王配勇者と妻魔王
勝手に上がり込み勝手に紅茶を用意し、勝手にクッキーを焼き。勝手にのんびりとするネフィアはトキヤを待つ。
「……そろそろ。いいえ、もういる」
ネフィアは独り言を漏らした瞬間。彼女の隣にトキヤは現れる。バレたかと言う悪戯の表情でネフィアの肩を優しく叩く。
「悪戯してやろうとしたのに」
「くっ私がカッコつけなかったら悪戯されてたのに……私たらなんて勿体ないことを……」
「……いや。喜んだら悪戯じゃないだろ」
「それもそうかな? じゃぁご褒美です」
「うん……………まぁいいや。でっ……やっぱりお前の勘は正しかった」
「でしょう~女の勘」
ネフィアは考える。非常に女神に好意的な理由を……
「何故、肖像画があったのでしょうね。昔の」
「ベットの横にも立て掛けていた。教会にも精力的に通い。祈りを捧げもする」
「変ですよねぇ。トキヤの情報見ると好意的ですよね」
「大分な。水瓶を頭に落とされたし……結構、監視も厳しくなった」
「何人いる?」
「3人のスケルトンがずっと見ているな。すぐ変な動きがあれば空間を越えて来るだろう」
「……アンジュちゃんに知られたくないわけね」
「だな」
「わかった。トキヤありがとう。アンジュと会って相談する」
「そうしてくれ。俺も一回だけマオウを説得してみるさ。別の道があるだろうと」
「……ええ。そうね」
ネフィアは一人、顎に手をやり悩む。それにトキヤはネフィアがここまで悩むのも珍しいと思いつつ静かに彼女の考える事を待つのだった。
*
城の郊外、邪魔にならないように人気のない所で剣を素振りするアンジュにネフィアは近づく。それに気が付いたアンジュは地面に剣を刺し、ネフィアに向き直った。
「アンジュちゃん。お疲れ様」
「ネフィア姉さん!! お疲れ様です!!」
「うん……訓練中悪いけどいいかな」
「はい」
ネフィアはアンジュと共に手頃な岩に座る。風が二人の髪を靡かせる。
「アンジュはマオウの事どう思ってる」
「どうって? どういう事ですか?」
「ただの魔王としてみているかです」
「……正直、瞳は綺麗な方だなぁと思います。濁ってないです」
「そうねぇ。濁ってない。芯を持って世界のために動いてるわ」
「……?」
アンジュは首を傾げる。
「トキヤがなんとか密談を成功させてくれてる間に言うけど……彼はあなたに倒される事を望んでいる」
「えっ?」
「負ける事を望んで戦いを挑んでるの。いいえ、負ける事が勝ちなのかな」
「どうして!? 魔王か女神かの戦いってだけじゃ……」
「教会に通い、世界を維持し、あなたを待っていた。それは並大抵の思いがないと出来ないわ。薄々気付いてるでしょ」
「勝ったら教えてくれると……」
「負けたら死ぬ気よ。ああいうのは墓まで持っていこうとするの」
「姉さん……でも勝たないと何も進まない」
「ええ、勝たないといけない。だけど勝ち方もある。彼が話したくない物語、追憶、夢を全部覗きたくない?」
「姉さん出来るんですか!?」
ネフィアは胸を叩く。ドンッと来いとアンジュに自信満々な事を伝えた。
「私は誰と思ってる? 夢魔よ。夢は私の得意分野」
「それなら!! 今夜でも!!」
「それは無理。ガードがあるの。絶対に見せたくない防御は中々抜けないわ。だから……勝つ必要がある」
「……?」
「アンジュちゃん。マオウを追い詰め、どうにか気絶させるか隙を作って。私が背後から記憶を奪い取る。一騎討ちに負けた瞬間を狙います」
ネフィアはアンジュに提案し、アンジュは頷く。アンジュにとって修羅場を抜けて来たネフィアを信頼し、策を用意してくれる手段の数に尊敬する。
「ネフィアお姉さんって凄いですね。その……解決できる方法なんでも知ってそう」
「たまたま出来そうってだけよ。大丈夫、アンジュちゃんだって元々女神で私よりも生まれはいいんだから越えていけるよ」
「……何年先なんですかぁ姉さん」
「………」
「姉さん答えてくださいよ、そこは!!」
「い、石の上にも3年」
「3年なら短いですね?」
「短いかなぁ」
「短いです」
「……そっか……うん。アンジュちゃん。じゃぁちょっと相手になろうか」
「えっ!! いいんです!?」
「少しは体を動かさないと」
ネフィアは岩から立ち上がり、右手で火を生み。それが鳥の形を作る。
「手加減出来ませんけどね。ただ、剣の振る速さを鍛えればいいと思います」
「……お姉さん。それでもだいぶ手加減ですよね。お願いします!!」
「ええ!! 火を切り払いなさい」
そういいながら、アンジュは剣を掴み。火の鳥と相対し、斬りかかったのだった。




