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勇者の親友ランスロットと蜘蛛女..


 湖のほとり。そこである人が僕を待っていた。その人は蜘蛛の糸で遊びながら僕を待っていた。約束の時間前に彼女はいたようだ。


「お待たせしました」


「あっ、来てくれてありがとう」


「いえいえ、失礼ながら、お名前聞いていませんでしたね?」


「名前?」


「ええ、アラクネとは種族名です。お名前ですよ?」


「…………前にも言ったけど本当に魔物に名前はないの」


 悲しそうな目をする。僕はデリカシーがないようだ。彼女を悲しませてしまった。


「思慮浅く申し訳ないです。そうですか………なんと呼べばいいのか悩みますね」


「名前………名前………」


 彼女が悩む。そして、僕は思い付いた。ないなら新しく名乗ればいいと。そして……それならばと覚悟を決める。


「僭越ながら。名前を決めさせて貰ってもよろしいでしょうか?」


「名前をつけてくれるの?」


「はい」


 きっと、名前をつければ彼女の魔物っという事を変えていけると考える。


「それは!! うれしい!! どんな名前にするんですか?」


「そうですね。僕のセンスはよろしくないですが大丈夫でしょうか?」


「大丈夫、ランスロットがつけてくれる名前は何より優れている筈。私にとって」


 彼女が笑い、嬉しそうな声で自分を見つめた。僕は胸を押さえて深呼吸をする。鼓動が早い。本当に少女のような彼女に何かしらの感情がある。そう、あのときから。確かめたい。


「何かありました? 胸を押さえて?」


「いいえ、何もありません」


「ん?」


 変な動作だったので気になってしまったのだろう。何もないよう振る舞う。自分はおかしい。彼女の体を美しい人と思っている。下半身は恐ろしい蜘蛛なのに。


 普通に人と少し変わっているにしか思っていない。なれてしまったようだ。


「…………それではつけさしてください」


「どうぞ」


 沈黙、今日は冬晴れで遠くの対岸、白い山々が見えるほど空気が透き通っている。それを眺めて、悩んだ。そしてボソッと呟く。


「リディアでどうでしょうか?」


「リディア?」


「僕はあまりセンスがよくありません。だから普通の女性の名前にしました。もう少し時間をいただければもっといい名前を………」


「リディア………リディア………リディア………うん、リディア」


 彼女が目を瞑り、手を胸の前で押さえて噛み締めるように名前を言う。何度も、何度も、囁くように優しい声でリディア……リディアっと言い。そのあまりに魔物とは違った可愛らしい仕草と誰からでもわかる喜んでいる姿に言葉を失う。


 途中、僕は目を逸らし、深呼吸をまた行ったあと。冷静に鼓動を落ち着かせた。そんなに喜んでくれるならと思い言葉を発する。


「リディアさん」


「………はい、リディアです」


「ええ」


 照れながらも、短く反応する。その初々しい姿をかわいいと思い。ここまで僕が女性を誉めることはなかった事だ。はっきりと自分が彼女に好意を抱いていることをこの瞬間に確信した。


「ありがとう。素敵なお名前」


「喜んでいただき。うれしい限りです」


「もっと、砕けた喋り方は出来ないの?」


「素晴らしい女性方に失礼がないように教育を受けてきたものですから。リディアさんは素晴らしい女性です」


「蜘蛛ですよ?」


「ええ、蜘蛛で綺麗な女性です。リボン似合ってます。前と違った姿なのでトキヤのご夫人殿に選んでもらったのでしょうか?」


「はい。ランスロットに見せたいと言ったら。服を用意してくださいました!!」


 本当に笑顔が美しい人だ。トキヤのご夫人と似た笑顔。昔から色んな女性を見ていたがここまで綺麗に笑えるのは少なかった。みんな、僕を皇子として見ていたせい。仕方がない。


