フロントライン⑳①~廃線街~
私が忍び混んだのは暗く、そして異様な臭いがする。廃線のトンネルだ。ただ電波情況はたまに良くたまに悪くなる。カスミがデータだけを先に送ってくれており、それを見ながら配線路図には色んな場所に繋がっているのが見て取れる。
線路は錆び、ボロボロになったコンクリートの壁面が薄利して所々が落ち、水溜まりは透き通っていた。所々が何か輝いて汚染されているが私にはその汚染は全く影響しない。淀んだ空気は感じず、風の流れをかすかに感じた。
「ここ何ですか?」
「メトロ……地下鉄になります」
「地下鉄? なんでこんなに荒廃してるの? 線路って便利じゃないの?」
「膨大な量の物資輸送では現役ですが。待ち伏せ、路線を壊しただけで動けなくなるため。今は戦場の路線は全て廃線になります」
「ああ、そういうことね。最初はいいけど、途中はもう壊されるだけなんだ……」
作るより壊す方が楽である。私は何か良からぬ気配を感じて挿弾子の個数を確認する。45口径のデリンジャーの残り弾は2発。それ以外は背負った鞄含め、そこそこ入っている。
メトロの中で物音はしないが気配だけはあり、私は身構えた。
「何かいる?」
「いるでしょうね。メトロは人の手が届かないので突然変異体が独自の生態系を営み。人を狩ったり家畜工場を襲ったりと問題を起こしてます」
「ああ、魔物の巣窟になってるのね。奥で音が聞こえる。銃声も」
私は呼吸を整えながら、ゆっくりと歩を進める。すると大きい物音共に人間のようで全く違う猿のような生き物と出会う。ギャゥーギャゥーと鳴き、私の周りでものすごい足音がトンネルを駆け抜ける。鞄と銃を置いて銃剣を構え、待つこと数分。猿のような魔物が私に噛みつこうと飛び、それに合わせるように私は気配を感じて銃剣で切り裂き、数が増える魔物を一匹一匹仕留めて行った。
「全員殺したかな?」と思い。私はそのまま鞄と銃を拾い弾薬を節約した戦闘に満足する。そして、明かりをトンネルに向けてると人の姿を見つけた。腹を押えた人に私は近づくと目を閉じていた男の人が目を開ける。傷などを見ると今さっきの猿みたいな生き物にやられたのだろう。鞄の中には治療用キットがあり、息もあるので治療する。服から匂うのは『旅人のようななにか』である。
地図かなにか、良いものを恵んで貰おう。死ねばそのまま剥ぎ取ろう。
「うっ……お前は……『ウォーカー』か?」
「『歩む者』? 違う。ただの傭兵。ちょっと多くの『カンパニー』等々から狙われてて……サイト①へ向かってる」
「……それでか。リーパーはどうした?」
「あの猿みたいなのは始末した。運が良かったね。私が通って。神様も捨てたもんじゃないでしょ」
「…………そうかもな。ありがとう。にしても、重症だったわりには……回復するな」
「ああ、まぁその。非合法な薬と治療方法で。まぁ企業秘密。狙われてる理由よ。これわかる?」
「チェルライト……」
ほんの少し、私は魔法を使っている。医療キットに私は「魔石」を用意していた。青く輝くそれを見せる。まぁ、アーマードウェポンの核になる部分であり、私はそれを抜いたのだ。
「これの使い方がわかる。漏れもない」
「……驚いたな。そんなのは技術革新が起きるじゃないか」
「まぁね。で、ここメトロには詳しい? 助けた理由はサイト①への地図が欲しいの」
「……なるほどな。俺の天性の仕事を見抜いたか。ぐぅ……すまない。俺が案内するには無理そうだ」
「仲間たちとか居ない?」
「居る。わかった。依頼として受けよう。何か物資か金目の物はあるか? 外から来たなら銃弾とか持ってるだろ」
「ええ、7.62mmの51ならある」
「へぇ、上等品な弾じゃないか。じゃぁその銃は猟銃か」
「一応、挿弾子で多弾ではある」
「また変わった骨董品をと言いたいが。俺たちも骨董品を使ってる。メトロ外弾薬は威力と精度が良く。メタルジャケットで製造単価も高い。希少な弾だな。メトロでは通貨は弾さ。覚えておくといい」
「ふーんなんか魔貨みたい」
最近、英魔国内で出たした鉄貨の真ん中が半透明の魔石が埋め込まれ。魔法など封じた『魔法』価値を入れて鉄を立派な通貨にした物に似ている。金、銀、銅は量が決まっているために作られた価値の硬貨だが。製造コストや偽装難、地域ごとの魔石の違いでなかなか面白いことになっているらしい。私の刀貨の考えを入れたそれを思い出す。
「なんだそれは?」
「ああ、気にしないで。肩を貸そう。メトロには人が住んでて安心した。あんな魔物ばかりじゃないので良かった。それに会話してくれるし」
「傷を手当てをしてくれたんだ。それで十分信用に値する。『ウォーカー』は助け合いが必要だ。ここではそれが大切なんだ」
