フロストライン①~捨てられた人類~
鴉と言う名前のゴーレムに導かれてやって来た私達は鉄の扉に迎え入れられる。左右に開いた扉の中からの熱風で顔をしかめる。そのままゴーレムが入り、奥の定位置なのかそこで膝をついて鎮座した。武器を置き、人間のようなのがぞろぞろと出てくる。中には細身のゴーレム、蜘蛛のようなゴーレムもいる。私達はダークエルフに従い、ついて行った。
「あれはなにを?」
「ここはガレージ、整備する所さ。そしてあれは整備機械。鴉さんは自分で自分を整備するんだ。ああいうのを機械と言う」
「機械……トキヤはわかる?」
「まぁ、そこら辺は俺はすんなり理解出来るな」
ガレージから廊下に出たあと、私達はパイプを眺める。パイプの一部から蒸気が上がっている。
「パイプ触らない方がいいですよ。蒸気が走ってまして熱いですし、その下の蒸気出てる部分はドレン排水なので熱湯が吹き出すので気をつけてください」
「う、うん」
意味がわからない言葉を聞く。
「蒸気を流して暖房してるんです。見ましたでしょう。中心そびえ立つ煙突塔。あれがボイラーでこの都市全部を賄う化物の機械です。まぁ連結式の煙廃棄をあそこに集めてるだけですけどね」
詳しい事から彼はここで暮らして長い事が伺える。あの記録からの期間ずっとここで生活していたのだろう。金属だけの世界の不思議な光景が続く。鉄網の床がガシャガシャと鳴らし、湿気と油臭いニオイが異様な世界観を見せる。至るところから蒸気が上がり、時に吹き出す音が廊下に響いた。そして、大きい大きい部屋に案内される。
「会議室になります。ここでお待ちください。ここの代表者と、私含めて仲間をお呼びします」
私達はそう言われてそのまま会議室で待つこと数分。ダークエルフとエルフ族に獣人の亜人二人と人間二人で計6人ほどが顔を出す。他二人はオークとトロールらしく仕事で忙しいそうだ。
「今、急遽仕事を明けて来ました。探検隊です」
「あら、思った以上に元気そうで安心しました。では、私からご説明しますね」
私はここに来た目的を説明する。質問も答え彼らは深々と頭を下げる。
「ありがとうございます。女王陛下……一度、誰かを返すべきでしたね」
「まぁ、そうですね。では、あなたたちの状況を説明してください。帰る理由以上に残る理由を」
「はい、帰らない理由は仲間を見捨てる事が出来なかったからです。報告書読まれましたね? 私たちは仲間を奪われた二人ほど。それに対し……調べていたんです」
「奪われた勢力はここと違うのね」
「はい、ここは『楽園を追放された者たちの最後の砦』になります。そして『楽園』とは何かと言いますと。旧人類が生き残っている世界があり、それが地下深くにあるのです。そこの旧人類の勢力が我々を捕らえたと思われます。遠隔操作系自立兵器を用いり偵察に多く出しています。そして……それを狩る物がここの捨てられた者たちです」
「……んんんん?」
「まぁ、何を言ってるか難しいでしょうが。ここは複雑なんです。そうですね、この中心の塔の燃料は旧文明の地下から送られて来ます。膨大な電力や燃料になる不思議な物質を送ってくださる方がいます。それを『女神』と言いましょう。それの目的は『旧人類の地下世界の安定と保存です』そのため外への目を摘むために自動兵器郡を放ち、『鴉』さんや一部の傭兵にお願いして仕事としてます」
「う、うん……」
難しい話だ。頭が沸騰する。私は出された暖かい珈琲牛乳をいただきながら首を傾げる。トキヤが疑問を口にした。
「なんでその女神は嫌なんだ? 人間が出てくる事を」
「それは……どうやら。外に居る人間を見ていただいたらいいんですが化物化や、肉が腐り病死したりと旧人類にはこの世界は住めないそうなのです。蒸気を溢れる理由も蒸気で圧力を高めて外気を入れないためだそうですね。建物内は隔離され、旧人類はスーツを着ないと生きてけない世界が私たちの世界です。女神はそんな世界に送りたくない考えのもと、希望を持って出て行かないようにする未知を残してるそうです」
「旧人間はこの世界を生きられないか……それならわかりやすいな。じゃぁ、お前らが拐われたのは女神的に不味いのか?」
「ええ、不味いです。私たちも脅迫で従わされて連れてこられました。私たちも仲間を取り返すと言う点で協力してます」
「ああ、それで……応援呼ばなかったんだな。被害者が増える可能性が高い。あんなゴーレムを倒すのも難しいからな」
「女王陛下は殴って勝ったそうですね。しかし、そのデータは既に送られているでしょうね」
私は飲み干したカップを置き、指を差す。それは画面であり。テレビのような物。そこに文字が浮かぶ。
「ねぇ、これって人が入ってるの?」
「んんんん? 女王陛下?」
「いや、ここに人の気配がする」
「…………女王陛下はすごい人ですね。この画面の文字は『鴉』さんの言葉です。実は彼は……Aiといいまして……えっと。そう!! つくも神みたいな物です」
