フロントライン⑳⑯~青い大空~
最低最悪の最後の足掻き。私を殺すためにこの世界を壊そうとする方法を私は端末から聞き出す。武骨な鉄の板の廊下に蛍光灯の灯りで昼間のように明るく。動きやすい。
「吸収炉ってなに?」
「吸収炉は不明な技術により開発され、エネルギー源として旧人類のサイト内に供給していた装置です。情報開示できたのはここまでです」
サクラからメールが届く。
「追加。吸収炉は『汚染、魔力、熱』を吸い込み変換する物です。膨大な熱を奪い、環境の維持をおこなっていたそうです。情報levelは0。存在しないと言うlevelの機密事項であり……防御側が壊れる事で解放されます」
「最悪、私が壊したから……ロックが解除されたのね」
「簡単にいいますと。『維持、管理』を放棄した結果です。そして……耐用年数が過ぎているのも影響がありそうです。誰も修理が出来ない装置なんです」
「ああああああああああああああああああああああああああああああ。もういやあああああああ。なんで毎回毎回毎回毎回!! 私が当事者で、最悪な事件に巻き込まれるのよ!!」
「落ち着いてください、ネフィア様。お父さんが来ます」
「ガシャン」と大きい音がし、黒い機体が通路から出てくる。多くの無人機を屠った烏は私の前で止まると……コックピットを開ける。中には大きいポッドが入っており、そのポッドの前に複座として助手席があった。
「な、生身が来てたのね」
私はそれにドン引くが烏は合成音声で伝える。
「四肢、五臓六腑は失ったが……翼は手に入れたぞ。昔よりよく飛べて、よく見えて、よく聞こえる。なお、ご飯の味覚は無くなったがな」
「……ドン引きです」
私はコックピットに乗り、彼が目的地まで進んでくれる。報告に「破壊完了」の連絡があるが、ハズレである事がわかった。嫌な予感は当たるようで、汚染の示すカウンターは振り切れ、ジリジリと特徴の音を出す。あまりの汚染の酷さに所々に電気が走っているのか稲妻が画面に写る。そして、あんなに煩かった無人機体は一切現れず。逆に追ってきた無人機体が沈黙していった。
その状況はカラスにも現れる。
「くぅ……体が思うように動かない……命令がうまく伝わっていない。回路が焼ける」
「……外気温も高い。熱暴走起きるね」
私はコックピットから起きて「ムワッ」とする熱量に背筋や体から汗を垂らす。灼熱の空間であり、垂れた汗を拭った瞬間に蒸発した。人が一瞬で焦げる温度であり、私自身が「炎」に耐性があるかたこそ耐えられる温度だ。廊下のパイプの銅が赤くなっている事からも異常だと伺える。
「風の魔法を履修してなかったら。フライになってたわ」
「ビビ……ガガ……」
私は端末からノイズの走る声にこの端末機も耐えられない事がわかり、コックピットに投げ入れる。
「行くのか?」
「……行く。私は……足掻く。あなたは?」
「俺は……ここで待たせてもらおう」
カラスの声に応えたあと、灼熱の通路を歩いていく。道は耐熱性の物なのかしっかりしており、何か断熱材なのかフワッとしていた。そんな保温材の上を歩きながら耳元で怨嗟の声が響く。気のせいかと思ったが……私は後ろを見て気のせいでは無いことがわかる。
カラスの位置が変わってないのだ。進んだと思ったのだが……進んでいない。私は深呼吸をして頭をスッキリさせた後に歩き出す。今度はハッキリ聞こえた。
「……何故、我々は滅びないといけなかったのか」
「帰ってくれ……帰ってくれ……」
「頼む、助けてくれ……」
多くの苦しい声が私の耳に届く。響き、私の脳を焼こうとする「意思」がわかり。私はそれらを無視して排除する。排除した事で私は「しっかりとした足取りで進む」事が出来るようになった。
「精神汚染ですね。誤認させてたわけですね」
