土海竜と少女
土海竜はだんごむしの姿で少女に会うため部屋に忍び込む。彼女を慰めるために近くにより、椅子に座って窓の外を見ているその目の前。窓に張り付く。
「わっ!? 虫!? キモチ悪い!!」
「ワシじゃよ。土海竜じゃ」
「えっ……土海竜」
「転生したんじゃ。今は女神のペットじゃ」
「知ってる。虫になったんだね」
「昔も同じじゃったが?」
「……そうだね」
ネクロマンサーは笑みを溢す。外を見ながら土海竜を掴んだ。
「ぼっちゃんの魂、どっか行っちゃた……」
「奴の魂なら、長船とともに何処かへ行き。生まれ変わった筈だ。すまんな場所はわからん。会うことは出来ない」
「うん。わかった。そうだよね……迷いなくなったんだね」
「奴は居なくなるべきと思っておったからな。甘えられてしまうと……なに、奴はお主の事を安心したから、いなくなったんだ」
「……わかってるよ。うん」
「まぁ、別れは辛い。だが、前を進めネクロマンサー。魔王の時代は終わる。鍛えるのだ」
「そうだね。私たちを越える強い人が来たんだもんね」
ネクロマンサーはそのまま土海竜を机に置く。そして……その瞳を見つめた。
「この生活も終わるのかな」
「始まりがあれば終わりもある。終わりたい奴もいる。だが、世界は続いている。続くしかない。新たに始まるさ。君は強い。新たな世界でも生きていけるだろう」
「……わかった。私さ、あの泉の女神さんと友達になったんだ。ぼっちゃんより強くて鍛えてもらえるの」
「………死ぬぞ」
「ほぇ!?」
「死ぬほどキツいぞ」
「………んんんんんんんんん」
「………まぁ、キツくないと強くならんからちょうどいいか。頑張れ。わし、女神の元へ帰る」
土海竜はネクロマンサーが不安な顔をするなかで逃げていく、女神の元へと。
*
そこは草原だった。流れる風が女神の金髪を流す。魔王と違った髪を撫でるトキヤはアンジュと向き合う。
「ネフィアに悪夢を組んでもらった」
「………はい」
アンジュは剣を構える。トキヤの背後から、一人の青年が現れてアンジュを睨んだ。言葉は発しない。
「アンジュさん。マオウのナイトメアだ。悪夢の職工ネフィアが作った紛い物だが。この悪夢に勝てなければ本人にも勝てない……では、遠くで見ておく」
「ネフィアさんは?」
「遠くで見てるさ。これはネフィアの夢なんだからな」
「……わかった」
アンジュは大きく剣を振り上げて、幻想のマオウに近づき振り下ろす。試しに切り払った瞬間にマオウは消えていく。
「ネフィア姉さん……うまく出来てな……」
バウィン!!
「えっ?」
アンジュの右手に黒い球体が産み出され、それに切り離されたように片手を失う。剣を落とし、左手で肩を抑えて振り向くが、何もいない。そして……気付いた時には両足を失い。
「つっ!?」
草原の上に転がった。血は出ず、痛みもないアンジュは綺麗な月明かりの下でマオウの顔を見る。
「ネフィア姉さん。ちょっとおかしくない?」
バウィン!!
特徴的な音を出してアンジュはえぐられてしまう。彼女には何が起きたかを理解するまえに決着がついた。
「ネフィア、次」
トキヤの声が響き。マオウとアンジュは相対する。そして……アンジュに身が入る。
「賭け事しよう。ネフィア……何回で勝てる? イチゴジャムたらふく喰っていいぞ」
「私、当てるよ。100回かな」
「キリがいい。いい数字だ。ネフィアがそうらしい」
「……ちょっと弱くしてくださいよ」
「夢はいい。ネフィアの回数……頑張れ」
トキヤは振り向いた瞬間に黒い球体がマオウの周りを周回し、アンジュの体を穿つ。
*
「ネフィアおはよう。今日も綺麗だ」
「おはよう。ありがとう、トキヤ。うれしい」
「でっ、ぐっすり眠れたアンジュちゃんはまだかい?」
「ごめんね。賭け事数字変えていい?」
「……最初の数字言ってみろ。変える前だ」
「千回ね」
「全く。優しくて涙が出るな」
「ふふ、起きてくる。きっと酷い面よ」
「………マオウを起こしてくる」
「はい」
トキヤはそのまま、寝室を部屋を出たのだった。




