二人の旅路..
土の道を歩くと少しずつ温度が下がっている気がして空を見上げた。空は曇り、今にも雪が降りそうな重い雲が漂っている。
この前の教会が嘘のような寒さに息が白い。しかし、そこまで寒さを感じない。それはトキヤが魔法で守ってくれているお陰である。
「雪が降るかな? ワンちゃんどう思う?」
「ワン」
「降るか~」
「今さっきから気になってたが会話できるのか?」
「出来るよ~ワン1回がはい。2回がいいえ」
「へぇ~」
「質問してみる?」
「いいや、何も聞きたいことないな。少しだけ懐かしい古き竜の臭いがするんだ。会ったことあるようなぁ……」
「ワンワン」
「ふーん? そんなことより降るね~」
「雪、降るな」
そう、言っていた通りにゆっくり雪が降りだす。
「あっ本当に雪だ」
「大雪になる。その前に今日は休もう」
道を外れ野宿の準備を行う。雪が大きくなり積もり出した。トキヤが用意した魔方陣の中で私たちは待機する。目の前がどんどん白くなり、歩きにくくなる。
「これは明日、大変だな。ネフィア」
「うん、大変だね」
「………もう少し緊張感を」
「夫が勇者なので無理ですね。頼る」
「勇者じゃない。魔王を倒してない」
「勇敢な騎士の者を勇者と言います。それに倒されましたよ?」
「倒された?」
「ネファリウスは倒され、ネフィアが残りました。後は、こう………押し倒されました」
「ああ、ええっと。あったねぇそういうこと」
「夫婦になる前から体の関係は持ってましたね」
「順序逆だったな」
「いいえ、あれで本当に女になれましたから」
魔方陣の外の雪を眺める。座りながら彼の肩を借りながら。
*
朝起きると魔方陣の外は雪がつもっていた。道までを炎の魔法で溶かし、土道に戻る。雪が深いため、少し困った。歩けない。
「トキヤ、ここで立ち往生?」
「いいや。後ろへ、ネフィア」
トキヤが剣を鞘から抜き、鞘を私は受けとった。そして彼は足を広げ肩に剣を担ぎ、柄の先端と剣の十字の根本を持ち剣先から嵐が纏わせる。
私はその構えを知っている。ある戦場で取得した居合いの技をアレンジした物で大剣でありながら高速の剣筋を産み出す。紫蘭から盗み、会得した彼だけの技術だ。そして剣にエンチャントを行い、嵐を打ち出す準備をする。
「ストームルーラー」
ブゥウウウウン!!
剣を降り下ろし、剣先から嵐が解き放たれる。渦を巻き、雪を巻き上げて突き進み、嵐が去った後には道が出来上がっていた。両脇に高くなった雪壁があり、それを見て満足したトキヤが鞘を受けとり剣を納め肩に担ぎ直す。
「道が真っ直ぐ進んでいればいいな」
「あのぉーもし人がいたら?」
「いないさ、冬に旅なんてしない」
無茶苦茶である。人が巻き込まれてないことを願いながら私たちは道を進んだ。
*
進んだ先で熊の魔物に出会った。3メートル以上の巨体だが、「臭みが強いが美味しいお肉だぁ」と嬉々として二人で倒す。
きっとトキヤの攻撃で冬眠から音で目が覚めてしまったのだろう。やっぱり、魔物なので大きく1日剥ぎ取りで時間をかけ、毛皮と熊の手、肉を手に入れた。肉は血抜き後に皮で丸めた。
臭いはやはりキツく。ドレイクのワンちゃんが嫌がると思っていたのだがそんなことはなかった。ワンちゃんは力持ちであり多くを積んでもびくともしない。魔物の遺体の近くで野宿し、匂いにつられた2匹目の魔物を待つが現れず。次の日に歩き出した。旅は順調である。
「ねぇ~トキヤ。次の都市ってなに?」
「商業都市かな? 砂漠を隔て北に進んだ先にある」
「族長はどなた?」
「魔王かな」
「はい?」
聞いたことがない。全く聞いたことがない。
