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刀貨、剣貨


 私は女王陛下のお使い、お仕事の依頼を終え、部屋の机に鋼を転がす。拳大の鋼を掴み女王陛下は笑みを溢す。


「サンちゃん。今から私が行う事を証明してね。その目で」


「……証明ですか?」


「ええ、証明」


「何を行うか教えてください」


「……この鋼に価値をつけようと思う。私が出来る事を考えた。女王陛下である私には位などしかあげられない。そんな物でお腹は満たせない。だけど金や銀を生むこともだめ。多くの持っていた人がお腹を満たせなくなる。だから……技術をね」


「技術ですか?」


「私に剣の精練は出来ないと思っていた。でも違う方法で精練することが出来た。魔法の力で形を変えた。願い、守る切り開く力を込めた剣は女神の聖剣となった」


「……」


 何を言っているかよくわからない。ただ剣を作ろうとしているのはわかった。女王陛下の剣。それは確かに価値のある物になるだろう。お義父様にプレゼントしたら涎を垂らすだろうことは想像に固くない。


「金貨、銀貨は何故お腹が膨れる?」


 女王陛下は私に諭すように問いかける。硬貨を食べてもお腹は満たされない。


「……パンを買えます」


「では、何故パンを買えますか?」


 金貨だから買える。そう、思う。そう、金貨にパンを買えるルールがある。


「ルールです」


「そう、ルール。金貨とパンは等しいと言うルール。だけどそのルールは人との証明、信用があって成り立つ。金貨が希少価値の信用のある金属だからです。誰に渡らない。誰にも手にしにくい金属。価値を付与した昔の商人の偉業の結果です。根本原理は『価値付与』です。パンで綺麗な金属が欲しいと言う願望からです」


「……」


 私は心底驚く。女王陛下は王の道と言う旅を遂行出来る武道派だと聞いていた故に面白い話を聞いた。疑問に思わなかったことであり。お義父様もお義母様の授業では触れて来なかった。まぁ、その授業は基本中の基本の物ではあり。理解できるのはそれがあったからだろう。


