フロントライン⑳⑤~地下箱の中身~
「トキヤ、聞こえてる?」
「聞こえてる」
「リューク・ハーピーは今なにしてる?」
「なにしてると言われれば俺が知ってるのは黒衛兵になったと聞いただけかな。活動場所はヘルカイトを中心にしてたと聞くが、独立黒衛兵だから……わからない」
「秘密主義ってのも問題ね」
「ダークエルフ族長もわからないだろうな。組織が大きくその長をまとめてるが……全てわかるような事はない」
反政府組織、治安維持が主なのであまり表に出ない事件も勝手に解決しているだろう。だからこそ不明である。
「どうした?」
「『バルムンク』と言う組織が『リューク・バルムンク博士』の遺産から出来た存在らしい。名前違いかと思ってたけど、ノエルと言う名前があること。白い翼がアルビノハーピーのノエルの翼でありそうと言う事で……状況証拠が出てる」
「出会ったのはお前が拐われてる事件があったあのクエストだったか……あれからはあんまり関わってなかったが……『バルムンク』は魔法に近い何かを使っている」
「そう、私たちに似た物を。そして、一人の人物。私の想像だけど……あの事件は過去だったんじゃないのかな? だって私のデータあるし」
「あの亜人連れ去り事件だな。あれが過去だとすると……『リューク』と言う彼は過去にもう一回行かないと行けない訳か」
「そうなる。異世界への道が出来るなら……もしや……」
「じゃぁ、未来から誰か来ているんじゃないのか? でも未来から来ましたって奴は……」
「一人、私に似てるけど別人の誰かさんを知ってる。ヴァルキュリアって言うんだけど。何故か節々に『未来を知ってそうな』素振りを見せてた。英魔発展を知ってた」
「……帰ったら。彼を召集しよう。彼を過去に戻さないと『我々の現在』がなくなってしまう」
「そうなるよね。はぁ……私ってなんでこうも世界の影響力が甚大になるのよ!! 頭痛い。痛い」
「現場はそんなもんさ……で、通信終わったし。弾を用意して準備しよう。ネフィアは地下鉄からだろ?」
「ええ、私が中枢でネット回線繋げばカスミが全隔壁を開ける。まぁサクラちゃんも『やるっ』て言ってたから……潜入して繋げたら勝利」
「武装は?」
「重量2脚と重量コアに重量腕。武器は弾数が多いマシンガン2丁。両肩には軽量グレーネードガン。ミサイルは未装備でいく」
「完全に長期戦考えての弾数を大きい武器で行くんだな」
「敵の武器を奪いながらアーマードウェポンで進める大きいメトロトンネルから行く」
「防衛装備あったよな?」
「トラック固定式プラズマキャノン砲が何台もあるけど……大丈夫」
「ふむ。わかった……気を付けな」
「ありがとう」
私はそう言いながら今の装備を端末に打ち込み、ロボットが用意してくれる。そして、カスミから返答がくる。
「この機体は赤く塗らないの?」
「カスミ……塗りたいの? あんなバレバレな色……」
「冗談ですよ。なので私がビターレッドに紅をさしてあげる」
「ありがとう。なるべく黒い赤でね」
「了解」
ロボットがインクを合成して錆止めとして吹き付ける。そのままロゴも描き。⑨の番号が刻まれた機体が出来上がる。余った部品で色んな種類の⑨のナンバーの機体が作られて行き、私は眉を歪ませる。
「何体作るのよ」
「並列処理で操作出来る機体数分」
「無限じゃない」
「有限です。精々10~30です」
「十分でしょ。あれ? オペレーターあなたじゃないの?」
「オペレーターは別の方が」
「誰?」
「オープンの仲介者です」
「生きてたんだ」
「そうですね。是非とも、雇っていただきたいと」
「……死ぬ気かしら」
私は首を傾げる。そんな中で端末から連絡がくる。私はそれを無視して、逆にカラスに連絡する。
「そっちは大丈夫なの?」
「……具体的には全く大丈夫じゃない『デストロイヤー』が静かだ。ずっとな……」
「あの、黒い機体?」
「ああ……同じ機体のようで中身は全く違う。俺は空を求めた。奴は……戦いを求めた。そして体を失った」
「そういえば……彼の事を聞いてなかったけど。因縁でもあるの?」
「カスミの尖兵さ。生前の俺や色んな企業が力を持たないようにするために使われた道具だ。何度も狙われ、何度も返り討ちにし、何度も勝ってきた。そして俺は……空を見た」
「そう、カスミはなんで彼と別れたの?」
「多重なる命令違反、命令系統私物化等々。目に余るバグなため切り捨てられのですが。独自に生き残り、幽霊のように戦場を転々としてます。強くなった『場所』に現れる事は確かですが」
「じゃぁ、そろそろ来るか」
誰の前に現れるか別らない。そんな事を考えながら、優しい。この世界に似つかわしくない詩的な歌がガレージに響く。私は誰が歌ってるのだろうかと思い端末を見ると、サクラちゃんのオススメで流していた。そして、声はどこか聞いたことのある声音に私は驚く。
「私の声……」
「私が見つけました。過去に歌われた古い古い……鳥の歌です。何度も何度も誰の歌かも知らず知らず聞かれ続け、コピーされながら続いてます。私は歌えない。ただ録音や電子音を奏でるだけ」
「そうね……」
懐かしい。懐かしい。地下の古い箱の中で鳴り響く。私の輝かしい思い出の宝物のオルゴール。「愛」「友情」「勇気」を歌い。そして、多くを思い出していく。
あの、ヘルカイトで過ごした日々を謳歌した歌姫だった。私のオルゴールが……箱の中で鳴り響き続けるのだった。




