終わった手に残る感触
天井。そう、天井だった。それも質のいい天井。まるで物語の姫様が寝るような部屋の天井が見えた。そう、あの戦場の空でもない。ただ……太陽が優しく部屋を照らしている。
「……」
何も夢も見なかった。ただ、横を向けて頭が回る。聖剣が飾られていた故に。頭が回る。
「!?」
私は布団から起き上がり、周りを見渡す。知らない部屋と知らない家具達。そして……私の相棒の聖剣。
「勝った……いいえ勝ったの? 本当に?」
手を見る、そして……聖剣を見た。鈍い輝きの私が全く模倣さえ創造さえ出来ない聖剣を見て。優しく触れる。
「……最後……お姉さまは……なんであんな言葉を……」
私は声の出ない姉さんの言葉を思い出しながら、胸に手を当てる。苦しい……苦しい。愛しい姉上を斬ったという事実が苦しかった。最後の言葉と優しい笑みに私は胸が焼けそうになる。そして、聖剣を私はそのまま撫でた。
太陽の光で暖かく。そして頼もしい。私はその聖剣を抱きしめる。小さい体で抱きしめる。
そう、この聖剣が私のためにあった。
「……お姉さん。わからない……わからない……どうして……」
終わってから、私は涙を流す。泣けない筈の女神なのに私は涙を溢し続ける。
「なんで、この聖剣を私に託したのですか……」
わからなかった。これがあったからこそ姉さんを斬れた。わからない。わからない。
「……………頑張れって。どうすればいいのよ……姉さん。どうすれば」
もう、私はもう何も出来ない。身が裂けそうになるほどに私には姉さんが大きかった。いや、全てをそう。教えてくれたのは姉さんだ。姉さん達だ。
「私……恩を仇で返すしか……出来なかった……」
そして……私に『愛』を思い出させてくれたのは姉さんだった。
「嫌、嫌……いやぁあああああああ!!」
そして……私に『愛』を教えてくれたのも姉さんだった。
こんなに辛いのに私は……戦った。我慢して戦い。そして……
*
涙も枯れた時に……部屋に彼が来る雰囲気がし、顔をあげる。音もなくその人は立っていた。右目に眼帯を当て、彼は優しくその場で立っていた。
「……ま、おう」
「ああ、マオウだ、アンジュ。おはよう……」
「右目……」
「ああ、そうだね。それは些細な事だよ」
「私……私は……大切な……あの人を……」
枯れた涙がまた溢れそうになる。だが、マオウはそれを拭い去った。
「……女神アンジュへ。親愛なるあなたへ手紙ですよ」
「……えっ? 手紙?」
「我が城へご招待します。ネフィア・ネロリリス」
私は聞き間違えたのかと……その時、思ったのだ。思い……そして……手紙の直筆に見覚えがあり。そして……マオウの綺麗な左目を覗き込んだ。
「さぁ……行こうか。僕の女神さま」
差し出された手を私は優しく触れる。




