揺らめく海面
ことウィンディーネは悩んでいた。早朝、快晴の日差しで起き素振りをいつものようにしていたのだが……ネフィアとアンジュがいつもと違う事に気付き素振りをやめて悩むのだった。
いつもならどちらか声をかけてくれるのに何もないのだ。
ただただ、ネフィアは船の木の手すりにくっついて唸り続け。アンジュは手すりに土海竜を乗せて海面をずっと眺めて落ち込んでいたのだ。
「どっちから声をかけましょうか?」
独り言でウィンディーネは行動を考える。アンジュは土海竜と会話をしているようだったが背中は寂しい。ネフィアに関しては寂しいを通り越し、暗く怪しい。危険度でネフィアにウィンディーネは近づいた。そして背筋が冷える。
「トキヤ、トキヤ、トキヤ、トキヤ……どこどこどこどこ?」
ネフィアが同じ事をずっと喋り続けまるで壊れた人間のように気が参っていた。今まで我慢していたのが噴出したのだ。
「会いたい会いたい会いたい会いたい……」
ウィンディーネはびくびくしながらも声をかける。
「ネフィア姉さん?」
「……あっ……ははは。おはよう……素振りはもういいの?」
「あ、はい……その。きっと帰れますよ!!」
「………ありがとう。優しいねぇ……トキヤさんみたいに」
「……」
「トキヤさん何処で何してるのかなぁ。浮気してないといいなぁ~皆可愛いもんねぇ。殺す人。指に収まればいいのに」
(ヤバいヤバいヤバいヤバい!?)
どす黒いオーラを持ったネフィアにウィンディーネが体液を流す。
「ははは、トキヤさん!? あれ!? トキヤさん!?」
「ネフィアお姉さん!? 何も居ませんから!! 海に飛び込もうとしないでください!!」
「あっ……はは。幻かぁ……はは。ありがとう……ははは」
早急になんとかしないといけないとウィンディーネは思い。自分の荷物から何かないかを考える。昔に泉に投げ込まれたゴミを取り出す。すると……一つ。釘の刺さった藁人形を見つける。そして思いついたようにそれに名前をつける。
『トキヤ人形』
ウィンディーネは自分でも何をしてるんだろうと思いながらもとにかく気を紛らわせる物を用意する。捨てられたら次に何かをする時間稼ぎと考えてゆっくりとネフィアに近づきそれを見せた。
「あっ……ウィンちゃん……これ……」
「ど、どうぞ……」(お、怒られてもいいから気を紛らわせないと)
「ありがとう……ふふ、トキヤさぁん」
ウィンディーネからトキヤと名前をつけられた藁人形を手にしてニコニコする。ウィンディーネはそれでいいのかと驚き、背筋が冷える。
「ありがとう。ちょっと元気がでました」
「あ、はい」
思った以上の重傷であり。藁人形に色々と話をしていた。これ以上、自信の精神が削れると考えたウィンディーネはその場を去り今度はアンジュの近くへ行く。そこでは土海竜に悩みを打ち明けている途中だった。
「ねぇ……聞いてもいい?」
(ご主人、ええぞぉ)
「もし、旅が終わったら……ネフィアお姉ちゃんもウィンも帰っちゃうんだよね……」
(そうじゃな)
「そしたら……私……こんな楽しい事も、もうなくなるんだよね?」
(そうじゃな……別れという)
「……一人ぼっち。嫌だ……嫌だ……もっと一緒にいたいよぅ……うぅうぅ」
(ご主人……泣く気持ちはわかるが。ネフィアどのは魔王であり立場がある。ウィンどのも同じように。それに死ぬわけじゃない。会えなくなるわけじゃない)
「……」
(それにご主人。ワシがいるじゃろ? 一人にはせぬよ。じゃが……別れが近いのは確かじゃ。その時まで覚悟しようのぉ)
「土海ちゃん……ありがとう。うん……聞いてくれて本当にありがとう」
ウィンディーネは大丈夫だなと思い。その場を離れて素振りを開始した。日課の回数がまだ終わってなかったからであり。無心で素振りを再開するのだった。
*
「土海ちゃん、そろそろ頭に戻ろう。そこ落ちるかも」
(大丈夫じゃろ)
アンジュは相談に乗ってくれた土海竜に注意する。落ちないように落ちないように……そんな中。
ビシャ!!
