側近の支援者、エルフ族長との出会い. .
夫の親友が意外な場所で出会った次の日。私たちはギルド長の部屋に報酬を受け取りに来る。
「あいよ!! 今回の報酬、安いだろうがいいだろ?」
「……」
私は覗き込むが小さい袋で貰った中身は金貨数十枚。安くはない。思った以上にけっこうな金額だった。
「けっこう入ってるね」
「ああん? そうか? お前を動かすには安い金額だ。まぁ、衛兵長に脅しといたから、ついでにたっぷり貰ったがな」
「ならもっとくれてもいいんじゃないか?」
「ふん、次の仕事を依頼するんだからいいだろ?」
「まぁいいけどな」
「トキヤ、苺ジャム買おう!!」
「却下。まだ、残ってるから今度な」
「……………はーい」
「ふふ、魔王。あんた彼に尻を引かれてるのかい? なっさけないねぇ~それでも悪魔かい? 男なら簡単に従えれるだろ」
「悪魔の前に彼のお嫁ですから」
「はは~ん。なるほどね~どうりで。わかった、早くここから出ていきな。仕事があったら呼んでやるよ。だから早く行った行った。そして忠告だ」
「なんでしょうか?」
「イチャイチャするのを控えろ。ここはそういう店じゃない」
「お、俺は一切そんなことは!!」
「私はただ!! 彼の隣にいるだけです‼」
「いや……ネフィアそれがいけないんだ?」
「なんで!? 仲間なら隣に立つでしょ!!」
私は嫌々と首を振って彼の腕に抱きつき離さない。
「苦情が上がってるんだよ。特に男の方にな………気を付けな。いい女を侍らせてる屑だってな」
「納得いかねぇ………俺だけかよ」
トキヤがぶつくさ愚痴を言いながら部屋を後にする。もちろん私はくっついたままだ。
「トキヤ、大丈夫だよ」
「お前が抑えるべきなんだよ!!」
「ひたぁい!! つまひないでぇ!!」
ほっぺを摘ままれて捻られる。無茶苦茶痛い。
「はぁ。嫁に手を出して何してるんだ俺は」
「ひたい……頬」
ほっぺをつねられた場所を擦る。
「酷い。私は悪くない」
「本心」
「悪いけど、抑えきれないから。先に謝っとく、ごめんなさい」
「……………昔のお前は本当に何処行ったんだろうな。謙虚さが抹消されたよな。噛みついていたお前が懐かしいよ本当に」
「あいつは死んだ。勇敢な死だった。それはもう立派な死だった」
「勝手に殺さない」
そのまま、依頼待ちと言うことで酒場を私たちは出た。冷たい空気が肌を刺す。しかし、すぐに緩和され動きやすくなった。彼の魔法は本当に暖かい。風が私を包む。
「どうしよっか? デート?」
「一緒に居ることをデートとすぐに言わない……まぁいいけど」
「ほ、本当に?」
冗談で言ったことが通る。儲けた。
「本当だ」
「やった!! じゃぁ行きたい所へ絶対についてくること!! いいね!!」
「い、いいけど。ど、どこ行くんだ? 普通な所な!!」
「ひ、み、つ」
私は彼の腕を掴み。唇に人差し指を押さえ、小悪魔の仕草を意識した。彼は空いた手で頭を押さえ全く効き目はなかった。
*
「えっと、何故ここ?」
「大衆浴場です」
「知ってるが? 昨日来たよな?」
昨日、汗と泥を取るためにここに入った。色んな種族の中にも風呂に入る種族もいる。エルフ等の人間に近い種族がよく入っている。
大きな建物に入り、受付を済ませる。少し高めだが昼間なので安い。夜は利用客が多く高いのだ。鍵を貰って彼を引っ張っていく。
「何処へ行くんだ?」
「ついてのお楽しみ」
鍵を明け個室に入る。トキヤは部屋に入って初めて分かったらしい。
「おい!? ここは共用か!! しかも個室の!!」
「そう、男風呂、女風呂………そして共用のための個室」
「落ちつけ。まだ、日は高いぞ!!」
「日が高いから安いんだよ? 昨日、お風呂で婬魔のお姉さんが教えてくれた」
