魔王の巣立ち決意..
風が冷たい時期になる。火山地帯は温暖な場所と言われるが、精霊、エレメントたちの活躍もあって非常に冷たい風と気温に驚いた。本来は旅などは避けるべきだがトキヤに秘策があり、私たちはテーブルに地図を広げて魔国内の都市を確認する。これからの事を確認するために。
「こことここに立ち寄って観光。魔城を目指します」
「わかったけど、借金はどうするんだ?」
「借金は送金しながら旅をしようと思います。商人に送金依頼出せば自ずと商路が出来て素晴らしいと思います。お金稼ぎは何でも行って行きたいと思います」
「なるほど。商人を送って都市を助けながら借金返済をするわけか」
「ヘルカイトさんに苦情も言って都市を住みやすくしてもらいましょう。いろんな観光しながら魔城に向かいましょう」
「観光、観光………何故?」
「デートがしたいです」
「お前なぁ………刺客もいるかもしれないのに呑気な……」
「トキヤが頑張ってくれます。ねっ?」
「まぁ頑張るけど。死に出るような真似はするなよ」
「良かった。今まで仲良く旅が出来なかった分。楽しみます」
「しゃぁない。付き合うよ」
やれやれと言った感じで、彼は承諾してくれる。私も強くなっている。易々と殺されたりしない自信がある。
「でっ誰に魔王を継承。譲位をするんだ?」
「側近でいいと思う」
「ふーん。許せるの? 裏切った奴だぞ?」
「許せる。トキヤに逢えたから感謝してるし」
「優しいな」
「優しいです」
「自分で言うな。国内荒れるぞ……」
「へへへ、私はあなたに優しさと愛を教えていただけましたから。生きるなら大丈夫です」
トキヤが顔を剃らして鼻をかく。照れ屋さんだ。
「ヘルカイトに言うなら、怒らせるなよ」
「はーい」
私は簡略化した地図を頭に叩き込む。行く先はだいたい決まったのだった。
*
「くそ馬鹿、領主さま!!」
屋敷の執務室にネフィアの怒声が響く。俺は頭を抱えた。怒らせてしまった。
「くそ女。やるのか? 受けて立つぞ」
「ネフィアぁ、嘘だろおい、釘刺したのにな!! 引っこ抜きやがった!!」
「都市を良いものにしてください。文句はそれから聞きます。住みにくい!!」
「…………すまねぇ嬢ちゃん。そうだよなぁ」
「謝った!? 激昂が嘘のように鳴りを潜めやがった!? お前、本当にヘルカイトか!?」
「部下がいるのか知りませんが恐怖で意見を遮ってないですか? あと竜人にしっかり仕事を与えてないと動きませんよ?」
「何したらいいかわからないんだ。どうしたらいいか全くわからない。実はギルドの創立もよくわからないんだ」
恐ろしいぐらいの無知、だが仕方がないとも思う。彼は破壊を好む竜だ。作るのは不得意だろう。
「竜人の皆さんに都市の観光と生活を半年させてください。そうすれば何が足りないかを理解できるでしょう。勉強して来い言えばしますでしょ?」
「なるほど。ついでにギルドのやり方も学ばせよう。暇しているだろうからすぐに飛び立たせる」
「ヘルカイト、柔らかくなったなぁ」
「なに、長い生で新しい生き方も必要だろう。嬢ちゃんだって新しい生き方を見つけているからな」
丸すぎて昔を知っている自分は別人かと疑い出す。火山の覇竜と言われるほどに荒かった。
「そうですね。私は期待してます。この都市が立派な大都市になることを」
「嬢ちゃんが帰ってくる前にいい都市にしておきたいな。任せろ、魔国でも名のある大都市にしてやる」
「無理ですよ、それはすごく時間がかかります。でも私も帰ってくる予定ですので。そのときはお手伝いしますよ。私もここのヘルカイト民ですから。あと袋にいっぱいの鱗ください」
「嬢ちゃん!!………わかった。鱗だな、ちょい待ちな!! 保管してある。ヘルカイトの民かぁ。嬉しいことを言うな」
俺はネフィアのあまりの図々しさに驚く。ヘルカイトが用意していたのか机のしたから袋を出した。
「ほれ」
中を確認すると袋に鱗がみっしり入っている。いいお金になりそうだ。ヘルカイトもドラゴン。いい鱗なのだから。
「ありがとう。ヘル領主さま!!」
「へへ、民のためだ。頑張れよ、旅」
「お土産を期待してくださいね」
「期待しよう。我がお眼鏡に叶う物を所望する」
