都市野球戦争⑥
多くの奇跡が重なり無事大会を終えた次の日。トキヤは内臓をオーク族長等々に殴られ重症のため、私がトキヤの代理で会議に顔を出す。閉会式は実は発表されていない。黒竜の事件によって延期になっているのだ。そう、出場者が居ないのだ首都に。
「女王陛下!?」
城の会議室へ赴いた私は衛兵に驚かれる。敬礼を敬礼で返し、トキヤの代理で来たことを伝えた。衛兵は理解を示して扉を開けてくれる。
「女王陛下、中の事はご内密に」
「ええ、わかった」
私は衛兵の釘をしっかり受け止める。釘を打たれた理由は何かあるはずだ。緊張の面持ちで中に入ると、ムワッとした酒の臭いに鼻を摘まむ。
「うわぁくっさ!?」
中のメンバーは9人の族長とその伴侶や従者ばかり。だが、その中でオーク族長、トロール族長、セレファ族長、ダークエルフ族長、エルフ族長、リザード族長、エリック族長の顔色が悪かった。エリック族長は仮面さえ外している。そしてこの状況を説明してくれたのは元気そうなスキャラ族長とリディア族長だけだった。しかも、リディア族長はランスロットと一緒ではない。気付いたらスキャラ族長の従者スラリンもいない。
「ネフィア姉さん……あのですね。昨日優勝したじゃないですか……」
リディアが「ネフィア姉さん」と言うのが懐かしい気持ちになる。
「ええ、彼らは私に勝った」
「それで……打ち上げでお酒を……今さっき数時間前まで。ランスもそうで、家で死んでます」
「ああ、なるほどね。まぁ気持ちもわかるわ。トキヤは皆に叩かれ揉まれて全治3日の重症になって私が代理で来たの」
「そうだったんですね。スキャラ族長も立派ですね。皆と合わさずに仕事を大事にして」
「リディア族長。私は……その……空気に乗れなかったと言えばいいかな……代理スラリン姉さん出場だから」
「で、議題は何? 黒竜討伐戦?」
「えっと、ネフィア姉さん。それに関してですが既に『勝利』の報告が上がってます」
「それは……どういう事?」
リディアが話をする。
「作戦決行は実は昨日です。族長や女王陛下が居ないその日。『女王陛旗船ガルガンチュア』の整備期間の嘘を流し、相手が迎撃準備する日を誤解させ、女王陛下が居ないと動かない嘘を流して油断を誘い。昨日、突貫して敵施設を全占拠いたしました」
「え、私が居なくても動くの?」
「はい、連合軍元帥はネフィア・エルフが務めました。動く方法はネフィア姉さんの魔石とネフィア・エルフさんの力があってこそです」
名前を効き驚くエルフ族長の奥様だ。そして影武者を務めるが。やってる事はもう私のような事ばかりで驚く。あんな、震えていた奴隷の少女が大出世である。そして………私は情けなくなる。
「あなたたち族長が!! 死地で戦ってる戦士を無視して優勝で酔ってるなんて示しがつかないでしょうがああああああああああああああああ」
「「「「「うぅ」」」」」
私の大声に酔った族長たちが震える。酔った体に大声は堪えるらしい。情けない。
「ネフィア姉さん。まってください。皆さんは黒竜との抗争勝利にも喜んでたのです。それに……兵士も今は全く使い物になりません」
「えっ、どうして」
「女王陛下、それは私から説明させてください。今日の会議は黒竜との戦いの報告です」
私の耳に声が届く。耳を抑えて誰かを考えると相手はサンライトと名乗る。エルフ族長の娘の声も妻の声も本当に私似が多くて困る。そんな彼女が近くに来ているそうだ。
「サンライトちゃん、ではお願いします」
「はい、ご報告します」
私は席に座り彼女を声を議会室内に流す。そして、衛兵にお願いした。「お水を一杯持ってきて」と。
*
女王陛下試合開始まで12時間ちょっと前、まだ夜中の零時に近い時間。魔力のカンテラで照らされている陸に打ち上げられた城のような大きい船ガルガンチュアの前で私たちは整列していた。私は一番前で「黒騎士斬り込み隊長」として、黒騎士を数十人後ろに従えている。皆が配られた精密な腕時計の時刻を見る。そして、目の前の壇上に私の義母上ことネフィア・エルフが声を張り上げている。
周りには族長たちが持つ精鋭部隊が並んでいた。その種族は多様に富みんでいるが大きく。空飛べる種族からなる空挺部隊、空挺補助部隊、ガルガンチュアからの砲撃部隊、係留後の私たち突撃偵察部隊、第2突撃部隊補助、救護部隊、突撃後占拠防御部隊。全部隊の補助部隊。補給部隊などが並んでいる。英魔国民になって、戦術が複雑化した。