売春婦の一団に声をかけて教えてもらったのだ。
「しかしだな………」
「夜はもっと凄いことしてるのに?」
「ま、まぁその………しかしだな」
「一緒に入りたいの。だめ?」
手を合わせて、可愛く首を傾げてお願いする。心ではニヤリと笑いながら。
「くっ、だめだだめだ!! 淫らだ」
「婬魔ですが」
「畜生、本職だ!! 畜生、恥じらいのない淫魔は手強い……」
「…………ねぇトキヤさん」
妖艶に耳元でに顔を近付ける。胸を彼の腕に押し付け。彼の手を太ももで挟む。彼が唾を飲み込んだ音が聞こえた。もう一息。
「一緒に入ろ?♥」
「あぐぐ………………はぁ、わかったよ」
変なところに細かい彼を説得し一緒に入れりようになった。勝ち誇りながら彼の服を脱がして入る。
*
小さな湯船、先に彼が入って貰っている。次いで私は浴室に入った。彼の逞しい体を見て心が跳ねる。「何度見てもああ、愛おしい」と思うのだ。
「ネフィア、なるべく体を隠してくれ」
「いいよ………隠した方が好きなんでしょ?」
「……………ええっと。そんなことはない」
「両方好きだったね」
「ぶくぶく………」
私は鏡の前に立ち自分の全体を眺める。胸と下半身の大事な所だけを隠していた手をするっと退けて形を見る。
「トキヤが好きそうな体だね」
「鏡を見て言わない………」
「照れてる?」
「お前は恥ずかしくないのかよ」
「恥ずかしくないわけじゃないよ?」
振り向き、彼に私を見せつける。
「それよりもトキヤの事が好きだから。我慢できる。それに嬉しいよね。自分の体が好きな人の好みだから。愛おしい体だもんね。これが婬魔です」
「何度も聞いてきたけど俺には絶対無理だ」
「ふふ、無理だよね~だってトキヤは男の子だもん」
「お前も元はおとこ………いや。無粋か……」
「じゃぁ、風呂入るね」
「かけ湯」
「はーい」
かけ湯のあとゆっくり入る。ちょっと高めの温度。彼が座っている場所の上に移動し背中を向けて座る。
「気持ちいいね」
「わざわざ俺の上に来るんだな」
「だって、これがしたかったらから………想像より気持ちいいよ………トキヤ」
「本当に俺のこと大好きだな、お前」
「今さらだよ。知らなかったの? だーい好き」
「依存してないか?」
「同じことを言い返していい?」
「…………まぁしてるかな。お前より長い間求めてたし。夢を諦めてネフィアに指輪を贈ったし」
「ぶくぶく」
「おい!! 離れて沈むな!! 何か言ってくれ恥ずかしい!!」
「ごめん。私も恥ずかしくなってきた」
二人、見つめあった後。少し可笑しくなり笑い合う。
「ふふ、裸で向き合ってるのに変なの~」
「はは、本当にな!!」
今度は、彼の正面に座り首に手を回す。
「ふふふん~♪」
「ご機嫌だな」
「ええ、凄く格好いい夫様だなって」
「ありがとう」
トキヤが優しく微笑み返してくれる。
「あっ………その顔ズルい。キュンとする」
「ええ~どうすればいいんだよ……」
「ん、許してのキス」
「キス魔め」
「悪魔ですから♪」
*
風呂上がりの休憩所。休んでいる所に私は小瓶に入ったミノタウロスの牛乳を持ってくる。
「おう、ありがとう」
「美味しいよね風呂上がり。これもトキヤが教えてくれたんだよねぇ~」
「まぁな、ミノタウロスかぁ」
「牛の魔族だけど家畜のより、うまいね」
「濃厚だよなぁ」
「いつか私も出るかな?」
「………………さぁ」
トキヤが明後日の方向へ向く。どんだけウブなんだよ。
「一番始めに味見してね」
「俺を変態にしたいのか?」
「すでに手遅れでしょう」と呆れた顔を私はした。自覚があるのか彼は自分の頬をつねり、苦しい表情をする。
「予言しよう。絶対飲む。男の子だもん。私なら飲む」
