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旅立った彼に私が行う事


「ふぅ………」


「ネフィアがため息を吐くなんて珍しいな」


「珍しい? 珍しいかしら?」


 私は空中庭園の天使が運営するカフェで旦那の休日に付き合う。空中庭園は空島の植物など、色々な物で彩られており、非常に空飛べる英魔族にとってはオアシスのような場所となっている。観光地として開発が進んでいるが……『空飛べる者しかこれない』事が問題提起されていた。


 羽根を持たない不平等であると国民が声を上げていると私の耳に入っている。まぁ、これがため息の理由ではないが。


「お前の好きなケーキだぞ」


「うん、ケーキだね」


 ケーキのスポンジはほどよくしっとりしており非常に腕のいい天使が居るのがわかる。女神のために作っていただろう天使が今は多くの英魔族のために作っている。材料は驚くべき事に空島に農園がある。そう、人が滅ぼうとも、もう一度再建出来るように。


「……野球、頑張ってるらしいな。この前、模擬戦で好成績だったな」


「……ヒット1本だけです」


「それが打点に繋がったんだから大きいだろ。ふむ、なるほどねぇ……気になるのな」


 トキヤが机の上に魔石を置き、その魔石が文字を空中に写してそれをトキヤは読んでいた。魔石はエルフ族長が用意した夢石と言う新技術の石である。そう、夢魔の魔力と呪文によって……情報を流す連絡手段の一つだ。トキヤはそれをコーヒーを飲みながらニコニコと眺める。


「文字ばかり読んで面白いの?」


「面白い……情報を流す夢魔が中々、ジョークに富んでてな。とにかくも……他の野球チーム情報が流れてる」


「スゴい魔法ですよね」


「夢を経由し、声、文字を送るのは夢魔の特殊能力だったが……それを一般人に出来るようにするなんて。これこそ真の魔法使いだ。魔の方法を考える事は難しい。実は分かっていない方法もあるだろう。皆が使える方法こそ、魔法の真髄だ」


「ふーん、魔力なかったら使えないじゃん」


「そこで魔石がある。魔石がな……」


 専門的な事は今はどうでもいい。ただ……私は……遠い土地が気になる。


「ネフィア……お前がそんなに悩んでも帝国や連合国は変わらない。見てるだけと決まったじゃないか?」


「そうですけど……そうですね。触れたら敗けです」


 怨みを買うだけだ。余所者がでしゃばるのは。


「なら、気にしない事だ。俺は気にしない……」


「そうですけど……うん。そうですよね。ただ……思い出の土地が荒らされれるのかなって思って」


「仕方ない、そればっかりは……」


 アクアマリンのは思い出が詰まっている。鰻の蒲焼きと共に。


「はぁ……やんなっちゃう。女王って……」


「お飾りの女王なんだから気にするな」


「お飾りにしては……あれこれ厳しいと思いますが?」


「仕方ないだろう、やらかしもあるし……ネフィアの知り合いが権力者になったんだから。ネフィアの知り合いですっと言って仲良くしてるんだ」


「……そう、ですよね。はい」


「まぁ、愚痴が出るのは元気な証。反乱もあるし、国内は大変だぞ。政戦などな」


「うえぇ……もう、嫌ですよぉ……泥沼じゃないですか」


「まぁそれが生きるって事だ。ん? ネフィアに依頼が来た。魔石寄越すから読んでみろ」


「……なになに?」


 私はトキヤから魔石をもらい、文字を写して読み上げる。


「魔法使いの集まりからの苦情対応お願いします……うぁ……面倒」


 読むんじゃなかったと後悔する。だが、トキヤは笑みを浮かべて笑い出す。


「はははは、出たよ。魔法使いが集まる会だ。名称は……何だったかな? 『深淵に挑む者』だったか? 俺にも文句たれたれで印象悪いんだ」


「ない、その集まり?」


「ええっと、研究する原初魔法使いの集まりさ……魔法使いにも2つあって……昔から伝統を重んじる由緒正しい魔法使いとそれ以外の魔法使いと区分して色々面倒事を起こす奴らだよ。前者は魔導師と言っているけど。それぐらい強者の集まりさ」


