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英雄の駒④


 盤面が広がりを見せて私達は上空で戦場を見た。戦場は平坦なチェス盤で逃げる事の出来ないようになっている。ただ、駒は一つ一つ……生きてるように精巧だ。


「チェスの駒ですので……感情移入はしないで大丈夫ですよ……では……兵士をみてください」


 私は……敵の状態に懸念を示す。そう、ポーンである敵は全て翼の生えた天使なのだ。空中戦が得意としており、そしてポーンはたった一人ではない事がわかった。ポーンは複数の小隊などを持つ兵士の集まりなのだ。


 故に私の用意した族長のポーンは族長の部隊が展開されていた。弓を持ち、一応空を飛べる種族は空を飛んでいる。


「ふむ。ポーンは中々のを揃えてますね。まぁ左右……キングも族長ですから……中々、兵数は多いですね」


「……」


 私は多いだけであるとわかっている。『負け戦』だと察している。万に一つの勝利さえない。100%負けると思える圧倒的差を私は感じている。故に次の手筈は整えた。見える盤面を目に焼き付けて。


「なるほどねぇ……読めますよ。勝てないのわかっている顔ですね~」


「……」


「喋らないのですか?」


「やるなら……やりましょう……ただ一兵卒であろうと……最後まで戦い抜きます」


 今は敵の出方を全て………寝ている彼らに……私は伝えるだけである。願わくはカードに封印されている私をトキヤに救って貰える事を願いながら。何度目かの囚われの姫となる。


「覚悟したその目……厄介ですね。奇妙ですね」


「いいえ、魔王は引けないだけです」


「……勝手に全てを背負い込むそれは実は呪いなのですよ。魔王」


「これが呪いの性である事は……女になったあの日から覚悟の上です!!」


「…………ふふふ、ははははははははは」


 目の前の男が笑い、そして……嬉しそうにする。


「世界を壊した後に見る顔を楽しみにしてます」


 とことんゲス野郎だと言うことはどうしようもない。ある意味……壊す事が使命なのかと……使命?


「……破壊神?」


「おっと、よくわかりましたね? そうですよ? 細かく言いますと魔族の世界を認めない感じです」


 驚くがわかりやすい存在。逆にどこか遠い所で誰かが仕留め損ねた物かもしれないし、世界のそういう一つの自然的な天災の姿かもしれない。


「目的がない理由が目的ね……仕事が存在意義なら……それはそうするしかない」


「同じでしょう。あなたも、魔王としての存在意義を押し付けらてた。それがなければ……もっと上位な存在になれた。違いますか? まぁ、結局、壊すんですけど」


「あのね……あなたね……いいえ。論じても無駄。何故ならあなたは『人』として生きていない。『願い』と言う人でない奴とは話が合わないもの」


「ほう、そうですね」


「ただ、本当に心がないかはわからない」


「心はありますよ、きっとね」


 不敵な笑みを向けたまま彼は眼下の天使に命じた。攻めろと。震える天使は大きい大きい騎士槍を持ち、私の知る天使とは血色が違う。鎧も白金の鎧であり、如何にも防御力が高そうだ。落とすのに苦労する。


「あの天使は……いつかの世界で悪魔と天使が延々と戦い続ける世界での天使です。なので私は天使を手伝い、天秤を傾け悪魔を滅ぼしました。しかし、勝った後には戦う理由が何だったのかを彼等は忘れており……そして……私が彼等に囁きます。他に倒す天使が居るだろうと」


「内乱誘発したのね……」


「はい、もちろん。その後は私自身が引導を渡しました。いい駒です。戦うだけの天使なんて立派な駒です」


「……」


「同情はやめた方がいい。あの天使は白いが手は真っ赤だ」


 眼下ではバリスタの矢が天使の羽根に当たり落とされて、地上の部隊によって始末されていく。中にはそのまま打ち落とされたりと族長の丁寧な攻撃に天使達はゆっくりと数を減らす。


「ふむ、なかなか。対応策は用意してたのですね。しかし、それは……所詮ポーンの1体です」


「1体?」


「……ポーンは8体。故に」


 眼下の天使の部隊を壊滅させた族長たちの目の前に天使が降りていく。何処かに隠れていたのか8倍に膨れた数の天使が空を飛べるため、四方八方囲み出す。


「あの世界。天使は滅茶苦茶居ましたからね。大天使を8体用意した結果……見事な物量です」


 眼下の族長たちの部隊は私が思うより多かった。しかし、天を埋め尽くす天使の数はそれを大きく上回っており……世界一つ丸々……駒とした相手の力量に胸を撫で下ろす。


 こんな数をもしも、英魔国内にばらまかれていれば一つの都市が滅んだろう。だが、都市一つだけだ。


「天使は数は多いんですがね……如何せん力任せで戦術が薄い。まぁ何度も何度も復活するからこそ……」


「くぅ」


「蹂躙出来るんですが」


 眼下で一人一人と倒れていく。多くの種族が防戦一方で負け続けており……逃げる事も許されず蹂躙される。


「駒ですので感情移入は危険ですよ」


「……わかってます」


 割り切れと私は言う。割り切れないとも私は言う。そして……願う。少なくとも圧倒的な力にあがなえる力を。そう思う中で大きな声が戦場に響く。


「……私はネフィアです。そう私は……ネフィアです!!」


 言い聞かせるような声と共に……天使の側面から大量の炎を纏った鳥たちが襲来する。


「「「「我々は同じ夢魔の者!! 我々は皆が心に火を持つもの!!」」」」


 祝詞のような複数の声が戦場に溢れる。それは魔法の詠唱のようで炎の鳥が多くの天使の羽根だけを焼き地面におろす。そして、地面では返しのついた槍が使われ出し、天使の体に突き入れられる。