しかし、我々は夢で練度を上げており。複雑化した部隊運用は物になる。あとは実戦である。
「時刻合わせ!! これより、零時に合わせる。10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、今、1、2、3」
女王陛下のように良く通る声で時刻を合わせた。無事時間が合い、私たちは時計から顔を上げた。既に作戦は伝えられており。私たちの役目も決まっていた。だから何をするか……わかる。
「私の名前はネフィア・エルフ。皆が知っているエルフ族長の影武者である。今日、黒竜の本拠地に攻撃を仕掛ける。女王陛下が試合を始めたと同日。その隙に浮遊城に接敵、係留する。その後、城を占拠し黒竜を全て倒す。以上が概要です」
知っている任務を再度確認させている。そして、ここからお義母さんは演説を始める。背中に炎の翼をはためかせる。その姿に「おお……」という嘆息も聞こえた。
「私は女王陛下ではない。ですが、女王陛下にいただいた名前を持ち。同じ炎を纏い扱う者として諸君の命を貰います。『ネフィア』として私は影武者ではなく今日、この瞬間を本物として戦う。故に従え、英魔国の精鋭たち、そして手にしよう。『自由』を!! 持ち場につけ!! 出陣!!」
お義母さんが敬礼し、我々も敬礼をして私は振り返り命じる。黒衛兵の仲間たちはそのまま乗船し、私たちの部屋へ移動する。姉妹も来てるだろうが出会わずにそのまま入る。距離は遠くそれまで仮眠出来るようになっており人型なら2人眠れる部屋で私は上のベットに登って目を閉じたのだった。四肢の整備は既に私は済ませていた。船はそのまま浮き上がる感覚とパンジャンのプロペラ音を聞きながら。
*
日も上がり、移動する中で船内で放送があった。私は起き上がり、同僚の黒騎士の女性が黒い槍を用意するのが見えた。
「ネルちゃん、もう行くの?」
「落ち着かないのです。隊長」
「わかった。私も行きましょう。甲板に上がりましょう」
「はい」
放送は敵が見えたと言うことで集合の合図だ。私は甲板に上がり既に並んでいる空挺部隊に目を向ける。昆虫亜人族から鳥族、竜、天使など空飛べるメンバーたちが各々の武器を持ちフェンスにより命令を待っている。その時遠くで敵の根城の雰囲気を感じた。そして命令が下る。
「空挺部隊落下!! 船を護れ!!」
命令を下した後、亜人たちはフェンスを乗り上げて落下して飛んでいく。船の周りに展開し、次に魔法など得意そうな砲撃部隊が甲板に現れる。その後、船に魔力が高まり先頭で膨大な熱量を感じた。羽を持つ夢魔の目を借りて何が起きてるかを見せて貰うと、船の前が開きそこにワームのような歯がある口が発熱して渦を巻くゴブリンの放火砲が用意されていた。
そのまま、放火砲による炎の魔法弾が打ち出され何もない空間に当たり爆発する。その後、黒竜が住まう浮遊する城が乗った浮遊島が見える。放火砲による、障壁破壊と偽装破壊を同時に行った。強襲は成功したのか全く相手は空に展開していない。
空で戦いが起きる前に係留出来そうだ。
「いい具合ですね。ネルちゃん、準備しましょう。全員起こして」
「はい、隊長」
私は足の具合も再確認して船の中へと戻り、錨の発射装置がある場所へ向かう。大量の鎖が巻かれている場所で待つこと数分。扉が開き、陸が見える。その先に大量の建物郡があり黒竜が飛び立って行くのが見えた。射撃部隊の隊員だろう人間の兵士が叫ぶ。
「錨を降ろします!!」
ガシャコン!! バシュン!! じゃらじゃら!
錨が魔力バリスタによって放たれて進み、大地の上で鎖が伸びきり止まる。そのまま勢いがなくなった結果傘のように鉤月が広がり地面を抉って固定する。ゆっくりゆっくり鎖を引き、船の右側を寄せていく。私はそれを確認したあとに叫ぶ。
「………さぁ!! 敵城一番乗りは誰ぞ!!」
そう、まだ近づいていない。だが、黒衛兵はそんなの関係ない。私は鎖の上に乗り、風で煽られる空を無視するように突き進む。黒竜が鎖を斬ろうと迫るのに飛び付き背中に乗って右手で女王陛下の下さった輝く剣を抜いて首を落とし、鎖へと戻って走る。死骸は爆発するが鎖は揺れるだけである。
他の錨にも私と同じように実力ある「個人」が走り、浮遊する陸へと渡って錨を黒竜死守をした。私は命ずる。
「係留するまで錨を守り、その後は……好きにしろ」
命令なんて物じゃない。部隊運用なんて物じゃない。黒衛兵が勝手に動く。そう、集められた英魔国内の一騎当万の兵がここにいる。
ダァアアアアン!!