「なんで英魔国内に?」


「英魔国内で少し居たのがバラけて居たんだが、族長間同盟でくっついで増えたんだよ。最近では……喧嘩してる」


「何か危なっかしい気がする」


「まぁな……もう、族長で手が負えないからネフィアにと言うことだろう。ネフィアの魔法使いの才は凄いからな」


「褒めてくれてありがとう。トキヤのが凄いよ」


「いやいや……流石に一瞬で都市を消す事は出来ないぞ」


「嘘でしょ? 出来るでしょ? やれそうよ」


「時間をかけたら行けそうかもだが。今はそういうのに対抗呪文が開発されてるから……結構、わからない部分が多い」


 そう、都市内を護るために『魔法は絶対禁止』の術式が張り巡らされており、昔ほどバカスカと撃てないのだ。魔法が強かった時代から魔法が弱い時代に移っている。逆に剣士や拳士が相対的に価値が上がっている。


 まぁ、剣士は魔法使いの天敵に成り得る事は私自身がよく知っている。世界の真理は極まった武人の剣は何よりも重いのだ。それはまるで物語の主人公のように切り開ける力を生む。懐かしい……私がそれを体感で知ったのは女になってから。生でそれを見て、体で覚えたのはマクシミリアン王との剣激である。


「時代は……また。魔法ではなく騎士の時代に逆戻りですね」


「そうとも言えないな、空がある。まぁそんな話よりも……お願いは聞くか聞かないかどっちだ?」


「うーん……」


 私は嫌である。関わるのが嫌である。


「そうか、ネフィア……大きい机に椅子が何個もあるだろう?」


 トキヤが指を差して指摘し、私は首を傾げる。


「ここへ来ようと言った理由は……なんだと思う?」


「えっ………」


「ネフィア、そろそろ来るぞ」


「ふぁああああああああああああ」


 私は気がつく。はめられた……トキヤに。


「トキヤ!!」


「デートに誘えばすぐに来るからな」


「ああああああああんんんんなあああああああ」


 何とも言えない。私は甘い。


「まぁ、まぁ……おい、来ていいぞ」


 トキヤが指を鳴らす瞬間、店の奥から魔法使いらしき出で立ちの獣人とエルフとオークが現れる。彼らは笑みを溢しゆっくりと席に座った。3人である。黒い服に眼帯をつけた如何にもな姿だ。


「常闇から這い出た影」


「故に空の光は我らに痛みを伴う。だが光あって我々がいる」


「そう、光ある世界の影。我々は影である」


「組織名称……影……」


「ククク……初めての光の邂逅……」


 重々しい言い方に私は首をひねり思い付いたように挑発する。


「ふん……影ね。如何にも……表情が暗いわ。見たくないわ」


「ククク、例え嫌っていようと……我々は後ろから見ている」


「どんなに逃げようとな、光あるところに影あり」


「クククククク……ははははは」


 凄く、凄く……演技っぽい。拗れた感じが凄く。


「くっ……忌々しい者共め……我が封印されて居なければ……」


「ネフィア……茶番劇はいいから話をまとめるぞ。こいつらは確かに組織名は『影』と言う魔法使いのいいや……魔導師たちだ。そんな奴らがお前にお願いがあって来た」


「ふふふ、そう我々は測りに来たのだ。突然変異体に対してな」


「魔法とは魔法使いが代を重ねて遺伝を強くするために交配を重ねる。故に魔法使い以外の子が魔法使いになるのは珍しい。王配殿は野良魔法使い、その血族でもある」


「そうだ。ネフィアには教えたが……魔法使いは才も血統も必要ではある。努力では越えられない壁があるんだ。禁術に手を出さない限り」


「なるほどねぇ。私が血統的に変だから値踏みしようと言う事かな?」


「ククク、血統は悪魔の旧魔王の血筋。魔力は立派であろう……だが。生前の旧魔王は『暗黒』を得意とした。故に突然変異体とは。魔法の才が違いすぎる事である。それに……詳しく魔法体系を教えてもらいたいと思い集まった」


