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命令


 私は四肢がない。右目もない。作り物の手足と右目で飾られたのが私である。しかし、私に奇異な目を向けた時代は終わった。


 もっと奇異な人々が城に女王の命令によって集まっている。ゆえに私の姿など気にもしない。手の数さえ多い者もいる。しかし、そんな中で一人の黒いエルフが私を見つけ近寄ってくる。


「君は……サンさん、じゃないか? 久しぶり」


「ダークエルフ族長様、お久しぶりでございます」


「ああ、元気だったか?」


「はい、お元気です。族長殿」


「君の報告書は読ませて貰っている。色々、巻き込まれもするが衛兵として素晴らしい仕事振りだ。なるほど……私のお願いを断り、グレデンデ義兄さん側で参加か」


「申し訳ございません。家族を取りました」


「いや、いい。わかっている。しかし、衛兵としても責務を全うしろ。わかったな」


「はい、衛兵団長殿」


 そう、彼は最上官になる。私は姉妹の皆とは違い。黒衛と言う衛兵団の中でも特殊な部類の所属になる。


 ほとんどが冒険者や行商、個人で仕事を行いながら。知り得た情報を衛兵団に報告する義務。魔国衛兵法に基づきダークエルフ族長直属で個人裁量権を持つ。


 その場所で己の信じる正義を応援するための組織だ。中には似た物に黒衛兵と言う化物もいる。そう、私は人探しのために……ダークエルフ族長の元に入ったのだ。冒険者として路金を欲しがるために。


「探し人は見つかったかい?」


「いいえ……まだ見つかってはおりません。残り香も」


「完全に消しているか。夢魔として追えもしないのなら……全力で隠れているのかな? それなら生きている確率のが高い」


「はい、応援していただきありがとうございます」


 優しい応援の仕方だ。


「ああ、そうだな。別部隊だが……君の活躍に期待してるよ情報屋としてね」


「ありがとうございます」


「では、向かいましょう」


 私は頭を下げる。そしてそのまま上官と共に王宮の謁見の間へと向かう。ダークエルフ族長は護衛もつけず、通路を進み。新たな王の間へと進んだ。


 英魔人と会う事が多く。先を行くダークエルフ族長に声をかける衛兵たちで歩を止めて話をする。私はそのまま王の間へと進み、大きな開け放たれた扉を潜った。既に姉妹3人は集まっており。彼女の周りに数人の部下に囲まれていた。


 姉妹の顔は仕事をする顔で真面目に話をしている。私は一人、王の間を眺めた。


 戴冠式が行われた王の間は入りきらないため、他の大広間に改修されたらしい。その中で整列せずに立ち話をする英魔国の精鋭たちの数は多く。その精鋭を吹き抜けの窓から差し込む陽光が優しく撫でていた。


 王の間には椅子がなく。理由は女王陛下が椅子を切った話から、玉座はないと聞く。椅子がないので立ちっぱなしだが。その結果、話は短くなるとも聞いている。


「……」


 私は周りを見続け、集まった人々の本質を考える。多種多様。果てには私たちを迫害していた悪魔の者さえいる。悪魔の者が私のワン姉様に頭を下げている。部下なのだろう。そういう光景は……エルフ族長と私の育てて下さった先生の語った夢の片鱗に思え、胸が暖かくなる。一人の英魔族として。


「しぇんせぇい……見ていますか……陽が満ちてます」


 育ててくれたこの世界の何処かにいる恩師に問いかける。その人の残した義手を撫でながら。


「女王陛下が来る。道を開けてくれ」


 風が吹き抜けたと感じた時、声が耳元に届く。魔力を感じる声の主に心当たりがあり。私は振り向いて道を譲る。王の間に訪れた静寂に、皆も同じように扉の方を向く。そこには王配がおり、そのまま後ろの人物に道を譲った。


 王配の背後には私と同じ金髪に同じ顔の女性が立っており。紫の瞳と茜色か赤色か、色が変わったと思ったら紫の瞳に戻っているオッドアイに黒いドレスのような鎧を身につけてゆっくりと歩く。その表情は固く。そして……揺れる長い髪に撫でられた白翼から小さな火の粉が舞い。消えていく。


 これが女王陛下、これが英魔国の王。そして……族長を束ねる者の姿だった。悪魔、天使、人間のような姿形が不思議な夢魔の最上位。私や姉妹のモデルとなった『本物』が登場する。