「なんでだろう。説得力がある」
「おお、めっちゃ可愛い婬魔いるじゃん!!」
トキヤにセクハラを行い満足している所へ。冒険者の一団が私たちを見て近付いてくる。メンバーは変わっていて、ダークエルフ、悪魔、人間二人だった。
「君、可愛いけど婬魔だよね。お兄さん幾らで買ったの?」
「いいねぇ!! もう入ったのだろうけど報酬が多目に入ったからさ~言い値の倍払うよ!!」
「お兄さん。何処でこんないい子見つけたんだよ‼ お店教えて」
「本当に素晴らしい体だな~帝国でも1、2争うじゃないか? 婬魔ってすげぇ~」
下品な話だが、私は察する。そういう種族でもあるのだ。
「あの~私はそう言うのやってないのですが? 非売品」
「いやいや? 君は婬魔だろ? 喜べ!! 男がいっぱいだぞ?」
「焼きたい。こいつら焼きたい。全力で。なんと不純な………いや……まぁ……その……私も不純ですね、人を見て我先考えるとはこの事だろうか?」と心の中で思い直すが、不純な部分は直す気はが私にはない。トキヤが困るのは面白いのだ。
「お兄さん。お金出すから譲ってよ」
「…………あのな。死にたいかここで」
流石に怒りを示すトキヤに私は茶々を入れる。
「トキヤ~うれしい!! 私も手伝うよ‼」
「ネフィア、黙ってて」
「あい」
トキヤが凄みをかける。大人しく彼の背中に隠れた私は叫んでやりたい気持ちになった。「お前らなんか束になってもこの人に敵わない」ことを自慢したかった。
「あのな、すまないがこいつは嫁さんなんだ。言ってる意味が理解できたなら去れ」
「えっ………嫁さん」
「すいません。奥さんだと知らずに」
「い、行こうぜ。悪いことしてすいませんでした」
「本当にな。ちょっと頭冷やそうぜ。報酬がよかったから浮かれてた。本当に申し訳ない」
なんか、あっさりで拍子が抜ける。婚約者や既婚者はすこぶる悪いと思うのだろう。
「がっつり来るかと思ったのに」
「嫁さんに手を出すのは万国共通でタブーなんだろうさ」
「………へへ、嫁さんかぁ」
彼を背中から抱き締める。力一杯、抱き締める。
「そろそろ、鎧着て行くか?」
「もう少し、もう少しだけ味わう」
「本当に触れるの好きだなぁ」
「うん!! 夫が一番好き!!」
彼の背中を満喫。満足するまで時間を要した。
*
遅くなった昼御飯を食べに酒場に戻って来た。すると、ザワザワと落ち着かない雰囲気を醸し出している。視線が全て自分に向かい。たじろいてしまう。
「な、なに?」
奥のカウンターで一人の男が立ち上がるのが見えた。細身の長身。大きな弓を背負っており、その彼が鋭く睨みながらゆっくりこちらへ進んで来る。見たことがある姿に私は驚きながら、真っ直ぐ見つめた。
「ネフィア、険しい顔してどうした?」
「側近の傘下。四天王の一人。それだけは知ってる」
ゆっくり彼が近付き、声をかけてくる。「お前を知っている」と目が語っていた。
「魔王ネファリウスさま。ここでは落ち着かないでしょう。都市外でお話をしませんか?」
唐突に私の元名前を呼ばれる。私は真面目に名前を呼んだ人を睨んだ。
「何処で情報を?」
「ここのギルド長から。どうします? ここで殺り合うのはいささか好まないのですが」
はい、刺客でした。本人が武道派だとは四天王の称号を持ってるだけで察した。
「わかりました。都市外ですね」
「ついていこう。いいだろ俺も」
「構いませんよ。『勇者』殿」
私たちは彼について行き、人気が少ない東門へと歩いて行く。途中、食べ歩きを敢行し緊張感がないことをトキヤに怒られながらも都市の外へ行くのだった。
*
雪の上、四天王の彼と向き合った。彼の名前は知っている。立場も有名。なので、刺客だろう。刺客な筈。たぶんだが。私を殺めに来たのだろう。