 私は腕を組み首を傾げながら悩む。何に悩んでいるのかと言うと……わからないからだ。


「魔法体系?」


「ネフィア、魔方陣を頭に描き唱える方法を教えただろ? その魔方陣を聞きたいそうだ。火の魔方陣の延長線上にある新たな魔法だろうからな」


「ああ、なるほど。音の魔法でイメージする奴ね……でも……」


 私は掌に炎を生む。一瞬で唱えたそれを見た3人は『おおお』と声を漏らす。瞬間的な詠唱は高位な術である。


「常闇から恥をしのんで来たかいがあった。生で見ると中々に速い詠唱である」


「うむ。これは新たな魔法への道筋になろう」


「速い詠唱は高等技術、故にな……素晴らしい」


「…………」


 私は掌を握り潰して炎を消し、首を振りながら言葉にする。


「えっと……掌にこう、ごわっとしたイメージで炎を出すだけで……こう、えっと………ぶわっと出ろみたいな感じです……はい」


「「「「…………」」」」


 さぁ、皆が首を傾げた。そう言うしかない。そう言うしかないほどに私は感覚で炎を生んでいた。自覚せず、イメージだけで具現化していたのだ。


「こ、これは」


「うむ」


「恐ろしいな」


 3人が頷き合い、私を見ながら指を差す。


「「「超能力だ」」」


「…………うん? トキヤわかる?」


「わかる。驚いたな……魔法ではないのかそれ」


「…………魔法じゃなかったの?」


 今更、驚愕な情報である。


「我々は……パッと出の魔法使いにムカつきはしたが」


「超能力なら……説明がつく。技術ではない」


「ああ、それは突発的な偶発的に生まれた者」


「逆にこれを御すれば……魔法となる。血筋が極まればだ」


「いや、しかし……それでは魔王の祖先はそこまで優等な家でもなかった。我々と共にするには些か……」


「そうだ。魔王よ……お前の祖先は我々とは格式が違う」


 私は話を聞きながら貴族主義的な感じなのだと思い。何を文句言っているのかも不満かもわかる。そう『格』と言うものだ。一応前魔王の息子だが。売春婦の子でもあり……彼らの血を大切にした家に比べて落ちるだろう。


 例え、それが魔王だとしてもだ。そういう物なのだ。貴族主義とは。そう、私にも貴族主義はある。イチゴを美味しい品種順に並べ、吟味し、品格を問えるだろう。知らず知らず……我々は勝手に『格』をつける。


「……ふむ。魔王は魔法使いとして知識不足もある。だが……うむぅ」


 魔法使いの名家の3人は大いに悔しい表情を見せる。まぁわかる。血筋を越えてくるなんて嫉妬する。納得しようにも納得いかないのだ。だが、私もちょっとバカにされていい気はしない。だからこそ私は喧嘩を売る。


「勝手に品格を値踏みして好き勝手言っている3人へ……確かに私の血筋はあなた方のような立派な祖先を持ってはいません。ですが……私は胸を張ります」


「「「……」」」


 お三方が私を覗く。値踏みするような姿勢に私はハッキリと申す。


「私には立派な祖先は居ません。ですが胸を張り、立派な!! ネロリリス家の祖となるでしょう」


 トキヤは笑みを浮かべ私は続ける。


「あなた方の名家は新たな名家誕生の伝説を見れるのです。いいえ、これから……私の祖となる伝説を作って行きませんか? 品格のある伝説を」


「「「………」」」


 啖呵を切った、反応については空気が変わった。ピリッとする空気へと。


「クククはははははは!!」


「豪胆、祖となると言うか」


「素晴らしい!! 素晴らしい!! いい名文だ。その言葉残し、数百年後答え合わせといこう。そう、名家はたった3つしか残っていない」


 ピリッとした空気の中で3人が立ち上がり、手を差し出す。私も立ち上がり、手を握る。すると……魔法の火花が散り、何かが結ばれた。


「今、この時をもって『影』への参加を……そして新たな魔法使いの祖を祝おう。我々の家が保証しよう」


「あ、ありがとうございます」


 なんとか認められたらしい。まぁ妥協を見せたのだ。これで表立って協力出来ると言う、言い分が出来たらしい。面倒な連中だ。


「でっ……早急に相談だが……」


「ええ……」


「我々の家、魔法使いが大幅に人材不足している……一緒に問題を解決しよう」


 『人材がいない、魔法使いが家が存続できない、助けて』と言っているらしい。だが、格下に助けてとは言えないようだ。うわ、面倒な人ら。


「わ、わかった。トキヤもいい?」


「ああ、ネフィアの言うとおり……策を考えよう。また後日で考えよう」


 トキヤはエルフ族長に報告するために話を区切った。そして……後日……案を出された。それは……後に魔国内を揺るがすのだった。




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