継ぎし者
「さぁ、全て終わりましたね。サン」
私は今、女王陛下と個人的謁見をもつ特権を褒美していただいた。女王陛下の個人の力によっての強権である。
「はい、女王陛下」
「では、私にあなたの夢へ通じる道を開けてくださいます?」
「……?」
それは私の全てを夢見すると言うことである。包み隠さず。その事を明記した紙が私の前に差し出された。
「私や貴方も夢魔で一応悪魔の血もあるようですので、契約書にしてみました。悪魔は契約を結べば対価に見合った事が出来るそうです」
「……この紙に印を押すとどうなります?」
「私は貴方の目を如何なる時でも見る事が出来る。また、記憶も覗く事も知ることも簡単に出来る。そして密命を出すこともある」
「その物に見合う物はなんでしょうか?」
「……ダークエルフ族長、貴方の父上に一瞬でも一矢報いる事の出来る力を。力がないと交渉も出来ないでしょう」
「……具体的にはどのような事ですか?」
「わからない。ただ、貴方のお義母様に似た力が宿るかもしれません」
私のお義母様は女王陛下と同じ名であり、女王陛下のように火を操る魔法使いである。魔法と言うより奇跡に近いため、聖職者とも言える。目にした魔法の数々は確かに魅力的である。
「しかし、それは……お義父様やダークエルフおじさまを殺す事になりかねません」
「なるでしょう。と言うより、既に貴方は2重スパイのような存在でしょう。そこに3人目とするだけです」
「……」
そう。私、お義父様の情勢をダークエルフ族長のおじさまに流し。逆にお義父様に情勢を渡している。動向も両方を見て両方のお願いを聞いている状態である。
ダークエルフ族長からは治安維持のため、潜伏の黒騎士として活動し、お義父様からは潜伏の黒騎士の地位を利用して潜伏している黒騎士の動きの監視。それが課せられている。それに……女王陛下は混ざろうと言うのだ。
「女王陛下。私には既に多くの事が課せられております……」
「知ってます。だから……お手伝いという事で力を貸してあげます。実験でもあります。私が家族でない他人に力をハッキリと『与えたら』どうなるかの……」
「そういう事でしたか」
「ええ、そういう事です。確認です」
女王陛下でもわからない事。少し気が楽になり私は指を噛み、血印を押す。そして女王陛下はそれを手にし箱に入れて棚に戻した。
「どうなるか楽しみね」
「……不安です」
「何か変わった事は?」
「ないですね。魔法使えません」
「そう……やっぱ純粋な悪魔じゃないからだめかな」
女王陛下は笑みを溢してそのまま背伸びをする。
「当分、平和ね」
「そうでもないです。女王陛下に異を唱える者達が暴れることでしょう」
「そう……まぁ。全員仲良くなんて理想は無理よねぇ。建前はそう言うけど」
「はい。ですが……良くなって行きますきっと」
「無法地帯で隠居もいいわね?」
「絶対、させません。英魔国民として」
「………ふふ。たまには出してよ。この鳥籠から」
「はい」
私、女王陛下にお辞儀をし……部屋を出る。そして、出た瞬間に私の腰に差した物が震え、それを手にする。
それは剣の鞘。女王陛下からいただいた物が私の手のひらで砕け散り……私の機械化した右手に吸われ。そして私は新たな力に祝福か呪いかわからない物を得た。
「………女王陛下。結構大変な物をいただいたようです」
そのまま私、私の目標のために歩く。私の探し人の元へと。
*
彼女が出たあと私はカーテンに隠れているトキヤに声をかける。
「………覗き見はあまり褒められませんが? トキヤ」
スッと消えていた体から現れた彼は頭を掻きながら私に近付いてくる。
「覗き見になったのは謝るが……えらくあの子に執心じゃないかネフィア」
「なんでしょうか、気になるんです。色々」
「気になるか……悪魔の契約書は保管しっかりしとけよ」
「ええ、それより。おかえりなさい」
「ただいま」
いつもの挨拶に私はそのまま静かにトキヤに抱きつく。目を閉じ、幸福を噛み締める。
「トキヤ……これからどうなんだろうね」
「まぁ、忙しい日々は続くよ。残念ながら忙しい」
「逃げ……たりはしませんの?」
「魔族の檻にネフィアがいる限り無理だな。それに2回目の裏切り者は嫌かな」
「……真面目な人になちゃって」
「俺も歳をとった……それより。お腹が空いた」
私は離れ、髪をリボンでまとめる。
「わかった。何か作ります」
そう言いながら棚からワインとグラスを取りトキヤの前に置き、調理場へと向かうのだった。まるで懐かしいあの日を思い出しながら。私の足取りは軽いのだ。




