異世界転移
私は……3メートルぐらいの小さな穴を覗く。中は綺麗な清水が満たされて水面を描き、綺麗に光を乱反射させる。
「マオウ……これは?」
綺麗なドレスを着せて貰った私は紳士服……いいえ。魔法使いなのに軽装の騎士服を着たマオウに声をかける。
「向こうとこちらの世界を繋ぐ道です。行きましょう」
マオウが私の小柄な体を持ち上げて姫様だっこをする。慌てる私に彼は暴れないと窘められ私はそっぽ向く。
「はぁ、わがままはこれだけにしてください。見た目に比べて重いですね」
「ぶっとばすわよ」
「……それはごめんなさい。では、行きます」
彼がそう言うとスッと穴に落ちる。ドブンと水に入ったような感触があった。だが濡れず……そして落ちていく中で真下に明るい日の光を出す穴に入り込んだ。そして……静かに地面に着地する。幾多の花の舞う、草原……いいえ。花野に私たちは降り立った。地面は煉瓦が敷き詰められており……私たちが降りれるようになっている場所として整備されている。
「到着です」
「えっ……」
私は彼からおろしてもらい。目の前を見る……大きいお城と大きい影を作る浮いた島々。私が見た何処よりも大きい都市郡に嘆息が漏れる。
「行商の列に並んで行きましょう。飛ぶのはご法度です。罰金を課せられます。アンジュいいですね?」
「……」
「アンジュ?」
「綺麗……」
私はそれだけを溢し、彼の手を取る。溢れでる活気を感じながらそれだけを見ていた。花野の都市に私はゆっくりと歩む。
「ええ、花野が増えているらしいですね。それはそれで環境問題なそうです」
「……詳しい」
「詳しいですよ。あなたが寝ている二月もの間、行き来していました。帰りはあの城の中に道があります。私に取って最上位の同盟国です」
「お姉さんはあの城に?」
私は指を差す。だが、彼は首を振った。私の手を優しく動かし浮いている島々を差す。
「あの、鎖で風に流れないように留めている聖域に彼女の居城があります。そこまでは飛ばないと行けませんが許可をいただきます」
「すぐに行けば……」
「いいえ。法の世界ですので。女王も裁かれるらしいですね」
「……変わった話ですね」
「ええ。結構、女王が禁止令は面白い読み物でしたよ。だいたい事件起きてますからね。賭け事と賭け場への出入り禁止などですね」
「生きづらそう……」
「上に立つとはそう言う事ですね。孤独なのですよ……そして。だが、どの王も独裁者も伴侶は居ます。そういる」
「………」
彼の顔が見れない。少し熱っぽい。彼、こんなだっただろうか?
「行きますよ。アンジュ」
「は、はい!!」
「まぁ、急ぐ事はないです。今日は夕刻まで忙しいらしいので」
「夕刻?」
「ええ、それまでお時間を潰しましょう」
私は不安を他所に彼は満面の笑みで歩きだした。私はそのまま彼についていき、行商の並びから。都市へ向かう。道は広く、接触せずに歩け。そして……異様な姿の人々に不思議になる。衛兵の姿もあり、そして……都市の壁がそれが家などの建物の壁なのに気が付き私は背筋が冷える。
「えっ……城壁じゃない」
「そう。城壁設ける暇がないらしいです。なので自警団がおりまして、魔物への警戒を日夜やっておりますね。まぁそのお陰かどんどん大きくなっていっているようです。ここの都市の衛兵は強いらしいですね」
不思議だった。生き物のように成長している。そして……空には多くの種族が舞っており。騒がしい。
「こんな世界があるんですね」
「こんな異世界があるのです。首都ですし」
変わった姿の種族が多い中で多くの出店が見えてくる。商業区なのかお店が多くなって行く。鼻をつく調味料の焼ける匂いなどで私は素直にお腹を鳴らした。
「あれ……なんで私はお腹が減るの?」
「減るようになったのでしょう。何処かお店入りましょう。そうですね……何がいいでしょうかね」
「……えっと」
何があるかを知らない。ただ、色んなのがあるのはわかる。串で刺さった物が多い。
「では、私の好きな場所へ行きましょう」
「好きな場所?」
「魔物肉を焼いているお店です」
私は彼の言われるまま、彼の行きつけのお店へ行く。そして……私の語彙力は『美味しい』しかなくなってしまったのだった。特に魔物の肋の内側肉は甘く、感触も良かった。
*
「……あれ?」
私は壁の中、都市内へと入っていった。観光客が多く、観光客向けの施設などがあり……そして宝石店もある。
「アンジュどうした?」
