フォートレス・ライブラリー④
クロと言う本についていき、本棚の世界観から一瞬である一室に飛んで来る。その部屋は豪華絢爛でオークの亜人の男性執事が見たことのある子に奉仕していた。
「……」
私はその見たことのある子と目があう。
「あ、あ、サンのお姉さま」
「大丈夫、あなたの趣味嗜好男性観は黙ってあげる。だから、夢から醒めなさい」
私は静かに笑顔を見せてそのまま、手伝いをお願いする。青い髪の魔法使いである彼女はすぐに正装となり……すぐに消えた。そして、オークの執事が睨んでクロを殴る。それにクロは涼しい顔で黒い手袋の拳を作ってオークの執事の腹を殴り込み。倒れた所を胸ぐらを掴んだ。
「な、何故!! 邪魔する!! 紙のくせに!!」
「見えない? 私は立派な本よ。そして……あなたを読む事が出来る『読者』でもある。危害加える事も出来ないし『本の処分』も出来る。わかる?」
「な、な!?」
クロがオークの皮膚を千切る。それはページの端であり、それをクロは指から火を出して燃やし、捨てる。
「私のページを破った仕返し。だけど、これで済まないわよね? 長い年月の罵声。しっかりと本にしたわ」
「………その力。なんだ?」
「読む? 読めればいいけど……」
オークがクロの手元を見て何かを感じとり……そして、驚いた。
「そういう事か。未完だからこそか。そして……俺も読めた」
「気付いた? 読者になったの」
「ああ、そっか。なんで誰も気付かなかったんだ」
「……それは。私の力よ」
「…………じゃぁ。俺は『補充』されたのか?」
「そうよ。私のページにあなたは載った」
「そうか。それじゃぁ……消えないな」
オークの執事は消える。そして、それは本として残ったのだろう。クロの中に。
「次、行きましょう」
「……取り込んだの?」
「はい、了承得て私が引き継ぎました」
「性格は変わった?」
「いいえ、大丈夫です。では次に行きましょう」
クロは手を鳴らし、部屋を閉じた。それは部屋にあるページ、本を取り込んだのだろう。そして、次は図書館の風景に変わる。そこでは数人の魔法使いが本を漁っていた。もちろん、私は声をかける。
「こら、あなたたち。それを読むのをやめなさい」
「「「!?」」」
数人が私の声に驚き、そしてバツの悪そうな表情をする。その数人に私は命じた。
「すぐに起きなさい。私たちが道を用意した。起きれます」
「でも……」
「肉体が腐るわ。綺麗な肉体ではなくなる。ドロドロに皮膚は溶け、骨になり、脳髄は小さく。そして眼は落ちくぼみ……」
私の話に驚き、あわてて起き出す夢魔の魔法使いたち。それに対し、クロは小さく笑う。
「脅しですね」
「そうですね。ですが、寝てるだけではいつかそうなります。ここはもういいですね。早く次に行きましょう」
「いえ、まだです。この先に……います」
「………?」
私は首を傾げながら。クロが構えたのを横目にスッと私が前に出る。腕に仕込んでいる魔法を解き放つリミッターを外した。
「お母様?」
「ここは私が見本を見せる。加筆しなさい」
「はい」
何も居ない筈の空間が歪み、ゆっくりと人の形を作っていく。それは悪魔の角のような触角に、特徴的なギザギザの刃の槍。そして、危険色を示す黄色と黒。鋭い歯を見せる。
「あれは……昆虫亜人族」
「お母様。あれは似ていますが非なるものです」
「似ているが……違う。どう言うこと?」
「この、図書館は『忘れられた蔵書』でもございます。それは……」
「違う世界の本もある?」
「はい」
「では、禁書もあるのですね」
「はい」
私は覚悟し、出方を見る。目の前の蜂の亜人は針から毒を出して槍に塗り。そのまま突進し、素晴らしい一閃を見せる。それに対して私はリミッターを外した金色の魔法力場を生み出して一閃弾く。
金色の板が攻撃を弾き、輝き、私の腕に一本の剣を生み出す。光る黄金は私の髪色と合わさり、輝く。そのまま突進し、すれ違いざまで切り合い。ページが散った。
「黄金の刀貨エンシェントソード」
女王陛下の生み出した価値ある貨幣になれと願われた硬貨だが。それは最高の魔力剣を生み出す。毒等を弾く、破邪の力。私はそれを存分に扱う。
「お母様。お見事です。ページは写しました」
クロはそのまま槍と剣を出して見せ、消す。