「そうなんですね。まるで……あっいえ。まぁ……外の蒸気街みたい」
「……君は外から……それもあの地下じゃない死んだ大地からきたのか?」
「ええ。凍った大地から。降りてきました。嘘だと思いますか?」
「……いや。この地下世界で本当の事なんて誰にもわかりはしない。組織だってな。では行こう。俺の村を案内するよ。そこで紹介するよ」
「ありがとう」
私は運のいいことに協力者に恩を売ることが出来たのだった。
*
メトロ街はどこか蒸気街に似ており、廃れたトンネル内で生きる人々の輝きを見せていた。サイト⑩の下側の建物郡へも続いている廃線から、彼の住む拠点へと歩んだ。そこではウォーカーと言う。通信に頼らず、その足で物資や情報を持ち歩く人たちがいて。私はその仲間に感謝と共に情報を貰った。
もちろん、タダではいけないので。カロリーのある固形物食糧と弾を交換した。彼らはオーダーメイドの銃弾を使っているらしく。粗悪品の銃弾は威力が低く。手動でコッキングしないといけないぐらいにガス圧が低いのもあって、武器はレトロ感とリボルバーが主流だった。
リボルバー式ショットガンにライフル弾のリボルバー。それを銃身を伸ばしたライフルなど。なかなかに変わった物が多い。まぁどんな弾でも安定するリボルバーが好まれるのもわかる。汚れに弱いだろうが、ジャムで撃てない。壊れるよりましだろう。
「いいのか? 粗悪品の弾ではガーランドの機能が生かされないかもしれないぞ?」
「コッキングレバーがあるし、銃弾がここではいい取引材料になるなら。使わない方がいいでしょ。それに剣で十分よ」
店で粗悪品の弾に変えると1発が5発分にもなった。まぁ撃てればいい。音も軽くなった。それに銅被服がなく鉄皮膜で塗装したのもあった。銃身が汚れてしまうだろうが。仕方ない工夫もみられる。店の人に聞いてみる。
「取引あるのに。なんで銃弾に価値が?」
「だれもこんな所で取引したがらねぇのさ。汚染もあって、禁輸されちまってる。上のもんは俺らが触れただけで爛れるって信じてるからな。それにルールは絶対だろ、自由がないねぇ」
「確かに」
メトロと言う言葉はある意味。そういう自由主義の集団を差す言葉なのだろう。現に一生懸命、ここで過ごしている。
「で、嬢ちゃんは訪ね人らしいが。サイト①になんのようだ?」
「あそこに私のガレージがある。それに仲間も」
「テロリストかい。やめな、死ぬだけさ」
「テロリストより厄介よ。知ってる? この地下の世界より上があること?」
「メトロが最下層って思ってるならもっと下があるぞ嬢ちゃん。炉なんて言われてる所だな。俺達は別に世界を知ってどうこうする暇はねぇな」
「フフ、たくましいね」
「まぁな。だが、炉には行くなよ。ミュータントがうじゃうじゃいる。捨てられて生きてたら別の生き物になっちまってな」
「そう。別の生き物にね」
私はそれを魔物と呼ぶ。魔物と魔族の違いは言葉の意志疎通が出来るか出来ないかだけである。錆びた鉄の臭いが私を抱き締める。行かないでと。
「ありがとう。いい取引だったわ」
「ああ、雇わないのか? 護衛」
「……ウォーカーに道案内だけ依頼してる。まぁサイト①にもメトロがあるようだし」
サイトの門は権力者が持っている。持たざる物はメトロで行き交うのだろう。
「何処にでもある。まぁ埋めて邪魔する奴もいるがな」
「カンパニーとか?」
「そうそう。利用して、爆発さ」
サイトを広げるだけに理由し、最後は消す。理由はもちろん悪用されないために。逆にそういう利用価値がないからこそ、隠れ家には便利なのだろう。魔物とかも。
「サイト①への道もわかったし。ゆっくり行くよ」
「本当にそんな道を通るのか『ウォーカー』でも避ける道だぞ」
「待たせてるかもしれないんで。仲間を」
私は端末を見る。電波は入っておらず何も更新されない。遮断された世界に私は「便利な世の中に染まった自分」を見つけた。そして、過去を思い出していく。魔法で戦い、剣で戦った日々を。そして、それがない今の異質な情況に順応していることも。いや「魔法だけが使えない世界」の不便だが、それ以外で発達していた。そして、私は夢魔の力が残っている。
だからだろうね。この世界でも生きてけそうなのは。
「そうそう、道の先々で気を付けるべきことがあって……『トリグラフ』って奴らもメトロを利用してる」
「あれ、それって大企業の……」
「企業? あれは思想化たちの暴力者国家だ。表ではそうかもしれないが……奴らは貪欲だ。気を付けな。指名手配者ならな」
「わかった。ありがとう」
私は店を出る。店を出たあと、メトロ内で食糧を売ってる人に私は軍食糧と物々交換する。何の肉かを聞かなかったが。塩を着けたただけのそれをほうばり。懐かしむ。魔物の肉だと懐かしんだのだった。




