フロストライン⑳⑫~凍れる白炉~
「ブリーフィングを始めます。依頼は企業連国家連合から。複数の傭兵へ。目標はサイト0への威力偵察を行います。偵察情報によってボーナスも用意されており、撃破した機体にもボーナスがつきます。また、サイト0への侵入経路を見つけ次第、撤退されても構いません」
「作戦行動範囲は屋外になります。そのため、視界の悪さやレーダーの悪さ。悪天候が予想されます。そのため装備をしっかりとしておくことが必須です。また、機体損傷と大破は回収できない事を考えられるので、それを考えて用意をしておいてください」
「以上が概要です。我々は今、滅亡の危機に瀕しております。何卒……お願いいたします」
*
私はブリーフィングが済んだ後、蒸気街でご飯をトキヤと食べていた。蒸気街は地下からの住人と英魔国民でごった煮のように集まり、戦闘準備を行う。大寒波が来ている事と人が増えたため、炉の稼働音が非常にけたたましく鳴り響く。
英魔国民に会い、私は結晶化した遭難者を渡し、そして英魔国内の状況を聞いていた。いつしか蒸気街に英魔の冒険者ギルドが出来ており、蒸気街の修繕などを受け持ち。拡大していっている。
知らない間に知らない街へと変貌した蒸気街。そんな蒸気街で英魔国内から輸送されたご飯を貪る。輸送には輸送用の機体を用意しており、面白いのが道路整備など行っているとの事。蒸気街の住人はこの事に関しては問題がなかった訳じゃないが「話し合い」で解決でき住人街で英魔国内法の適応により、無事に裁判で決着が付けれるようになった。
「ネフィア……黒騎士の一部が来ているそうだな」
「格安で部隊を送るのを渋ったんでしょう。黒騎士は便利ですね」
「兵単価最安値だからな。1000人動かすより安い。それで……彼が来てる」
「そう。会いにいかないと」
「終わってからにしろ……かわいそうだ」
「……そうですね。黒騎士は一人だけ?」
「彼女も来てる。サンライトも。つくづく……巻き込まれるな。あとはダークエルフ族長かな。ここは彼の管轄になるそうだ」
「管轄やりたがらないから、たらい回しね」
族長の立場は変わった結果、膨大な仕事量が生まれた。そんな中で新たな土地を欲しがる族長は居なくなった。何故ならその土地を治める場合。その土地の全ての面倒を見ることに直結する。故にその土地に族長補佐管が任命されて管理するが。その補佐官の選び方は投票によって決まるわけで。その決まるまでは族長が管理する。
とにかくも、あれやこれやと大きくなった結果。人材不足から。問題が山積みなのだ。私がここに居るように。
「ふぅ、久しぶりに魔国内の食材食べたけど。魔力回復しないね」
「魔力が吸われているこの世界。その一端の原因が何処かにあるはずだ。汚染を治める術があるんだろう。それが何かわかれば……」
「均衡は崩れ、魔族の世界になる」
「そう。そして、それは遠からず全滅を招くだろう。水槽の中に一滴づつ毒を垂らす行為だ」
「……ダークエルフ族長が来た理由は?」
「見定め。魔国首都に近いここは危険であると判断されれば……だ」
「……………」
「ネフィア。どうなるかは見届けるしかない」
トキヤがウィスキーを飲みながら。バーで語る。
「俺は伝えた。お前が決めるのは……最後の判断だけだ。『最後の審判』はお前が下す」
「私って……なんでそんなに重い選択肢が用意されるんですかね……」
「それが上に立つと言うことだ。まぁそれも決めるのは後でいいだろう。今はお前にお届けものもある」
「なんですか?」
「量産品ばっかでつまらなかっただろう。①から……バルムンクの失敗作のお届けだ」
「失敗作って……そんな物より。しっかりとした量産品の方が……」
「まぁ、ガレージに行ってやれ……壊れるならいらないゴミつかえよ。消耗品のように壊すんだから。タダで貰えるんだからよかったな」
「……わかった」
不服ではあるが私が乗った機体は総じて全部が壊れている。故にありがたくいただこう。①にメールを送り、すぐに返信が来る。ありがたい事に。