「名前は確かグレデンデでしたか?」
「ええ、エルフ族長グレデンデでございます」
真面目な声音で彼の名前を呼んだ。グレデンデは名の知れた強敵だろう。
「四天王でもある貴方が私に用があるのは1つだけですね」
「ええ、話が早くて助かります。首を貰いに来ました。我らエルフ族のために」
こうなることは分かっていた。刺客ぐらい来るだろうと。しかし、いきなり四天王が出てくるとは予想外である。今日で楽しかった日々も終わってしまうかもしれない。「ああ、楽しかったですねぇ」と想いを馳せる。死ぬ気はないが。
「都市外へ出ていただきありがとうございました。しかし、申し訳ございません。狩らせていただきたいと思います」
「優しいんですね。都市内で市民を巻き込まないように気を配って……民に対して」
「もちろん、大切な民ですから」
素晴らしい御仁なのがわかる一言。きっと私を裏切った者を信じてるのだろう。例え手段が悪くとも側近に従う理由が彼にはあるのだろうと思う。エルフ族のためと言っていたのでエルフ族の発展のために尽力しそうだ。
「ネフィア。俺は?」
「いいえ、手出し無用です。エルフ族長、一騎討ちで良いでしょうか?」
自信があるわけじゃない。しかし、トキヤに頼ってばかりもいけない。これから先を考えるなら四天王を退けるぐらいしないと彼の隣に立って甘えることは出来ないと思う。私は強くなる。生きるために。
「ええ、私はどちらでも構いませんよ」
エルフ族長から「絶対勝つ自信」が滲んでいる。
「なら、距離を取って始めましょう。トキヤは私の後ろから見ててください」
「ああ、もちろん」
私は深呼吸を行い切り替える。男らしく魔王として。トキヤの伴侶として共に歩けるぐらいに強くなりたいと願いながら。
*
私の目の前にいる、女になった魔王が背中を向けて距離を取りながら魔力を高めている。空気がピンっと張り詰めた。魔王は私に振り向き対峙し、剣を鞘から抜く。
鞘から炎が巻き上がり、火花が散っていた。魔剣の類いかもしれない。
魔王の周りの雪も溶け、地面が乾く。髪から小さな火の粉、そして両目の色が変わった。紅い、深めの紅だ。
「剣を抜きました。どうぞ構えてください。矢を放つ瞬間。勝負です」
魔王が片手で剣を横に構えている。私はあの剣からちらつく火で察する。名剣だと感じた。
そして、何があったか知らないが。あの、弱々しい姿だったネファリウスから全く別人のようなプレッシャーを感じる。強者の臭いが焦げた草に混じる。
「………いいんですか? そんなに距離を取っても」
「ハンデですよ。エルフ族長は弓使い。近距離でもそこそこでしょうが弓の強さは遠距離で発揮します」
「ええ、だからこそ………いいんでしょうか?」
「くどい。貴方に勝って見せましょう。勝たないとこれからの戦いで夫に迷惑をかけてしまう。それ以上に………どんな経緯があれども!!」
不思議と『女傑』と頭に過る。いったい何がここまで彼、彼女を変えたのだろうか。
「私はまだ!! 魔王!! ここで倒れる訳にはいきません‼」
魔王の力強い咆哮に弓を持つ手が自然に強く握りしめてしまう。強い意思に飲み込まれそうになる。
「………その覚悟、挫かせて貰います‼」
私は矢筒から一本抜き、弓の弦を引く。矢に魔力を込める。
ギュルルル
そのまま放ち、風を裂く魔力を纏った矢。当たれば体が粉々になる。しかし、魔王は怯まなかった。背中に彼が居るからなのか避けずにいる。
「エンチャント」
魔王は火の剣に何故か上から炎を纏わせる。自分のいる地面から火の粉が舞い自分の頬を焼くほど魔力が強まる。魔王は魔力が体を巡って大きく破裂しそうなほど高まり、危機感を覚えた。
ギャキィンイイイイイイン!!!
