美男ランスと魔物のアラクネ..
僕はその日一人で魔物の調査をしていた。遠出をし、夜遅くまでかかり探していたが魔物を見つけられなかった。
幾つかの蜘蛛の巣を見つけたが藻抜けの殻。巣を移動させて生活している事を僕は知っていたため運が悪いと考えていた。月光の下、凍てつく空気の中、都市への整備された湖の縁近くを歩いていく。アラクネを見つけられなかった。
ギルドにアラクネの調査依頼があり僕はその仕事を受ける。アラクネの巣が移動した場所を突き止め皆に知らせるのが仕事だ。アラクネは危ない魔物であり。人の姿で惑わし誘って捕食する。狩りも行い、冒険者も沢山犠牲者を出している。狩れない理由は四天王の一人がアラクネであること。そして多くの冒険者や兵士の犠牲を出してしまうこと。逃げられ倒せないことが挙げられる。
アラクネ族は強いと聞く。鋭い爪に蜘蛛の糸。そして素早い移動により、分が悪いとすぐに逃げられてしまう。
「狩ることを諦めて極力近付かないことを注意する………目の上のたん瘤と言う言葉どうりですね」
色々あって冒険者となって多くの事を学んだ。本当に世界は広い。魔国には化け物が多くいて新鮮だった。
バシャッ!!
湖の脇の道を歩いていると水音が聞こえた。水面が揺れ月光を反射する。何かが水浴びをしているのがわかる。
「避けて帰りましょうか? いや、魔物なら漁師などの迷惑がかかる。狩れるなら狩りましょう。ただの魚かもしれませんし」
様子を伺うため木々に隠れながら顔を覗かせる。そして、そこで、僕は言葉を失った。女性だった。
月光に照らされる。綺麗な白い肌に長く艶やかな白紫色の髪を水で撫でるように洗っていた。半身を水から出し、細い腰に目が行ってしまう。月光の妖艶な光に照らされている女性に目を奪われる。
ザッ!!
「!?」
視線が会う。綺麗な瞳であった。「ああ、これは僕は謝らないといけない」と考える。覗き見をしてしまった。体を洗っていた彼女が反応し震える。本当に申し訳ない。
「すまない。覗き見をしたことを謝まります。物音がして確認のために来ました。水浴びをしてるとは思っても…………」
「夜は冒険者もいないと思ってたが。一人か保存食にいいな」
「!?」
湖で出会った彼女の口から物騒な言葉が聞き取れた。そして、彼女が勢いよく湖から這い出た後。下半身が露になり、僕は声を失う。何故なら人間や魔族とは違った異形な姿だった。そう、半身が大きな蜘蛛なのだ。
気付いたときには遅く。目の前に立ちはだかる。今思えば、冬でありこの時期に水浴びするものが人外であることを失念していた。全て見惚れてしまったことが原因と判断する。
「アラクネ!?」
「ご明察」
しゅっと腕に何かがネバつく。蜘蛛の糸。剣が抜けなくなったあと。自分は簀巻きにされ、息が出来なくなり気を失うのだった。
*
昨日、夜。湖で水浴びをしていた。夜に浴びる理由は冒険者に襲われない時間帯だからだ。しかし、予想外。夜中に保存食を手に入れた。巣の奥に鎧を外して保管してある。巣に持ち帰った私は嬉々として起きた。美味しそう。
「ん………ここは?」
「あら、お目覚め。息が止まってたけど流石、冒険者ね生命力が高い」
「!?」
「はは、驚いたぁ? ここは私の巣。アラクネの里」
「ここがですか?」
「ええ!! どう!! 怖いでしょ~ゆっくり食べてあげる」
「そうですか。自分の最後が貴女と言う女性の糧になる。それも悪くはないですね」
「…………怖くないの?」
「ええ、ちっとも怖くないですね。現にお綺麗です。薔薇の花にトゲがあることを身をもって感じております。見とれてしまった落ち度でしたが……やはり……お綺麗ではある」
「変なやつだな」
「そうでしょうか? 如何なる戦いで騎士として栄誉の死を行えないのが心残りではありますがどうぞ。お食べください」
「…………アラクネだぞ~魔物だぞ~死ぬんだぞ~」
「いつでも死を覚悟し戦うのが騎士です。お嬢さん。それに何度も何度も死刑から生かされてる身です……悲しいですけど」
「……………………はぁ。怖がって悲鳴を上げさせ、いたぶって。血と肉を引き締めた方が旨いんだけど?」
