年末の魔王様④
セレファ吸血鬼族長、魂のインフェの二人が顔を出してくれる。幼女の人形に憑依した。吸血鬼が聖霊憑きと言う稀有な存在。そして強固な縁が聖霊を成仏させず。現世に縛る呪いとなっている。
そう、彼を見ると……愛の呪いにがんじがらめにされている。それを心地よく感じるぐらいに歪んでいる。
定命がない吸血鬼には毒も痛みも快楽になるのだろう。苦しい事が生きていると実感させるのだろう。
「げほ……いやぁ。最近忙しいくて……今日も大変です」
「セレファさま。お体に触ります。無理をなさらず」
「ああ、しかし。私が仕事しなければ都市インバスはつぶれてしまう」
夢魔が自由になった結果。経済ボロボロな都市インバス。もともと広大な土地を有しておらず都市の玄関口であるだけの都市だった。難民問題も抱え……人間が多い故に治安も悪く苦労している。
「彼の土地は東方からの鬼や悪魔が多く。着々と復活している地方になる。淀んだ血沼などに生息するナマズ、鯉の料理。綺麗なランタン。夜の輝かしい幽霊街、人狼の繁華街。吸血鬼の貴族的趣味工芸品。他の族長に見劣りされる風潮ですが……沼のレンコン等々。発展していく土地ですね。開拓者募集で……一攫千金も夢でないでしょう。また黒石、黒鉄はあの土地でしか作れません」
「ご説明、ありがとうございます。吸血鬼含め、夜の民が頑張ってます。皆さんのお力をお借りしたい状況です」
「いえ、ではみていたのでしょう? サイコロを」
少女の人形がサイコロを持ち上げて。そして驚く。
「崔の目がない?」
「知りたい事が言葉で浮きます。ささ」
インフェは警戒しながらサイコロを振り、転がす。結果は……崔が決める。
「『族長は吸血鬼ですが。血はどうしているの?』だそうね」
「ああ、血ですか。確かに吸血鬼は血がなければいけない種族ですが。それは嗜好なだけで絶対ではないんです。しかし……血から力を貰うため。無くてはならないお薬とも言えます」
「飲んでいるの?」
「私、あまり飲んでいません。たまにいただくだけです。面白い商売で美味しい血を作る職業があります。眷属として吸血鬼化させる者もいるぐらいに昔は流行ってました」
「今は?」
「今は、都市インバスで吸血可の札持ちにお願いする。吸血で病を感じ味わう医者。色んな種族の血を嗜み……昔よりも大分……血にうるさくなりましたね。吸血鬼って思った以上に味にうるさい。強行手段はなくまりましたが怯えた血が好きなのは困りものですね」
「そうなんだ。ありがとう。私の血でも飲む?」
「クソマズなのでお断りします。吸血鬼としての生を辞めたい方。自殺したい方が飲む……致死剤です」
「し、知らなかった。死ぬんだ……」
「飲んだ瞬間に焼かれ、飲んだ瞬間に罪の重さで火が大きくなり。消えた瞬間……空に召され。輪廻に戻る事が出来ます。痛みはなく、笑顔で知り合いが何人も終わりました」
「たまに血をほしい言われて……そんな事になってるとは……」
「ええ、吸血鬼は病なんです。吸血病と言う。種族と言うより吸血菌の強制宿主ですね。なお、子供は吸血菌保有の吸血鬼ですね」
「へぇ~そうなんだ。しらなかった」
「なので。悪魔族吸血鬼化と言うギルドカード表示です。けっこう話しましたね」
「うん、次行きましょう」
インフェがサイコロを投げるすると……インフェが笑い出す。
「『なりそめ聞くの女王陛下忘れてます』」
「忘れてたぁああああああああ」
「ははははは。そうですよねぇ。私も思ってました。インフェが話すかい?」
「いえ、私……たぶん。セレファ様の方が想いが強いと思います」
「ああ、そうだね。では……」
吸血鬼が想い出を語る。これ程滑稽な事はないだろう。多くの時間を生きるのに過去は邪魔でしかない。何故ならもう二度と手に入らない物なのだ。それを知ると言うことは……
「出会った時はすでにインフェは病に犯されていた。そんな女を拾い。ただただ。血をすすられ死ぬだけかと思った。だが……病の体で生きる生きる。最後まで誠意一杯。それがただただ眩しくて眩しくて……それを見ていたかったが……」
「私は吸血鬼になるのを拒んだ。吸血菌は拒んだ相手と共生しないんです」
「そう。彼女は受け入れた。死を……それは私には絶対に見えない。絶対わからない世界だった。今はやっと死があるが……新生の太陽にも耐性がある吸血鬼は死なないため。眩しく見える」
「それであなたは呪いをかけた。魂を縛る呪いを……」
「私の元から居なくなって消える事が耐えられなかった。死ぬ事での別れを知らない私には到底耐えられる物じゃない。だから……私は彼女を留める。最悪で最愛な吸血鬼として」
「その呪いはなんですか?」
「それは『愛』だね」
セレファは堂々と語り、そして注意する。
「だけど、皆はやらないでくれ。この呪いは下法の禁忌。絶対、弱い私より強いと信じる。だから……輪廻から外れないでくれ。子供が生まれなくなる。この世界が続かなくなる。わがままだが……危険が孕んでいる。私は最悪な罪を背負っている。吸血鬼として」
「……」
インフェは何も言わない。そう、私もわかっている。
「いい話で終わればいいんですけどね」
「ああ、私は別れが辛いよ」
「いつか訪れるんです誰にでも。時間があるんですね」
「ああ、全く無くなる前に私は一人立ち出来るよう。頑張って都市インバスを大きくするよ。一緒に逝くために」
インフェの魂はゆっくりと削れている。それが遠い未来できっと……訪れるだろう。