護る中で、砲撃部隊の攻撃や。空挺部隊の空中戦が激しくなるなかでガルガンチュアは係留体制に移行し、私は城へ向かって走る。黒衛兵の狩りは始まった。そして………黒竜の弱点をつく。城内で自爆して貰おう。
*
「船に攻撃をさせるな」
「係留後部隊全軍突撃開始しました」
「黒衛兵が城で接敵し、自爆させております」
私は女王陛下の間で魔石を操り、魔力を流しながら報告を聞く。聞こえる報告の戦況は目まぐるしく。部隊ごとで用意されたリーダーが激を飛ばす。
「ネフィア様。黒竜の逆襲があります。回り込みがあり、空挺部隊が動けません」
「補助部隊は何のために用意したかわかってるわね。向かわせなさい」
「はい。空挺補助部隊落下!! 背後を護れ!!」
「ネフィア様!! 第一突撃部隊が引きます!!」
「突撃補助部隊を前へ!! 攻撃部隊は休憩と急速回復を挟みながら波状攻撃を!! 黒衛兵が作った空隙から浸透し、占拠部隊はそこで展開。回復が間に合わない重症者は捨て置き、回収は救護部隊で行うのを徹底させて。負傷した空挺部隊は下へ降りて展開している部隊と合流」
「はい、伝達します」
「黒竜は個々の強さは竜人並みかそれ以上!! 首を焦り個人で仕留めるな!! 我々は英国民なり、母国のために連なる同士なり」
私も声で士気をあげるように激を飛ばす。電撃戦になり、激しい爆発音と共にガルガンチュアに黒竜の亡骸も当たって船が震える。
「左舷被弾、損傷軽微」
「ガルガンチュアの下へ潜り込まれましたネフィア様」
「下部のハッチは開いてはダメ。そのまま空挺に追わせなさい。数は確実に減ってる。頑張りどきよ」
「「「「は!!」」」」
私は冷や汗をかく。多くの命を背負う責任の重さも冷酷な心も全て女王陛下なら軽々とやってのけるだろう事も全てを今、感じている。だからこそ、お願いする。
「皆……」
なんとか勝ってほしい事を。
*
城の奥、自爆する黒竜たちでボロボロになっていく城の中で一際綺麗な装飾場所を見つけた。王の間のような豪華な場所に一匹の竜人の女が……余裕もなく怒り狂っていた。
「なぜだ!! なぜなんだ!! なんなんだあれは!! ふざけるな!!」
非常に強い怒りは報告をしている竜人の話を聞いて慌てている。
「せ、戦況は……よろしくありません!!」
「くそ!! ネフィアアアアアアアアメエエエエウェ!! 謀ったなぁあああ。我々の夢が!! 竜の時代が!!」
竜人史上主義者の危険人物として指名手配されている竜だろう。仲間はほとんどがヘルカイトかネフィア女王陛下の元へ下っただろう。だからこそ洗脳と遺物で仲間を無理やり増やした。結果、部隊行動がないのだろう。
どう見ても人材不足が招いた戦闘結果が多すぎる。無闇に正面から戦う竜と「竜を集団で殺す練習、実戦を重ねて来た我々」では戦う前から決着は決まっていただろう。
黒衛兵の同僚に負傷した報告が全く上がってないからこそわかる。善戦している。
「竜姫さま。逃げましょう」
「くぅ、わかった。皆に逃げろと生きていればまた……お、お前らは!?」
近くにいた黒衛兵を全員集めた。そして堂々と彼女らの前に身を出して私は宣言する。黒衛兵として、黒衛兵の信念を漏らす。
「サーチアンドデストロイ」
私の言葉に呼応するように黒衛兵は黒い獲物を構えて迫る。恐怖で変身した竜を倒すために。それを踏まえ、私も地面を蹴り出した。既に殲滅戦へと状況は変わっている。
*
「殲滅戦へ移行、首謀者と思われる竜を始末。結果、投降者が現れたそうです」
「では、投降者は封じ込め。そのまま収容します」
「了解、聞いてたか? 投降者に恩赦だ。極刑は免れた」
「負傷者の確認、砲撃部隊を救護部隊に変換。死傷者確認急げ」
「はい」
戦場は怒涛の速さで終息する。至る所に英魔国の旗と族長旗が上がり、占拠ヵ所がわかる。黒衛兵は引き上げさせて犠牲者を増やさないようにし、彼女らは戦闘終わりに先にシャワーを浴びる事になった。お水は魔石によって色んな方法で生み出される。排泄は……まぁ色々な方法がある。
「ネフィア様……報告をどうしますか?」
「エルフ族長に『我ら勝利』とだけ送りなさい。試合終わってるでしょう」
時間にして試合終盤か試合が終わっているだろう時間だろう。後は帰るだけ。
「わかりました。報告の返信あり『こちら決着つかず。忙しいので後で』との事です」