そして鋼がぶつかる甲高い音が響いた。音と一緒に矢が逸れる。魔王は一瞬で剣を振り上げ、そのままの勢いのまま一回転し、エルフ族長に向き直す。
「ふぅ………やはり魔王ですね」
私は冷ややかな表情で驚きを隠した。「見切られてる!? 飛んでる矢に剣を会わせる芸当!! 強い!!」と心の中で焦る。ここまで彼は強い気はしてなかったのだ。焦りがつもり背筋が冷えていく。
「………………」
1歩1歩、私の元へ魔王が歩いてくる。目の前の雪が溶け道を作られ、魔王を私の所へ導かれている錯覚に陥った。焦ったまま2本の矢を掴む。「な、何故、優雅に歩ける!! 怖くないのか‼」と考えながら今度は2連続の速射する。回転しながら貫通力を持った矢が魔王に迫る。
キィン、キィン。
それを一本は剣の矢先で弾き、1本は簡単に避けられた。魔王の髪が数本切れ、燃え上がり消える。
「なに!?………かすっただけでも抉る筈なのに効かないだと!? プラチナメイルが無効化? そんな馬鹿な‼」
少しづつ近付いてくる魔王。小さな女性の体なのにその何倍もの大きな物が迫ってくる気配。何本も矢を撃ち込んでみるが全く決定打にならない。
かすった矢は彼女の魔力に当てられ威力を発揮できない。魔力の障壁が魔王を守っている事がわかった。
「恐ろしい魔力だ!!」
ゆっくり、ゆっくり距離を詰められ、真っ直ぐ前だけを、私だけを見ている魔王。次第に恐怖心より何故か白い騎士鎧に身を包んだ女性の姿。勇ましい姿に心が鼓動が速くなる。魔族らしからぬ、美しいお姿に目が焼き付く。
「もう、距離は詰めきれます。最後の攻撃ですね」
魔王は歩みをやめ。剣を鞘に収め、腰を低くし、右手で剣を左手で鞘を掴む。私は理解する。次で避けられ防がれたら負けることを。そして……負けるだろう事を。
「ある人の真似事です。花のように強き美しい女性だった人の、いつか見た。記憶も元に、私のイメージで私だけの技とする。彼が言った魔法はイメージ。自由なのだ……なら剣技も……自由に出来る」
何故か私は魔王に全力で全てを出し切らないと申し訳ない気がした。予想を越えて強くなっている。短期間でいったい何故かわからない。才があったのかわからないが、その「強さを見てみたい」と心の中で浮かび上がる。
「最後ですね」
現魔王のお姿を私は目に焼き付けるために、3本の矢を同時に抜き、弓を引く。そして、矢に魔力を注ぎ入れ続けた。矢の先、空間が歪むほど濃密な魔力が注ぐ。魔物は肉片になりドラゴンの鱗さえ貫通する。豪矢へと昇華させる。自分が放つことの出来る最大を……打つ。
「それが、貴方の技ですね」
「ええ………波動矢。穿て!!」
ブフォン!!
解き放たれた3つの矢が衝撃派を放ちながら真っ直ぐ飛んでいく。放った瞬間に弓を落とし右手を抑えた。あまりの衝撃に右手が激痛を発し、魔力の高め過ぎにより頭痛がする。3本の矢は雪を巻き上げ、吹き飛ばしながら進んだ。魔王との距離も近く避けられない。
「避けようと抉る矢だ!! 魔王!!」
魔王が剣と柄に魔力を流しているのが見えた。それを勢いよく引き抜いた。魔力の摩擦が火花を散らし、魔力を細かく分散され、引き抜いた瞬間それが火花のように撒き散らされた。
炎を纏った刃が振り上げられ、炎の軌跡と共に火花となった魔力に伝達し数多くの小さな爆発が起こす。目の前を焼きつくす数千の小さな炎の爆発が触れ合い魔力同士の衝突が起きた。その爆発の炎の刃に波動矢が飲まれ、魔王の魔力に飲まれたあとに炎のうねりとなって生きているかの様に炎の壁が生まれ、再度爆発する。
「くぅ!? 衝撃が!!」
周りの雪が爆発で舞い上がり、溶けていく。爆発は収まったが炎の大きなうねりが残り熱を発する。
ぶわっ!!
