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都市野球戦争②


 黒い義手をニギニギしながら私は球場内にある衛兵室で体の具合を確かめる。確かに魔力は感じない。だが、体はしっかりといつも通りに動く。


「災難ですね。黒衛兵の広報として呼ばれたのに、脅迫事件を追う任務につくなんて」


「そうですね。衛兵長」


 球場の衛兵室内、大きな体の衛兵団所属のオークの隊長が笑顔で対応してくれる。魔法が使えないため、力と体の大きい種族ばかりの衛兵たちは各々の仕事に奔走していた。彼はここで予備兵として待っている。


「どうですか? 忙しいですか?」


「忙しい忙しい。皆、喧嘩ぱやくてね。酒をかけられたとか、非番の衛兵が多いから、衛兵同士のいがみ合いとか、色んな問題がね。でも、まぁ俺らが出てきたら皆大人しいもんさ」


「良かったです」


「ああ、昔では考えられないぐらいに大人しいもんさ」


 昔は殺し合いが基本だった。今では重罪化により、せいぜい殴り合いで終わる。


「それにしても、何処をどうするんだ?」


「私は夢魔です。足取りを追います。勘を頼りに」


 私は目立つため、外されると思ったのだがどうやら検討違いだったようだ。今回、夢魔が野球を見て夢にして他の地域に流している。それを反対勢力は見ていると思われた。その数百万の夢を見ている中で悪意を拾おうと思っている。


「そんな事出来るんかぁ~やっぱ夢魔はすげぇや」


「だから、迫害されたんですけどね。今から、妹たちの夢をジャックします」


 私は目を閉じて夢を見る。妹たちの夢を辿る。その夢から悪意を拾おうとした。すると……変な感じの夢に誘われる。流れる想いは「後悔」「懺悔」「迷い」だ。そう、私は呼ばれたのだ。その夢を見ている人に。


 フワッと私の幻影は机に立った。目の前に悪夢かデーモンかわからないが一人の逞しい体の亜人が夢魔石を買って見ている。私の事は見えているようで驚いた表情を見せた。


「黒衛兵の『魔国の人形姫』!? なぜお前がここに!!」


「私は呼ばれたからここに来たのです。後悔、懺悔、迷いが私をここに呼び出しました。あなたは誰ですか? 種族は?」


「都市インバスで奴隷商人だった。種族はデーモンだ。女王のせいで俺達は失った」


「……なるほど。私を売ってた人ですね」


「ああ、夢魔を奴隷で売っていたし……働かせていた」


 彼らは廃業し、悪魔族は女王に負けた。都市インバスの目覚めの太陽事件はよく聞くおとぎ話のような事実だ。


「では、何故。私を?」


「……私は金庫に潤沢な蓄えがある。だからそれを切り崩して生きている。それも全て『女王陛下』が原因だ。そして多くの上級悪魔族、元々魔国を牛耳っていた奴らは今の状況に腹を立てている。弱い奴らが、牛耳っているのが気にくわないんだ」


「そうですね。それが普通の反応と思います」


「だから、反乱を企てた。戦争も鳴りを潜め。平和になって溢れた傭兵を集め。金で雇って反乱暴動を起こそうとな。俺も資金を出した……出したんだ」


「……お聞きします。迷いを」


「……………後悔している。加担した事をな。今の惨めでイラつきで行動したことを」


「何故、後悔を?」


「夢魔石で見る光景で私は世界が変わった事を知った。もう我々の過去の話はない。それに……見ていた俺はひどくつまらないと思えないんだ。俺も熱を貰ってしまった。あんな場所を血の海にするなんて嫌だと思ったんだ」


