狂言回しは動じない
王配が私を連れて戦場へと踏み入れる。広野の戦場で女王陛下の姿はなかった。
「王配様、ご質問よろしいですか?」
「ネフィアのことなら別ルートから飛んで来る。マオウの魔法を見られるわけにはいかないから、場所が違う」
理由は結託している事を諭されないようにするためだろう。その事を問うと王配様は笑みを浮かべて教えてくださる。
「そう、これは世界を偽るための劇場だ。登場人物は皆が演じきらねばならない。カーテンが降りるまでは」
「……うまくいくのでしょうか?」
「うまく行っていると信じよう。後はこの世界の人々がどうするかを決める。案外、わからないものさ」
「……王配様は女王陛下のこの事をどう思われていたのですか?」
私は問い続ける。何故か心からそうしたいと思う。
「ネフィアの事なら、ああ……いつもの奴かぁ。面倒臭いなぁぐらいだな。なんでそんなのに巻き込まれるんだよとか……かな」
「?」
「その表情……どう思ってると思ってたんだ? 怒らないし聞かせてほしい」
私は一切全く表情を動かさなかったが見抜かれたようだ。気恥ずかしさとともに少し笑みを見せる。
「その、大義名分や。その……誇りなど高い意識があるものかと」
「まぁ、察する。エルフ族長のような難しい言葉で並べ立てるほど、俺に知性があるわけじゃない。行き当たりばったりで。何も考えてない所もある。エルフ族長もそうだ。実は全員皮を被って利己的に最良の手段を行っているフリをしているだけなんだ」
「……」
「案外、皆。失敗の選択。利己的でない行動。あり得ない事。正しい立派な生き方をしてはいないのさ。俺は嫁さんを養うだけで仕事してるだけだからな。今は」
何か凄い、思い違いをしていたのだろう……私は……
「失望した? 君たちが読んでいるネフィアの冒険譚は装飾された物だからね。真実は違うさ」
「……!?」
私は気がつく。そう、凄く大切な事に気がついた。私は女王陛下の物語を知っている。文字に起こされた本を知っている。その本になった人を誰より知る人物が目の前にいるのだ。ならばと私は体温が上がり、拳を握る。心の問いかけをする明確な理由を私は頭で理解する。
「お、王配様。失望はしておりません。私は凄く。気になります。装飾されていない物語を……お聞かせ願います」
「気になる?」
「はい。本の内容の真偽を今。確かめたいと思います」
「ネフィアに聞けば…………いや。どうだろうな……」
「お聞きしてませんでした。なりそめをお聞きしたいと思います。本当に王配は祖国を裏切ったと?」
「なるほど、そのとおりだが?」
「では、それはネフィア女王陛下のためですか?」
「ああ……そうだが……」
「そのために多くを敵に回した。お聞きしているのは女王陛下を鍛えられたのも王配であり。最初に才能を見抜いたのも王配だったと。また、女王陛下の旅で女王陛下が四天王を倒したとも」
「うん……そうだが……」
「……装飾部分は何処ですか? あの……」
「………エルフ族長執筆……事実を課題評価……」
「それ以外は本当に事実なのですか?」
「……………」
王配様が悩み出す。なんと言えばいいかを王配様が苦悩しながらもそして答えを出す。照れ隠しのような、腕組みに私はきっと宝石のようにキラキラと輝いた瞳を向けているだろう。
「間に受けるなと言いたかったが……今思えば若げの至りと言う奴で……勢いはあった。俺もアイツも……」
アイツ呼ばわりに仲の良さが見受けられる。
「事実と言うことですね」
「ああ、そうだ……もしや、しっかりと教えられている?」
私は多分、震えたのだろう。そう感じるには頭が痺れる感覚が這い回った。物語に入った没入感が沸き上がる。その物語の登場人物になっていることに。
「凄いです」
「今の俺も昔の俺も何処かおかしかったんだ。同じ事をしろと今言われても。出来る気がしない……だが、それが若いって奴だ。これからは君達の時代だ」
「お年……お若いですよね?」
「英魔では若い、人間では成人」
照れ隠しなのかフードを王配様が被る。そう感じるには私は成長した。無気力な殺戮人形よりも立派に……王配を尊敬し、そして……
「そんなキラキラした目で見ないでくれ……実はチヤホヤされるの好きじゃない」
「お聞き及んでます。暗い所が好きだと言うのも。謙遜される方だとも。ですが歴史は事実です」
「そ、そうだな。しかし、褒められた生き方ではないぞ。わかってるな?」
「言葉足らずですね。昔では許されていた生き方であり、今では許されない時代になると言うことでしょう。それを決めれるのは知っている者のみ」
「ああ、残念だが。無法者は消えてもらう。そういう事だな。それもエルフ族長が?」
「はい」
「しっかり教育してるんだな……頑張れ。君の探し人も見つかる」
「ありがとうございます。王配様」
「……ちょうどかな」
王配が剣を抜き地面に突き刺したのち、魔法を唱える。防御障壁らしきそれは私達を守るように発現し、私はその視線先を見つめた。そこには魔族の姿とはとうてい思えない。我々の頂点が髪を靡かせ静かに『戦神』を待ち、立っていたのだった。