「すいません。帝国の騎士は死を恐れないので。僕に出来ることはないですね」
私は変な拾い物をした気がする。
「食べられる前に先に名乗るが礼儀ですね。僕はランスロット。今は冒険者で元騎士をやっておりました。お名前を伺ってもよろしいですか?」
「魔物に名前はない」
名前を聞かれてのは初めてだった。そして悲鳴をあげない人と会話をするのも初めてだ。
「………………」
私の事を彼の深く青い瞳で見続ける。その瞳に吸い込まれそうな気分になった。
「………食べないのですか?」
「旨くないと言った。恐怖で冷えた血が好きなんだ」
「貴女を満足させられず申し訳ない」
「………ふむ」
怖がらないゆえに少し興味が出てきた。会話ができるなら会話をしてみよう。暇潰しにはなるだろう。
「なんか、話をしろ」
「お話をですか? わかりました。女性を飽きさせない事も必要と教えられてきましたので頑張ってお話をさせていただきます」
「つべこべどうでもいいから早く話せ」
「はい、では自己紹介を含めて身の上話を」
彼は食べようとする私に対して自分のお話をしてくれる。生まれた故郷から始まり。彼の人生を詳しく聞くのだった。
*
昼前。お話に夢中になっていると太陽が登りきっていた。彼の物語は初めて聞いたからなのか知らない世界の話なのかスゴく興味を引いた。
「えーと。お水をいただけないでしょうか? 口が乾いてしまいました」
「水か………少しまて」
話を中断し、蜘蛛の巣にある。水溜め場に顔をつけて口に含む。そして、それを顔の口に口をつけてそのまま流す。
「んぐ!? えっ!!」
「もうちょっといるか?」
「えっと!!」
「まだ、足りぬか」
顔が真っ赤な彼に同じことをもう1回行う。顔をブンブン振っていたの押さえつけて流し込んだ。
「どうした? 真っ赤になって?」
「い、いえ………いきなりのくちづけに焦っただけです」
「そうか、さぁ続きを聞きたい。そのバカな事を言っていたと申してた親友の話も」
「あっはい」
彼の物語は夜まで続いた。
*
数日たったある日の事。
「服を来てほしいです」
「服を? 何故、魔物が服を着なければならない」
「目のやり場の困るのです。女性の体を見慣れてないので………申し訳ないですが………」
「嫌だ」
「そうですか。慣れるように努力します」
彼はため息を吐く。最近疲れているのか顔色もよくない。
「……………何故、お前はあのとき剣を抜かなかった?」
話を聞き、冒険者の中でも強者の部類に入ることがわかる。そう、私はあの時に殺されてもおかしくはない程に。
「見惚れてしまいまして。剣を抜くのが遅くなりました。ええ、綺麗でした。最後でも貴女のような綺麗な人の糧になるのであれば何も後悔はないですね」
「き、綺麗だった?」
そんなことを仲間以外から……それも餌から聞かされて驚く。
「はい。僕にとって初めて息を飲むほどでした」
「………綺麗だった。人間の癖に? 私は魔物だぞ?」
「ええ、魔物でも綺麗な人はいるようですね」
体が熱い。心臓の辺りがスゴく苦しくなる。
「………お前は変な奴だ」
「ええ、わかってます。そうですね食べる前に懺悔をいいでしょうか?」
「懺悔?」
「はい、ただ。聞いてもらえるだけでいいんですよ。昔は彼がいたんですが………いいえ。何でもないですね……すいません」
「わかった。聞こう。話せ」
「…………ありがとうございます」
私はドキッとして体が跳ねる。恐怖とかそういうのを持たなかった筈なのに。弱々しく美味しそうな状態になっている。しかし、食欲は湧かない。弱っている彼には惹かれる。「惹かれる?」と疑問に思う。
「僕は親友に多大な迷惑をかけてしまいました。戦争があり、都市で白騎士たちが行う蛮行を許せず。味方を斬ってしまいました」
ああ、戦争中の出来事の話か。
「それは、今でも間違っているとは思っていないのですが…………戦争が終わり。戦後に処刑される筈だった僕を彼が助け、彼の功績は全て無くなってしまった。騎士としての栄光も名誉も。彼はいらないと言っていましたが………僕はずっと彼に助けられてばっかりで。冒険者の手解きも、世界と自由の素晴らしさも教えてもらいました。そして旅立つ日も『本物の騎士』と僕を肯定し背中を押してくれました」