「いえ……その……なんでもないです」
「……気になるかい?」
「い、いえ……その……はい。綺麗な陽の宝石だなと思いました」
どうのような技術かわからないが綺麗なガラスの店内に飾られていた首飾りに目を奪われた。それはまるでお慕いする人を現すかのような色をしている。
「あれは……アクアマリンか……」
「えっ? でも色が」
「人の魔力で変化した者だよ。模造品なのかしらないが……魔王の首飾りもアクアマリンだ」
「あっ知ってます。買って貰ったのですよね」
「そう、あそこまで大事にしてて他の宝石に興味を示さないらしい。賄賂が効かないってことだな」
「……お姉さん。言ってました。思い出の宝は私だけの物って」
「そうですね。思い出は時に宝石のような輝きを持ちますね」
「マオウはあるの?」
「……あと数年後。この日がそうなる事を願ってます」
私は気恥ずかしくなり顔を下げる。この人、こんなロマンチックだったかなと記憶を探る。
「アンジュ、行きましょう。空港から空行許可を貰いに」
「はい」
本当にマオウは変わった。昔の自信無さげな姿は全くなく。堂々として……私の手を引くのだ。
*
空行許可をいただき。浮かぶ島に向かう。ドラゴンの背に乗って向かう。島々の名前はネフィアの聖域と言い。女神を倒し占領した物らしく。天使の居住者のみ認めらており。そして……
「ちょっと避けましょう。来ます」
「えっ何が?」
「患者が」
ブォオオン!!
暴風と共に天使とドラゴンが通りすがる。空飛ぶ人々が避け、その道を天使が飛んで行く。
「あれ、なんですか? マオウ?」
「救急搬送です。あの島々に緊急病院があるらしく、大ケガや緊急な病気などで空から行くらしいです。道は……人が多くて通れないですから。いい案です」
そういえばそうだ。ここへ来るまでも人は多かった。そして……時たま連れ拐われていた。納得した。
「彼らは怪我したら『天使呼べ』と口にするらしいですね。すごく重労働らしいです」
「わざわざ、大きい人をもって上がるんですものね」
「まぁ、お陰でこの都市は非常に暮らしやすいとも言われてます。では……また衛兵です」
「ええ、またぁ?」
これで何回目の検閲だろうか? 城壁に入る前に一回。空行許可で一回。そして……これで一回。3回も身分を示せと言われてる。そして毎回ギルドカードを見せるのだ。ある、白い建物。宮殿がある島の発着場に降り立ち……軽装の女性衛兵一人に詰問される。衛兵はなんと……天使だった。いや……悪魔? 捻れた角もある。そして……すごく。
「ネフィア姉さんに似てる……」
「何奴? 空行許可と身分のわかるものを」
ドラゴンから降り、マオウが手続きを行う。招待状を見せて天使なのか悪魔なのかわからない女性が満面の笑みで案内してくれた。小さな島の小さな別荘のような場所で数人のまたネフィア姉さんに似た人に会いながら不気味になっていく。
「ぜ、全員親族ですか?」
「あっ……私達ですか? 親族とは言い難いですが同じ種族です」
「……婬魔?」
「はい」
どうなってるのか私にはわからない。だが、大変な事が起きている事を理解する。
「アンジュも驚きますよねぇ」
マオウが微笑む。『私も驚いたんだと』言う顔に私も驚いたという反応を楽しむように。
「……どうしてです?」
「彼女らのご主人が女王であり、エルフ族長と言う変人だからさ」
「それが理由?」
「そう、婬魔と言うのは『姿形をその人の好みに変える能力』がある。彼女たちは女王に憧れ、好み。エルフ族長は女王に憧れ、好み。婬魔をこよなく好み。結果、似てしまったんだ」
「間違えそう」
「絶対に間違える。まぁ影武者でもあるから都合もいいのでしょう」
なんとも言えない、深く関わってはいけない気持ちを持ちつつ。私たちは魔王の寝室前までたどり着いた。簡素な扉にネフィア姉さんらしさを感じつつ衛兵はお辞儀後にその場を去る。
「綺麗な衛兵さんでしたね」
「……」
おもっきし、マオウの足を踏み。痛みで顔を歪めた彼を無視して扉をノックする。すると……
「どうぞ」
「……」
「アンジュ? 怖いのかい?」
「……いいえ。ごめんなさい……少し待って」
ただ、『どうぞ』と聞いただけ。ただ、優しいいつもの姉さんの声を聞いただけ。それなのに……
「……」
ドアノブが滲んで見えており……私は震える手で持ち回す。中を見ると……一人で座り、微笑む姉さんが。あの、私の大好きなお姉さんがそこに確かに居たのだった。




