二人だけの結び目..
昨日。ドレイクを手に入れた。そして今日はそのドレイクに荷物を乗せる。2つ足のドレイクは乗るのにはいいが荷物を持つのはちょっと少ない。しかし、二人だけである事と水は用意しなくていいので少ない荷物で旅をすることができた。
「ワンちゃん。重い?」
「………」ブル!!
首を横に振る。言葉を少なからず理解をしてくれて、頭がいい子だ。私は頭を撫でトキヤは支度を行う。本当に大人しくなったドレイクの手綱は私が持つことにした。今ではすっかり従順である。
「よし!! 出来た。これで荷物は終わり」
「それじゃぁ行きましょう」
馬舎を出た後に北西へ向かい。中央の砂漠は避け、魔国最大の城壁がある都市へ向かう予定である。
「トロール族長に挨拶して行こうかな?」
「それがいい。またここを通るしな。珍しくお前を拒絶しない族長だからなぁ……」
「そっか、唯一かもしれないね」
自分達は彼ら夫婦の家を教えてもらい。向かう途中の道で出会う。
「こんにちは」
「こんにちは~族長さん少しいいでしょうか?」
「ン? オデ、タチニナンノヨウダ?」
「なんでしょうか。ネフィアさん」
彼等は魔王とは呼ばない。私の名前で呼んでくれた。
「ええ、これから北西へ行きます。その前にご挨拶をと思いまして」
「そうですか。わざわざ………」
「オデ、オウエンスル」
「はい、私も応援します」
「ありがとう、頑張ってきます‼」
「ミオクル」
そう言って、彼等は北門まで話をしながら向かい。北門で手を振って別れるのだった。トロール族は優しい種族だと心に刻んだ。
*
ドレイクの手綱を引きながら、北西の都市を目指す。農場から大きな森に変わり。土の商路の途中で魔物の気配があれば狩り取る予定だった。そんな中で私は歩むのを止める。「こっち…………」と言う導く声を聞いた。
「んっ!?」
「どうした。ネフィア?」
「声が聞こえた」
私は微かに声を聞いた。聞いたことのある声。何処で聞いたかを思い出そうとする。覚えている筈なのに思い出せない。一瞬だったから難しい。
「トキヤ。道外れてもいい?」
「大丈夫だ。戻ってこれるようにする」
地面に魔方陣を描いて目印にした後。声した方へ草を燃やしながら進んだ。
「ネフィア、声を聞いたと言ってたいたけど俺には聞こえなかった」
「聞こえなかったの? 『こっち』て………」
「ミミックとかの魔物の囁き? しかし、周囲を見ても………ん?」
トキヤが魔法で周囲を確認し、何かを見つけたようだ。
「トキヤ?」
「見つけた。あるな、確かに」
舗装された土道を外れて深く森を進む。すると小さな森が開けた場所に出た。そこで私たちは崩れた教会を目にする。崩れた壁以外何もない。ただそこに蔦等で絡まった教会が鎮座していた。
「教会かぁ………昔、人間がここまで勢力を広げていたのだろう。この近くに集落もあったかもしれないが今は廃墟だろうな。魔物が跋扈する前の時代だな」
「そうなんだ…………ワンちゃんここで待っていてね」
「ワン!!」
私は手綱を手放して教会に近付いた。壊れ、朽ちた扉を開け中を覗く。至るところ石畳みは朽ち草が芽生えており、蔦が教会を支えているのが分かった。割れかけたステンドグラス、朽ちた屋根の隙間から太陽が降り注ぐ。
廃墟特有のもの悲しい雰囲気だが、草などが芽吹き彩り、所々花が咲いて綺麗さも感じる。冬だけどこの辺りは温暖な地域なのだろうと思う。いや、教会がハウスになっているのかもしれない。
「教会だね………なんの神を崇めていたのだろうね?」
「ステンドグラスを見ると普通の女神だな」
「そっか」
「ネフィア? こら!! 中は危ないぞ‼」
「そこで待ってて」
私は声の主を思い出し教会の中へと歩を進める。周りは朽ちて折れた椅子などが散乱し、蔦が絡まり花を咲かせていた。教会の中心で膝をついて手を合わせ。目を閉じる。
「私のような、悪魔、婬魔に勇気と愛を教えていただきありがとうございます」
祈りを捧げるのは私にこの愛を信じることの助言をくれた名も無き神に祈りを捧げる。すると背後で物音がする。目を開け振り向くとトキヤが笑っていた。
「女神にお祈りとは殊勝な聖職者だな」
