女神とマオウ
マオウは玉座でずっと私を待ち続ける。時間が経つなかで魔王の治める地が多くなり。いつしか海を越えた先を攻める覇道を進む中で。その中でさえ、マオウは待ち続けた。
マオウの家臣はいつしか、覇道の大志を抱く者ばかりの荒々しい者たちへと変わり。大きく大きく土地を征服していく。ルールを設けては居るが……マオウの目の届かぬ場所はマオウは切り捨てながら。ただただ……魔王を演じた。
そんな中で海の向こう側の噂や情報が流れ着く。
二つ剣を携える。聖女の話だ。
その噂から、マオウは一つ聖女に試練を課す。『聖女を倒した者が次の魔王になる』と刺客を用意し、煽動する。だが、耳にするのは聖女の武勇だけ。ただ、その報告を聞いた彼はほくそ笑み。静かに時だけ過ぎていく。
その感情は何処か……非常に清々しいものだと私は感じた。今の世を終わらせたいと言う強い意志が伝わる。
そんな日々に唐突に終わりが来る。聖女たる昔の私が城に攻め入ったのだ。飛ばされる前より、逞しい姿になった私が……玉座に顔を出す。
「来ましたか、アンジュさん。お待ちしておりました」
「マオウ……どうして!!」
『どうして!!』と言う言葉に私は多くの質問が詰まっている気がした。私は彼の記憶を見ながら理解出来る。だが……理解もしている。マオウが簡単に言葉にしないことを。
「どうしても何も、自然に戻しただけです。あなたが女神で私が魔王。何も間違いはないです。覇道を進む私に、それを防ぐ女神。それだけのことです」
「なら!! 何故私に全てを教えたの!!」
「弱い者を刈っても民は認めてはくれない」
嘘である。嘘しか言わない。仮面をつける。だから昔の私は苛立つ。欲しい答えではない。本心からの答えではない。だからこそ……剣を抜かない。ポロポロと涙を流す。
「……手を抜いて斬られるおつもりでしょう」
「……」
マオウの眉が、顔がひきつる。不味いと言う気持ちで心情は相当焦っていた。だが、マオウは一瞬で冷静を取り繕い、声を出す。
「剣を抜かぬのか女神? なめられたモノだな」
「マオウ。本当に……お前のその行為は必要かえ?」
「土海竜……そこに隠れていたか」
古い私の肩に黒いダンゴムシが顔を出す。そして……肩から飛び降り土海竜はマオウに近づく。
「お前のそれは……必要かえ?」
「……私が思うに必要と思います」
「お前……わかった。ワシはどうなるか見定めるだけにしよう……何を言っても情に動いたワシが悪い」
「……」
沈黙が続き、古い私がボソッと溢す。
「……私……私には……できない」
「アンジュ!? そうか……育てた恩をそこまで……なら。仕方ない……」
マオウが近づき、魔法を唱える。何十年前に私を連れ去った時の魔法であり。それは……刷り込みを消し去ったあの忘却する魔法だった。それに古い私が気付き、慌てて距離を取る。私は理解した。記憶を奪ったマオウの行動に。
「いやぁ!! どうして!!」
「……私には荷が重いんです」
「うぅ!! 私は……あなたを殺すなんてできない!!」
マオウの魔法が弾かれる。強い意志によって、マオウの手に弾かれた余波で皮膚が薄く裂け血が滴った。そして……古い私はその場から逃げ出す。マオウは追いかけようとするが。目の前に竜が大きくなり土海竜が立ちはだかる。
「!?」
「……これしか出来ぬ。処すがいい。料理方法はステーキがいいの」
「…………」
「お前が手を出せない事、それが分かるなら。無理強いはいかんぞ」
「……少し方法と時間をかけます」
「頑固者め」
マオウの失意が感じとりながら私は……一つの事実に背筋が冷えた。
古い私は記憶を奪われていないである。




