人を拒む未開地③
あの族長から頼まれた日から3日ほどたった。目に見える物は雪ばかりであり、廃屋も人の生活している痕跡もない。山々も木に雪が被って白く、そしてポツポツとある木々は変わっており。木々の実が落ちた場所で雪が集まって人型の姿になってビックリした。その雪のゴーレムはそのまま私たちと反対へと向かい暖かい土地を目指して芽吹くのだろう。
そして逆に大きい大きい木はその芽吹いたトレントだろう。木が動き雪を掘って根を下ろし大きい木となっていた。たまに震えて雪を落とすため、雪が被った木の下での休憩は危ない。なぜこんな所を選んだ理由はきっと競争力が起きないこの土地は種の保存に適していると思われた。
それ以外の生き物は木の皮を食べる小さい草食動物のウサギとネズミ。それらを狩る狐と狼が主で私たちを恐れて距離を取っていた。遠くに鹿だろうか、角のある生き物もいる。ただ、数は少ない。見える狼の数も本当に少ない。
「なんか、生き物も体が小さいし木も大小さまざまだね。トキヤ」
「ああ。それに何か違和感ある動植物しかいない。それに何処へ行っても白い世界だ。あとは……たまに落ちてるが得体のしれない『遺物』が気になるな」
近くに落ちている歯車を拾う。
「そうだね。人工物。そして私達がわかる文字を書いている。矢印と一緒に」
歩く中で多くの鉄の人工物が雪から顔を出し、それに赤い文字で英魔国の矢印が書かれていた。目印となっているそれを私たちはたどり。そしてちょうどいい人工物を見つける。それは金属のゴーレムで腕立て伏せのように手を出して固まり、木の根に絡まれていた。胸が開いているその下がちょうど雪もなく過ごしやすそうな場所となっている。
「今日はここで休もう。ん……ネフィア見てみろ」
「うん……わかる。わかる。これ誰かいたね」
トキヤが焚き火後を見つける。炭化した木の枝たちと捨てられた瓶。瓶には英魔国内のマークがある。ここで休んでいたのだろう。
「ネフィア、水はあるか?」
「ないかな」
金属の口の広い水筒を逆さにして見せる。トキヤは頷きながら鞄から鍋を取り出して雪を入れ、私は私で木々を集めた。火起こしは私が行う。魔法は少しだけ使えるので何とかなった。魔物の心配はなく。魔物はどちらかと言えば食糧になるので来てほしいぐらいだ。
鞄の中から缶詰めで寒さで固まっているレーションを出して火の近くに置く。鍋の雪がゆっくり溶けて沸騰しだす。この場所はすぐに水が沸騰するので最初は驚いた。
「ネフィア、水筒貸してくれ」
「はい」
水筒に水を入れてもらい、鞄に入れる。そのまま丸めた寝袋のアーティファクトを火に近づかせて熱を保存させる。
「……この先まで探検隊は来たんだね」
「そうだな。ただ、この場所で察する事は出来るのは……このゴーレムは少し異質だよな」
「うん」
「……ゴーレムも胸の部分に椅子もあるしな。操縦席みたいな感じがする」
「ゴーレムを乗って操るのって魔法あるよね」
「あるが。高等で一部の土の魔導師が使うな。あいつらは岩を纏って肉弾戦が得意と言う変わり者しかしないがな」
「それとは違うよね」
「全く違う」
そうこうしているとレーションが溶けたのを缶切りで開けて私は熱いそれを手にしてスプーンで食べる。ペーストされた米と混ぜられた多くの食材、料理名ピラフのそれは昔にくらべて食べれる物になっていた。
「レーション美味くなったな」
「瓶詰めより美味しいね確かに。でも、探検家のは瓶詰めレーションだね」
「缶詰めの技術は最近だからな。この圧着出来る素材がゴム性のスライムとゴム木だから。採取牧場できたの最近さ」
「そうなんだ。それにしても本当に何もない世界だね」
「ああ、俺達以外に言語を話す生き物はいないな」
私は周りを見て、そして……気が付く。
「誰かにみられてない? 視線を感じる」
「気のせい……ではないな? 方角は?」
「あの山から」
私は指を差す。そしてトキヤは目をこらした。
「見えんな……暗くなったから余計に。いつから気付いた?」
「……今さっき。なんか、見られた直感がした」
「わかった。気をつけて先を目指そう」
そう言い、私たちは寝袋に入り休むのだった。
*
英魔国から歩いて1週間目。熊の魔物の死骸を見つけた。肉は取られており、凍ったそれは無惨に捨てられている。狼の傷ではなく槍による刺殺だとわかった。また削ぎ取られており我々の探し人の仕業だろう事も伺える。
