冒険者の魔物だった姫..
私たちは壁の外で待っているリディアに冒険者の証明書を渡す。思い出すのは最初の時、彼から貰ったこの一枚。どれだけ、私の助けになったのだろうか。その一枚がまた幸せを生むだろう。
「これは? ただの鉄板?」
私は笑う。その懐かし意見に答える。
「それはね。この世で冒険者と認められた人の証明書。貰って来てくれたんだ彼が。これで僕と同じ冒険者さ」
「この鉄板で冒険者に?」
「リディア、私も最初はその鉄板の素晴らしさを知らなかった。知ってからは手放せない。身分を証明し、都市に入りやすい証明書の一つだから無くさないように」
「これが………」
両面をくるくるし見る彼女は疑っている。最初はそんなものだ。
「さぁリディアお嬢様。ご案内させていただきます」
「ランスロット変なの。でも………悪くない気持ち」
「トキヤ~」
「こっち見てもやらないからな………」
「トキヤぁ……」
「指を咥えない」
「うぅ~ん」
「甘い声出して、ねだらない!! はぁ、はいはい。お手をお取りしましょう。お嬢様」
「うん!! くるしゅうない!!」
トキヤに手を引っ張られながら衛門へ行き、この前騒ぎを起こした時にいた衛兵に挨拶する。
「こんにちは~」
「……またですか? 一応賞金首でもあるでしょうに……」
「今度は違うぞ!! ほれ!! その証明書を見せてみろリディア!! さぁ!! あれが目に入らぬか!!」
私は胸を張ってリディアを指をさす。
「…………ぼ、冒険者!?」
「さぁ!! 衛兵!! 通せ!!」
「本当にすいません。うちの嫁が」
深々とトキヤが頭を下げる。
「えっ!? トキヤ!?」
「えっと、そうですね。気苦労お察しします」
「そちらも、では……まぁ色々ありますが通ります」
「問題を起こさぬようにお願いします」
「トキヤ!? 今、謝ったよね!? 謝ったよね!?」
トキヤの裾を掴んだ。迷惑かけている気はしてたがあまりの扱いに驚く。
「冒険者証明書を見せびらかせて衛兵を馬鹿にしてるような行為を謝ったんだ。別に衛兵は手下でも何でもないからな。俺は魔物から門を守る彼らに敬意を持ってる」
「ああ、夫さま………なんとありがたいお言葉か……ありがとうございます」
「すいませんでした……」
私は衛兵に頭を下げて都市に入れさせて貰う。衛兵も部下に持ち場を任せて一緒についていく。さすがに魔物だから信用はまだないようだ。
*
騒ぎがあったが衛兵が鎮めたまま。酒場にやっとの思いで到着する。トロール用の扉を開けて酒場入った。
冒険者は出払っていて残っているのは出遅れたボッチぐらいだ。まぁ悲鳴をあげるわけだけど。
「悲鳴になれました。ランスロットの悲鳴を聞いてみたいですね」
「リディア、僕は悲鳴をあげないよ。きっと」
「…………ランス。おれは色んな悲鳴聞いたぞ? 昔に」
「君は黙ってて。見栄を張らせて欲しい」
「男だなぁ……おまえ」
「君もだろ?」
きっと、ランスロットは好きな人の前で見栄を張りたい男の子。トキヤはもちろん私の事が大好きな男の子。何となく、私にも分かる。
「リディア~ささっと登録しに行こう」
「はい!! これで私も冒険者!!」
道中で登録の方法は教えている。ささっと終わり、個人の情報が書き込まれるのだ。受付嬢がビクビクしながらも業務をこなす。さすが、プロ。仕事はこなす。
「書き込んで来ました」
「見せて………やっぱり最下ランクか~」
「トキヤ、懐かしいですね。僕が初めて冒険者になった時が」
「おまえが目を輝かせて両手で持ち。俺に見せて喜んでいた事か?」
ランスロットかわいい。
「ははは、そんなこともあったあった」
「その後、お前は一生の宝にするとか。俺とお揃いだとか、一緒に依頼をとか…………捲し立てられたなぁ~」
「トキヤ、すまない。過去話は止めよう。僕が辛い。ちょっときつい」
ランスロットが顔を赤くしながら額に手をやる。
「トキヤさん。ランスロットの過去を教えてくださいね」
「もちろん。いいぞ」
「リディア。程々にして欲しい。すでに恥ずかしい」
目の前でイチャイチャしだす集団に酒場の冒険者から冷たい目で見られる。その中でふと私は気が付いた。
「ん? リディアの名前が変わってる。リディア・アラクネ・アフトクラトル?」
「私の名前、長いですね?」
「ランスロット・アフトクラトル。アフトクラトル王家の名前を使っていいのか? 怒られないか? ランス」
「トキヤ。魔物らしい。いい名前だと僕は思うよ」
「………魔物の巣。帝国城内。まぁ魔物が生易しい世界だよな。貴族様は」
「ああ。本当に」
少なくとも、リディアより魔物が住んでいるらしい。帝国内は嘘でしょうけど。比喩だ。
「同じ名前……婚姻かぁ。ランス。気が早いな」
「僕は君の親友。似た生き方をするよ」
無邪気に笑うランスロット。
「そうか。頑張れ」
「頑張る」
「うーん。案外早く、くっついたよね~もっと何かあるか思ったのに?」
ウンウンと頷く私。
「ネフィア、アラクネの巣の襲撃が何かじゃないのか? 切っ掛けはでかいぞ」
「そうですよ? 私には劇的に世界が変わりましたけど?」
「チィチィ!! 甘い!! 普通のロマンチックな物語じゃん!! 例えばね!!」
私は目を閉じて両手で物語を歌うように話始める。
「ドラゴンを倒せる勇敢なる騎士が城に囚われた。弱体化薬によって女にされた姫を助け!! 刺客や、敵から護りながら旅をし!! ゆっくり二人は二人の事を知り、恋を知り。愛による苦悩を乗り越えて結ばれる方がロマンチックです!!」
何処かで聞いたような事を喋る。リディアが感激し私の両手をつかんでうんうんした。
「確かに!! それはロマンチックですね!! でも!! 私だってロマンチックな出会いでした!! ねぇ!! ランスロット!!」
「そ、そうだね。喰われる筈だった気がしますが……」
「ネフィア……それは実話だろ……」
「既視感。ああ、すっごーく既視感。なんて素晴らしい実話でしょうか。そう!! ロマンチックです~あれ~なんか~覚えがあるぞ~素晴らしい物語だな~なんだろうなぁ~」
チラチラ
「おまえの人生だ!! 知ってて自慢してるだろ!! アホか!! 恥ずかしいわ!! この口か!! この口がいけないのか!!」
私の頬をトキヤが引っ張る。
「あふぁ!! つまひゃないでぇ~つまひゃないでぇ!!」
両方のほっぺを引っ張り続ける。
「あっ………やっぱりトキヤの物語か。ロマンチックだけど。自分で言うのかぁ……」
「自分で言って恥ずかしいですね………これ。でも私も羨ましいとは思いました」
「ネフィアぁああああああ!!」
「ごめなやひゃ!! ごめなやひゃい!! 自慢ひしゃかったの!!」
そのまま談笑しながら時間が過ぎる。帰ってきた冒険者と一悶着はあったが。なんとか、リディアは認められたのだった。




