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王子と女蜘蛛..


 私は彼らを巣に案内し、教えて貰った事を彼に行った。次の日から、少しずつ少しずつ、元気なって行く姿に何故か胸が踊る。しかし、同時に変な感情が芽生え、その気持ちがどういった物なのかも良くわからない。「彼はここにいていいのだろうか? 冒険者として世界を旅をするのが普通じゃないのか?」と思考がグルグルと周り、何故そんなことを思うのかや、色んな感情が胸のなかで生まれて胸の中でぐるぐると私を攻め立てる。


「ん…………んん?」


「ら、ランスロット!?」


 そんな状態で見守っていき……数日がたったとき彼は目覚めた。血色も良くなり一安心する。生命力が本当に魔物のような人で良かったと胸を撫で下ろす。


 これが騎士という格好いい生き物なのだろう。起きてしまうと悩んでたのが嘘のように鳴りを潜め。彼の目の前にたった。


「僕は…………生きている?」


「え、ええ」


「君は……………君は!? どうしたんだいその服!?」


「えっと………その………」


 何故だろうか。言葉が口からでない。不安と恥ずかしさ。そう………評価を聞きたい。なんだろう……この感情は。


「……………ど、どうかな? 服……着てみたよ?」


 胸が痛い。不安と期待が鼓動を早くする。手が震えてしまう。


「似合っている。綺麗ですよ」


「そ、そう!! わ、私はさ!! その……わからないの………魔物だから………」


 ズキッとした胸の痛みがする。その鋭い痛みに胸を触って確認した。外傷はない。彼を想うと何故痛む。すごく痛む。


「魔物でも、綺麗な人ですよ」


「んっ!?」


「何か、変なことを僕は言いましたか?」


「あ、え、う……う……」


 くすぐったいような、嬉しさと恥ずかしさに胸を押さえた。


「お嬢さん。僕を食べるのはいつになるのでしょうか?」


「ない!!……………あっ」


「ん?」


 私は、とっさに叫び。口を押さえる。確かに食べる気はない。それ以上に………ああ。


「僕は美味しそうじゃなかったですね」


「ち、ちがう!!」


「???」


 彼が首を傾げる。美味しそうとか……そうじゃない。


「喰ってしまったら。面白い話が聞けなくなってしまう」


「面白い話でしたか?」


「ええ、巣の外のお話は面白かったです」


「それは………良かったです」


 彼が笑う。そして、私はその笑顔で決めた。


シュルシュル!! ドシャ!!


 彼の拘束していた糸を切り、解放する。力なく倒れるも、手足をゆっくり動かし立ち上がった。不思議そうな顔をする彼。


「どうしたんですか?」


「………都市へ、冒険者はこんな巣で閉じ込めてはいけない」


「助けてくれるのですか?」


「………ええ。ここでは生活できない。ありがとう、少しの間だけどお話は楽しかったわ。助けてあげる。お礼よ」


「ありがとうございます」


「早く行く」


「急かされましても、鎧と剣があります。着替えて脱出します」


「そう、まぁいい。また捕まっちゃダメよ」


「はい。こんどは見とれないようにします」


 彼が鎧を素早く着込み出口に向かう。さすがなのか体力の衰えも見せない強さを見せつけた。雄としての強さを感じる。


「お世話になりました。また、何処かで会いましょう。なんでしょうね……僕が生かされ続けるのは……」


「………………」


 私は答えない。彼は寂しそうな表情をした後に勢い良く外へ旅だってしまった。


「これでいい。これで………私と住む世界が違うから」


 胸に風穴が空いたかのような喪失感、悲しみ。寂しさ感情が沸き上がる。何故、こんな感情を抱くのかを私はわからないでいる。口調も強気になれない。


「…………はぁ………」


 餌を逃がした。逃がした餌はすごく大きかった。







 私ことネフィアはギルド長からお給料を貰いに悪魔のギルド長の元へ。トキヤは勿論、私の護衛で後ろを歩いていた。この前、ささっと3人程の暗殺者を倒し、賞金首として差し出した。私が手をかけずとも彼が倒し、規格外な強さを再認識する。味方で良かったとつくづく思う。


