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女王陛下は微笑む


 私の名演に女王陛下やお義父様や多くの人が喜んで誉めてくださった。あのお義母様さえ、私にわざわざ褒めに夢に表れてくださった。


 以上とも言える行為の数々に私は察する。


 女王陛下は素直に褒めていたが。その他は全く違う意味で喜んでいたのだ。


 私は女王陛下の影武者に一歩近付いた事になる。お義母様では少しどころかバレバレであると言う。お義父様のせいであること。皆に知られ過ぎているために。


 何処まで仕組まれていたかはわからない。だが、私は私の役目を全うする。それがダークエルフ族長の衛兵団員である故に。


 気付けばエルフ族長の元やダークエルフ族長の元など、多方面と関わる。部隊を持たない故に身動きが取れる私は自ずとそうあるべき所へと進む。


 そう、一人で考え。日記をつける中で私に声がかかる。警備もいない、借りた城の中であり、夜の帳が深い異様な空気の重さの中で私は急ぎドアを開けた。


「夜遅くすまない。エルフ族長からの新たな命令だ」


 ドアを開けるとエルフ族の青年が一枚の紙を見せる。伝令だろう。その紙には『王配と共に、決着を見届けろ』とある。そのまま紙は燃え、消え失せた。


「……わかりました」


「朝方、王配殿が迎えに来る。粗相がないようにお願いいたします」


「はい。夜遅くお疲れ様です」


「ええ。お疲れ様です。あの、個人事でお願いしたいんだが……」


「はい、何でしょうか?」


「……これを」


 エルフの青年は一枚のお手紙を取り出す。宛名は姉上であった。それも、一番上の姉上。ワン姉様である。


「……自分でお渡しにならないのですか?」


「私自身も忙しい身で……それに部隊も違いますので。しっかりと渡す機会が」


 仕事の合間には流石に厳しいのだろう。だが……熱意はあるか聞かなければならない。


「……お願い受けとるには数回質問させてください。姉上との関わりはございますか?」


「お手合わせを数回。もちろん、全敗です」


 嘘ではない様子。姉上に迷惑かどうかも考えないといけない。


「……」


「その話を聞かせて貰ったわ!!」


「「!?」」


 大きな声が耳元で響く。その若々しい少女のような無邪気な発声元に私たちが一気に緊張し、心臓が跳ねる。目の前のエルフ族の青年さえ、身が震え声を絞り出す。


「じょ、女王陛下!?」


「そうです。それ以外に誰に見えますか?」


「も、申し訳ありません」


 この辿々しい所を見ると慣れていない事が伺えた。弱々しく見えるがこれが普通の反応である。私も表情に出さないだけでいっぱいいっぱいだ。


「いえいえ、偉くなると勝手に頭を下げられるだけですからねぇ。それよりも、匂いしました。そこの青年からね。一枚絡みましょうか? 恋の匂いです」


「女王陛下!?」


「……」


 私には予想が出来た。タイミングの良さも何もかも。そう女王陛下は退屈されている。なので私は……提案する。


「姉上に手紙を渡す機会がないそうですのでネフィア様。私が提案するのは夢で出会わせると言うのでどうでしょうか? 覗き見になりますが」


「いいんじゃないかな。実際……今のところ数回は振られて脈無しの所でしょうか?」


「な!?」


「……女王陛下はそんな所もわかるのですか?」


「わかります。何故かわかります。不思議ですね」


 エルフの青年には同情する。女王陛下の前では偽ってもダメなのだ。赤裸々な事を暴露されている。私自身が既に見破られている。


「ただ……それでも諦められないと言う想いは伝わります。なので助言をと思いましてね。可能性は0ではなさそうです。少し……そう思えます」


 エルフ青年の顔が明るくなり。そして……真っ直ぐ顔を上げた。


「ありがとうございます。大きな自信と勇気が出ました。手紙は自分の手で渡します。すいません、ご迷惑をかけました」


 唐突な決心に私は首を傾げる。逃げるように女性陛下に一礼しその場を去る彼から視線を変えて私は残された手紙を見た。


「……察して逃げたわね」


「……女王陛下? どういうことです?」


「私が出ると逃げられなくなりそうだからね。サンちゃん。男を見繕ってあげようか?」


「お断りします。既に間に合っております」


「そういうこと言えるのはいいことよ。彼も同じ、そして……あなたのお姉さんはどうかしら?」


「姉様は女王陛下が関わっても流石に靡かないと思います。芯のある姉様ですから……と、思いたいですが。強い男性にはちょっと弱いです」


「エルフ族長が顔を出すかもね。女王陛下が選んだ人としてなら、推されそうよ」


「逆に反対されそうです。お義父様は厳しいです。お義父様が認めてないと……許してはくださらないでしょう。お義父様……今の状況が大好きなのです」


 お義母様が居なかった場合。きっとお義父様は多くの事に自制が効かなくなると私は考える。


「……親がうるさいのね。私にはその経験なかったから……考えもつかなかった……」


 私は深く聞くべきか黙っておくべきか悩む。そのまま飲み込み。恋を押せば押し通せると思っているのだろうと推測した私は女王陛下に問いかける。


「夜食お作りしましょうか?」


「一杯いただこうかしらね。実はお酒を掠めてたんです。マオウの秘蔵っ子」


 非常に女王陛下は不思議な人である。不思議な、なんとも表現しずらい人である。目の上の方なのに人懐っこく、変な人である。







「……頭が痛い」


 情けない。女王陛下と夜を過ごした結果、体調が悪くなった。水瓶の水を飲み干し、魔力と薬を服用し無理矢理に体を整える。王配が来る前に着替えを済ませ、荷物をまとめて出陣準備を行う。ご飯の用意は……今日はない。女王陛下も私も戦闘食で既に準備をしており、そして……私は別動隊である。そう、昨日で女王陛下の護衛の任が解かれており、決着の時が迫っていた。


 右目に触れて感覚を確認。無事、機能は果たせそうだ。記録する。


トントン


「すまない。準備はいいかな?」


「!?」


 壁を叩く音に驚き、私は後ろを振り向く。そこには黒髪の成人男性が冒険者の軽装にマントを羽織り立っており、異様な気配が薄い男性に私は頭を下げる。


「王配殿……申し訳ございません」


「いや、謝るのはこっちだ。女性の寝室に無断で入ったんだ。エルフ族長にバレたらダークエルフ族長につき出され罰金だ。だから、お合い子で黙って置いてほしい」


「……」


 非常に無邪気な悪い事をしている少年のような笑みに私は小さく『はい』と答える。寝坊は許してくれそうだ。


「それに時間はある。マオウが用意してくれた魔方陣を使えばいい」


 そう、王配は言い。立て掛けてある丸めた布を広げた。そこには血塗りの魔方陣が用意されており、マオウの文言が記入されていた。


「ネフィアの血にマオウの術。ネフィアの血は何故か魔力を流すと燃え、魔力を生み。それを糧にマオウの空間をねじ曲げる魔方を発動する。一回きりの使いきりだが……マオウが居なくてもいいのが便利である。弱点は……燃える。一方通行、場所固定。魔力汚染があることかな。これを使う」


「は、はい」


 全く原理が理解出来ない。軽い説明の中に幾重にも重なった術が見て取れる。


「君の準備が出来しだい。庭でこれを広げておく。待ってるよ」


 そう言いながら王配は片付け、そのまま窓から布を投げて窓から飛び降りる。破天荒な姿に女王陛下の姿が重なり。私は『ああ』と溢して納得をした。


 女王陛下の性格形成はやはり王配の影響が見て取れるのだった。








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