魔王襲撃
教会の私の像が飾ってある場所のベンチに並んで座る。目の前にある像に剣を叩きつけたいが今はそんな事をしているわけにはいかない。
「姉さんが挙兵したと聞いたんですけど」
私は隣に座るマオウに問う。他人行儀ではなく普通に彼を知る私にはもう他人と思えなかった。
「……」
「どうしました?」
「あっ……いえ。そうです。少数ですが挙兵し圧倒的な力で領土を奪っております。奪った場所は昼間のように夜も燦々と太陽が昇っておりますね。実は今は夜です」
「……えっ? この光」
「そうです。あの『魔王』の力です。都市上空にあり続け、少しでも反逆の意思があれば落ちてくる。全てを一瞬で燃やし、焦土と化します」
私は身震いがする。あの戦いの光景を思い出し、それが都市で行われるとい事がどういった光景へとなるか想像出来る。
「落とさないのは気紛れです。焦土化後、異世界人が土地を奪いそのまま住ませると言ってます」
「…………」
私はウィンディーネを見つめる。ウィンディーネも頷き、顔を落とす。
「私も……実は文句をいいにネフィア姉さんと戦おうとしたの。でも……ネフィア姉さんに会う前にトキヤさんや異世界のエルフに負けたんです。温情で元の世界へ帰るなら見逃そうと言われてここで逃げて隠れてるんです。怖い……あんなに優しかった人達が……」
ウィンディーネの顔に涙が滴る。仲間と思っていたのに仕打ちを受けたのだろう。
「ウィンディーネはなんで元の世界へ帰らなかったの?」
「友達見捨ててなんて帰れないじゃない」
「ウィン……」
「確かにいい条件だったけど。それに流されたくなかったの」
ウィンディーネの潤んだ瞳を覗き、私は笑みを溢す。小さく『ありがとう』と口に出してマオウに触れる。
「ネフィア姉さんを止めないといけない。ネフィア姉さんに会って話を聞かないといけない……どうしてそんな事をするのかを」
「……彼女は会ってくれは」
「それはどうかしらね? 皆さん」
教会の空気が凍る。ネフィア姉さん声と共に教会のベンチから火の手が上がり私たちは慌てて女神像の元へ行き背を預ける。教会の出口で……一人の女性。そう黒い衣装のネフィア姉さんが立っていた。右手に火の鳥を携えた黒い装飾鎧の少女に違和感を持ちながら私は……背筋が冷えていく。暑いはずなのに底冷えする。
「魔王ネフィア!!」
マオウが叫ぶ。ちらつく炎で姿が見え隠れし、教会は火に包まれる。
「マオウ、みつけた。ここで死んで貰うわ」
「ネフィア姉さん!?」
「あら、アンジュおはよう。残念ね。ちょっと……時間をかけすぎたわ。催眠が切れた」
「姉さん!?」
マオウが私の前に出たあとにウィンディーネが私の腕を掴む。
「アンジュ……君は魔王ネフィアに眠らされていた。やっと起きたが逆に気付かれたようだ。教会から逃げて隠れるんだ。私がここは殿を勤める。外に……頼れる竜がいる」
「マオウ!? まって!! 話をさせて!!」
「アンジュ!! 異世界の魔王に勝てるのは君しかいないんだ。切り札を失うわけにはいかない!!」
「…………私もちょっと優しすぎたようね。確かに脅威だけど。人質はいるのよ」
「まだ、金も奪ってないでしょう」
「ご名答。確かにまだあの炎を落とさないわ。気まぐれだけど」
マオウとネフィア姉さんが睨み合い。その隙にウィンディーネが私を掴んで教会のステンドグラスに叩きつける。私はそのまま外へと投げ出され……竜に服を咥えられる。その姿に覚えがあり名前を呼ぶ。
「土海竜!!」
「行くぞ。ウィンディーネ」
「はい!!」
ウィンディーネが土海竜の背に乗りそのまま飛び立つ。そして……燃える教会を後にし、私は咥えられながら叫ぶ。
「マオウは!?」
「あやつは瞬間移動できる。追い付く」
燃える教会を後にしたまま、私は……何がどうなっているか頭がこんがらがり……そして、非常にショックを受けた。ネフィア姉さんが……本当に戦いに来るのをこの目で見た。そして……体が震え出す。
ネフィア姉さんを知る故に……その優しさやあれが全て演技だったこと。多くの思い出が崩れていき……私は頭を抱えるのだった。