長く、長く。ボソボソと弱々しく話していた。
「そんな、彼になに一つ恩を返せないことを。感謝と懺悔を………します。あの日々は楽しくて、いい人生でした。本当に……父上にも母上にも申し訳ない事をしました……」
私は何故か………黙って聞き続けた後。変な感情が芽生えだす。親友に会わせたい。元気になってほしいと思うのだ。
「…………」
魔物の癖に。餌を食べようとは思えなくなってしまった。
*
あれから、彼は少しずつ無口になり。顔色も悪くなる。そう、懺悔をした後。まったく生気を感じることが無くなってしまった。気付けばご飯をあげていない。餌にご飯を与えるなんて考えたこともない。どうすればいいか、わからず。焦り出す。
「…………ランスロット?」
「……………あっ、すまない。眠っていたようだ。なんだい?」
「ちょっと外へ行く」
「そうかい………いってらっしゃい」
私は、都市へ向かうことを決意する。殺されるかもしれない。しかし、人間の食べ物はあそこしかない。それに………彼のお願いを叶えたい。服も着よう。親友も探したい。それにはまずは生きて元気にならなくては何も出来ない。勇気を振り絞って都市へ向かうのだった。
*
都市の門、色んな亜人が悲鳴をあげて逃げ惑う。それを気にせずに門を潜るとトカゲの衛兵に槍を突きつけられた。
「アラクネ!? 何故、お前らがここにいる!! 四天王の族だからと言って都市に入ることは許されていない……魔物よ!! 出ていけ!!」
「入れさせろ!! 買い物がしたい!! お金はある‼」
獲物から剥ぎ取った物をかき集め保管をしていた。使える日が来るとは思っていなかったが綺麗なので残していたのがよかった。
「くっ!! それ以上動くと刺すぞ‼ 誰か!!」
「衛兵長に報告だ‼」
「し、死にたくねぇ……戦いたくねぇ……」
「ああ? 入って買い物するだけだ‼」
「ダメだ!! 混乱が起きる!!」
衛兵の数が増えていく。そして、私たちは睨み会う。入れさせろ、無理、入れさせろ、無理と繰り返しの押し問答。話が進まない。
昔の私なら、会話せず殺しを行ったが………今は、彼の顔がちらつき、会話だけで済まそうと必死になる。
「何故だ!! 入れさせろ‼」
「ダメだ!! 魔物を入れたら混乱が起きる。それに信用できるか!! 魔物め!!」
「あああ!! 全員始末するぞ!!」
脅してでも、入りたい!!
「お、脅しに屈しない!!」
「もう!! 入れさせろ‼」
私は「嫌だけど、殺してでも………嫌。何故、嫌? 何故そんなことを……」と考えて焦りがつのる。
パチーン!!
「「!?」」
そんな中で指を鳴らす音が響いた。小さい音なのに耳の近くで鳴らされたかのように耳に届く。不思議なほど大きく聞こえた。
「音魔法、音奪いと音渡し」
喧騒が無くなり艶やかな音色のような声だけ聞こえる。皆が一斉にその声の主に向いた。全員が彼女を認識する。白い四枚の花弁のスカートのような鎧を身に纏い。一目で名のある令嬢だと言うことがわかる。魔物である自分が綺麗だと形容できる人物だった。
「初めまして。ネフィア・ネロリリスと言います。何か騒ぎがあったようですが? なんでしょうか? どうぞ、あなたからお聞きします」
私の方向に手を差し伸ばし話を促す。一切、彼女以外の声が聞こえない静かな中で私は声を発した。
「あ、あ……声が出る。都市に入りたいんだ‼ 頼む!!」
「なんで入りたいのでしょう?」
「ふ、服とその………人間の食料を分けてもらおうと」
気恥ずかしさで後ろ足で地面に輪を描いたり。足をツンツングルグルしたりして気を落ち着けさせる。
「そうですか。衛兵さん。ダメでしょうか?」
彼女は次は衛兵に話を促す。衛兵も驚いた状態で怒声をあげた。
「どこの馬とも知れない奴が仲裁に入ってくるな‼ 余所者だろう!!」
「…………余所者?」
「そうだ!! 人間の癖に」
ダンッ!!