「ははは………何故でしょうね。僕が恥ずかしがってしまいました」


「困った顔、いいですね」


「そうですか? 変な方です」


「ランスロットも変わってますね」


 心が落ち着く。外気は寒いが心は暖かい時間が過ぎて行った。






 私たちは木影に隠れながら様子を伺っていた。


「ネフィア。覗きは良くない」


「トキヤはよく覗くのに? 風呂でも何処でも」


「悪いことを知っていてやっている」


「悪いことを知ってる。でも大丈夫。「不安だからついてきて」て相談されたからリディアに」


「そうだったのか………で。なんか雰囲気がいいみたいだが?」


「トキヤは二人をどう思う?」


「片方は戦ったことがあるから強さはわかる。暗殺するならあいつから。次にリディア殿は未知数。親友を殺ったあとにじっくり戦ってみるさ」


「…………ちゃうねん。そうじゃないねん。職業病だよね」


「いや、どう思うって他に?」


「自分以外の恋愛に鈍感じゃない?」


「恋愛してるのか!?」


「節穴ぁ!!」


 私は驚いてしまう。どうみても恋愛でしょうと言いたい。


「節穴だったわ。目から鱗だ。嘘だろ!? アイツは皇子だろ!?」


「わかってないなぁ~でも面白いでしょ?」


「面白いな!!」


「さすがトキヤ。わかってる~説明いる?」


「詳しく」


「予想なんだけど………」


 私と似たものなのだろう。知り合いの恋愛は面白い。知恵を持っている生き物は皆きっとそうなのだろうと確信したのだった。





 時間が過ぎるのが早い。湖のほとりで彼との会話は楽しい。私は聞くだけなのだが世界が広がっていく気持ちになる。湖のほとりで毎日、彼に出会うのが楽しみになっていた。


「巣の外を見たい」


「リディアはもし行くなら何処へ行きたいですか?」


「海と桜を見てみたい。都市に入ってみたい」


「そうですか………都市に………」


「魔物以外の営みを見てみたい。絶対に魔物でいるより楽しい筈」


「ええ、楽しいですよ」


「ランスロットが生まれた場所も見てみたい」


「それはダメです。自殺と一緒です。僕が許しません」


「………そ、そう?」


「帝国は今は冷えています」


「そうなんだ」


「それよりか、オペラハウスっと言う都市が楽しいですよ、きっと中立国家みたいな所ですが」


 会話して、色んな世界を旅をしたいと言う。だが本題はもっと別にある。友達が私に新しく教えてくれた事。


 想いは言わなきゃ伝わらない。


「ランスロット………」


「なんでしょうか?」


「冒険者としていつか旅に出るのでしょうか?」


「ええ、冒険者ですから。ああ、逃げないとですね帝国の親族等から」


「もし、良ければ連れていってくれませんか?」


 震える言葉で、お願いを言う。彼はそれを聞いたあと、腕を組み考えに耽る。


「すぐには答えを出せそうにないです」


「………………そ、そう」


「しかし、悪い答えはしません。安心してください。時間をいただきたいです」


「は、はい。期待しても?」


「女性を悲しませることをしてはいけませんから」


 彼は格好いい。スゴく格好いい。だからだろう。足を振り上げた。


「何をされてるんですか?」


「何でもない!!」


 勇気を出した行動。そういえば、この求愛は魔物だけの行為だった。





 年末が数日に迫ったある日、僕は彼女からの相談に頭を悩ましていた。


「はぁ……」


「なんだ? ランス。溜め息なんて」


 酒場のカウンターで肩を叩く。そちらを向き直ると親友とその奥さん。親友は椅子を引いて奥さんの席を用意し、奥さんはスカートを押さえながらゆっくりした動作で座る。親友はそのあと自分の隣に座った。一連の動作に夫婦愛を感じる。


「こんにちは。お二人さん」


「こんにちは、ランスロットさん」


「こんにちはランス。で、再度聞くが溜め息の理由は?」


「理由ですか………」


 僕は彼らに悩みを打ち明ける。親より信頼が置ける友人。僕はどの皇子よりも運が良いことに感謝しながら。


「ああ、そうだよなぁ。あれは見た目がなぁ」


「私みたいに人型だったらよかったですね。ですがそれを含めてお好きなのでしょう?」


「それは………」


「体、種族は違えど似たもの同士です。それに、好意がなければ毎日通いませんし」


「君の奥さんは鋭いね」


「頭がお花畑なだけだよ」


「そんな彼女を愛してるんじゃないのかい?」


「んな!?」


「そうですよ、ランスロット。彼は誰より天の邪鬼です」


「天の邪鬼? 天の邪鬼か? 俺?」


「だって。トキヤは私の事、好きでしょ?」


「好きじゃないけど」


「トキヤ、本当に天の邪鬼なのかい?」


「好きじゃないだけだ」


「……えっえぇ? こ、心替わり!?」


 焦り出す、奥さん。僕も焦り出す。迷いがない事を昔ながらにわかるからこそ背筋が冷える。しかし、杞憂に終わる。


「好きじゃない。愛しているだけだ」


 まっすぐに言い放った言葉を聞き安心した。不意をつかれたのか、奥さんが顔をカウンターに沈め。自分も目線を下げた。男だけど顔に手を当てる。


「トキヤ、ずるい………日頃言ってくれないからうれしいけど………恥ずかしい」


「ちょっと……僕も恥ずかしいですね」


「俺も、恥ずかしい」


 このあと、また店員に注意され、何を話し合っていのか忘れてしまっていた。そういえば、悩んでいたのだ。リディア、答えはまだ先になりそうだ。





 



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