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エルフ族長の密命


 私たちは新たなエルフ族長の屋敷。夢魔だけの区画のある屋敷の会議室に呼ばれる。そう、解放された夢魔族。私達がインバスから奪った仲間がその場に勢揃いする。


 大小様々、逆に驚くほどの変化を遂げた人もいる。とにかく自己申告で『婬魔です』と言わないとわからないほどに多くの種族の雄雌に擬態している。アラクネになっている子がいるのだから私自身の種族の多様性を感じる。また、異様に綺麗な英魔だったりする。


 だからこそ、諜報には向いている種族だと言うことはお義父様にはすでに見えていたのだろう。密命を持つ事も多い。


「さぁ愛すべき我が娘たちよ」


「グレデンデさま……男もいます。軽はずみな発言で性別『魔王』にさせないでください。さぁ皆さん、お集まりいただきありがとうございます」


「すまない。フィア……」


 お義父様は笑みでヘラヘラとして締まりがない。スイッチが入ってないからなんだと私は知っている。お義父様の姿を間近で見てきた私だからこそわかる事だった。そう……夢魔に囲まれて喜んでいる。


「では、気を取り直し。先ずは婬魔である君たちの役割を伝える」


「娼婦ですか? わくわくしますね」


 私の隣にいる異常に男を食いそうな雰囲気を醸し出す下半身が蛇の婬魔が舌を出しては恍惚な表情でお義父様の言葉を遮る。赤い瞳に赤い髪でその世界では人気な人と言うのは知っている。婬魔らしいと言えば婬魔らしい。


「個人的にお仕事としてやってくれ……違う違う」


「あら、残念。お安くしますわ。族長」


「ぶっとばすぞ。ナナナ」


「お義母さん!! 炎が漏れてる漏れてる!!」


 イチ姉様がお義母様を取り押さえる。ナナナと言う名前の私の妹に当たる子は笑顔でお義母様を見守っている。悪戯しただけ。過剰な反応を楽しそうにして静かに席に座る。そして……頭に彼女の声が届く。


「サン姉様……面白いですね。お義母様は」


「死ぬ一歩手前ですよ。気をつけて、いじってください」


「はい。でっ……何の話なんですかね」


「私たちの任務。するべき事」


「堅苦しいのは嫌よ」


「……私は背筋が冷えて、震えてます」


「サン姉様?」


「……これから起こることは……私たちに深い釘が打ち込まれると思います」


「姉様は何を見たんですか?」


「ネフィア女王陛下、その人」


「………身震いしてきた」


 彼女は真剣な表情になり、静かに任務内容に耳を傾ける。察する能力はあったのだろう。彼女の蛇の尻尾が震えていた。







 エルフ族長のお義父様の話は中々長く難しい。なのでお義母様が夢を伝って絵として伝えてくれる。非常に分かりやすく。何をすればいいのかを各自理解し、お義父様の説明が終わった。夢繋がりの連絡係と女王陛下の模倣が主な仕事になる。


 しかし、重要なのはそこではなかった。


「……では、婬魔、夢魔として君たちに私から依頼がある。全て見る。記し、覚え、遺す」


 お義母様が首を傾げて返答する。


「全てとは?」


「ネフィア女王陛下の行う事全てだ。君たちも知っている。夢魔、婬魔の恐ろしい可能性を現実で目の当たりする。私がゆっくりとゆっくりと育てた花が咲き乱れる所を私たちの手で歴史として遺す」


「……グレデンデ?」


 お義父様の表情が変わる。恐ろしい姿、背中に何かを飼っている気配に予想が当たった事を意味していた。


「我々が従っている者が一体なんなのか。夢魔、婬魔が何故……迫害を受けるかの一端を……いや。真実を見ることが出来る。君たちにも女王陛下の足元ぐらいにはなれる可能性があったこと。そして、それを私は摘んだ」


 演説するようにお義父様は語る。皆の顔は怖いだ。


「そうだ。皆の表情を見て核心を持つことが出来る。そう、女王陛下は『怖い』のだ。今の女王陛下の恐ろしい所を見て残し、広めるために君たちが最適なのだ。だから、終わったあと。紙を渡す。事細かに状況を記すことを課す。以上だ」


「……グレデンデ……ネフィア女王陛下はいったいなんなんですか?」


 そう、お義母様の問いは正しい。私たちは女王陛下を夢魔解放した英魔、英雄の一人と考えている。お義母様も尊敬している。


「君たちには言っておこう。夢魔の力を強くしたのは他でもない私たちの力なのだと。それの力の最上が女王陛下だ。問う、フィア……この首都イヴァリースを焼け野原にする事ができるか?」


「女王陛下がいる限り無理です……でも……」


「そう。皆も理解したか?」


 ざわつく、無性に喉が乾く。私は私の義手を握る。恐ろしい。恐ろしすぎる。


「女王陛下一人で皆が出来ると信じた結果。女王陛下一人で出来るのだよ。英魔が信じた結果な。全て解決出来ると信じた結果。女王陛下にはそのような能力が身に付いた。劇場の上に立っている主役じゃぁない。脚本家でもない。しかし、全て終わらせる事が出来る者なのだよ。我々は身近にそんなのが居る。忘れている。故に残そう。忘れるなと。今回はその女王陛下の恐ろしさを見る機会だ……心して見よ」


 私は義手で隣のナナナの手に触れる。そして、感触はないが強いギチギチ音で握った事が分かり、顔を向けた。今さっきまでつまらなそうにしていた彼女だったが今は自分自身を恐れていた。


「安心して、ナナナは悪い子じゃない。大丈夫、私はサン。私は私。あなたはあなた。その姿はあなたの望み」


「ありがとう。サン姉様……自分を見失う所だった」


 私は周りの子達にも声をかける。婬魔は影響を受けやすい。だからこそ、見失ってはいけない。


「サン姉様はなんでお強いんですか?」


 一人の妹が質問を投げ掛ける。


「……愛してる人がいます。強い意思です」


 私はそうやって自己を確固たる物にした。お義父様の言葉は疑わない私たちに大きな大きな物を伝えてくれた。そして私たちは……胸を張れるようになる。夢魔は素晴らしい種族であると自信をもって。
















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