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短期雇用の女王


 外出許可を徹底して長期間行い、無事平穏な日々を過ごす中で……多くの事件を聞き耳する。殺人、窃盗、暴行。日々、平穏とは行かずとも事件はあり。裁判も行われている。犯人の肖像画が表に貼られるほどに治安はいいも悪くもない。


 英魔族。衛兵以外が罰することも出来る。衛兵並みかそれ以上の強者もいる。その者たちによって下町は秩序が生まれている気がした。そんな事を学びながら今日も働き。数人の客を迎える。メンバーは獣人ばかり。


「いらっしゃいませ。予約の団体のお客様ですか?」


 だが……そんな中でもやらかしてしまう者もいる。楽して稼ごうとする者など。そして私は刺された。お腹にナイフを刺されたまま倒れる。うめき声をわざと出しながら。


「おら、この店の金を出せ」


「……この女みたいになりたくなかったらな」


 出で立ちは剣と槍を携えた冒険者。臭う所から、そういう生業の者達だ。手練れだろうか? どうだろうか?


「リリス!?」


「動くな。同じように刺されたくなかったらな……早くそこの金入れとってこい」


 先輩が大きな声を上げる。店には異様な空気が漂い、冒険者たちが身を潜める。やり合い、殺し合いの臭いがし。私は聞き耳をし……店内の中を様子見る。店長含め……やり合うつもりだ。それでも手練れぽいのが10人は多いと思う。


 唸る私を乗り越え、10人が店へと入る。そして……私自身が火蓋を落とす。立ち上がり、笑みを溢して1人の男を獣人を背後から顔に蹴り上げる。しっかりと首に入り、床へ叩きつけ。そのまま、二人目に殴りかかる。


 しかし、私の快進撃はそれまで、では収まらない。剣やナイフを抜いた罪人に私は怯むなく近づき腹に拳の一撃を加え、背後についた剣持ちが振り下ろし、私はそれを感覚で避け、剣を持つ鉄拳を殴って折れた音とともに剣を落とさせた後、顔面にスマッシュを決める。やり合いに加勢が入ろうかと思われた瞬間。獣人は皆、店を出る。数人を残して。


「……はぁ、ダークエルフ族長。何してるのよ」


 治安悪い。集団的な襲撃は流石に。それも大通りのお店で。加勢は慌てて縄を持って罪人を縛る。


「……リリス。あなた……武芸者だったの?」


 その様子を見ながら先輩が近付く。そういえば悲鳴一つもあげない所から店内は慣れた感じなのだろう。


「冒険者ギルドのランク証明書持ちです」


「ああ、なるほど。怪我は? 腹刺されたでしょ?」


「かすり傷です。身分頑丈なんです」


「それで拳であんな……ちょっと場数踏みすぎでしょ」


「……わかっちゃいます?」


 セーブした。私は『殺す』つもりはなかった。


「目がね……怖い、震えが止まらないわ」


「……ふぅ、先輩~びびってる」


「ばっか!! あんたにびびってるの」


「……外の空気吸ってきます」


 気が付いた。何故、皆が止まってるかを。私は店の外に出て衛兵を待つことにした。





「……えっと」


「リリスでいい」


「わかりました……女王。おっほん……リリスさん」


 衛兵の黒い昆虫亜人族の一人が仲間を連れて顔を出した。もちろんバレバレなのだが。空気を読んでくれている。


「状況としては盗賊ですかね。場所代として締め上げをやめさせた結果です。仲間内に追わせます」


「やってる事は盗賊と一緒」


 お金を貰って衛兵が見回りに来るようになっているらしい。


「はい。盗賊の代わりに我々がと言う事ですが……いえ、盗賊だった物に規則と罰則を含めた新たな衛兵隊が生まれたと言うことですね。裏切り者と言われています。私もその一人です」


「……盗賊だったの?」


「盗賊でエメリア様の元で罪を改め、新たな職についた次第です。嬉しい事に授業料は格安です」


 何か世間話を始めた彼に私は思う事はエメリアもしっかりと仕事してるんだなぁと関心することだった。


「エメリア仕事してる……」


「女王陛下だって仕事してます」


「お金ないもん」


「はい。そうですね……では、ダークエルフ族長の衛兵団とは違うので秘密にしておきます」


「ありがとう」


「……エメリア様の贖罪があらんことを」


 衛兵が去り、私は立ち上がって店に戻る。すると席を磨き、床を掃除する店主と店員に目がつき怒られる。


「サボってないで店を開ける準備しな」


「……は、はい」


「返事が小さい!!」


「はい!!」


 私は逞しい商魂に驚かされながら、力強さを感じる。これが、新たらしい世界なのだと目の当たりにしたのだった。





「今日はお疲れ様、まかない料理タダで食わしてやるから言いな」


「「「わー!!」」」


 店じまいを済ませた時、喜ぶべき事件が起きた。まかないである。まかないである。皆が沸き立つ中で先輩は一人店主に謝る。


「ごめん、私さ。次……行かないと」


「わかってる。勉強頑張れよ、これ弁当」


「ありがとう!!」


 店主が木箱に余ったご飯を詰める。私らにも余った料理が振る舞われるが中々豪勢で驚く。お米、魚、肉、野菜。それぞれがしっかりと用意されていた。


「今日は大変だったが明日も大変だ。よろしくな」


 私は2つ返事で反応し、食にありつく。そんな中でふと質問が出た。


「女王陛下って金持ちかと思ってた」


「そそ、私も私も。だって、お布施い払ってるもん。てっきり……あれ? どこ行ってるの?」


「ああ、お布施は教会の持ち主とそこを運営してる族長の元に行きますね。今は全部つぎ込まれてるらしいです。衛兵の給料でもあるんですよね。出所しりたいなら族長収支月報から紐解くといいですよ」


 私は質問に答える。これが引き金だった。止めどない質問が浴びせられる。それを私が知る範囲でお伝えした。


「そ、そうなんだ。じゃぁ女王陛下。異国で戦争がある噂は本当なんですか?」


「帝国と連合国ですね。まぁ、あるんじゃないですか? 色々あります」


「女王陛下……なんでも知ってますね」


「知らないですよ。なんでもは……無知です。私は」


「そんな、それじゃあ……私は無知以下ですよ」


「そうですよ。だから、質問し、学ぶのです。知らないと損ですから、私もあなたも誰かからね。それは良いことです」


 そうしないと怠け者が増え、成長は見込めない。ああ、学ぶ場所を提供する理由も垣間見えた。飲食住が満たされると人は暇を使い。遊びだすのだ。


「……女王陛下、もしもここに居るってバレたらどうなるんですか?」


「王配、族長が顔を出すかも。あと行政処分で売上金巻き上げ」


「女王!? 虚偽申告はやめてくださいよ!!」


「ふふ、冗談です。でも、今は鑑査員騙せなくなりましたよ」


「どうしてですか?」


「……思念を読み取るように夢見する種族が最上位の鑑査員ですから」


「夢魔……ですね。私もみることできます」


 そう、エルフ族長は新たな職を与えた。秘密を暴く者達で構成した秘密結社もいる。それは彼に絶大な富をもたらしている。


「恐ろしいですね。秘密ごとが出来ないなんて」


「できますよ?」


「へ?」


「噂と悪さ目立ちしなければ」


 私はそう言いなが店主に色んな事を伝えていく。彼が口コミで多く噂を流布してくれる事を期待をしながら。私はまかないと言うご褒美をほうばったのだった。





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