「……あなたも身近にあるでしょ。同じ物が」


「……同じ物?」


「その手足はいくら積めば買えるかしら?」


「……売り物じゃないです」


 護るように腕を抱き寄せる。


「そう。値札がない。値札がつけられないほど価値がある。金貨よりも。断って来たでしょう? ずっと、壊れた物も保管し、大切にしている」


「……はい」


 私の手足は名工の逸品。わかる人にはわかるほど素晴らしい物らしい。ただ、私の体の一部だ。売れはしない。壊れた物でも。


「私はあなたの手足ほど価値はないものを作ります。しかし、パンと交換してくれる物を作ります。そして……お試しでちょっと使ってみれください」


「使う?」


「作るのは私の聖剣の紛い物です。そう、魔力の剣」


「魔力の剣」


「詳しい原理はわからない。ですが、真似たら発現します」


 何を言っているかまたわからなくなる。表情に出たのか女王陛下が立ち上がり、スッと右手を差し出す。するとそこに緑色の魔力が集まり、ゆっくりと緑の剣を生み出した。


「聖剣マナ。私に世界を護って欲しいと託された物です。護って欲しいと言うより……世界を壊さないで欲しいと愛していると願ったはずの友の形見です」


「世界樹マナ様ですか?」


「知っているのでしたら早い。その聖剣であり鍵らしい。これは見た通り魔力で形を変える剣です。それを今、模倣しました」


「えっ……もう、出来たのですか?」


 女王陛下の左手に剣の柄がある。柄だけの刀身と鍔がない物だ。それを私の目の前に出す。


「女王陛下?」


「あなたにあげます。試作品です。ちょっと使って見てください。価値を生み出してほしい」


 私は女王陛下からそれを受け取る。グッとくる重さが義足の肩に感じとり、掌に熱を感じとり、その異常な物体を握る。


「受け取りました女王陛下。お聞きします。私に何をお望みですか?」


「……私は自由が少ないです。これからはあなた達の時代です。衛兵としての職務に期待します。あなたには絶対必要でしょうから」


「はい。かしこまりました」


 私は女王陛下から直々に……剣をいただいた。






 使用感をエルフ族長、女王陛下等に報告の義務があるため私は一人夢に潜った。


 一人遊びが出来ると言えばいいほど。個人で技量を極めるにはいい能力だ。私の義手義足を損耗せず、訓練できるために昔から重宝している。


 そんな世界で慣れしたしんだ世界に私は一人……いいえ。姉妹3人の群像が登場する。心中の姉と妹のイチ、ニィ、シィの3人だ。


 その3人と私はいつも技を鍛えた。たまに紛れる本物より……強い。痛みを感じない、死を省みないため強い。


「今回は珍しく武器有りです」


 そう、私は鎧を着れない。義手義足の体では重量は敵である。故に武器も最小の物でやるしかない。義手義足をメイン武器にしてきた。だが、今回は……聖剣がある。


 右手で剣の柄を掴み、私は女王陛下の祝詞を口にする。すると柄から魔力がうねり、黄金色の刀身が現れた。それは太陽のような色合いで鈍く輝き。私の好きなマリーゴールドの花を思い出させる色合いに私自身に対して用意された世界に一本だけの聖剣だと理解できた。


「女王陛下……私にこれほどの施しを……」


 期待に答えられるだろうか?


「……」


 シャン


 剣を振るうと微かに魔力の残滓だろう光が蛍のように舞う。そのまま、指向性を持たせたら剣筋を生めるだろう事がわかる。振った感じでは重さを少し感じるがそれでもナイフぐらいに軽い。


「軽い剣、それでも斬れる?」


 やってみよう。そう思い、私は槍を持つニィを動かす。槍をつき、振り回し、回転する姉の群像に聖剣で対応し弾き、いなし、懐に入る。そのまま、柄を姉に当て……私は発動の祝詞と願いを込める。


「貫けスティンガー……解放」


 その瞬間に柄の先に光る刀身が生まれて姉の鎧を突き抜けて致命傷を生むために切り払う。刀身は魔力の放流によって流動し、それが削るためか切れ味は異常によく。スルッと抜けた。


「……」


 魔力の消費が激しいが、それに伴って力も強くなるので一気に解放すると一撃の剣劇にもなるだろう事がわかった。今度はシィによる自身を触媒にした大魔法を唱えさせ、それを防ぐために刀剣で切り払い。刀身を飛ばすように魔力をイメージし光刃がシィの体を切り落とす。


 隙を付く、刀身からの発生する光刃は魔法を越える事がわかった。使用感が非常に昔から使う訓練の剣のように馴染み出し……大剣を構える最後の群像に対して身構えた。


「……あーあ、結構すごいの貰ったじゃないか。妹よ」


「……夢に入ってきましたね。ワン姉様」


「この世界の奴らは非常に弱い。腕がなまる」


「…………私の心の中の姉様はもっと強いです」


「お前の想像を越える。サン」


「越えて見せてください。お姉様」


 長姉は大剣を使う力強い剣士だ。騎士じゃない。荒々しい剣士だ。その一刀は数倍の大きさの魔物、獣を切り払い。ワイバーンの翼を切り落とす。脚力も昔より遥かに強く。その一刀両断の流儀はトキヤ王配様を彷彿させる。


 一撃で相手より速く切り落とす。全く雑念のない力を私は……越えようと思う。剣の柄を両手で構え、そして……一つ技を思い付く。魔力の刀を生む術が体に染みる。


「……」


「……」


 静かに距離を取り、強く地面を蹴る。一瞬で距離が縮み、大剣が振り下ろされ。私はそれを刀剣に当て、反らせる。折れることのない剣に満足し、左手で柄を握ったまま魔剣の刀身を消す。右手の義手に魔力を乗せる。


「……!? サン!? 新技!?」


「お義母様の神話実現の応用です」


 ゆっくり流れる時にゆっくりと会話を挟み。右手に刃が伸びる。黄金色の剣の身が拳の上に生まれ、それを姉に突き刺す。


「……それはズルくない?」


「次は警戒するので通じません。それに……黒衛兵。国に血も涙も半分捧げてますので」


「妹ながら、怖い怖い」


 私はそのまま姉の体を真っ二つにする。躊躇なく、覚悟をして。







「女王陛下……以上が報告です」


「結論から言わせて貰います…………もうちょっと弱い物か禁術となれる禁断な危なさがございます」


「………」


「女王陛下、申しあげます。禁止です」


 こんな聖剣量産されてたまりますか。






 










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