「なるほど。それで……」
私は画面の文字を見る。そこには「ようこそ、スチームフロストへ。歓迎しよう……新たな人類」と書かれている。私は画面を触って「ありがとう。よろしく」と記入した。
「女王陛下、使い方わかるんですか?」
「トキヤも私も、こういう物は過去に見てるんです」
「そうですか。では、旧人類側の話ですが『女神』の話によると群雄割拠で色んな勢力が戦争しているらしいです。地下の覇権を巡って、だから我々は探さないといけないのですが。如何せんお金も技術もなくて、ミイラ取りがミイラになる結果しか生まないと計算されました」
「ふむ、で。女神に技術等々教えられてる訳か」
「はい、そして……女王陛下の事をお話したらですね」
「私の話?」
「女王陛下に『依頼』しようと女神は待っていたんです」
「待っていた?」
私は背筋が冷える。それは予見とかそんな話になる。女神と言う存在が頭の片隅に残り続ける。
「そうですね。今、そこの画面に現れました。この鋼の世界を維持している『女神』が」
私とトキヤは画面を見る。そこに言葉を漏らしていた。ただそれは何か不思議な感じだった。
「鴉、任務お疲れ様」
「……」
「鴉、次の任務だけど」
「すまない、他を当たってくれ」
「鴉?」
「……」
「鴉? 応答せよ」
「少し静かにしてくれないか? カスミ」
「鴉、何をしているの?」
「寝るんだよ」
「Aiであるあなたが寝る必要に私は感じませんが?」
「自由時間だ」
「鴉」
「……」
画面で鴉と言う名前の後に台詞と、カスミと言う名前で台詞が交互にある。だが、カスミの応答を無視してる状況がついていた。私はそこに記入する。
「こんにちは」
「こんにちは、すいません。鴉も交えて依頼のお話をしようと思ったのですが。鴉から応答がなくなりました。ガレージにも居ません。あと音声認識で問題ないのです。音声モードに切り替えます」
画面が消えたと思った次に部屋に大人の女性の声が響く。
「初めまして、新人類の王。過去の消失データ復元、オブジェクトXX-U-2609。炎翼の魔女神と一致。ネフィア・ネロリリス。私の名前はカスミと言います」
「訂正があるよ。何を聞いてたかわからないけど私は英魔国内の王であって、新人類全員の王になったつもりはない。やっぱり『過去』に私は行った事があり、そして……人類は滅んだ」
「肯定です。あなた方が未来から来たことによってこの世界に毒素が生み出されました。そして、新人類の王と言うのは仮定のお話です。この場にまで探索する余力をもつ国力と知恵があること。探索隊の話から余裕がある状態の国の予測。大陸の覇者である事が伺えます」
「……どこまで話したの?」
私はダークエルフを睨む。彼は「知っている事全てと取引した」と言う。それにカスミは「申し訳ありません、可及的すみやかに事態の終息を考えている処置です」とフォローし謝る。
「いいえ、確認で聞いたので……『敵かもしれないのに情報を流すなんて』と考えましたが。ちょっと礼に背いてますね」
私は立ち上がり、そして……何処にいるかわからない彼女に頭を下げる。不利益になるだろうが。
「ありがとうございます。我が国民を救っていただき、国の代表者として感謝をします。礼は『お願い』を聞くでよろしいでしょうか?」
「こちらこそ信じていただきありがとうございます。礼を尽くすと言う事ですね。よろしいです。鴉が大喜びで私もうれしい限りです。時間的にもう遅いのでお部屋を用意しました。除染作業室から、移住区への移動お願いします」
「わかりました。除染作業ですか。確かに感染症とかあるかもしれませんね」
「否定、感染症ならまだ治療が効きます。それに外部からの人が来ることのないこの場所でそういう設備は必要ありません。除染はこの世界に漂う汚染物質それをあなた方は『マナ』と言います。それを除去します。旧人類はそれを取り込み『魔力』に変える事はできません」
「……へぇ」
中々興味深い話だった。私は探索隊と一緒に言われた通り居住区へ向かう。途中、隔壁に閉じ込められ送風とブラシで払い落とされたあとにそのまま、服を脱ぎシャワーで体も洗わされた。服も何かの機械に入れて洗浄された後に梱包され密封、作業着のような服と靴を用意された。
自由のない効率重視の世界に私は感づく。お洒落する余裕も、服を選ぶ余裕もないのだ。そんな服を着たまま、鉄の道を進むと大きい空間に出た。
天井壁は鉄骨と鉄板とパイプに覆われた中に、トタンの家など金属だけで構成された街並みに私は目を見張る。ここでも蒸気があり、私の知らない世界はまだあることに驚かされながらも、笑みを溢す。
「懐かしい気持ちですよ。初めて見た。あの少女だった時代の好奇心がまだあるなんて」
私にはトキヤと旅をした冒険者の血が残っていたようだ。