「なるほどです。それを裁判で言えば刑期、罰則も少なくすむかもしれません。情状酌量で……私に話すと言うことはわかってますね」


「……過去の罪は……君たちは許してくれるのかい?」


「なんの話ですか? 今は現在です。忙しいので引きこもらず英魔国のために働いてください」


「わかった。君は本当に強い。ありがとう、気が楽になったよ。だから、このまま『夢見』出来るかい?」


「はい、出来ます。受け入れてくださるのでしたら」


「わかった。仲間を裏切る罪は覚悟するよ」


「私は味方です。都市インバスならばセレファ族長に連絡します」


「ありがとう、では私は寝るとしよう」


 デーモンの彼は目を閉じて眠り出す。そのまま私は彼の夢へと落ちるのだった。





 私は彼がデーモンの上位者である事がわかった私は目を覚まして、耳を当てて妹の夢に繋ぐ。そのままお願いをした。夢は誰でも入れるぐらいに緩くなっており、その結果。悪魔や他の魔術師の妨害、情報盗みを受けるようになった。結果、それを全て除外することが出来る子が今の彼女である。99番目の妹だ。彼女にお願いする。


「あっ、黒いお姉さま。何かありましたか?」


「イチ、ニィの姉さま方とシィちゃん。エルフお義父様とダークエルフ族長に話を通じさせて」


 エルフ族長を義父とした精鋭組織の夢魔長女イチ部隊長、次女ニィ部隊長、四女のシィ魔法部隊長とエルフ族長であり、お義父様とダークエルフ族長に話を持っていく。


「わかりました夢を繋ぎます。繋ぎました。どうぞ」


「もしもし、私です。報告します。『協力者』が現れましたので説明します」


 夢を辿って見て聞いた事を伝えきる。そのまま質問へと移る。説明した内容は首謀者が二人居ること。一人は悪魔族の上位者の一人。もう一人は驚くべき事に竜人だった事だ。ダークエルフ族長がリストを見てくれる。


「名前から検索したが悪魔族は反政府危険人物リストに載っていた。元々、旧魔王側近側の人で女王陛下勢力に敗北後に地下に潜った報告が上がってるし、今から対応する。ただ、そんな知れた奴よりも問題が生まれてる。反対派の竜人に心当たりがない」


「皆さんは心当たりはありますか?」


 私は問いかけるがいい答えは帰ってこない。しかし、お義父様が提案をしてくれる。


「竜人には竜神に聞くのがいい。キュウキュウ……至急、金竜に繋げるか?」


「もう繋いでるよ。お義父様」


 早く、速い。英魔国内には数えきれない人物が居るのに彼女はその位置を当てる。砂漠の中にある宝石を拾うような膨大な夢の中で手繰り寄せる能力は突出していた。女王陛下を越えるだろう能力だ。


「はいはい、金竜ちゃんですよぉ。なーんですか?」


 軽快な女性の声が私の夢に木霊する。イメージとして目の前に黄金の鱗を持った竜が現れた。そんな彼女にお義父様は世間話をするように聞いた。


「最近どうだ? 竜人の動きは?」


「竜人の動き? さぁ、今は隠居してヘルカイトで鱗売りしてるから知らない。ヘルカイト、ボルケーノのが詳しいでしょ。既に私は力はあれど、竜を護る力を失ってる。英魔国民として弱体化したから。わからない」


「では、質問を変えよう。黒龍に心当たりは?」


「黒龍……黒龍。何故?」


「……黒龍の竜人に心当たりは?」


「どういうこと!?」


 目の前の金竜が驚き転げる姿に私はビックリして夢から醒めそうになり、我慢した。


「女王陛下に脅迫を出した勢力の首謀者に黒龍の亜人がいる」


「……………おかしい。黒龍は全滅した筈。元々、龍は過去に古代人が作った生態兵器で敵味方を改造して最後は自身の力が爆発して死ぬ生き物だった。それを極限まで高めたのが黒龍。だから過去に全滅してる筈。私はそれら竜を管理、抹殺する役目を負っていて反逆した。なのに……そんな事が」


 私はその話に驚く。そんな時代があったのかと思うのだ。ただ、お義父様は冷静だった。


「では、新しく作れる事は作れるんだな」


「製造拠点は竜に壊された筈。でも、絶対とは言えないかも。遠い記憶だし、『稼働していない施設』があってもおかしくはないんですものね。見つかってるんでしょ? 平和になった時代に多くの場所で『旧遺物』が」