「はい、いつもいつも幸せを噛み締めていますから」
「そうか………」
トキヤが膝をつき、胸のロケットペンタンドを握りしめて目を閉じる。
「殊勝なる彼女に祝福があらんことを」
「トキヤ…………」
「人間の神とは決別したが。お前の言う女神には祈りを捧げよう」
「それでも、願ってるのは私の事なんだね」
「ああ、もちろん。今日は冬なのに暖かいな」
「はい……何ででしょうね?」
「太陽が出ているからかな?」
私のたちは立ち上がる。風もない日。教会の割れ目から見える穏やかな空。
「ネフィア、奇跡を信じるか?」
「今が奇跡です。私があなたに出逢えた事が奇跡です」
彼を見つめる。すると皮手を外し私の頬を撫でる彼。その手の上に私は自分の手を重ねる。もちろん鎧の籠手を外し、中の白い手袋も外して重ねた。見つめあって数分。彼の目付きが変わる。
「本当に綺麗な女になったな」
「へへ………女の方が幸せですね」
「なら、ちょうどいいな。教会だし」
頬から手を離し、彼が私に向いて跪く。
「ネフィア、君は太陽のように綺麗な女性である」
「と、トキヤ? どうしたの?」
「優しく。暖かく。そしてそれを自分は昔から知っている気がする」
「えっと………恥ずかしい言葉を並べてるけど大丈夫?」
「ああ、大丈夫。ネフィア、これを」
「!?」
彼が、小さな箱を取りだし私に捧げる。見たことのある箱。中身を私は知っている。私は口を押さえた。
「ネフィア、愛してる」
真っ直ぐ、私を見て。彼は短く言葉を付け加えた。私は震える手で箱を受け取り中身を見る。願った。旅が終わったら聞いてみようと思っていた物。それがここで手に収まる。
「……………うぅ」
開けて中を確認すると。赤い小さな宝石のはめられた指輪がある。赤いガーネットが太陽の光で輝いていた。見た瞬間、目の前がまた、濡れている。
「トキヤぁ………うれしい……」
「………」
「ごめん。嬉しいのに涙が出ちゃう………」
「答えを聞きたい」
トキヤが立ち上がる。真っ直ぐ私の言葉を待っている。答えは決まっている。
「受け取ります………」
「よかった。手を拝借」
彼が箱を取り指輪を出す。私の左手の薬指に嵌めてくれる。その後、指輪に彼がキスをし、宣言する。涙を拭い言葉を聞く。
「騎士として護りきることを誓います」
「騎士としてですか? ダメです」
「…………では、何を誓えばいい?」
「一生、私を妻として愛すことを誓って下さい。最後に怖じ気ないで」
「………ネフィアを自分の妻とし一生愛することを誓います」
「私も、トキヤと言う騎士を夫として一生愛すことを誓います」
宣言の後、彼が強く私を抱き寄せる。力強い包容。そして、私はわかっていたから目を閉じて彼に委ねる。唇に誓いを結ぶ。何分そうしていただろうか………私の頬に一筋の涙が乾くまでそうしていた。離れたあと。私は微笑みを自分の夫に向けた。
「これからもよろしく」
「ああ、こちらこそ。長い時間よろしく」
「………あーあ、どうしよう」
「どうした?」
「魔王城行く理由、半分なくなちゃった」
「何かあるか分からないから告白したんだけど。魔王城と何が関係が?」
「私……終わったら告白しようと思ったの。でも嬉しい」
「そうだったのか。それより、ええっと本当に俺でいいの?」
「トキヤこそ。私以外と想像できる?」
「できない」
「私も、トキヤ以外と想像できない。もっと自分を信じて私だけの旦那さま」
「…………途端に恥ずかしくなったなぁ」
チャリン!!
「ん?」
足元から音が聞こえた。見ると小さなメダルが落ちている。今さっきは無かった物。祈りを捧げる女性が彫られている。裏面にはエメリアと書かれていた。
「これ、今さっきあった?」
「いいや。無かったはずだ」
「………神様がくださったんだ」
「そんなバカな」
「そうだよ、きっと…………私たち今日、夫婦になりました。導きくださりありがとうございます」
「本当に居るのか女神が?」
トキヤはまだ疑っていたが私にはしっかり見守ってくれていることを肌で感じていた。女神は存在している。そして、私はその方に感謝するのだった。