「中心の商業都市は利益が見込めるため族長同士のいざこざが激しい。誰もまだ上が決まっていない。だから魔王が統べている。そういう建前だ」
「では、どうやって管理を?」
「族長の支配地域があり多種多様、大小様々な族長の派遣した者達が管理している」
「面倒そう」
「まぁ面倒そうだが。暗黙のルールがあるからな。全て金で解決。商人の世界だから簡単だろう?」
「うわぁ………愛がないのですか?」
「愛も金で買える」
「はぁ、もし魔王になったままでしたらすぐに終わらせますね」
「やめとけ。利権が絡みすぎているから。つついたら面倒だ。絶対に纏まることはない」
「魔王って大変そう、絶対なるもんか」と私は思うのだった。
*
雪道を歩いていると開けた場所に出る。もちろん人の手によって開拓された場所で大きな都市が見えた。
高い壁、そして人の出入りの多さ。雪道を歩く人々。誰もトロールの都市へ行く事はなかったが、行商は多いと見る。
「魔国中心の都市。名前はない。中心街っと言われてるぐらいか……」
「魔王城が中心だと思ってた」
「魔王城は奥深い雪ももっと多いと思う地域。北門の道は魔王城へ続く道。東門はトロール。もしくは古の森、ハイエルフ等の森の民。南は砂漠の亞人、スパルタ国。西は自然豊かな妖精国とエルフ族だな」
「…………ん」
「どうした?俺の顔を覗き込んで?」
「詳しい。詳しすぎる」
「一般教養だ。わかるか?」
「バカにしてることはわかった」
「本読んでたんだからわかるだろ?」
読んでた本が違う。
「物語ばっかりでした。それと、あんまり役にたたない」
「へぇ~本を読んでの料理は美味いのに?」
「努力の結果。夫には美味しいもの作って喜んで貰いたいから。ずっとこっそり勉強してたの……トキヤが眠ってる日々で」
「…………なんて言えばいい? 嬉しいけど何を言ったらいいかわからんのだが?」
「好きって言えばいい」
「ちょっと無理かな。簡単に言うもんじゃない。軽く思われるぞ?」
「好き好き好き!! 軽く見える?」
「見えないな~」
「言ってほしいなぁ~」
「さぁ~行こうかワン」
「ワンワン!!」
ワンちゃんがトキヤの肩を噛む。
「くそ!! お前も言えって!? お前……」
「ワン」
「………はぁわかったよ」
「わくわく」
「愛してる」
「愛してます」
「畜生、恥ずかしいなぁ。おい」
都市に向かって歩き出す。私はニコニコとしながら満足しながら。
*
魔城の執務室で自分は唸る。賞金首の情報も何もかもない。しかし、悠長に待ってるほど気も長くない。暗殺は失敗したが現に魔王はいない。ならば宣言すればいいと考え策を用意する。
「トレインさま。完全に見失いましたが替え玉が用意が出来ました」
「そうか、良かろう。これから有力者全員に招待状を送り。来年度、魔城でパーティーを開く」
「畏まりました」
「計画通りなら皆、ひれ伏す筈。我が力でねじ伏せ。魔王から譲位を宣言させる」
「悲願達成ですね」
「そうだ。魔王となる者は魔剣の持ち主だと誰が決めた? 強き者が魔王だ。そして……デーモンの父を越える」
「ええ、その通りです。大母上も喜ばれる事でしょう」
「ああ。それに………もう死んでるかもしれないしな。ははははは!! もっと早くそうしていればよかった!!」
族長に力を示し屈服させるには簡単だ。滅ぼす力を持ち見せればいい。
「服従選ばない者は見つかったか?」
「リストにございます」
「ふむ。では、見せしめはどの種族かな………」
自分は吟味することにする。力を示すならばそれなりに強い者がいい。そして、滅ぼせる力を示せれば魔王になるには簡単だ。




