魔王と女神
「むっす……」
「何か朝からよろしくないようですが」
早朝、マオウはアンジュを呼び起こし。彼女に貸した寝室で朝食を共にする。土海竜はイカと共に皿に乗ったニンジンを貪る。
「………なんでもないです」
「ネフィア様が特訓していると聞いています」
「ええ。一方的に負けますもんね」
「ん」
一言一言に毒が帯びており、呪詛のようにマオウを攻める。
「……何かあったかしりませんが……早く強くなれる事を願います」
「むかぁ。あなたは強いからそうやって上から目線でいえますもんねぇ」
「申し訳ないです」
「むぅ……」
「……」
マオウは申し訳ない表情で朝食のパンを食べる。心の仲で仲直りを考え、アンジュは自分の弱さをイライラしているのを彼に当たっていることをゆっくり後悔しだし、大人げないなと考える。だが、空気は最悪だった。そそくさと土海竜はイカに掴まれて部屋を出ようとする。
「キツいぞ、ここ土海竜」
「ボードゲームするかの……イカ」
居たたまれなくなった二匹はそのまま、何処かへ去る。
「……ごめんなさい。少し当たってしまって」
「いいえ。何か大変な事があるのでしょう。怒られるのは慣れてます」
「怒られるのですか?」
「はい。大分昔に比べ……意見をする方々が多く。よく相談も受け。いけないと言われることもしばしば……上に立つと色々と大変なんです。ご飯後は領地を見回ります」
「……私もついていっても?」
「申し訳ないですが。女神様の魔力、体を別の場所に移す事は出来ないです。私の魔法はこのスプーンを手で持ち、少し動かすような物ではなく。スプーンを皿の上に乗せて動かすような物です。器の大きさが決まっており……女神様の体を全て移す事は無理なんです。この器の大きさは私でギリギリです」
「それで部分部分だけ……」
「何ですか?」
「いえ。こっちのお話……」
アンジュは夢での戦いを思い出す。ヒントとなる情報に疑問が晴れた。
「もしも、体を抉るように出来るんですか?」
「体の一部を器に乗せて動かせばです」
「便利、包丁いらない」
「いえいえ……包丁のが便利です」
二人は色んな情報を出し合い、食パンを食べ終える。
「よし、ごちそう様でした。剣を振ります」
「はい、私は忙しいので……また夕食一緒にどうでしょうか?」
「はい、いいですよ」
「それは良かった。では、先に失礼します」
マオウは立ち上がり、部屋を出る。アンジュは剣を持ち同じように彼を追いかけて背中を越えて廊下を走り庭へ向けて突き進む。それにマオウは眺めつつ……大きく息を吐いた。
「ふぅ……何とか」
「何とかとは? マオウ、少し固かったぞ」
「……トキヤ、覗きは誉められた行為ではない」
「ガチガチに硬いの見てニヤニヤして何が悪い?」
「人が悪いなぁ……君」
「いやいや。男はそんなもんだよ。俺だって最初はもっとガチガチだった。おまえのベットの下に女神の肖像画あった理由もわかる。壁にも飾られてるのも」
「おい、それ以上知ると殺すぞ。鍵かけてただろ」
「俺って器用貧乏な冒険者だからな。宝箱を開けないといけないと思うぞ。冒険者はな」
「……他に何を見た?」
「部屋だけさ。マオウ……いいのか? それで」
「ああ」
トキヤは笑みを溢し、肩を叩きその場を去る。そして……マオウは頭を掻きながら空間を移動し。マオウには珍しい悪態をつく。
「くそったれの憎々しい勇者め」
トキヤはそれに腹を抱えて笑い。頭に水瓶が降り、強打し割れ、彼はビショビショになる。だが、彼は悪態をつかない。悪い事をしているのがわかっていたために。




