炎帝を喰らう鳥
ネフィアは大きな体の竜に対して時間をかける。非常に鋭い太刀の攻撃に防戦一方となって決め手を考えていた。背後へ回ったあとに背中へ剣を突き立てたが、その剣は抜けて回復し、首を落とすにしては剣は短かく。火剣に対しての炎の刃は全く効果を示さない。
「ちょこまかと。すばしっこい奴め」
「あなたこそ、タフすぎ……」
だが、相手も同じであり。火吹きや、炎刀による炎の斬りつけは全くネフィアには効かない。同じ炎を持ち物同士の戦いとなる。
「……そろそろ。いいかしら」
「何がだ?」
「魔法よ」
「ここでは魔法を扱う事は……」
ネフィアは翼を広げ、炎のイメージをしっかりと空想し、掌に炎を生み出す。戦い、避ける中でじっくりと詠唱した炎は魔力障壁と反発し火の粉を散らし夜に舞う。
「……なに?」
「あなたの火吹きが能力なら。私の炎も少し特殊なの」
「だが、我は炎帝!! 炎なぞ効かぬわ!!」
「……知ってます。火なら効きませんね」
ネフィアは右手に魔力を込めていく。やっと唱える事の出来た魔法を大切にするようにじっくりと炎を育てあげる。それに危機感を覚えた炎帝はネフィアを斬ろうとするが……ネフィアは間合い外へとトントンとステップを踏んで避けていく。
「く!? 魔法陣に邪魔されて魔力漏出が激しい筈だ!!」
「もちろん、そうです。でも……漏出だけですしね」
「まさか!? お前!!」
「貯めるのは時間がかかるんですけどね」
ネフィアは翼を大きく広げる。2枚から4枚、6枚と広げ。魔力の羽が飛び散り、戦場に風で流される。そして……ネフィアは悪い笑みを向ける。ウィンディーネやアンジュを無視して。
「私が知る火竜はここまで出来ますよ……炎帝!!」
ピリッとネフィアの羽根が火を生み出し、全ての羽根が炎となって膨張する。そして、唱える。
「十二翼の爆炎!!」
異世界の火竜がもたらす大破壊の術を。
*
アンジュは扉の前でどうしようかと悩む。大きな戦闘音が響く戦場で一番乗りに城に入れそうだが。大きな鉄の塊が彼女を遮った。
「……切り落とすかな。いけるかな。ん?」
扉に触れて剣で斬れるかを考えたが、アンジュの剣は斬るのは不得手だった。ゆえに悩んでいたのだが。
「これ、羽根?」
暗闇の中で、白く輝く羽根が舞い。膨大な魔力を感じた瞬間にアンジュは羽根を投げ捨てて伏せる。剣で防御できると信じて頭を押さえた。そして……
ババババババババババ!!
爆発音が一つの連続する音となり、多重の爆発が起きている事をアンジュは身を伏せて耐える。アンジュの横に落ちた羽根が爆発し、アンジュを吹き飛ばし。鋼の扉に叩きつけられ、痛みにネフィアへの愚痴を溢す。
「姉さん。無差別すぎ!! げほげほ」
普通の爆発と違い。アンジュの体の芯まで響くダメージに彼女はゆっくりと立ち上がる。そして……そのアンジュに近付くスライム。
「アンジュ、一番乗りなんだね」
「ウィン!? どうしたのその体」
「悪くないスライム作戦。戦うの面倒だったの。それよりも……扉破ろう」
「ウィン、どうするの?」
「私が隙間から入って閂外す」
「……おお、ウィンはすごい」
「スライム様々。ネフィアさんが目立ってる間に入ろう」
「うん……行こう」
アンジュはスライムも掴み、扉に近付いて押し付ける。そのままスライムのウィンが隙間に入り込み。大きな音があったあとに声が響く。
「閂外した。引いて」
「外開きなんだね。わかった」
そう聞いたアンジュは取っ手を掴み力一杯引っ張ることで門が開き。一人だけ入れる隙間にそのまま入り、ウィンディーネと合流する。そして隙間から、光が漏れるので二人が覗いた時。
「ヤバい!? ネフィア姉さんの攻撃くる!!」
「なんでこっちに!?」
慌てて二人は扉から避けたのだった。
*
穴ぼこだらけの戦場で、魔方陣さえ吹き飛ばしたネフィアは肩に火の小鳥を止まらせて炎帝を見つめる。連続した爆発を受けきった竜は落とした太刀を拾い。荒い息を整える。
「……耐えきったぞ!! 異世界の者!!」
震える竜の咆哮を上げ炎帝がネフィアに斬りかかる。ネフィアはそれに対し、右手を振り上げた。その瞬間、手のひらから竜を飲み込む火球が放たれ包み込み、刀がそれる。
「うぉ!? 何を!?」
「……わずらわしい。地面に埋まっていた魔方陣は消し飛び、傷つき、何も邪魔する物がなくなりました。詠唱阻害も、魔力流出もなくなりました。ここからが本番です」
ネフィアは思い出す。必ず、火を不得手とする者ばかり戦って来たわけではない。炎帝のように炎に対して耐性を持つ者はいた。それも、もっと激しい炎の権現のような者を。ネフィアはその時から、全く変わらず。自信を持って火を信じた。それしか、やってこなかった故に。
「我慢比べをしましょう。炎帝!!」
「何を!! 我は炎帝!! 炎なぞ!!」
「フェニックス!!」
ネフィアの肩から小鳥が飛び立ち、膨れ上がる。その炎は竜よりも大きい鳥となり。炎の色が白へと輝き出す。炎帝はネフィアの粘りつく火を振り払い、大太刀でフェニックスをきりつける。フェニックスに刃は通りそして……ドロドロに溶かす。炎帝は口を開きフェニックスにブレスを放ち、地面に光線の軌跡を残す。
だが、火の鳥は穴を開けようと炎が膨れ上がり傷を直していく。生き物のようにうねり、炎帝は生まれて初めて見る初めての火に恐怖生む。そう、炎帝は熱さを感じた。それは……『炎』を冠する竜にとっては非常に屈辱的なものだった。
「おのれええええええ!!」
フェニックスは炎帝を包み飲み込む。優しく包容するように。
*
ウィンディーネとアンジュは炎によってドロドロに溶けた扉の端で頭を押さえて転がっていた。
「……うぇ……眩しい」
「……ヤバい。夜中なのに昼間のように明るい」
アンジュは背筋が冷えていた。空に一つの白い球が浮かんでいるのだ。戦場を照らすそれは……異常とも言える光景であり。一体何があったかを知るにはアンジュには知識がなかった。扉が溶けた所をネフィアが歩いてくる。
「全く……なんで……私は隠密や、思ったことが全く出来ないだろうね。はぁ……こんな事で魔方陣壊れるなんてね……」
「ネフィア姉さん?」
「ネフィアさん?」
「私が最後ね……アンジュ。行きなさい、誰にも、もう邪魔はされません。誰にも私の火は……止められません」
ネフィアは翼を広げる。6枚の翼が輝き、二人を照らす。だが、そんな3人に声がかかる。
「もう、その必要はないです。異世界の魔王様。この世界では……選ばれた勇者と言いましょうか?」
空間が裂ける。その中から一人の青年が現れる。そして……彼はマントを翻して、お辞儀をし3人に挨拶をする。
「現魔王のマオウです」
彼は3人に身分を明かした。




