魔王の旅路..
森の中を魔物に警戒しながら歩く。荷物は全てトキヤが背負ってくれた。私も持とうとすると女性に重いものは持たせられないと言う。変わりに戦闘は私が行うことになった。
荷物持ちは女扱いをトキヤが勉強したらしいが、その一環だと思う。結局3日後なんたらの約束は「自分が恥ずかしい」と言う理由でうやむやなった。
「重い? 大丈夫? 少し持とうか?」
少し手伝おうと声をかける私。私はプラチナメイルなのでそれなりの重量の物を着込んでいる。しかし、そこまで非力ではないので荷物の一部ぐらいは持てる。女性よりちょっと強いと思う。体重も。
「大丈夫。重いのを持つのは得意だ。まぁ~都市に入ったらドレイクでも買って荷物持ちにさせよう」
ドレイクとは2足歩行だったり4足歩行だったりの竜だ。空でワイバーンの競争に負け、地面を這って生きていく種族。それがドレイクである。
昔読んだ辞書ではそう書かれていた。伝説では叩き落とされた竜の末裔とも現在は竜の面影は無い家畜が多く。魔国内の足は馬よりドレイクが多い。
「そうだね。そうそう、トキヤって種族はたぶん人間だけど、都市に入れるの?」
小さな疑問を口にする。彼は人間であり、頭に角がない。私も角は生えてないが婬魔と胸を張って言えるので問題はない。「私はいつ、角が生えるのだろうか?」と思う。
「入れるぞ。まだ帝国と戦争をしてないから人間の商人と人間冒険者の往来があるし、帝国でも冒険者に魔族もいるしな。その魔族がギルド長になって運営してたり。案外、お前みたいに人間と区別がつかない亜人もいるから。うまいこと出来てるんだ」
「わ、私より詳しい………」
「箱入り姫様は世間に疎いのが通説さ」
「うぅ……バカにしてるぅ。でも姫様扱いしてくれてるぅ。怒るべきか悩む」
「やーいやーい世間知~らず~」
「ああん!! もう、バカにして!! 怒るよ?」
でも、こうやって軽口叩ける仲になった事は素直に嬉しい。こう、仲が良くなった事を実感できる。心から信頼出来る。
「怒ってもかわいいから恐くない」
「トキヤ!! ぐぅぅずるい………そんなこと言ったら怒れないじゃん………ううぅ」
「拗ねた君もかわいい」
「………へーん。何だってかわいい言ってれば喜ぶと思ったら間違いだからね‼」
「じゃぁ言わないようにするわ」
「えっ………」
「かわいい言ったら喜ばないんだろ?」
「あっと、えっと………えっと………その……」
実際、嬉しいし言って欲しい。でも今さら曲げて言うなんて恥ずかしい。もじもじしてしまう。
「ほら、悩んでる。かわいいじゃん」
「うぐぅ………今日のトキヤは卑怯」
顔が熱い。彼の顔から目線を剃らす。
「いや、攻めないと流れを持っていかれるから」
「………でも、好き」
ボソッと呟いてしまう。卑怯でも意地悪でも彼が好き。気持ちが口から出てしまう。
「ほらぁ!! ほらぁ!! 流れが!! そういうのがいけないんだぞ」
「えっ!? なんでダメなの!?」
「いやぁ、ダメじゃないけど恥ずかしいわ!!」
「攻めてるトキヤも恥ずかしいこと。言ってるよ?」
見つめ合い沈黙。そして、二人で真っ赤になって顔を剃らした。
「は、恥ずかしいね」
「そ、そうだな」
まだ、恥ずかしく慣れてない。キスはしっかりする仲なのに。
*
夕刻。私たちは歩くのを止め夕食をとり、匂いで魔物が来ないようにまた少し歩き、野宿の準備を行う。冬の季節は寒いため本来、旅は危険な行為であり。時期をずらすのだがトキヤが風の魔法でなんとかなるといい。それを信じて出発した。そして本当に寒くない。魔方陣の中で首を傾げる。
「アクアマリンでもあったけど便利だね。なんでこの魔方陣の中は暖かいの?」
「魔方陣の中は仕切ってあるんだ四角に区切り。小さい家みたいな物で熱の移動だけを制限するから人肌だけで暖かい。結構魔法練るの時間がかかっただけはあるだろ?」
「うん!!」
鎧を脱ぎ、身軽になる。寝やすい姿で魔方陣の上にある薄い寝袋に横になる。
「脱ぐのか?」
「だって、魔物来ても大丈夫でしょ?」
「しかしなぁ………」
「大丈夫。トキヤは強い」
「俺を信用し過ぎは良くない」
「残念、絶対の信用だから」
「はぁ。まぁいいかぁ」
トキヤが木の幹に腰をおろし剣を横に置く。いつもの警戒しながら仮眠だ。
「………やっぱりここで寝るの止める」
「おいおい、寒いだろ?」
「大丈夫。多分」
私は、木の幹にいる彼に背中を預ける。暖かい。
「お、おい」
「おやすみ。んんん~いい夢、見れそう~ここたまここたま~」
彼に抱き止められる。彼の肩に頭を預ける。少し小柄な体に感謝しながら。
「まぁ仕方がないな。おやすみ」
彼の鼓動、体温、甘い匂いで安心しすぐに睡魔が襲ってくるのだった。
*
二人で数日間、森を山を降りながら進む。標高が高い場所に都市があったのか綺麗な眺めを降りながら感じ、平地に出たあと少し進んだ先で。農地が広がっていた。
そのまま農地を進むと魔国最東の都市が見える。最東はどこの種族が納める地だったかを私は知らない。
「見えたね。都市名は何?」
「都市名はないぞ。治める族長が決めるからちょくちょく変わる筈だ。同じ族長の血族ならいいが変わってしまったら前の名前は消される」
同じ種族同士で争っているため起きる現象だ。めんどくさそう。
「めんどくさそう。名前変わるの」
「だから、一部の魔族たちは治める族と番号、名前で確認してる。あそこはトロール族、1番だな」
「トロール族!?」
「なんで、驚く?」
「昔に族長に会った事がある!! 大きい種族だね」
トロール族、男は2mの巨体で怪力。大きな尖った耳を持ち。頭が少し弱い。しかし、仕事は真面目であり、気も優しい。見た目で損をしている種族だ。
しかし……女は逆に体が小さく。非力な種族なのも変だったりする。
「へぇ~どんなやつに会ったんだ?」
「優しいおデブさん。でも人一倍力持ち。でも、族長だったけど。もうやってないだろうなぁ」
「なんで?」
「私の脱走に加担したから」
「ああ、それは処罰されるなぁ……」
小さいときにドア越し出会い。遊んでくれた人。
「トロール族かぁ………」
「まぁ、トロール族は1番しかなかった筈」
「どうして?」
「覇権に興味を示さないからな。場所もド田舎だし、あの広い農地を耕すのがお仕事だ」
「そっか。平和そう」
「ああ、全く。争いがない良いところさ。きっと」
私達は始めての魔国都市。トロール族の治める都市に向かった。