「………」
私は夢に入り、娘たちの目を借りて球場を見ると1-1の延長戦を開始する所だった。驚くほどの激戦で目を開けて夢魔石を王の間の真ん中に投げる。間の中心は立体の周囲状況が見える場所でそれが球場の状態を示し、夢魔の視線もうつす。部下であるエルフ族が笑みを溢す。
「館内放送で流しましょうか?」
「そうね、実況と私の声を」
「はい、繋げました」
「戦闘終了を報告、皆の健闘感謝します。そして、首都の争い決着つかず。決着つかず。速報1-1。延長戦。今からは負傷者救護を優先するが……それ以外はフリーとし、決着を見届けるのをヨシとします」
放送し、船を動かす船員が質問が帰ってくる。
「船を動かさないでもいいでしょうか? 我々も休息しても?」
「………上には『右舷とパンジャン損傷修復中』と伝えるわ。皆好きにしなさい。なお、賭け事は禁じます」
私は帰ってくる「やったー」の声に口を抑えて微笑む。すると王の間に妹たちがやってきた。
「お義母さん、報告です」
「イチ、ニィ、シィの3人。報告に上がりました」
「あら………」
エルフ族長の娘たちが王の間にズカズカと入り、知っている報告を話をする。私が首を傾げていると後ろから黒い義手を見せた娘が笑いながら現れた。そう、サンライトちゃんだ。
「あら、お姉さんにシィ。仕事熱心ね。まぁ、そういうのをダシに一番いい球場内を写せる設備で見たいからわざわざ必要ないことをしに来たんでしょう? 船を運営する部屋は立ち入り禁止ですしね」
「あら、いけない子ですね。私がお義母さんだからって甘えて……女王陛下の前では絶対やっちゃいけませんよ?」
「「「はい……」」」
3人ともサンライトちゃんを睨む。なお、サンライトちゃんはそんな3人の睨みも無視して笑みを溢す。
「ネフィア様、私たち、ここで見てもいいですか?」
「ふふ、あなたは堂々と上申するのね。いいですよ、素直で。今日はもう皆が仕事にならないでしょうから」
「だ、そうです。皆さん。優先順位は早い者勝ちです。そして私は女王陛下の視点も用意します」
「え、サンライトちゃん?」
「お義母さん。『私たち』の許可をありがとうございます」
スッと黒衛兵たちが椅子とお酒を持って現れる。
「隊長、ありがとうございます。これ、補給物資から配布です」
「ありがとう、でも今日はいいわ。あなたにあげる」
「ありがとう隊長」
若い黒衛兵たちが姉と妹たちの椅子も用意し、食い物や飲み物を運び入れる。そして、私が溜め息をして他の隊長達に報告をする。一部の隊長たちも同じようの王の間に顔を出した。そして私は「お義母さん」と呼ぶ声に答えて王の椅子から離れ、家族で椅子に座る。
「サン、あなた本当に強かになったなぁ。どう思う? ニィ」
「私たちと違う世界を見すぎたのよ。ワン姉さん」
「やっぱサン姉さんには敵わないよぉ」
「本当に恐ろしく女王陛下のような機転が効くわねサンライトちゃん」
「褒めてくださりありがとうございます。お義母さん、お姉さん。シィ」
死闘があったような雰囲気がせず、勝利の余韻と共に皆で集まり。激闘を眺める。そして「あああああああ」と言う歓声と「あああああああ」と言う失望の声が満ちる。
船の機能は一切、不能となったのだった。
*
「以上が事の真実であり、船の機能は停止。その後、ハメを外した結果、大多数の船員が酔い。係留を余儀なくされ、到着は今夜になります。私のみがいち早く帰還し、事の真実を報告に上がったわけです。『損傷過多航行無理』と言う嘘の報告はダークエルフ衛兵団では禁じられておりますので」
「ありがとう。サンライト、下がって休んでいいわ」
「はい」
途中、会議室に顔を出した彼女はそのまま帰らせる。無事作戦成功と優勝の結果。酔いつぶれた愚か者どもを残して。
「リディア族長、スキャラ族長に緊急の決定権を付与します。私名義で……なので今日の後始末まかせました」
「………ネフィア。私、帰りたい」
「スキャラ族長だけでは荷が重いです。ランスさん心配でしょうがしょうがない事です。それに私には権力ございません。スキャラ族長」
「は、はい!!」
「………いつも大変ね」
「は、はぃいいい……」
私は同情しながら、二人の族長に一任して帰宅する。無事終わった事をトキヤに報告し、トキヤは仕事の多さに頭を抑えた。




