決着
私は多くの力を借り、多くの努力を積み重ねた。多くの敗北を夢で積み重ね。一定の勝ちを拾えるまで成長する。何度も何度も戦えた事。癖や魔法をネフィア姉さんやその旦那であるトキヤさんに師事を受け。一つ、勝てる力を手に入れる。
その全て……私は決着の結果を求むマオウの前に立った。城が見えるこの荒野で背負った剣の柄を掴む。
「短い間、ありがとうございました。女神様」
「ありがとうございました」
深く私は『ありがとう』の意味を聞かない。死に行こうとする彼に私は何も問わない。殺す気持ちはない。
「一騎討ちです。敗北後、教えてください。約束です」
「はい」
マオウは静かにネフィア姉さんを見る。ネフィア姉さんは仲介者として決闘を取り仕切るらしく。片手に緑色の剣を持ち佇んでいた。そのまま無言で剣を投げ、私は身を引き締める。クルクルと太陽に照らされる剣はそのまま地面に刺さり決闘の合図となる。
「……」
私は言葉を発言せずにそのままマオウへ向けて走り出した。大きい鉄塊を右手で持ち、左手に魔力を込める。魔力を込めイメージを具現化し、手が帯電する。表面に稲妻が走り回り。走る中で鉄塊に触れさせ、通電させる。付与魔法である。
バチバチバチチ!!
空気を振動する雷の特徴的な音を響かせ私は叫ぶ。
「神鳴り!!」
雷は神が鳴らす物だとトキヤさんに教えて貰い、それを私に落とし込んだ魔法。隠れるには音がうるさいが……相手の動きを止めるには非常に強い。マオウもそれをわかっているのか……対抗手段として黒い塊を私の前に置く。触れれば抉られる空間の穴に私は剣を振り凪払う。
黒い物体の呪文の部分を剣で削り取る。魔法として体を成さなくなった瞬間に黒い球体は消えた。物理的な打ち消し魔法だ。
「……」
そして……私は黒い球体の先に居ないマオウが背後に立っているのを感じ、翼を広げる。ネフィア姉さんのように翼は魔法が付与され帯電し、背後に立つものを痺れさせようとしたが……マオウは距離を取って詠唱を続けており。予想通りとはいかなかった。
「……距離取る事に専念してる?」
不思議な動きだった。何故なら背後を立つ癖は夢で知っておりそれを逆手に取ろうとしたのだが。それをマオウは知っていたように動くのだ。そう……夢で戦い。相手の動きを読むマオウその者に私は疑問を投げるようにネフィア姉さんを見た。
ネフィア姉さんはその行為に肯定を示すように静かにうなずく。そう……夢で私に全ての手の内を見せていたのはご本人だったのだ。逆に私の手の内を知り、私を知り立ち向かってくる。
「……」
私のために訓練つけてくれた事に何とも言えない感情が生まれる。どうしてそこまでと言う答えを私は欲するが。彼は絶対に喋ろうとしないだろう。ならば、私はネフィア姉さんの案に従うだけ。勝ったと言う状況じゃないとネフィア姉さんは手を出さないだろう。
「鍛えて来ましたね……女神」
知ってる癖に白々しく褒める。詠唱が終わったのだろう。何が来るか、それに関してもわかる。
「……答えませんか。では……抹消します」
右手で大きい大きい黒い球を生み出しそれが膨れ上がった。それは破滅を生む球体で、全てを削り取る禁術であり、彼の最も強い魔法である。球は竜を飲み込むほど大きくそれは多くを吸い込む穴だ。遠慮なしの必ず殺す術だろう。
彼は早期決着を求む。理由はわかる……勝つためにはそうするしかないと思われるのだ。避けたら私の勝ちである。なら、避けれない魔法を用意する。私も知らない魔法に少しは手の内を隠して居たことがわかった。
女神さえ飲み込める穴に私は……避ける事を選ぶ。
バチィ!!
足元で白い電光の火花が散る。私の夢で行った新たな力を使うまでである。体が発光し、地面に魔力が流れて行く。
ごぉおおおおおお
重い球の迫る中で私の心は穏やかだった。乱れず詠唱する。イメージを固め、体を溶かす。私は普通の生き物ではない。魔法の塊のような存在。故に……自身を魔法その物に変化させる。
バチィン!!
神鳴りとなって大地を走る。轟音を置き去りにし、地滑りする。雷となって、着弾地を離れた。そして……マオウの位置を確認し、そこへ向けて駆け抜ける。今出来る全力。溢れでる魔力の放出が私を押し出す。
「師事した誰かの狂気が見えますね!! 女神を魔法とするなぞ!!」
私の切り札にマオウの声に焦りが見れた。狙いを定められず、彼は自分の魔法で空間転移をしようとし黒い穴を生む。私にはその穴に入れないのはわかっており、私は彼を信じて力を込めて大剣を投げつける。避けるだろうと。
「おりゃあああああああ」
ゴバァアアアン!!
力技の投降前にマオウは黒い穴に潜るのをやめ横によけた、穴には剣が吸い込まれる。空間転移したのは剣の方で別の場所に剣が転移された。あのまま一緒に転移しても剣が刺さったので英断だったろう。だが……
「マオウ!! 歯を食いしばれぇええええ!!」
私にはヴァルキュリア姉さん仕込みの拳が残っている。叫ぶがその声が彼に届く前に顔面に深々と拳がマオウに入って行き、そのまま力を抜いて殴りきる。マオウの体が地面にぶつかり吹き飛び転がる。そのまま、念のために転がる彼の腹に蹴りを入れて再度吹き飛ばして転がす。
ドゴォオオオン!!
鈍い感触に転がるマオウを近くで見つめた。一瞬で決着がつくこの状況に……私は強くなった事を実感し、拳を固める。
「げほっ……ごほ。魔法使いですから……肉弾戦、苦手なんです……馬鹿力ですね……荒々しい」
腹を抱え、立ち上がるマオウは立ち上がろうとするが足が震え再度膝をついた。手加減の殴りでも、ここまで威力があったのを私は手加減してよかったと考える。内臓吹き飛ばし殺す所だった。
「マオウ……決着です」
「……そうですね。では、私はここで退場としましょう」
マオウは意識が朦朧としているだろう中で私に優しい笑みを向ける。そして……マオウは地面に魔方陣を浮かび上がらせた。
「よかったですよ。これで最も強い事を証明できます」
「やっぱり……ネフィア姉さん!!」
私は叫ぶ。自殺阻止のために。そして……叫んだ瞬間なにもない空間からトキヤさんの風魔法で隠れていたネフィア姉さんが現れ、マオウの頭を両手で掴み。悪い笑みのお姉さんはマオウに言い渡す。
「隠している記憶、貰います。アンジュ目を閉じなさい!!」
「なに!? ネフィア殿!?」
私は目を閉じた瞬間だった。体が穴に落ちる感覚の後に水の感触に沈む感覚が遅い。暗い暗い水の底へと落ちていく。深い深い記憶の海へと私は沈んだ。




