フロストライン⑧~蒸気街の魔物~
私はホロホロと涙を溢す。
「ぐす、私はそんな体を売るためにここに来たんじゃないよう」
「ネフィア、なかなかいいなこの雑誌。滅茶苦茶綺麗にネフィアが写ってる。すごくいいな。ただ、裸は撮らなかったんだな」
私はトキヤの個室で座っている彼の頭にデリンジャーの銃口を突き付ける。
「トキヤ、反省して。愛してるけど限度がある」
「助かった、ありがとう。にしても、裸がみたいな」
「…………それで私が喜ぶとでも?」
「俺が喜ぶ」
「くぅううううううううううううううう」
私は銃を抜き。引き金を引いて彼の頭を撃ち抜く。
パァン!!
トキヤは頭を押さえて悶絶するが弾頭はへしゃげて落ちた。デリンジャーの空薬莢を捨てて給弾する。45口径の弾なので威力はあるらしい。
「いってぇええええええええ。弾デカイから洒落にならんぐらいいたい!!」
「これで許してあげる。トキヤ、相談したら問答無用でオッケーだったのに」
「いいのか? 相談したら?」
「心を切り替えるから大丈夫。それに……私って綺麗でしょ?」
「うん、そうだな。今度は相談する」
私は銃をしまい、彼の対面に座る。そのまま煎り大豆を食べる中で連絡がくる。
「依頼です。都市内に汚染生物が侵入したようです」
「カスミ、汚染生物って?」
「画面を見てください、これです」
私たちはポッケの画面を見る。画面ではカマキリと蜘蛛が合体したような姿の魔物が映っており、映像では何匹もいる。
「どうやら、地下から迷い込んだらしいです。除染作業を行ってください」
「どうやって?」
「卵を生ませる前に銃で掃討してください。既に人が集まって作業に当たってます」
「わかった」
私は隣の部屋から銃を背負い、弾倉入れつきベストを着る。銃剣を下げ、挿弾子と弾を弾倉入れに入れて準備が終わり、同じように銃を装備したトキヤと向かった。
移動手段はトロッコがあるらしく、それに乗った。トロッコには別の人間も乗っており話を聞くと場所は農業区らしく、そこで防衛していると教えてくれた。
農業区に近づくと大きい発砲音が聞こえトロッコで止める。防衛用に鉄板のシールドを置いてドンパチしているのが伺えた。小型のアーマードウェポンでの攻撃音、駆動音も聞こえる。私たちは戦闘音がする方へ行くと魔物がいっぱい出てくるトンネルにいきついく。ウジャウジャ居るのを防衛し、私たちもそれに参加して銃を構えて撃ち、緑色の体液をぶちまけさせた。
私も私で撃つのだが数が多く、弾がなくなる。そんな中で弾を持ってきてくれる人が路線があるのでトロッコで来てくれた。ただ残念ながら私だけ弾倉ではないので、装填が面倒になる。
「ああ、挿弾子だから面倒だね。よいしょ」
カチャ
「ネフィア? 何してる?」
「銃剣つけたの。見てわからない?」
「えっネフィア?」
私はシールドを乗り越えて、銃を槍のように構えながら進む。そして、魔物の首を切り落としたり足を切り落としたりとする。腕にいい鎌がついているのでこれを千切って握り投げつけて使い。そのまま魔物を切り伏せていく。援護の銃弾を気にせずに私は前線を張った。
気付けば緑の返り血と屍の山を生み、動く物がいない事を確認して銃剣を服で拭い納めた。画面をみて残党を見ると他の所にもいるらしい事がわかる。後ろからトキヤと複数人の人間が顔を出して様子を伺った。
「ネフィア、無茶苦茶するな」
「久しぶりに戦いたかったから」
「驚いた。ネフィア、あなた何してたの。映像見たけど怖くないの? そんなことして」
「カスミ、外の世界はもっとデカいですからこんなの赤ちゃんです」
「銃より剣の世界は恐ろしいわね。任務ありがとう、他の防衛ラインは自律兵器郡でなんとかなるわ。そのまま死骸掃除と鎌の回収お願いね」
「わかった」
私たちは死骸をトロッコに乗せる。これからはこの死骸を燃やし灰にして肥料にする。鎌は武器や素材にするようだ。農業区のロボットも手伝い順調にメトロトンネル内を掃除をしていくのだった。
*
家に帰り、汚れた服を脱ぎ。シャワーを浴びて服を洗濯籠にいれて寝間着に着替えた。テレビと言うものから火炎放射機でカマキリの卵を燃やす映像を見ながら、私は考える。なぜ、あんな生き物がいるのかと。
「カスミ、なんであんな魔物が? ここは地下と繋がってるんですか?」
「いいえ、分析の結果。生態兵器です。それも屋外で活動出来る生態でここまで来たのだと思われます」
「ああ、やっぱり。過半数蜘蛛だったのはキメラだったのね」
「地下では生物兵器研究所があります。幾つかは壊したのですが。残念ながら何度だって復活します。そして何度も収容失敗を起こして問題を生みます」
「自分で自分の首を締めるのを作るのね。でも、あんなの私がここへ来る途中には見ていないけど」
「それは生きられないからです。結局、耐性があっても豊かではない土地で生活はできません。それ故にここの都市に来るのです。生きるために」