「はい、あんたの情報を暗殺者に売った金額とアラクネの巣の位置を教えてくれた報酬。あとは、ランスロットと言う騎士が生きている事の情報報酬だ。今回は本当にアラクネの巣を見つけられず、犠牲者は多かった」


「へぇ~そうなんだ。うわぁ~おもぉ」


「十分な金額だ。エルフ族長から追加で貰ったからな」


「情報を売ったときは殴ってやろうか思ったけど………こんだけ貰えるなら……考えるね」


「いい商売だろ?」


「いい商売です」


「「フフフフ」」


 待っているだけで賞金首が釣れるのだ。笑うしかない。


「悪魔らしい悪い笑みだなネファリウスとトキヤめ」


「ありがとう。誉め言葉だ」


「ええ、あくまで悪魔ですから私は」


 私は笑みが抑えられない。勝手にお金が舞い込んでくるのに笑いが止まらなくなりそうだった。イチゴジャムを沢山食べられる。


「さぁ、イチゴジャム買いに行こ!!」


「わかった、わかった。1瓶だけな」


「ケチ」


「あったらあっただけ食うくせに」


「もちろん」


「だから、ダメなんだよ」


「へ~い」


 「こっそり買ってやるんだ」と心に決め、ギルド長室から酒場へと戻る。酒場には昼食を頼んでいる冒険者が多く。たむろしてパーティメンバーと雑談したり作戦会議を行ったりして賑わっている。私たちもカウンターへ座り。昼食のベーコンサンドを頼む。


「で、次の都市は何処へ行こうか?」


「オペラハウスは?」


「オペラハウス?」


「劇場や芸術が盛んな場所なんだが、ここの都市から西側の方の観光地都市だな。西側の奧は妖精が色々住んでいる場所らしく。そこの住人が歌って踊って妖精を楽しませたのが発端らしい。場所も南側は森が広がってて戦争とは無縁だしな」


「知らなかった………そんな楽しそうな場所があるなんて」


「おい、有名の有名で西側はマクシミリアンとそこがあること。妖精国もある関係で帝国は手を出すのを渋ってるって言われるぐらい有名な場所なんだ。貴族のお忍びで遊ぶ場所だしな」