彼女は地面を蹴り衛兵を睨み黙らせる。彼女の行動一つ一つがまるで演劇の姫様のように眼に焼き付けられる。柔らかそうな表情から一変、鋭い目付きで衛兵を睨んだ。
「我は、魔王ネファリウス。余所者ではない!!」
「ま、魔王さま!?」
私は「魔王? 魔王!?」と驚く。四天王のアラクネが殺そうとしている人だからだ。
「もう一度言う。彼女を都市に入れさせるのは是か非か!!」
「あ、えっと!! 混乱が乗じます。アラクネどのには申し訳ないのですがお引き取りお願いしたいと思います。魔王さまのご命令でもそこだけは譲れません!!」
衛兵も引かない。それは誇りなのか蛮勇なのかわからないが苛立たせる。魔王は知っているがそんなことよりも今は大事なことがある。
「くぅ!! 認めない!! 魔王!! そこをどけ!!」
「……………そうですか。落ち着いてください、アラクネさん。必要なものを私たちがご用意します。それで手を打ちよろしいでしょうか? ダメでしたら今ここで貴女を狩り取らないといけません」
代わりに買ってくるといい、彼女が場を治めようとする。
「えっいいのか? お願いしよう。物が手に入ればいいからな」
そう、物があればいい。そして魔王ならしっかりしたものを買ってくるだろう。
「よかった!! では、次に衛兵さん。彼女をここで待たせることは許してもらえますね?」
「それぐらいであれば大丈夫です」
衛兵もそこが妥協点なのを理解し、大人しくなる。そして衛兵の方が恐る恐る喋りだす。
「あ、あの。魔王さま。生きておられたのですね」
「私を魔王と思いますか? 嘘ですよ」
「えっ?」
「えっ?」と私も心で思う。騙されたのか。
「ネフィア・ネロリリス。駆け出し冒険者です。衛兵さん、立派なお仕事ぶりでした。まぁ魔王を知らない人が多いので嘘もつけるんです」
彼女は衛兵に一礼をし、私の元へ。
「ええっと。何が必要でしたか?」
「人間のたべものと………そのぉ……わ、わたしの服が欲しい」
どう行ったものがいいのかわからないが。彼女のような鎧は可愛いと思えたし………よくわからない。
「わかりました。ちょっと体を測らせてください」
「はかる?」
「体に合った服を探します。あと魔物だからでしょうが裸は感心しません」
彼女が背中に乗り、体のサイズを大体測る。胸を揉まれ、色んなところを触られる。
「そ、そうか………あいつにもそう言われて買いに来たんだ」
裸はダメらしい。
「では、行ってきます」
「ネフィア。俺はどうしようか?」
「トキヤは衛兵の監視をお願いします」
「へーい」
「い、いつのまに!?」
振り抜いた先に大きな剣を担いだ剣士が立っていた。柔らかい物腰だが。その物腰から伺えるのは私程度を簡単に始末できるという雰囲気だった。そして彼は口を開く。
「アラクネさん。嫁が帰ってくる前に色々話をしよう。大丈夫。あんたは俺が衛兵から守る」
ドキッとする。真っ直ぐに魔物を護ると言い切った強者に鼓動が跳ねた。そう、彼のように。
「………人間は格好いい生き物なんだな彼と同じように」
格好いいっということを。優しいと言うことを学んだ。
「お金は後で貰いますからね」
彼女、ネフィアは買い物をするべく商店へ向かった。そして、色々と残った彼と話をする。トキヤと言う名前と彼の物語にいる親友の話が噛み合い。ランスロットの話をすると彼は驚いた顔をした。
「世間は狭いなぁ」
私は何故だろうか彼らと出会うのは運命な気がしたのだった。




