海戦~赤い悪魔~
荒々しい海域を越え、さぁ魔王の治める地が近くなってきたと船長が海図を見ながら言い出し、それを聞いていた3人は各々やっと海の旅が終わるんだと喜んでいたとき。船長室に泡立たしい音ともに扉が開け放たれる。部屋に転がり込んで来たおっさんが叫ぶ。
「ママァ!! ヤバい!!」
「船に乗ったら船長と呼びなと言っているだろうが!! ええ歳して!! なんだい!!」
「そんなことよりもヤバい!!」
「ヤバいって何さ!!」
「海獣が現れたんだ!!」
「何!? 臨戦態勢!! ボケッとするんじゃないよ!!」
一連の流れをネフィアは読み、アンジュとウィンディーネを連れて甲板まで上がってくる。船の端に寄り、船長は双眼鏡でネフィアは自身の目だけでそれがなにかを理解する。
「オクトパスか!!」「リヴァイア種、オクトパスね」
ネフィアの言うリヴァイア種とは彼女の世界では大きい海獣類を差す。中には都市を背負う者もいる種であり。海の大きい器だからこそ存在できる。世界最大の種である。
「知ってるのかい?」
「船長さん、知ってますよ……どれだけ危ないかも」
「なら、話は簡単だ!! 迂回しよう」
「ママァ!! こっちに向かってくる!!」
「なにぃ!!」
監視を行っていた一人が大きな声で指を差す。その指先の海獣は勢いよく一直線よりこちらを見て泳ぐ。意思を持っているかのように。
(ご主人、あれは……ワシらを狙っとる。シャチの旦那の言っていた相手だ。四天王の座を欲していた)
「土海ちゃんまじ!? 皆!! あれの狙いは私たちです!!」
「アンジュ!? 本当に!?」
「ウィン本当!! 土海ちゃんの知り合いだって!!」
「チッ!! そうかいそうかい。とんだ客人を乗せちまったもんさ!! シャチの旦那とは違う話のわかるやつでもないだろう!! 大砲を用意しろ!! ぶつかる前に倒すぞ!!」
唐突の海獣との戦いに船員が泡立たしく大砲を用意し……泳ぐタコに爆発し炸裂する鉄球打ち込んでいく。
ドン!! ドン!! ドン!!
数発の大砲からの攻撃がタコに当たり爆発をする。しかし、タコの勢いは止まらず。どんどん大きくなり。その大きさが船を丸呑み出来る大きさだと全員にしれわたった。
「ヤバい!? ママァ!! 主だ!!」
「黙って大砲と魔法を打ち込み続けろ!! 俺も魔法を用意する!!」
「……船長さん。迂回準備でここの海域から離れてください」
船長の前にネフィアが白い翼。雪の粉が舞う翼を広げる。その姿にウィンディーネとアンジュは理解し、アンジュは剣を慌てて取りに行く。ウィンディーネはそのまま近くへ寄った。
「ヴァルキュリア姉さん。お供します」
「わかったわ、ウィンディーネさん。なんとか海の力でどうにかしてください」
「お、お供しますが。そんな海の力なんて……泉の女神ですよ!? スケール違います」
(ウィンちゃん。泉も海も同じ水。海も大きな大きな泉です)
「ネフィア姉さん!? 無茶苦茶な理論です」
頭の声に反論するウィンディーネはムリムリと顔を振る。
「ウィンディーネさん」(ウィンディーネ)
「は、はい……」
(そんなことはいいから。海の女神でもなってみせよ。やってから文句いいなさい)
「……あああああもう!! わかりました!! やればいいんでしょ!!」
ウィンディーネが海に飛び込むと同時にヴァルキュリアは空を飛び、海を凍らせて氷山を精製する。タコはそれに勢いよく当たり氷山を押し込み。船は間一髪で大きな巨体を避けていく。その揺れる船からアンジュも飛びたち。氷山を掴んで遠くへと邪魔だと言わんばかりに投げたタコに近づく。
「ヴァルキュリアお姉ちゃん!! どうするの!!」
「……どうしましょう。さすがにリヴァイア種は倒せませんよ。ネフィアさんでも海の上では炎で焼けません」
「えええええええ!?」
「だから、時間を稼ぎましょう」
「まじいいいい!?」