その汚染は機械までも影響を受ける。そして、私はその影響をはね除けれた。呪いのような影響は私には届かない。
「私は……魔王……はぁ……ここで私は他と違うと言う事がわかる。私しかここへは来れない……」
永い長い通路を進み灼熱の門へと届く。熱せられた門に私は炎を生み出して溶解させて通る。そして……私は部屋の中心へと歩を進めた。部屋は真っ暗であり、地面さえ黒く。そして……小さな小さな石のような輝きが満ちていた。まるで……空が埋め尽くされているような幻想的な場所に驚いた。
「魔法!? これはどうみても魔法!!」
呪文などが浮かび上がり、壊れて消えては中心にある物に吸い込まれていく。何かの魔法が発現し、その魔法の効果で吸われていく。その中心がどんどん白く変貌し、それが膨大なエネルギーの塊だと理解し、知識を総動員する。
桜の国で学んだ。宇宙にある重力の塊。それを連想させられ、それの反対であるホワイトホール。存在しないとされている天体を思い浮かべる。
だからこそ、何が起きて壊れるか想像出来た。吸い込んだ物を一気に放出するのだ。何年も貯めた力を。
「ぐぅ……これを止める方法なんて……」
「受け止めればいい」
「誰!?」
「……」
暗やみの中で声が響き私を導く。そして、恐ろしい恐ろしい事を提案する。「力を受け止めろ」と言うのだ。膨大な時間を費やして貯蓄した魔力を。死ぬイメージが浮かぶ。魔力で破裂するイメージだ。風船のように割れる。
「はぁ……うぐ」
怖い。恐ろしい。受け入れる事が。だが、未来が過去が私は生き残ると証明している。
「畜生……覚悟決めた。私が勝つか、お前が勝つか勝負だ!!」
私は服のボタンを弾き、胸をさらけ出す。そして、胸を張った瞬間だった。まるで私を待っていたかのように一筋の魔力の槍が私の胸を貫き、私は強制的に翼を出させさせられ、受け止めさせられる。
「あがああああああああああああああああああああああああああああああああ」
魔力の奔流が私の体を巡り、私の体に詰まり、プチプチと音を立てる。血が沸騰しそうなほどに巡り、脳が壊れそうなぐらいに痛みを発する。まだ少しの魔力しか吸っていないのにも関わらず。全身が針に刺されたような痛みを発した。
「あああああああああああんんんんん。つぅううううううううう。私は……」
気絶することも許されない状況でお腹の当たりにある何かが壊れる気がした。膨大な魔力が私を壊そうとするが私の体は人の姿を保つ。
「………んぐ!?」
私はカラダの変化に気付く。魔力の奔流は続いているが痛覚は消えて、お腹に暖かい物を感じ、そして……奔流と共に流れてくる呪文が私の口を動かして魔法を唱えさせようとする。
「祖は魔王なり、箱を開ける鍵なり」
勝手に喋る私は次の瞬間、その場で両手を上げて全力で上空に魔法を放った。膨大な光を出して柱となるそれを私は打ち続け。そして、黒い部屋を消し飛ばす。翼の羽は散り、光の柱から羽根が舞う。
白い、純白な白い羽根だった。まるで……何も染まっていない色で私はその光景が何故か見えた。真っ白の光で何も見えない筈なのに。まるで第三者の視線全てが私の視界に入ってくる。そしてうち尽くした瞬間。私はフラッとし、地面に転がる。
「………また。こうやって……力尽きるのね……」
*
俺は体が動くようになった瞬間に移動を始め、溶解した扉を越えた時。その光景に何も動けず、そして……終わった事を知った。
大きな大きな大穴の空いた上空からは白い羽根が舞い降り、その白を際立たせるように青い空が覗いており、雲一つない晴天が広がる。
俺は……初めて見た青空をずっと見続けた。彼女が起きるその時まで。
曇天の空を晴らした彼女が起きるまで。俺は……空を見上げ続けのだった。




