こった。国の危機回避した状況であります。
「女王陛下、以上が上司への報告になります」
私は目が醒めた数日後に女王陛下の元に現れていた。お礼と、報告をまとめるために謁見しに来た。そう、観察していた彼女の意見を聞きたいと思ったのだ。
「女王陛下、一つ二つ……お聞きしても?」
「ええ、いいですよ。そのために来たのでしょう?」
「はい、私たちの義務です。では、主人公に手を出さなかった理由は『ネクロノミコンが統治』する事に期待したからで問題ないのでしょうか?」
「問題ない。あの本はそう言う本である」
「その真意を聞いてもよろしいですか?」
考えを改めて聞く。ダークエルフ族長からの依頼である。
「真意ねぇ………具体的には?」
「質問を変えます。女王陛下はこの『結果』になることを予見したのでしょうか?」
「予想はしました。一番いい、まとまり方を想像しました。『クロと言うの名前の方が敵を倒した事で力を示し従わせやすくなる』ことが一番いいシナリオと考え、あなたはそれに応えた。刀貨を受け渡した」
「はい、そうです。私は彼女に渡して『切り札』としました。それは予想通りでしたか?」
「いいえ、ただ……よく戦いました。相手は非常に悪かったです」
私はそれを聞いて、違和感を告げる。
「女王陛下……『即死魔法』なる物は存在するのでしょうか?」
「呪いとしてはあるんじゃないかしら? 非常に高度な魔法です。それ相応の対価も必要でしょうね。膨大な魔力か、贄か」
「相手はハッキリと魔法を発動してます。ご存知と思いますが……何もございませんでした。何故でしょうか? ご師事お願いします」
「わかりました。私が見てた時、隠れていた時に考えた憶測になりますが。『ネクロノミコン』は異世界の書物、または過去にあった書物をまとめた物と思います。それは膨大な図書館のようでいて……実は本の墓場でもあったのだと感じました。まぁ今は関係ないですね」
「私も墓場でもあると聞いてます。それで……その……」
「まだ、話は終わってないです。例えてみましょう。カードゲームはしますか?」
「カードゲームと言えばベイスボールスターズですか? もちろんです。私は1軍は守備デッキで、交易やお話、仲を良くするのに使用するのはホームラン狙いのデッキです。また、交易品としても取引しており、夫のためにコレクション用に買い込みもしておりますし、私自身のカードもあげております」
「………ごめん、聞いてない。まぁその……知ってるってことね」
私は女王陛下に引かれたようだ。知っている旨を伝えただけなのに。
「まぁ、その情報はどうでもいいのだけど……そのカードゲームでトランプは出来るかしら?」
「トランプですか? その、ダブルカードと背番号で揃えれば……なんとかなるでしょうか?」
「では、トランプでそのカードゲームは出来るかしら?」
「それは難しいでしょう。でも、効果などを描けば出来そうです」
私は質問に答える。女王陛下は満足した様子で続けた。
「そう、違うカードゲームのルールのカードだけど。工夫すればなんとかゲームは出来そうなレベル。私はこれと同じ事があったのだと思うの。そう、『世界のルール』が違う事。『カード効果、意味』が違うため。どちらも攻撃は当たるけど決定力に欠けたと考えるわ」
女王陛下の例に私は思案する。トランプとカードゲームの違いが起こっていた。確かに私は手応えを感じなかった。
「そして、相手は強力な能力に頼った戦いの結果。非常に体術など戦いなど不得手とし、打開のための思考が乏しく。そのルールの穴をつかれ負けたのでしょう。私の剣はどちらのルールでも使えたカードだったわけです」
女王陛下の説明は非常に分かりやすい予想だ。私もそれにおおいに頷いた。
「なるほど、わかりました。魔法のルールが違い。即死しなかったんですね」
「ええ、憶測ですが。逆に予想外の事もありました」
「何ですか?」
「私があなたにあげた物があそこまでの物と思っていなかった……」
「作られた本人ですよね?」
「ええ、でも……『誰でも使える一刀の必殺剣』なんて……危なっかしくてね」
私は察した。そうだ、クロに『渡せた』のだ。そして簡単に使えた。それはある意味で誰でも『強化』出来ると言う事である。
「エルフ族長の憶測があたったのかもしれません」
「お義父さんは感じてたいたのかもしれません。わかりました。私が大事にお持ちします」
「はい。奪われないように」
私は腕に隠した刀貨を大事に撫でる。私は『恐ろしい可能性』を持っている。神を斬ることも出来るだろう剣を。
「はい、私の疑問に応えていただきありがとうございました。そして、個人的な助太刀。ありがとうございました」
「いいえ、いい報告書、書けるといいわね。それと姉妹での黒衛兵の活躍。期待します」
「もちろんです。最後に、女王陛下よろしいですか?」
「なにかしら?」
「機械仕掛けの女神と言うのを信じますか?」
「………さぁ、私は『わからない』わ」
私は一礼をして、その場を去る。女王陛下の物事を解決させる能力をしっかりと感じながら、次の『世界を脅かす可能性』を摘みに向かうのだった。




