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フォートレス・ライブラリー③


 視界が埋め尽くされ、炎が身を焦がす気配の中で一瞬にしてそれらが消え失せる。それとともなってネフィア様の姿も見えなくなる。


「ネフィア様?」


 声に反応はなく、本棚の世界は形を変えて大理石の棚となり、白い世界が続く。瞬間的に移動させられたと見るのがいいと思われる。


「ここは……まだ本の世界」


「そうです。本の世界です」


 声の主を探しながら身構える。作戦としては分断殲滅はいい方法だが。ネフィア様と離れるのは「ネフィア様が味方を爆撃する」ことがなくなるので、悪手とも言える。逆に私も動きやすくなるし、ネフィア様とは繋がっているため、連絡もとれる。


「誰ですか?」


「……題名はございません」


 スッと一冊の白い本が目の前に現れて飛んでいた。背表紙には何も書かれておらず。名前がないのも頷ける。


「私と戦うおつもりですね……わかりました」


「待ってください。私は戦いたいとは思いません。お話を聞いてください」


「……よろしいでしょう。話を聞いてから剣を抜いても問題ありません」


 敵意が見えないため、構えを解く。臨戦態勢から、平常に移り話を聞く態勢へと移した。白い本はそのままパカパカと口を開く。


「長くなるのですがよろしいでしょうか?」


「いいですよ。なお、ネフィア様が全てを燃やすまでにはお願いします」


「はい。時間がないですが……しっかりと理解し、協力を得なければならない立場です。聞いてくださりありがとうございます」


「いいえ、これもネフィア様の教訓ですので。どうぞ」


 女王陛下は話を聞くことができる人である。そして、それを肯定も否定も含めて吟味する。多くを聞けば動けなくなるのが多いが、女王陛下はきっぱりと決める事が出来た。それ故に動きやすい。


「実は私は……この本の中でも異質なんです。協力を得て私たち本として利用してもらおうと言う考えだったんですが……誰一人理解を示さなかったのです」


「……穏健派なんですね」


 ネフィア様は私の目を通して話を聞いてくれているだろう。


「穏健派と言われればそうです。本として『見せる』欲望が薄いのです……白書なので」


 パカパカと中を見せてくれるが何も書かれていない。白紙のページが続く。確かにこれは何も見せることは必要ないかもしれない。


「故に私は……他の本からバカにされてます。本としての役割を持ってない。だから、私の言葉も何もかもきいてくれませんでした」


「とりつく島もなかったんですね。では、逆に問います。過激派はどう言った考えなんですか?」


「大多数は『読んでもらう事』を大事にしております。しかし、私たち集合体の本はページ数に限りがあり、結果。強い本がページを独占してました。そのため、今の状況は『ページが増えた。視覚的情報獲得』の状態で『読んでもらう事』の欲望を解放し、読者を本に封じ込める事を選んだのです」


「なるほどです。と、言うことは……『我々の都合を考えず。強制収容し、本のための労働してもらう』わけですね」


「簡単に言いますとそうです。私はそれはいけない事だと思います。『反発を招き、読者が敵対し、読んでもらえない、破壊される危険がある』と私は言ってたんですが……無視されました」


「今の状況ですね。女王陛下は『抹消』することが出来るので……この間にも『最強の戦士の物語』が焼失しました」


 ネフィア様の視線では物語の戦士と戦い、剣の腕で負かしている。剣の才はないと言うのが嘘のようにばったばったと切り伏せている。次に現れたのは『深遠の竜』と言う架空戦記の竜である。しかし、それも……炎の槍で貫かれていた。ネフィア様の視線は一瞬で状況を捉えている。こんな化け物が『物語』ではない事が恐ろしくなってきそうだ。


「彼らを止めるために力を貸してください」


「わかった。でも、その前に……兵を欲するわ。今は二人だけ。あなたに教える。交渉は『同じ力を持つ、情やお金を持つ』事が必要です」


「……?」


「メモりなさい。本でしょう?」


 私は夢に羽根ペンを用意し、本に書き込む。そして私は本に付け加える。


「黒い肌は黒鋼のような硬さを持ち、そしてその肢体の動きは蛇のように滑らかで、その容姿は人のようで、ダークエルフのようで、悪魔のようで、オークのようで、その実は夢魔の本であり。名を『黒』と言う。そう、冷静沈着な英魔黒衛兵の本である」


 付け加えたのは体の特徴。名前と共に加えた結果

白い本は黒く変色し、鋼の表紙となり。金の刺繍で題名がつく。「黒」と。そして声を響かせる。


「加筆を確認、私は『黒』」


 白い服に長身な黒い肌を持った女性が立つ。角もあり、柔らかそうな肢体と黒鋼のブーツが特徴な女性となる。書かれた姿はダークエルフなのか悪魔なのかパッと見ではわからない。ただ、麗人がたっている。口調もおとなしい声に冷静そうな雰囲気を醸し出す。


「よろしく。『黒』」


「はい、お母様」


「……お母様?」


「はい、私を執筆していただきありがとうございます」


 ネフィア様の思考で「あなた、やってしまったわね」と言う考えが流れる。私はそれに肯定し、そして責任を感じた。私が歪ませたのだ。私はそれを「あえて、わかってやっている」。


「心配なさらず。私は所詮……本です。書き手が居なければ……一生白紙の紙だったでしょう」


「……いいえ、あなたの作者は『白い本』が完成品としてた。『白い本は何も書かれていない。だからこそ、自由であり、自在であり、芸術の始まりなのだ』と言う思想です」


「理解してます。ですから、あなたが手にとって加筆した。『それも自由』です。そして、作者は考えてます。『誰かが白紙の本を加筆して物語を作るかもしれない可能性も内包している』事も織り込んでます。落書きでもなんでもです」


「……では追加しましょうか。『本が意思をもって本自身の物語を描く』と」


 私は再度、鋼鉄の本になった彼女にそれを書き込んだ。『黒』はそれに対し、初めて加筆する。


「黒は、英魔国黒衛兵法令を遵守します」


「いいの? そんな事を書いて?」


「味方の証明です。私は出会ったばかりです。信用証明です。それに黒衛兵の罰則は『処刑』です。私は消えたくない」


「わかりました。じゃぁ、『読者』を探しに行きましょう」


「はい、奪いに行きましょう。お母様」


「それ、実は冗談で言ってるでしょ?」


「ええ、そうです。お母様」


 私はこんな性格にしたつもりはなかったのだが。彼女はそう言いながら黒い手袋をはめて拳を固めた。そして私はハッとする。


「武器、加筆してなかったです……」


「加筆づみです。戦場で学ぶ」


「じゃぁ、タイトルは何がいい?」


「仲間に無能と虐げられれた本の復讐……で、どうですか?」


「………実は根にもってたのね」


「もちろんです。劣等感も無能感も、生まれも呪いました。かけたページもあります」


 私はとんだ復讐者を生んでしまったのかもしれないのだった。







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