「ああ、古代人の亡骸と共にな。歴史を調べる中で我々のルーツを探るために必死になっている。結果『人を殺そうとした兵器郡』らしい物もあるだろうな」


「……何処かで、誰かが『見つけた』のかもしれない」


 ダークエルフ族長が夢から抜けた。緊急声明を発表するつもりなのだろう。私は身構える。


「生き物を『竜化』させる生物兵器製造施設を誰かが見つけた。吸血鬼も元々は殺人ウィルスですものね」


 私たちは今、過去の『人という仲間を殺す意思』の負債を負わされはじめたのかもしれない。相手の滅びを願うような過去の人たちの怨嗟が無関係な我々に牙を向く。







「ねぇ、サンちゃん」


「はい」


 私は女王陛下に呼ばれて球場の特等席にお呼ばれした。女王陛下が『居る』とされている場所にお義母さまが座ってる。見ればわかる影武者であり、本当の女王陛下は私の知らない場所で隠れている。


「大事になったね」


「……はい。歓声、歓楽の中での凶行による恐怖は一部の悪魔族に力を与える行いです。力を求む悪魔族がわざわざ明日まで待つとは思えません」


「そうね。明日は増援も来るらしいから……恐怖を撒き散らすなら今日がいいですね。手段はなんでもいいんです。ただ、英魔族が恐怖すればいいんです」


 お義母さまの近くには衛兵が目を光らせている。そして、影武者として立派に演じられている。


「サンちゃん。野球の観戦に全く興味のない人間がいるらしいんだけど。調べてみない?」


「女王陛下?」


 私は「お義母さん」とは呼ばない。影武者だ。だが、どう見ても女王陛下の風格がある。


「ライト側で全く動かない人間がいる。席にも座らずにただただ立っているだけの人間が昨日から怪しいと聞いている。もしも、サンちゃんが会って何もないならヨシ。もしも、噂の雇った傭兵ならアウトです」


「すぐに向かいます」


 私は言われた通りに特等席の個室から出て、現場へ向かう。そこで私は一瞬で察した。


 廊下の壁に背を預け、片手にお酒を嗜んでいる人物。種族は人間であろうその人の雰囲気で何か黒い物を感じ取った。得体のしれない魔物のようで、血の鉄っぽい臭いを感じる。ただただ、英魔国内の最近流行りの東方の服だが、妙に着こなしが普通なのが異質に感じる。


 そう、場違いなのだ。


「……あの、お話はよろしいでしょうか?」


「あん、なんや。お嬢ちゃん。俺になんのようや?」


「野球観戦しないんですか?」


「ああ、せやな。せっかく入場券貰ったんやけど。興味ないねん」


 その入場券にいくらの金額がかかっているのか知るよしもないだろう。金券と言われるほど高価な値で取引されている。抽選ではあったが、莫大な値でも買い手は多かった。逆に言えば……転売価格も相当な値がする。


「金塊を積んだ入場証明書です。簡単には入手できません。逆に誰に貰いましたか?」


「ああ、こりゃ早いな……うーん。依頼人からまだ連絡こうへんけど。しょうがないなぁ……『おっ!? ええんか』」


 私の質問に答えず誰かと会話する。その会話はまるで私達のような夢を経由する会話に思えた。その瞬間に、私の耳に妹の声が響いた。


「傍受!! 黒いお姉さん気をつけて、そいつが実行犯!!」


 私は彼から距離を取り、大きく叫んで周りに危険を知らせた。だが、私の声は歓声に阻まれて誰にも届かない。そんな中で目の前の男は手を上に上げる。すると……その手に向かって武器が降ってくる。それは刀に見えた。


「お嬢ちゃん。一人目としてお願いするわ」


「……………」


 人間の目は赤く。血に飢えた魔物のように私を見据えて武器を掴み引き抜く。綺麗な銀白色の色に私は笑顔になる。最初に見つけたのが私で良かったと。









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