「あーまぁまぁの物をね」
恐れず会話を交わすネフィアに不安を覚えていたが問題ないみたいなのでホッと胸を撫で下ろした。しかし、もう一度だけ釘は刺しておこう。今のままだと、危なっかしい気がするのだった。
*
旅の準備をするために帰宅。帰宅した瞬間、私は壁に押さえつける。彼が真剣な表情で話始めた。
「ネフィア、結果的には良かったかも知れないが危険な橋は渡らない方がいい。わかるな?」
「ヘルカイト殿に暴言吐いたこと?」
「そう、それ。ヒヤッとしたぞ」
「ふふ、知ってる。でも大丈夫。トキヤがいれば大丈夫」
トキヤは全力で私を護るだろう。安心出来る。そして私も戦う。
「いや、あのな………はぁ調子狂うなぁ」
「狂う?」
私は人差し指を下唇につけて首を傾げる。何に狂うのかよくわからない。
「いや、こう………温度差がある気がしてな」
「トキヤは私のこと好き?」
「…………………好きだ」
「へへ、私も好き。温度差ないよ?」
「ぐぅ、かわいいからちょっと変になるんだ」
「………トキヤ、大丈夫。私の方が変だから、今だってドキドキする。壁に追い詰められて喜んでるんだ。私」
「ちょっと釘を刺すつもりだったのに。違う感じになってしまったな」
「へへへ、ごめんね。もうちょっと考えて暴言吐くね」
「吐くな。火種を作らない。大人しくする。ヘルカイトとの仲だから許されてる」
「はーい」
私は気のない返事をする。そう、甘えている彼に。優しい彼に。彼は肩を落とすがその仕草も新鮮で愛おしい。ヘルカイトの領主様も優しい。
「ねぇ、このままキスをしたら真面目になるかも」
「すでに不真面目な行為だぞ。魔王らしくない」
「魔王、辞めてあなたの女になるって決めたから。してくれないの?」
「しないとは言ってないだろ」
彼が私の腰に手を添えて、顔を近付け触れあう。ほんの一瞬。唇に触れすぐに離れる。
「うぅ………」
「ネフィア、何で不満そうな顔をするんだ?」
「だって、その。満足できなかった」
下を向きながらボソッと言う。
「ええぇ……」
「この前までこれでも満足できたのにトキヤのせいで満足できなくなちゃった。もっと深くお願いします」
「わがままな姫様だ」
「トキヤにだけわがままな姫様です……んん!!」
顎に彼が手をあて顔を彼に向けさせて強引に奪われる。今度はしっかり触れあった瞬間。舌を絡め。深く愛し合う。長い触れあいの後。離れた瞬間は唇に残る余韻に私は浸りながら一言。
「幸せです」
「よかったな。早く準備しような?」
「うん!!」
きっと私はこれからも彼と結び続けるだろう。
*
城門前、森が生い茂っている目の前を私たちの目の前にあり、杜撰な伐採で獣道が出来ている。城門は開けっ放しで解放され、その下をくぐり抜け旅立った。上空に同じように竜たちが旅立っていき、上を見上げながら成功する事を願う。
「いい都市になるといいなぁ。こう、何にも真似できない大都市になればいいなぁ」
「別に生きてくにはあれぐらいでも十分だ」
「トキヤ。下着とか服とか化粧品とか甘いものとか色々欲しいです」
「女って面倒だな」
「そうですね。面倒ですね。でも女って凄くいいんですよ?」
私は彼の皮手を掴み、手を繋ぐ。
「女だから。男に護ってもらえますし、大切にしてくれます。それにそれに、やっぱり、何でもないです」
私は思い出したかのように言い直した。そういえば、まだ。私たちは恋人だ。先ず目指す場所を再確認し俄然やる気が出てくる。
「なんだ? 最後のなんだ? 教えろよ」
彼も軽く話せる仲になり、昔は張り詰めた雰囲気も柔らかくなった気がする。
「秘密!! いつか近々で私からお願いするからね!!」
魔王を辞めたら「告白しよう」と心に決める。不安だけど、この旅でもっともっとトキヤの心を掴む。私は絶対彼じゃないとダメだ。結婚するなら彼とだけしか考えられない。
「何だろ? お願いかぁ………ヒント」
「やーだ」
「まぁ旅は長い。見つけてやるぜ!!」
「鈍感な君が私の事をわかるわけがない」
「くぅ!! 否定が出来ない」
「ふふふ」
笑いながら私は、絶対にトキヤの嫁さんになる事を決意し。譲位を行うために旅を再開したのだった。