「しかし、しっくりきません」
「……そう」
「はい」
クロは獲物を持たずにそのまま図書館を歩きだす。私はそれについていきながら、視線を感じた。
何処からではなく、周りから目がついているような視線を感じ見渡す。そして、一冊に手を伸ばす。
「お母様、ダメです。読んではいけません」
「……どうして?」
「それらは未完です。私とは違い………筆を落とした方々の作品郡です。彼らは読まれることではなく完成を望みます。しかし、それは……同時にここに存在することが出来ないのです」
「クロと同じじゃない?」
「違うようです」
「存在できないって何故?」
「…………この図書館は本の墓場も兼ねてます。冷たい、永遠に眠る場所になります。しかし、今は……起こされてしまった」
「私たちが入ったから」
「そうです。墓荒しのように眠っていた者たちが起きてしまったんです。そして、一冊では無理でも……多くの本が纏まった。未完成をくっ付け、完成に至るために」
私は視線の意味を知り、背筋が冷える。敵意、明確な敵意が向けられる。
「……不平等ですね。お母様」
「ええ……そうですね。あなたは『運』がいい」
図書館が歪み、星の見える宇宙の風景に変わる。星は一個一個が意思である事がわかり、私の目の前で本が集まる。太く大きい大きい人型を形作った。大きさはドラゴン以上、まるで城であり、何処からか現れた一冊が開いて中から剣を生む。本のゴーレムとなった姿に私は唇を噛む。あまりの大きさに、自身の武器では無理な事を想像する。ナイフでマグロを解体しろと言うような物である。
「¶‡*×§∥………」
「なに?」
「お母様聞いてはなりません。多種の言語に呪いの本まで入っており、それはなんの言葉も生まず呪いだけを振り撒きます」
「モンスターが生まれてますね。と言うことは……外でもこういう現象が起きると言うことですね」
「局地的な状況を発生させればですが……できない事はないと思います」
「わかった。肝に命じておいて……どうしましょうか?」
「お母様、ここは夢ですし……本がございます」
クロが一冊白紙の本を出し私に渡す。私はそれを受け取り……聞き返した。
「どうすればいいんですか?」
「念じれば本が来ます」
「……わかった」
「武器を見つけろ」と言うのだろう。この巨体な本のゴーレムを倒すための。私はそれに従い……ここ最近で使った「兵器」を思い起こす。すると、白紙の一冊の本は設計仕様書になり、ひとつの機体を創造する。機体設計や思想によって歪んだ兵器を積んだ機体。本のゴーレムに比べ小さいが、その内には爆弾を抱えた機体が誕生する。
白い鋼の四肢に鋼の両翼にミサイルポッドを持ち、腕にはバズーカ砲を装備したゴーレムが私の前に現れる。そして、クロは驚いた表情で私の顔を見た。
「お母様……その……なんですかこれ?」
「……人が歯車を組み、完成させた機構ゴーレムです。旧い魔力を持たぬ弱き者が『戦う』ために開発した兵器です。これなら、いけそうです」
私は寒き、魔力のない世界の兵器に飛び乗り。私向けに調整された。四肢の無い人用の操縦装置に義手を途中まで外して4つ差し込む。そのまま義手とくっ付き、普通の操作よりもダイレクトに動かせるシステムとなり。私の新たな四肢となる。私の外部音声を拾ったイヤホンに声が届いた。
「お母様……私はてっきり……剣や槍などとおもいました」
「それは適材適所です。城を落とすには大砲を、人を斬るには剣を、モンスターを狩るには槌を。そして、砦を落とすにはゴーレムをです」
「はい、加筆します」
「では、戦闘モード起動。セフティーロック解除」
私は馴染むゴーレムと装備で思い出す。あの蒸気街の硝煙が混じったあの空気に。
「私の新たな義手をお見せします」
そう、私はこのゴーレムを家のガレージにて「所有」していた。技術を盗む、貰い。新たな手足を生むために。だからこそしっかりと動かせる。訓練もした。
「本のゴーレムはどうすればいい?」
「固まった本を爆発でバラバラにしてください。製本もされなかった本たちです。そのまま眠りにつけます」
「わかった。おやすみなさい」
私はゴーレムの持つバズーカ砲を本に向けて引き金に力をを入れたのだった。




