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商人の木エウリィ..


 私を彼は家にあげてくれた。彼の寝室に座る。


「君はいったい何処から?」


「わからない。気付けばここにいた」


「服もないのか? 身寄りは? あっいや。奴隷の印はないな」


「………」


 彼を見つめる。いままで通り。見つめる。


「あっ……そこまで見続けられるとなんとも。はぁ~君は誰だい?」


「エウリュ」


「エウリュちゃんだね。はぁ~どうしようか~」


「お家に置いて」


「………わかった。身寄りが見つかるまでな」


「うん、ありがとう」


 彼は驚いてた。その姿が新鮮で。ずっと見ていられた。それから私は彼との同棲を始める。ご飯は、いらない。変わりに自分は自分の木の手入れをする。


 服も買ってくれた。また、恩が出来てしまった。


 私は本も読めた。常識だって長い時間を見てきたので分かり、すぐに慣れる。


「おかえり。今日はパスタです」


「ああ、ただいま」


 そして、彼に一番始めに挨拶できる喜びと会話ができる喜びを噛み締めていた。


「えっと、エウリュ。食べてるところをそんなにジロジロ見られると食べ辛い」


「うん。でも、見てる」


「はぁ、見てて楽しい?」


「楽しい、会話も楽しい」


「そうか………ええっと」


「エウリュね。豚屋を応援してる。いつかきっと誰よりもスゴい商売人になること信じてる。そして、この家を旅立つんだって知ってるよ」


「………ありがとう。応援」


「うん。あなたの夢が叶うといいね」


「エウリュ。君は俺のこと……そ、その好きなのか?」


「好き」


「そ、そっか……」


「商人なのに女の子の扱いは下手くそ」


「よく見てるな!?」


「見てる。だからさ今夜どうですか?」


「…………ごくっ。も、もちろん」


 窓越しであの行為を横から見ていた私は悔しい想いをし、体があればと思っていた。また一つ願いは叶うのだった。




 女を知った彼は商人として完成された。下品な会話から色んな会話を出来るように自信がつき、商談がうまくいく。そう、大きく花が開いたのだ。


 彼はそれからも働いた。働き、夢に向かってお金を貯める。そんな中。


「はぁはぁ」


「大丈夫?」


「ああ、大丈夫………あっ」


 彼は倒れた。私は口を押さえて彼の名前を呼ぶ。力を振り絞り。彼を寝室へ運んだ。冬の寒さが彼を蝕んだのかわからない。蛇男の医者を呼び、診察を受けた。彼は、毒について詳しい名医。忙しい中、時間を見つけて来てくれたのだ。


「先生!! 彼は!!」


「………奥さん。ちょっと」


「は、はい………」


 奥さんではないが。奥さんのふりをする。


「彼は誰かを敵に回したのかい?」


「えっ?」


「彼の血液から致死性の毒が検出された」


「そ、そんな!? で、でも毒がわかるなら………」


「血清は用意します。しかし、用意周到にゆっくりゆっくり殺すために長い時間。投与されたらしい。魔力で探りましたが肝臓等がもう………ダメです。ゆっくり衰弱してしまう」


「そ、そんな………」


「もう、長くはない。本当はもっと早くから気付いてただろうに……奥さん変なことはなかったですか?」


 私は首を振る。


「………春まで持てばいいですが。お金があればお薬を用意します」


「お願いします………」


「…………力及ばず。すいません」


「…………いいえ」


「最後まで。看取ってあげてください」


「……はい」


 医者はそう言って。診療所へ帰っていった。私は寝室に入る。窓を見つめる彼の横顔に胸が締め付けられた。


「はぁ………先生は何て言ってた?」


「何も言ってません」


「ははは、嘘はいけない。わかる。嘘をついている目だ。商人を騙そうとしない」


「………ごめんなさい」


「良いことじゃ無さそうだ。まぁ知っていたけどな」


「!?」


「夢半ば、嫌われ者でもやれることを示せた。ああ、裏切りにあったけど。まぁ相手は誰か何となくわかっている。出る杭は打たれただけだ」


「そ、そんな。まだ大丈夫だから」


「自分が一番ダメなのを知っている」


「つぅ………」


「嘘はいけない。いったいどれだけ時間が残っている?」


「春まで…………」


「春、狙ったな。4月、春先は酒が儲かる時だったのに。ああ、すまないすまない。商売人の癖だ」


「………あの。体の異変はいつから?」


「1ヶ月前から」


「何故、こうなるまで………」


「気付かなかった。あまりに君との生活で見失ったからね。すまない。心配をかけたくなかった」


「……………」


「好きって言ってくれ、夜だって色々してくれた。こんなオークのために何でも」


「そ、それは!! 感謝してるから………」


「感謝? 感謝するのは俺の方だ。ああ、幸せな数ヵ月だった。儲けるための理由があるのは良いことだ」


「…………」


「さぁ、短い余生を楽しもう。神が遣わせてくれた天使に感謝を。受け取ってくれ」


「これは?」


「女の子の扱いは下手くそだから。こんなになるまで踏ん切りがつかなかったぜ」


 小さな木箱。中には緑の宝石が入っている。


「グリーンガーネット。君の緑の髪とよく似合う。好きだ。結婚してくれ」


「うぅ……う……」


 私は、初めて。涙と言う物を知った。





 彼はそのあと。毎日、毎日。喋り尽くした。後悔がないように生きたことを残すかのように私に何度も何度も話しかけた。そして、何度も何度も。


「ありがとう。幸せ者だ」


 感謝の言葉を口にする。彼は少しづつ体の色つや等が悪くなる。部下だろうか何人も見舞いに来る。一人には彼が死んだら家に来ないかを誘われたが丁重に断り。帰って貰った。


 息を引き取る前に机の手紙を読んで欲しいと言われた。私は約束を破り手紙を読んだ。彼の遺産相続と自分の事を忘れて幸せになって欲しい事が書かれている。


 もちろん。私は手紙を破り捨てる。無理難題だからだ。


 眠る彼に声をかける。彼の頭を優しく撫でた。


「聞いてくれてないかもしれませんね。立場が逆になってしまいましたね。私、エウリュはあの木なんです。気付いてましたか?」


「いつも、いつも、私に挨拶してくれましたね。声を出せない私に、毎日欠かさず」


「嬉しかったですよ。だから願いました。体を一つ。声を一つ。あなたに挨拶を返したい。いっぱい手入れしてくれた事を感謝したい」


「毎日、毎日願ってました。そして、叶いました。女神が微笑んでくれました」


「それからは本当に幸せでした。挨拶も出来る。感謝も出来る。でも、あなたは本当に感謝してもそれ以上に幸せをくださいました」


「生まれて一番楽しかった数十年。あなたの夢を追いかける姿が眩しく。美しく。応援出来たことを。そして、奥さんとして認めてくれたことを感謝します」


 私は彼の口にキスをしたあと。体を持ち上げる。


「応援しています。最後まで見れませんがきっとオークの商人は素晴らしく大きい商人になるでしょう。信じてます」


「ありがとう。愛しのあなたさま」


 私は自分の木に彼を押し付け、飲み込んだ。今なら、奇跡を起こせると信じて。































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