アンジュの横にいた土海竜が黒い液体がぶっかかる。真っ黒になった土海竜は普通の団子虫のような姿になり、アンジュを驚かせた。
「土海ちゃんが!? 普通のダンゴムシに!?」
(いや、もとから普通のダンゴムシじゃぞ!! 何奴!?)
「あっ!?」
アンジュと土海竜は黒い液体を打ち込んだ方向を見ると……並走する浮いた海洋生物が一匹漂っていた。
「……イカ?」
(甲イカ種じゃな……子供の)
(ようよう、土海竜……ええきみだなぁ!!)
「しゃ、喋った!?」
甲イカが取っ手に絡みつく。そして土海竜を睨んだあとにアンジュに向き直った。
(よう、女神さん。完敗だった。でっ……旨かったか? くいごたえあっただろ?)
コウイカのその問いにアンジュはハッとして察し、指を差した。土海竜と同じように食べられる事を許容し、そしてなにより完敗と言ったことで電撃が走る。
「たこぉ!!」
(そうだ。生前オオダコだった。旨かったか?)
「えっと……は、はい。おいしくいただきました。刺身と焼きで」
(タコ焼きにしてないのか? その反応でそうやな。はぁああ……一番うまい食べ方やのになぁ……残念だ)
コウイカは手を振り、クルクルとタコ焼きをひっくり返す真似をする。アンジュはその動きがよくわかっておらず首を傾げるだけだった。
(こんど、教えたる)
「あ、ありがとう……その。えっと……生まれ変わったの?」
(そうやで。タコでは土海竜には敵わんかったし。イカだけにタコはイカン。なんちって)
(ご主人。こやつを美味しくいただく方法は……)
(まぁ待ってくれや!? 生まれたばかりのベイビーや、もうちょい生かしてくれや!!)
(いいや。ご主人、こやつを捌いて食べるとうまい)
(土海竜……いけずやなぁ。もう、弱者同士仲良くしようや)
「そうだよ。土海ちゃん……じゅる」
(女神のお嬢さん。よだれででまっせ)
「ごめん……美味しそうで。でっあなたはなんのよう?」
アンジュは自分の服で土海竜を吹きながら問う。コウイカはそのまま向き直り、浮きながら答えた。
(近く通ったら、こりゃ~知っとる思うてな。群れからはぐれてみたんや。まぁ、もう帰れんけどな~まぁ短い一生やったわ)
「ああ……」
アンジュは理解する。土海竜に顔を見せに来ただけなのだ。なお、船で移動中のため……もう仲間の元へは帰れないようである。
(せっかくなら。非常食でもええから置いてもらうかなぁ)
「わかった。いいよ」
(おおきにぃ!!)
(ご主人、こやつは敵です)
「いや、土海ちゃんも敵だったでしょ……それに……寂しいでしょ一人じゃ」
(せやせや、土海竜。お主の隣でおまえに勝つために頑張らせてもらうでぇ!!)
(はぁ、ええ加減。敗けを認めろ)
ダンゴムシとコウイカがにらみ合う。
「ああ!? コウくん!! 土海ちゃん!! 喧嘩はだめだよ。せっかくの知り合い大事にしなよ」
(せやな)
(……そうだな)
ダンゴムシとコウイカはそのまま、仲直りをするのだった。
*
「ねぇ、アンジュ……私が素振りを始める前さぁ……その頭に土海ちゃんしか居なかったよね」
「うん……」
「それなに?」
「コウイカのコウくん」
(よろしゅう。水の別嬪はん。ええ、衝撃吸収できへん攻撃やったで)
「アンジュ……またゲテモノ捕まえてペット増やしてる……」
「げ、ゲテモノ!? 違うもん!! ゲテモノじゃないもん!!」
「……アンジュ。実は変わり種の生き物好きでしょ?」
「変わってないと思うんだけどなぁ……」
アンジュの頭にはダンゴムシとコウイカが乗っており。何処から見ても変な感じなのだった。




