魔王としての決断
私は理解が出来ない皆に私の考えを伝えるために珍しく舌を動かす。
「向こうの世界はまだ一つになっておらず。このままでは勇者、異世界からの者に荒らされ続けると思います。一旦、世界を一つにまとめるために手を打たないといけません」
「それで女王陛下が魔王になると言う意味はどういう事でしょうか?」
エルフ族長が察しているだろうに私に問いかける。聞きたいのだろう。私の声で。そういうのは答えてあげなければ兵を出してはくれないだろう。
「私が、異世界の魔王となり。悪逆非道を行います」
「ネフィアさん!? それは!!」
「マオウ、静かに。あなたがやろうとしてやりきれなかった事よ。なお、あなたがやった事は治世であり。悪逆無道には情があり。そして……手段がダメだった」
マオウは情けない顔をする。優しい魔王に私は笑みを浮かべる。いい人だと思えるのだ。
「しかし……それでは……」
「それでは私が悪役になると? 悪役でいいじゃない。劇場で一番主人公を輝かせるのは悪役の存在です。異世界と言う劇場で私は悪役を演じます。主人公はあなたの考えた通りよ」
ヒロイン、主人公はもちろん彼女だ。
「私はこれから……多くの人を殺める。それをあなたは黙って見ていく。それで二人とも悪役です。同じ罪を背負いましょう」
「……ネフィア様がそのような事は……私が行えば……その後にネフィア様が治めれば……」
「それで彼女を幸せに出来る? 出来ないでしょう」
「ネフィア……おまえなぁ……全く……大変な事を」
「あら、トキヤさん。察してくれるの?」
「わかった。おまえ一人に背負わせる気はしない。マオウ……諦めろ。ここではお前は命令される側だ」
トキヤが察して、マオウに釘を刺す。ここでは負けるぞと言う事を匂わせて。
「そんな、それでは……それでは……」
「トキヤと二人で出来る事が少ない。エルフ族長、ダークエルフ族長。兵は借りれるかしら?」
「女王陛下、一つ願いを叶えていただければ」
「……私も褒美をいただければ。それに抜け駆けは許されてないでしょう」
「ここの4人が集まった。マオウ、私はやるよ」
強い意思を示し、私は立ち上がる。
「……まぁ、少しは罪悪感あるけど。些細なこと。エルフ族長とダークエルフ族長は兵を私の元へ呼んでほしい」
「「はい」」
「トキヤ、他の族長に話を持っていける?」
「呼び出しの手紙か? 代筆しよう」
そう、言いながら執務室へ向かった。
*
彼女はワガママで、そして自由でありながら、自由でもなく。女性らしい所があると思えば……私より男らしい雰囲気を持つ。時に鋭い表情をし、表裏があるようで私より若輩でありながら……信を得ている姿に驚きを隠せずにいた。
そんな彼女は今は身を綺麗にし、一仕事前の夜を涼んでいた。寝付けない私が城を練り歩く事を許されており、廊下のベランダでただずむ異世界の魔王の姿は勇敢な男と言うより姫である。
ベランダの外は明るく。街灯が都市を照らしていた。変わった街灯たちに私は暖かい色の光に発展する兆しを見る。
「ネフィアさん……ここで何を?」
「私は寝付けないので少し風を……あら、マオウも散歩?」
「はい……胸騒ぎします」
「そうですよね。私もです。初めて魔王として兵を召集しての特殊な作戦です」
「聞けば一度、兵を率いて戦争をと聞いていましたが?」
「人間と正面からの防衛戦を……ただあれは皆の勝利です。今回のは少し事情が違います。特殊です」
「謙虚ですね」
「私一人の出来る事は限られてますからね」
そう、謙虚である。我の強い人が多い中でこれだけの物を自由に出来る筈であるのにも関わらず。私利私欲に富を独占しない。
「少し……ネフィアさんの魔王は違った物の気がします」
「いえ、魔王です。ただし、信任を得ての魔王です。力をもった9人の信任の上で私が座っています。歴代は力でしたが……いえ。私も力ですね。まぁそれもこれからの歴史書が決めるでしょう」
「……ネフィアさんの魔王像お聞きしてもよろしいでしょうか?」
私は気になる。アンジュが信頼を寄せた方の魔王とはなにかと。
「あんまりいい答えじゃないよ」
「そんなことは……」
「では、そうね。魔王には多くの意味を含んでると私は思う」
「その意味は?」
「………わからない。ただ、私は婬魔。皆の好みの魔王を演じるだけです。ただ、一つだけ言うなら……私は私であり。私である。私は今は……最後の決断を託されてる」
「最後の決断?」
「そう、結局……決める事が出来ないと停滞する。先延ばしも決断しなくちゃいけない。それを託されてる。そんな気がする」
私に取って耳の痛い言葉だった。決断……
「先延ばしも悪くないけど。時間で解決は出来なかったようね」
「………申し訳ないですね。アンジュには」
「なら、彼女をあなたの手で幸せにしてあげなさい。私ではなく。あなたの手で」
ネフィアさんは満足した表情で廊下を歩き寝室へ向かう。そこにトキヤ殿が立ち迎えに来ていた。
「ネフィア、夜食食うか?」
「食べるぅ」
彼らの背中を見ながら、星を見上げたが都市の明るさで見えなくなっており大きい大きい星だけが目に止まる。夜中でも明るい光景に私は目指すべき模範と思いながら決断力を養おうと決めたのだった。




