夜戦
その男は城の壁の上で自身が打ち、磨いた刀を置き。篝火の照らされる月明かりの夜に一人でただただ瞑想をしていた。見た目こそ若い黒髪の男ではあるが、何処か大人びた雰囲気を持ってた。そんな、彼の隣で大きな羽音が巻き起こり、篝火の炎を大きく揺らしながら竜が降りてくる。
「生まれ変わったか、炎帝」
「生まれ変わったぞ。長船」
大きい竜の姿で黒髪の男の隣に座る。炎帝と言われた竜は鎧を着ており、身を引き締めなおしていた。
「まだ、奴ら来てないな。間に合った。生まれ変わった土海竜は向こうに下ったようだな。軟弱な」
「ふん、昔からの女神のお墨付きだったろうあの竜」
「女神に尻尾を振る。竜は竜らしく、空を制覇しろ……魔王を倒せる力を手に入れてな」
「……お前はかわらんな。何回死のうが、かわらん」
「かわらん。他の竜も思い出すべきだと俺はいい続ける」
「そうか。力を求めても結局……反発も多い。受け流す事を覚えろ」
「竜は引かぬ」
「頑固者め」
「お前も同じだろう。何度も俺を斬りおって」
「ああ、全勝だな……」
「いいや。俺は負けてない。また戦える」
「……本当に頑固者だな。負けだ。その根気にな」
「ははははは!! 四天王最強だからな」
四天王最強と自称ではない事を男は心で認めていた。本来、男はその四天王最強と戦い続けるのが目的ではあるが。飽きと言うものがあり。長船は停戦しているだけである。そして……刀を鈍らせてしまった。
「炎帝……そこにかけてある刀を持て」
「あん!?」
長船が指を差す先には大きい刀が転がり、炎帝はそれを掴む。
「お前ようの刀だ。いや、大太刀と言う打ち刀だ。お前にやろう……」
「なに、お前……これを打ったのか?」
「最後になる。弟子も皆で打ち、一本良いのが出来た。こん夜はそれで最後だ。お前は大きい体に力強い健脚がある。力任せもいいが技も使ってみるといい。もっと強くなる」
「……長船、抜いても?」
「ああ」
炎帝が大太刀を抜き、篝火で輝く刀身を見る。その武器にしては勿体ない鋼の輝きに満足し振り、刀を納める。そ瞬間鞘の口に火が漏れる。
「魔法剣か」
「業を封じ込めた。扱えるかはお前次第。扱えたときワシの敗けだ。お前は業を背負うことはないだろう」
「ふん、わかりやすい。お前は……死ぬ気か?」
「わからぬが……そうなるかも知れぬ。竜よ……空を飛べ」
「……そうか。長い間だったな」
炎帝が刀を背負い、紐で括る。そしてそのまま長船の隣に座った。
「俺が殺せず、悪かった」
「炎帝、情が生まれたら刀は鈍る。ワシにはもう、鈍る物が多すぎた。そして、長生きし過ぎた」
「新たな人生が欲しいか」
「……次は魔族で新たな世界を生きるさ」
「わかった。だんごむしはやめろよ」
「ははは、生まれ変わったらわからん」
炎帝は寂しさを覚えながらも、止める事はせず。ただただ見守る事を決めたのだった。
*
「夜中になりましたね」
ザッザッっと焚き火を消し、月明かりの下でネフィアは立ち上がる。軽装の姿で剣を携えて目の前の大軍が居るだろう城前を見つめる。それに呼応するようにアンジュとウィンディーネの二人が立つ。
「真ん中は誰が行きますか?」
「ネフィアお姉さん。ここに3本木の枝を土海竜ちゃんが持ってきました」
「……じゃぁ真ん中私が行きますか」
「えっ、ネフィア姉さん。くじ引き……」
「赤なら真ん中ね」
ネフィアはだんごむしのお腹で隠している木の枝を一つ拾う。赤く血塗られたそれを見てアンジュは驚き。ウィンディーネは呆れる。
「アンジュ……ネフィア姉さんに運が絡むのはだめよ」
「……姉さん。真ん中行きたいんだ」
「もちろんです。目立ちますからね。1発目私が行きますから、あなたたちは脇から攻めるのがいいと思ってます」
「私が真ん中行きたい。脇からじゃなく正面から」
「アンジュ、大丈夫?」
「アンジュちゃん、わかった。じゃぁ私はここから見て右から行きますか。ウィンちゃんは左でいい?」
「右がいいです」
「その心は?」
「一塁は右です」
「ウィンちゃん……」
「ウィン……」
ネフィアとアンジュは苦笑いをし、うなずきながら向かうべき場所の確認が終る。そして……ネフィアは手を出す。二人はそれに乗せるように手を置く。
「では、目的地は城の中。そこで魔王を倒します」
「「はい!!」」
「門を開けての電撃夜襲。時間がないわ……とにかく自身を優先すること。死ぬわよ」
「「はい」」
「死なないような顔をしてるわね……ふふ。では!! 頑張って魔王の顔面殴り抜きましょう!!」
「「えいえい、おぉ!!」」
手を上げて皆で気合いを入れる。ウィンディーネは兜を被り、バットを背負う。ネフィアは翼を広げ明るい翼見せつけ、アンジュも同じように広げた。
「私から行きますから、数分後……二人は走って」
そう言い、ネフィアは翼を広げたまま走り出し。ネフィアの翼によって敵兵は視認したことによって火口を切る。