「…………なぜ?」


「一度見ればその素晴らしさを知る。戦争と無縁な平和な都市だからだ。芸術を楽しむ事に特化したんだよ」


「へぇ~芸術ねぇ~」


「歌、躍り、劇が主だな。この都市からそこへ行く旅行者も多い」


「……………………………私って無知だなぁ、何故それを私は知らないのだろう……」


「初めてがあるってのはいいんだぞ? 新鮮な気持ちが味わえる」


「確かに。じゃぁ無知でいいや」


 次の都市の話を聞いているとふと、トキヤの隣の席に座る騎士が目に写る。指を差し、トキヤを振り向かせた。


「ランスロットだぁ!! 皇子ランスロット!! 起きてる本物だぁ!!」


 私は彼の顔を覗いた。もちろん彼も気付いている。


「初めまして綺麗なお嬢さん。僕はランスロットです。トキヤ、お久しぶり!! 君がここに居るなんて夢のようだ‼」


「お、おう……元気になったのか……アラクネは? ネフィア……じろじろ見すぎだろ。格好いいけどさー」


 本当にイケメンだった。まじまじと見る。


「あの、アラクネのお嬢さんが助けてくれました。お知り合いですか?」


「えっ? まぁ知り合いになったかな? あの家に行ったんだよ。ネフィアと」


「そうだったんですか!! あのときの声はやはりトキヤでしたか!! 朦朧としていたので幻と思ってました」


「餓死しかけてたな、お前」


「ええ、死んでもいいと思っていましたので。綺麗な人でしたね」


「ランスロットさん!! そうでしょそうでしょ!! リボン可愛かったでしょ‼ 私が選んだんです」


「あ、えっと………はい。その………そちらのお嬢さん。お名前をもう一度、教えて貰っても良いでしょうか? 自分の事をご存知でしたし」


「えっ………アラクネから聞いてません?」


「彼女は一言も、僕に『早く逃げろ』と言ってました」


「ああ、ええっと。ネフィアです」


「ネフィア………ネフィア!? トキヤ、君は見つけたのかい!!」


「ああ、まぁ。見つけた……顔近い……」


「なんという日でしょうか、トキヤの本当に夢の中だけの思い人に出会えるとは」


「へへへ………」


 ちょっとむず痒い。「すっ」とトキヤの足に手を置いた。


「彼女は魔王。名前はネフィア………俺の奥さんだ」


「はい、奥さんです」


「それで、僕をご存知だったのですね。本当にロケットペンタンドの肖像画通りですね。ちょっと……もしかしてと思ってたんです」


「もちろん!! 私は彼の想い人!! 彼の大好きな人で………もごもご」


「ネフィア、静かに。静かに。お前がはしゃいでどうする?」


「んんん……ぷはぁ!! だって。トキヤと同じイケメンさんだし~トキヤの大親友だし。苦労人だよね~トキヤ以外とは仲良くなれなくて、いつも一人でさぁ~トキヤがわざわざ誘ってあげてるんだよねぇ~恥ずかしくてトキヤを誘えない時もあったよねぇ~」


「トキヤ…………君はいったい何処まで彼女に話してるんだい?」


「こ、こいつ。夢魔だから記憶を覗きやがったんだ‼」


「恥ずかしいですね……なかなか」


「まぁ、馴れる馴れる」


 トキヤが彼の肩を叩く。実はトキヤも嬉しいのか声が少しの明るい。私は小さな変化を見逃さなかった。


「本当に、変わらないな君は。いや、変わろうとしないのか?」


「変わったよ、妥協するようになった。おめぇ~も変わったな。軽くなった」


「ええ、指命も何もかも捨てた冒険者は楽しいですね」


「優等生が遊びだすと止まらない」


「そこまで子供ではないですね」


 そこからは近況を説明。そしてまた、雑談に戻る。気付けば数時間たっていた。





 酒場から離れて帰宅途中。彼と別れる。


「僕は今日は休んで明日から依頼をこなします」


「そっか。明日から動くのか?」


「ええ、鈍ってしまいましたから」


「ランスロットさん!! パーティ組みませんか?」


「ネフィア?」


「私に共通の話題があると思います‼」


「共通の話題ですか? 今日、お逢いしたばっかりですが?」


「私、ランスロットさんの口から過去を聞きたいです」


「そうですね。良いでしょう」


「………あのさぁ。やめて?」


「トキヤさんのあれこれ。いっぱい知りたいな」


「トキヤ、いっぱい教えたいな彼女に君もことを」


「お前ら!? えっ!? 仲良くないか!?」


 ランスロットと手を合わせる。彼は、男でよかった。女だったらライバルになるかも知れなかった。そして……明日が楽しみだ。





 彼が、去って数日。掴まえた魔物を食べながら考える。戴いた魔族のご飯は美味しい事と一人は寂しいことを。


「…………どうしよう」


 魔物だから狩りをして、食べて、寝るを繰り返すだけだった。今は時間を持て余している。暇なので巣から出ると外は寒いが、寒い故に他の冬眠している魔物を狩りやすい。動きも鈍い。