「暖かいもんね。ここ」
「はい」
蒸気が熱が彼らを呼び寄せるのだろう。外は本当に極寒で生き物を凍らせる。
「では、生態兵器図鑑を表示しましょうか?」
「美味しいのいる?」
「……味覚に関しては私はわからないですね」
「わかった。だいたい『食べれない』と思っとけばいいね」
「人間を喰うのはやめてください」
「食べないわよ。困窮しなければ」
「あまり、同種食べるのは危ないんですよ。変異した細胞が変異を促し死に至らしめる。感染症を引き起こします」
「そうなんだ。疫病神にでも聞いたらわかるかな?」
「……疫病神?」
「英魔国医師会会長兼英魔第一国立病院医院長兼英魔医療研究所所長の神様だよ。まぁ日頃は寝てる事が多いかな。起きて元気いっぱいだと逆に大事件で緊急事態になるというね」
私は彼女に説明する。カスミはまた「現実的でないことを」と頭を抱えるアバターの姿が画面に映し出された。わかる。その気持ち。英魔国が纏まったあとに神様が目の前にじゃんじゃん出てきた時はそんな気持ちだった。
「あ、ネフィアさん。着替えてください。緊急です」
「なに?」
「蒸気街に蒸気の化物が生まれました」
「はい?」
画面に映像が写し出されるとそこには煙のエレメントがゴーレムの姿を模倣し暴れていた。煙には質量が伴っており、ここでは異質な雰囲気がする。
「外気と混ざりあった蒸気が変な形をとるのです」
「……魔法生物」
「討伐の依頼をしてもよろしいですか?」
「残業代出るんでしょうね?」
「申し訳ないですが、サビ残です」
「はぁ、もう。面倒……」
どうやればいいかを私は考え、ブーツに履き替える。そのまま40cmある銃剣を掴み駆け出す。端末画面を見たらマップと状況がみてとれ、対抗でニードルガンを撃ち込んでいた。ニードルガンはチューブが伸びて背負ったパックから圧力で射出する仕組みだ。
すぐに爆発する火が厳禁なため火薬を使わず。水とそれをすぐに沸騰させる火力ボイラーがセットの物である。火力ボイラーは簡素な自律兵器に使用されている小さい触媒のエンジンを改造している。
それで応戦する人々を高速で抜けて、銃剣に私は左手から生み出した炎を塗りエンチャンをして鞘に納める。煙の魔物はニードルガンでの槍が刺さったままで蒸気と言うより肉体があった。
「嬢ちゃん!? あぶねぇ!! 下がってろ!! ここの場所は毒素で汚染されてる!!」
「……毒素ね」
最前線。フロントラインに私は立って深呼吸した、体に精製される少ない魔力に懐かしさを覚える。そのまま、仁王立ちをして鞘を左手で持ち構えた。他の人は鉄の鎧のようなアーマーを着ており、素顔も見えない。そんな中で軽装の私には異質に見えただろう。
「……はぁ、ここは少し魔力がありますね」
腰を落とし、煙の元であるコアを見る。エレメントは心臓部分があり、それを壊すと体を維持できなくなる。そのコアにしっかりとニードルガンが刺さっており破損していた。見えた私は煙が近づき間合いに入る。
「炎刃!!」
間合いに入った瞬間に銃剣を抜き、抜いた勢いとエンチャンした炎が刃の姿をとり煙のエレメントを両断、そのままエレメントが構成した魔力に引火しコアごと燃えて散る。火花となった魔物に一瞥をしながらドロドロに溶けた銃剣を鞘に戻す。「もうこの剣は使えないな」とため息を吐き。私は彼らに聞いた。まだ私の炎は燃え続けている中で。
「汚染箇所と汚染が入ってきた場所を探しましょう。汚染濃度は?」
「濃度は10%にまで下がりました」
フル装備の男がアナログ計器を見る。確かに10%ぐらいで、あと少しで危険域を脱する。
「わかった」
「すいません、あなたも除染させてもらいます」
「う、うん」
私に向けて作業員が蒸気と混ぜた何かの薬品を吹き掛ける。ポロポロと魔石の粉が転がり、それを掃除機で吸っていく。ボイラーの燃料になるそうだ。
「ネフィア、依頼達成おめでとう」
「サビ残よ。依頼なんてないんでしょ」
「ええ、でも研究としては有用。あれが魔法なのでしょ」
「そう、あれが魔法」
「本当にチートな強さですね」
「チート?」
「意味は騙す、欺くことなんですが。コンピュータゲームに関して言えば製作者の意図とは全く違った方法でクリア、有利にする事。製作者のルールを無視して悪用すること。多くのプレイヤーとの公平性を失わせ、不公平となる行為の事で、簡単に言えば『違法なほど強い事』『違法で強い事』『ズルした強さ』などの表現にも使われてます」
「そう、でも世界は元から公平性は生と死しかなく。不公平な物だから。チートが当たり前ね」
「しかし、迷惑行為は処罰され。この世界から消されます」
「ごもっとも。勘違いはみんな排除されました」
カスミと他愛のない話をしながら私はガンスミスの元へ向かう。剣を新調しなければいけないから。