「ま、魔王!? どこに!?」
そしてうねりの中から、魔王が剣を突き入れてくる。
「はぁあああああああああああ!!」
距離が一瞬で詰められ、驚いた顔をする私は矢を抜き剣のように突き入れようと構えた。しかし、遅いことを理解する。目の前に魔王が美しい顔に金色の髪を靡かせ笑みを溢していた。私は動けない。
「エルフ族長。私の勝ちです……やったぁ!!」
優しい声を発しながらも喉首に剣先を突きつけている。私は死を覚悟し挑んでいた。なので、彼女が寸止めで生かされた事に驚いた。そして諦める。
「…………どうぞ。突き入れください。油断し、これだけの有利を生かせない私の敗けですから」
潔く、敗けを認めた。清々しい気持ちになる。
「ええ、そうですね。生与奪が私にあります。ですから私はこうします」
魔王は剣を喉首から下ろし、鞘に戻す。
「な、何故!? 私は刺客ですよ!!」
「貴方は私の民であり、エルフのための族長です」
「なっ!?」
ハッとし、自分は情けない声を口にした。今さっきまで殺そうとしていたのに逆に咎める言い方だった。
「何故、あなたを殺そうとした者に情けをかけるのですか‼ また襲うかもしれないのですよ、刺客として!!」
「私は魔剣を譲り魔王を譲位を行う予定です。しかし、まだ魔王らしいので言います。あなたは私の民であると」
「魔王を辞める!?」
私は驚き、魔王を見つめる。彼女は微笑みを私に向け、優しく語りかける。復讐のために旅をしているのではない。その目は違う未来を見ていた。
「エルフ族長。生きてください。それまで刺客で来ようと何度だって相手をしてあげます。そして、何度でも生かしてあげましょう。生かし、何度でも言いましょう。次の魔王のために生きて力を示してください。あなたはきっと素晴らしい忠臣になるでしょう」
「次の魔王のために………」
魔王が私の手を取り、首を傾げながら諭すように囁く。その姿はあの父上の元魔王の子なのかと疑いたくなるような到底言い表せない感情を私は持つ。一切恐ろしさと無縁であり、彼女の周りだけ太陽が照らして明るいと錯覚さえ起きる。そう、悪魔が到底しないような慈愛の微笑みだった。
「ええ、その一人で挑む勇気と優しさを誰かに。お願いしますね。魔国を任せましたよ」
彼女が私から手を離し、綺麗な髪を振りあげながら背を向け。勇者の元へと駆け寄り、横にたち、彼と嬉しそうに会話をしていた。綺麗な横顔はこれが魔王とは言えない少女のものに変わっている。
「私は恐ろしい物を見た。そして、光も見た」
自分は立ち尽くし、唖然とする。死闘を行うほどの男のような胆力を持ちながら。女のように包み込むような慈愛の笑顔。そして、私を許す器の大きさに。ただ立ち尽くすだけだった。
*
私は歩きながら少し身震いをする。汗が冷えてしまった。
「あ~あ、汗かいちゃったし、寒いしまた風呂に入りたい。ねぇ魔法をかけて。寒い」
「切り替えの速さと緊張感のなさは流石だな」
「ぐだぐだしてもあれだからね~いや……褒めてないでしょ」
「まぁ、それがお前のいいとこ………おい。ちょっと見せろ」
トキヤが私の頬に触れ。私と目線が合う。
「お前、目の色赤だったか? オッドアイ?」
「えっ? オッドアイ?」
「右目だけ紅い」
「………ふん!!」
私は目を閉じ、鏡の自分を思い出す。ゆっくり目を開けて確認してもらう。
「どう?」
「ラピスラズリの宝石のような綺麗な紫の瞳で、二重に長い睫毛。切れ長の美しい目に戻った」
「トキヤ~トキヤ~そういう褒めるのは不意打ちですよ~恥ずかしい」
「綺麗だって言ってるだけだよ」
右頬を彼が擦る。暖かく大きく。男の手らしい固い手に触られると気持ちいい。
「ん~」
「さぁ、汗を流しに行こう」
「はーい」
私は本当に彼だけいれば幸せなのだろうと再確認し。今までにない強さを手に入れた実感があった。
過去、黒い錆びた王を倒した女性との戦いの記憶が正しかった。人は想いの力で強くなれること何となくだがわかったのだった。