 槍は折れ、そのまま天使の体に根を張る。抜けないそれがどんどん増えて行き。生かさず殺さずに無力化だけを行っていく。


 立派な戦術がエルフ族長の登場によって確率され、そのまま彼等の背後でパンジャンドラムが走り抜けて行く。天使の防衛網の先……敵陣へと。


「これはこれは……驚きですね。まぁ……こちらも駒を動かしましょう」


 奴がそう言うと2体の巨大な山が生まれる。山……そう山である。ゴツゴツした山が立ち上がる。一つは岩、もう一つは金属の光沢がある。


「ルーク……世界を喰らった。金属のドラゴンと岩石のゴーレムです。私は使えないんですけどね」


 金属のドラゴンは至る所に歯車があり、感情も感じられないただの機械であり、ゴーレムも同じく世界を喰う事を命令された魔法道具だとわかる。


 何をどうして……彼等が生み出されたのかはわからない。予想するなら……


「あなたを倒すために作られた」


「おおお、予想通りですよ。もちろん……私は作る側でしたがね。金属のドラゴンなんてお腹にいっぱい……それはもう……ドロドロしてます。まぁそこまで皆を犠牲しないとね? 勝てませんからね」


 大きさはイヴァリース城と同じくらい。だが、それにパンジャンドラムの爆発は微々たるものだった。暴れればすぐに都市は壊滅するだろう。


 オオオオオオン!!


 そして悲痛の声のように金属のドラゴンは鳴いた。金属ドラゴンは血で赤黒い部分に怨嗟がこびりついてた。開いた口にはすりつぶすための歯があり……汚れきっている。ただ、殺戮だけをする機械へと堕ちた物である。


「さぁ、砦です。ここを突破しないと勝てませんよ。天使はまだまだ……用意できます」


 ゴーレムは大きく掌でなぎはらい、大地を抉る。その一撃は部隊を壊滅させるには十分な威力である。ただ……魔族側も負けておらず体は石であり、魔法によってマグマへと変えて腕は落とす。


 しかし、それは悪手だった。腕がマグマになると今度はゴーレムの全身が溶け、火山へと変貌を遂げる。そして……世界を破滅させた。一撃を放つ事がわかった。


「!? 逃げて!!」


 私はつい駒に投げかけてしまう。その瞬間、山は丸まり勢いよく噴火し、噴煙を撒き散らしながら岩を落とす。そう、自爆。その一撃はきっと世界を埋め尽くしただろう。


「駒は半壊しましたね。噴煙から出る毒素……そして……空から降り注ぐ灰……雪崩のような破砕波。なかなか阿鼻叫喚でした。そのまま、人の住めない大地になり……地下で巣くうだけの生き物へと成った」


「……そんな酷い事を」


「そりゃ……破壊が目的ですから。邪魔されたんですよこれも……まぁ今のようにゲームして負かしました」


 奴はカードを見せる。そのカードには折れた剣を持った英雄だろう男が膝から崩れていた。悔しい表情に苦悩が見える。


「このカード、自害するので駒としては使えないのですよね。神に従う天使はそこんところわからないので使いやすいです」


「……」


 そりゃそうだ。同じように世界を破滅させようとしているのだから。私でも、裏切り行為に走る。


「……あーあ、そんな余裕ぶってていいんですか? 魔王……眼下が疎かですよ」


「今は無理でも……私は信じます」


「その言葉、朝食の回数ぐらい聞きました」


 私はため息を吐き、決着のついた盤面を見やる。亡骸が転がり、私自身も戦えればと歯痒い思いに駆られる。必ず、勝ってみせると士気をあげるのにと。


「……では、約束です」


 奴は白紙のカードを私に向ける。そして……私はそのカードに捕らえ始めた。体が動かないほどの強制力に契約の強さを思い知らされる。


「何か遺言は?」


「あなたに遊びを教えた方は誰ですか?」


「誰でしょうか……思い出せませんね……たぶん、喰った誰かでしょう」


「楽しかったかしら?」


「どうでしょうね? わかりません……ただ、合理的なんです」


 感情が乏しい。でも確かに何か感情は生まれている。多くの世界と関わった結果だろうか?


「……遺言はよろしいのですか?」


「また、会えそうなそんな気がするわ」


「まぁそうですね。カードで」


 私は目を閉じて族長たちに託す。必ず、こ奴を凝らしめてくれることを……そうして私はカードの世界に閉じ込められたのだった。




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