「すぐに行ってやれ。俺も行くよ」
「わかった。行ってくる」
私はお会計を済ませて店を出た。にぎやかな蒸気街は所々で蒸気を出して暖房する。そして、多くの英魔国民が働く中で私は……カスミに連絡をする。
「カスミ……蒸気街が私の色に染まっていく」
「いいことでは? 汚染された食料を除染し、人の手だって取れる。また、汚染外への探索も修理も楽になった」
「……………」
「あなたはギリギリの生活を味わってないからそう思ってる。今は大寒波ですが人の多さ、こんな大寒波でも作業できるタフな方々のお陰でジェネレータも稼働できるのです」
「あの昔の蒸気街は『美しかった』です」
「それは『裕福』だからこそでる感想。裕福なのは睡眠、性欲、食欲が満たされて『暇』があるから生まれる感想」
「確かに……驕りですね」
「昔を懐かしむのは……『暇』が出来てからです。ガレージに急いでください」
「わかった」
私は端末を耳から離して、そのままガレージへ向かう。私が借りているガレージには作業員が集まり、機体を整備していた。トキヤとカラスの黒い機体にピンクの機体。そして、白い機体が見える。その白い機体は最新鋭機体であることがわかる流線形の機体であり、大きさで中量機体である事がわかる。①と言うナンバーの傭兵であり、「バルムンク」の姫である娘が私に近寄って来る。
特徴的な背中の武器はまるで羽根のようだった。
「①。こんばんわ。あなた、整備士もするの?」
「設計士です。この『バルムンク』を作ったのは私です。元々は『バルムンク』を象徴するプロパガンダのための模型品でしたが……最新技術がこれを組めるまで来ました。ワンオフ機体で、あなたにふさわしいから引っ張って来ました」
「私にふさわしい?」
「はい、理由をお話しますが欠陥機体なんです。背中の10門の小型レーザーキャノンは10発同時発射で大型のレーザーキャノンを越える威力を出すことが出来たんですが……」
「それ、大型レーザーキャノン乗せればいいよね?」
「そうです。それに大型化による重量と維持エネルギー。消費エネルギーが高く。10発の時間差連続射撃は莫大なエネルギーを使用するため……エネルギー出力がいっぱいいっぱいで機動力も犠牲にしちゃいます。とにかく使い勝手の悪い。欠陥兵器エンジェルブラスターです」
「……」
「そんな顔をしないでください⑨。安心してください。内装はしっかりと最新鋭にしてバランスのよく調整してます。また……⑨のデータから機体の出力向上などが出来るようなので全く別物の機体に変わると思います。なのでエンジェルブラスターの砲身は高耐久にしたため重量増加しましたが……打ち出せる回数の向上により長期戦ができます。あと、腕はレーザーブレードとレーザーシールド強化装置を組みました」
「え、エネルギー切れおきるのでは?」
「⑨が乗れば大丈夫です」
「……」
完全に私用にチューンがされていた。データを見ると実弾兵器が一切ない。腕には仕込みブレードの2刀。サブアームは無く、実弾がないため軽量化が図られている。背中の武器乗せるために削った結果だ。
「背中の射撃武器だけでどうにかしろと?」
「長期戦で実弾は弾切れの心配があったんです」
「エネルギーマシンガンとかないの?」
「背中の武器でいっぱいいっぱいです」
「わかった。おろせその武器」
「この機体と一体化してます。ジェネレータから直接繋いでますので」
「………」
私は欠陥兵器を眺めて長い長いため息を吐く。①はそんな私を無視して整備を続けた。満面の笑みで私の乗る機体をチューンしており。私は察する。
「あなた、ロマンでこれを組んだの?」
「はい、格好いい見た目ですね」
「兵器に見た目はいらない」
「旗機にはいります。私は……乗れなかった」
「……」
「⑨……『バルムンク』の未来お願いします」
「わかった。この機体はかえってこないよ」
「はい」
端末を取り私は連絡する。「準備ヨシ」とオペレーターに伝えるのだった。