「……」


 王の間に緊張が重くのし掛かる。女王陛下一人の登場でここまで手足が痺れるのかと私は驚いた。


 跪く事さえ出来ない。全員が糸で引っ張られるように動かず。そのまま女王陛下は王の間……一つ二つも高い壇上へと上がり、真剣な表情で私たちを見続け……口を開く。


「皆の者、ありがとう。集まっていただいた事に感謝する」


 誰かが唾を飲む音が響いた。第一声に心臓が縮む。何故ならいつもの女王陛下の柔らかい雰囲気が全くないのだ。重々しい圧力が空間を支配する。


「知っての通り……私は異世界へ行ってきた。私は異世界で冒険をした。


 優しい者が住んで触れてきた。豪快な者と戦った。優しい女神がいた。優しい魔王もいた。しかし、世界は私のような外の者が多く……世界を荒らし。世界を我が物のようにしていた。


 誰もかも、治めることもなく。ゆっくりと虐げられる者が増えていく世界がそこにはあった。女神の信仰もなく。ただただゆっくりと衰退していく世界だった。


 心優しい魔王では治めるには力が足りなかった。故に諸君らが集められた理由は伝えられているだろう。


 わかるだろう……何をするか。何故、我々は英魔族として集まれたか。わかるだろう?


 そう、外敵。蹂躙しようとする悪の存在が居たからだ。我々は一致団結し、それを打ち返した結果。肩を並べる事が出来た。同じ机で同じ料理を口にする事が出来た。


 そう、私は同じ事をしようとしている。あの都市を蹂躙した帝国のように。私は私の手で異世界を炎を落とす。


 それは多くの者を殺める大罪である。諸君らはそれを知って集まって貰っていると私は聞いている。


 故に命じる。我がネフィア・ネロリリスの剣となれ盾となれ魔法となれ。道具は心を持っても自身では動かない!! 使われてこそ意味がある物になれ!!


 その大罪は私の独断、蛮行による強制命令、指令、法である。道具となり、私を最高最悪の悪役に押し上げ異世界を蹂躙だ。


 心が痛む事はない。悪いのは道具を使う私なのだから。


 諸君、どうだ!! 最後の質問、逃げ道だ。それでも嫌ならここから去れ」


 王の間に少しばかりの静寂が訪れる。去るものは誰一人いない。


「良かろう!! 剣たち、魔法たち、道具たち、演者たち!! 戦争だ!! 戦争だ!! 戦争だ!!


 私が描く、台本を立派に演じて見せよ!! 


 異世界の劇場を私色に黒く染めあげよ!!


 劇場でネフィア・ネロリリスの名前を歌い!! 叫び!! 恐怖を演じよ!!


 我は夢魔!! 悪夢を創造する悪魔なり!!


 眠る機械仕掛けの女神の目を悪夢で醒ましてやれ!!


 私が喜ぶ名演を!! 私が望む名演を!! 私が望む炎を!!

 

 見せてくれ!! 道具の英魔族諸君!! 精鋭諸君!! 英雄諸君!! 英魔黒を護りしのその力を下らない劇で私と共に無駄にしようぞ!! さぁ!!」


 ネフィア・ネロリリス様は大きく口を歪ませて狂気を含んだ笑みで囁く。


「グランギニョルの開演だ、行け」


 私たちは底冷えする中で、狂気を含んだ言い回しに体が熱を持つ。伝播する狂気に駆られれた英魔たちが糸が切れた人形のように動き出す。エルフ族長の声が響く。


「女王陛下の命令が下った。長クラスは会議室へ!! その他の者は門へ急げ!!」


「食糧は?」


「現地だ」


 ざわざわと女王陛下の目の前で動き出す我々、その中で私は再度女王陛下の方を向き、目が合う。その表情の唇は少し緩む。そして……耳元で囁き声が聞こえた。


「あなたがサンちゃんね……」


 口を動かず。頭に囁き声が直接入ってきたのだ。


「はい」


 私は口を開く。やり方がわからないのだ。


「……夢魔同士なら。口を開かなくても伝えられるみたいね。繋がっている。ありがとう……試しただけよ。それに寂しく目をしている」


 私は耳を触る。本当に聞こえてくる。優しい声で。


「……」


「逢いたい人がいる目。残念ながら今は忙しい。ごめんなさい」


 女王陛下は私の肩を叩き、そのままゆっくりその場を去る。一人で……何処かへと。そして、宝石の目を触る。焼き付いた女王陛下の肖像画が新しく上書きされた。


 これが本物だと。私は覚える。







 




 






 









 





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