「はぁ……」


 白い息を出し。水浴びでもするかと考える。自分達は寒さに強い。全裸で生活いているし寒いなら糸で体を保温する。今で言えば服を着る。


「んん? あっ………」


「姉ちゃん。美人だねぇ‼」


 一匹の雄のアラクネが飛んで木の上に降り立つ。派手な模様が目につき、雄のアラクメは後ろ足から二つ目を高く振り上げて振り回す。お尻も振り出し目障りだ。


「……………あっそ」


「ええ? ええ? フラれるのかぁ……」


 求愛行動の一部始終を見たあと。興味が無いのでその場を去った。初めて見たが心踊る事は一切なく苛立ちが募るだけだった。そそくさと逃げる雄。何もかも、どうでも良くなっている。それよりも逃げた餌が気になって気になってしょうがない。


「変なやつ、糸で何か巻いてるし。すぐに交尾しないし」


「………魅力がない癖に」


「魅力? 魅力がない? ああ、もうちょっと大きい雄が好みか、処女だな」


「ええ、そうよ」


「わかった。じゃ~なぁ~」


 魔物は大きい雄は人気がある。そう、大きい強い雄は人気だ。私はカサカサと巣を散歩する。何人かの雄に求愛を受けたが無視をした。何故、モテ出してるのか煩わしかった。そして、私は吊るされた人間の死骸を見つけて驚いてしまった。


「!?」


 吃驚し、後ろへ引く。身震いがした。餌を見て私は、驚いている。絶望してひきつったまま命を絶った死人。彼にも色んな物語、世界、目的、友人が居ただろう。それを私たちは食べている。


「ランスロット…………うぷっ」


 彼も同じようになってしまったらと思うと吐き気がした。美味しそうな筈の餌に嫌悪感を抱く。


「………うぐぅ。どうしちゃったの私」


 これではまるで魔物らしくない。命を奪う行為に嫌悪感を抱いている。わからない、わからない。会いたい。会いたい。喋りたい。


 溢れだす、感情に流され。私は巣を後にした。





 僕は、親友と親友の奥さんと一緒に冒険者としての依頼をこなす。内容は祭りの準備。鎧等、部屋に置いて親友とお揃いの作業服を着る。奥さんも最近買った冬の私服を見せ、花を添える。驚くぐらい彼女はいい人であり、さすが親友が追い求めた価値のある女性だった。


「ランス!! 釘取ってくれ」


「はい、トキヤ。こっち持つから釘撃ってくれ」


「はーい」


 自分達、男組はアーチの制作に追われている。木を重ね釘をうち、打ち込んだ鉄杭に巻き付けて立たせる。それを何個も作る。祭りの終わりも片付けに追われそうだ。


「お二人さーん。お昼でーす」


「もう、そんな時間か。まぁノルマは終わるな」


「終わるね。中々、いい運動になる」


「2、3週間動いてなかったんだろ。丁度いい体の慣らしだな」


「あの~お二人さん。あの、お店にしませんか?」


 彼女の奥さんについていく。スカートをはためかせ、くるっと回転しながら楽しそうに歩いている。


 そして……活発な女性である所を見ると確かに男だった事を知れば。なるほどと思う。彼女の周りだけ春が来たのではないかと思うほど明るい。


「トキヤ、本当に綺麗な奥さんだ」


「ランス。あれでも淫魔、悪魔、魔王なんだぞ。ギャップが可愛いんだよ」


「昔から君って変態かもしれないと思っていたけど本当に変態だった」


「変態扱いするな」


 シュ!!


「イタタタタタ!! 間接を攻めないでくれ!!………くぅ。容赦がない」


「お前だって昔にやってただろ?」


「………本当に楽しかったな」


「ランス、過去は過去だ。今をあいつみたいに楽しまなくちゃ損だぞ」


「………」


 店に入り、テーブルにつく。サンドウィッチをいただき。紅茶を啜った。奥さんを見ていると。自分の旅の目的を思い出される。親友のようになりたい。彼のように命を灯したい。だからだろうか……最近知り合った人ではない彼女を思い出した。


 魔物のアラクネの女性を僕は……想い出していた。


















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