近くに人工物の印も見つけ、英魔国への方角が書かれていた。白い雪はまだまだ続く。曇り空もまだまだ続く。一度も晴れない空にまるで操作されているのではと考える。
「……ずっと曇りだね」
「ああ、晴れないそうだ。観測以来な」
山も越えたが景色は変わらず。白い世界がずっと続く。唯一変わったのは人工物の多さが増えて来た。そして、私たちはもう一つの山を越える。そんな行軍に目立つ物が見つかる。
石作りの人工物が散乱し、至るところに転がって白い雪から顔を出している物が見えた。四角い形が連なり、何本も何本も雪から生えており、ベランダなどが見える。その建物郡に私は見覚えがあった。
「トキヤ、あれ……町じゃない?」
「あ、ああ。驚いた。何もかも雪で埋まってると思ったが……高層ビル、マンションは倒壊せずに残ってるのもあったんだな。凄い高く雪が積もってるな……」
「ドラゴンより高いね。雪の層」
雪が風で飛ぶのか、押し固められて、地熱で溶けたりとある一定以上積もらないのだろう。私たちは3階か4階かの建物郡を氷のように硬い雪の上を歩く。途中、英魔国文字が見えて、暖を取った建物を見つけた。それはマンションのベランダから入った一室でベットも何もかもがそのままな部屋だった。扉は壊されており、奥に軽く整備された様子がある。
「ここまで来たんだ」
「ああ、そして……驚く事があるんだ。荷物がある」
「……本当にね」
そう、この建物郡に英魔国製品の荷物が乱雑に置かれていた。人だけが居らず、私たちは不気味さに警戒する。
「ここで襲われた形跡はないね。ここを拠点にしてたんだ」
逞しさが見えるのはマンションの一室に干された洗濯物と燻製のお肉が吊るされている場所があり、植物の葉を発酵させている臭い部屋もあった。タバコ紛い物の後も見えて生活感があるのに人だけがいない。
「化物に襲われた感じじゃないね」
「……どちらかと言えば連れ去られたのか?」
「全員で探検しに行くのかな?」
「ネフィア……手かがりがある部屋を見つけた」
一室一室を見ていた私とは別に反対の部屋を見ていたトキヤが手招きをしており、私もその部屋に入る。中は綺麗にされており、机と一緒に暖房器具だろう鉄の箱とカンテラが用意されていた。その机にはなんと筆記具とノートがある。
「おおお、探検記録」
「ネフィア、ちょっと今日はここで休もう」
トキヤの提案に賛成し、休憩する支度をする。燻製のお肉は熊のお肉で、それを焼いて解凍させた。味付けはもってきた塩だけで済まして。特別に持ってきている茶を作る。トキヤは私が準備をしてる間に探検記録を読みあさった。
暖炉として木々を重ねて燃やす中。トキヤが探検記録を仕舞う。
「ネフィア、確かにここを拠点に見て回ったそうだ。探検記録とは別に報告書があって、あれにここの町の調査報告が書かれている。だが、数ヶ月前からぱったりと書かれていない」
「何かあったかは書かれてない?」
「……動くゴーレムに仲間が拐われたらしい。そして戦闘になったが。あまりの速さに手を打つことも出来ず。その日は会議を行ったらしい。そして……帰宅するために動き出した」
「荷物は人数分あるね」
「ああ、だから帰宅前に……何かがあったんだ」
「動くゴーレムかぁ」
「調査書にある。絵がな」
トキヤがそれを見せてくれる。その絵はブロックを固めた人のような姿で所々にパイプなどが繋がれ、そして……銃を持っていた。バケツをひっくりかしたような頭の目はアラクネや昆虫亜人族のような複眼で血で赤く塗られている。化物の絵に眉を歪ませる。
「鉄のゴーレム。ネフィア、覚えはあるか?」
「全くない」
「そうか、俺も全くない。魂の記憶に全くない」
「……魔法がない私達にこれを倒せると思えない」
「ああ、だから。帰還をえらんだ。これを持って帰ろうネフィア」
「ええ、わかった。そして……見ている正体はわかったわ。このゴーレムだよきっと」
来た道のゴーレムと私の知るアニメと言う知識で予想出来た。そして、昔の人間が「生きている」と確信する。
「では、休みましょう。明日、戦闘になる」
「そうだな……」
温めた寝袋に入り、私たちは休む。明日無事に帰る目標のために。




