海の王子
私は一人、ボールを投げ込んだ。壁に当たるボールが跳ね返り私の元へ来るのをひたすらに投げ返す。邪念を込めてボールを投げては壁の印に当て続けた。
アクアマリンと言う都市の奴隷王子として生きてきた人生で私は何の運命か、英魔国の女王の元へと差し出され……そして……大役をお願いされる。投手と言うのは……試合を作る。非常に重々しい大役のポジションだった。
それをこのクンカ・アクアマリンにお願いをするのだ。そして……女王陛下は期待をしている。勘で選んだといっていた。
私は問いた。何故、私を厚遇するのかと。そう、私は何か思惑やそういった物を非常に疑った。そして……女王陛下の問いに驚かされた。
「あなたは理由が欲しいのですね………そうですね~アクアマリンの王子を厚遇することで恩を売れます。人や亜人も必要以上の恩を貰うと報いようとします。また、アクアマリンの国が要らないと言われても大丈夫な忠臣教育的な物です。確率はいかほどか知りませんが、忠臣となり、英魔国のために働く者となってくれるかもしれません。人質はある意味、有能な人材をタダで貰うと言うことです。満足ですか? 内通者になると言う意見ありますが結構、情が傾きやすいと私は思います」
私は脱帽した。国のためと仰り、そして……非常に的のある答えだと感じた。恩に報いたいと思えている故に器の大きさを感じる。
「…………スカシバ……見てるなら球を取ってくれ」
「クンカ……くん……ずっと投げてるから休もう」
「ダメなんだ。勝たないと、ダメなんだ」
「……」
私は一人、冒険者を辞め、努力を重ねる。女王陛下に認められる投手になるために。
*
1ヶ月、鍛えた体を綺麗なフォームを固定練習した結果。ウィンデーネ様の目に叶うストレートが投げられるようになった。
「ストレートはそこそこになったね」
「ありがとうございます」
「……でも……このストレートは速くない。オークのような豪速球でもない。いい球ではあるけど」
「……」
ウィンデーネ様が打席に立って練習するなかでよく打たれる。だが、打たれるのはいけないのだ。悩む……非常に悩む。真っ直ぐだけでは打たれると。
「でも、コントロールはすこぶるいい。そこで……私から魔球を授けます」
「魔球?」
「そう、投げるボールを工夫し指を扱い回転を加えると不思議な現象。ボールが曲がるのです」
「魔球……」
「残念ながら、私は投手の才能皆無です。ネフィア姉も投手としては微妙な部分があります。故に前人未到の世界です。必殺技です。たぶんネフィア姉はそれを期待してます」
知識が深くなった今なら分かる。打席にも女王陛下の球を見せて貰ったがストレートだけなら『わかりやすい』『慣れる』のだ。ただ、女王陛下もそれはわかっており……変わった変化を持った球を少し見せていた。
「……」
もっと具体的な例を見せて貰いたいが、難しいのだろう。
「どうすれば……いや、色々試そう」
私は一人、研究者へと道を踏み出した。少し前人未到と言う言葉に……憧れてしまったのは言うまでもない。つくづく男の子なのだと不思議な気持ちになったのだった。
*
「魔王ってすごいね」
「んにゃ?」
休憩中、私の元にウィンデーネがやってくる。そつなく守備をこなす彼女に私は首を傾げる。
「海王子のさ……コントロールの良さは凄い。私がさここに投げてと言ったらそこに来るの」
「……ま?」
「ま」
私はマジでと言うように『ま?』と問い。ウィンデーネが笑みで答える。そして魔球の球を教えたと言い私は予想外な結果に満足する。
「速球派ぽいのに、軟投派なんだ。余計に先発ぽいね。ウィンデーネ的には?」
「速球派でも気の抜けたボールでタイミング外したりとすること出来ますけど。魔球持ちだと余計に選択増えて厄介です。まぁ私には敵いません」
「なんで?」
「女神打ちだから」
「????」
なんか不思議な単語である。女神打ち……
「魔王も女神打ちじゃん」
「なにそれ?」
「感覚で球を打つ。考えない」
「…………いや、さすがに球を予想は」
「球種のみでしょ。来た球を打つ。それだけです」
「脳筋」
そんな、アホな打ち方で打てる筈はない。
「考えるのが嫌いなんです。体が動くんです。先に」
彼女の本能的な部分に私は首を傾げ。私はため息を吐く。無理無理と首を振るように。
「ネフィア姉も大概本能じゃん!!」
「ま、まぁ……これでも落ち着いたと自負してますのでぇ」
腕を組み昔を思い出す。老けたなぁと思いたくはないが年を追うと過去を振り替えってしまう。
「落ち着いたぁ? 私を破廉恥扱いして? それは酷いと思うけどぉ?」
そんな中で疑問を述べる一人の女性が近づき、バットで私に突きつける。
「身分偽って婬魔の女神だった事に関して弁明は?」
「時効、残念ね。それが裁判の結果よ」
「くっ……権力者め」
「魔王のあなたがそれを言うの? 一部の子、あなたが強制で参加させたじゃん」
「破廉恥……痛い所つくね」
「非を認めるのはいい事よ」
私は彼女の体を小突く。それに笑みで返してくるのは勝ち誇っているからだろう。
「快感、私には潔白ですと言うのを論破するのはぁ~」
「破廉恥……裁判であなたが嫌がられた理由わかった気がする」
「ふふん、当たりまえよ。裁くのよ? 嫌われて当然、私に矛先が来るのも全く喜ぶべき事です。何故なら!! 昔の泣きわめく愚か者ではないのです!!」
「ほほう、立派ねぇ。じゃぁ……破廉恥裁判楽しみにしてる」
「私は破廉恥じゃありません!!」
「枯れたの? 女として?」
「……はいぃ?」
「昔のあなたの方が情欲誘ってて良かったわ……」
私が染々と言い。彼女は頭を抱えた後に自身の体を抱きしめて確認するように弄った。平和な空気の中で私達は練習を重ねるのだった。
本当に穏やかな静けさに何かあるのかと疑うほどに……