アンジュの悲鳴が響き。タコはぎょろっとその声の主を睨み付けて大きな足を振り上げて下ろす。
「ひえっ!? でか!?」
「アンジュさん!! 海に落とされないように頑張って」
「ええ!?」
ハエのような機敏な動きで煩わしくタコの触手を掻い潜っていく。時に剣を盾にして受け流しも行う。そんな中でフッとタコの目の前で水が盛り上がり。人の形をとり、ドレスのような鎧を着こんだ少女の姿へが現れる。怪物のような大きさの女性に二人とタコは驚く。
「な、なんとかなった……私」
「ウィン!? でか!? 胸盛ってる!?」
「盛ってない!! アンジュ!! どけて!!」
ウィンディーネが拳を握ってタコを殴る。がっ、柔らかく何も痛みがないのかそのまま絡まれ……動きが鈍くなった。
「ああ、全然なにもできない!!」
「ウィンディーネさん!! あなたに素手の才能はないからダメです!! アンジュさん!! 剣を創造して!!」
「ええ!? ヴァルキュリアお姉ちゃん!? 創造って!?」
「ウィンディーネさんの今の大きさにあった剣よ!!」
「む、むりぃ!!」
「やる気があれば出来る!! ウィンディーネさん!! 砕くわ!! 右手を!!」
「気合いだけでどうにかならないですよ!!」
ヴァルキュリアが氷の槍をウィンディーネに投げ、当たった所から右手が一瞬で凍る。タコの腕だけ凍らず絡み続ける手をヴァルキュリアは氷の部分を踏みつけて砕き。ウィンディーネはそのままタコから離れることが出来た。続いて海を凍らせてタコの動きを少し制限する。
「ウィンディーネさん!! そこに氷で作った剣があるからそれで斬り合いなさい!! 打撃はダメよ!!」
「はい!! ヴァルキュリア姉さん!!」
海の十字に固まった氷が作られ。ウィンディーネは新たに作り直した右手でそれを掴み。片手で剣を振り回す。タコはその剣を巨体なのに素早く避け、同じように石の棒を海から掬い上げた。
ガゴオオオオオン!! ガゴオオオオオン!!
氷の剣と石の棒を打ち合うタコとウィンディーネの余波が海に高波を生み出す。
「か、海獣大戦争。ウィンが女を捨ててる」
「アンジュ!! あとでこのまま叩くわ!!」
「ご、ごめん」
「あああ氷の剣にひびが!!」
ピきっ!!
「しょせん氷か……アンジュさん早く!!」
「ああああんんんんんんん。ヴァルキュリア姉さん!! 脳筋すぎるうう」
アンジュは剣を納めて唸り。そして、大剣をイメージする。右手に魔力を込めて1から物質を作ろうとし膨大な世界に対する嘘を混ぜ込みながらもゆっくりと形が出来上がっていく。素朴な何処にでもありそうな剣が幻のように現れて海に落ちていく。
「で、でけたぁ!?」
「アンジュさん。やれば出来るじゃないですか」
「形は普通だけど!! ウィン!! 掴んで!!」
「わかった!!」
ウィンディーネが海に沈んでいく鉄の剣を掴み。振り上げてタコを叩き切ろうとする。タコは受けてたとうとし石の棒で防御を行い。また、海獣大戦争の様相となった。
「あああ、アンジュ!! どうやったら切れるの!?」
「ウィン!! えっと……頑張って!!」
「あうぅ!? バットを!! バットがいい!! ヴァルキュリア姉さん!! ネフィアさんにお願いして!! ネフィア印のバット!!」
「……ネフィアさんね。今、海の中です。鳥のまま」
「「はい!?」」
二人はヴァルキュリアを見て驚き。ウィンディーネはその隙を突かれて腰を石の棒で叩かれるが石の棒が腰をすり抜けていく。タコは驚いたのか距離を取り。人の声で詠唱を始めた。
「うっそ!? タコの癖に魔法使えるの!?」
「ウィン!! ウィンも魔法で応戦しなよ!!」
「無理よ!! 体の維持だけで手一杯!!」
「ウィンディーネさん。時間稼ぎありがとう。船も離れたし……バット。いけそう……剣を水につけてね」
ヴァルキュリアは大きく下を指差す。
「ヴァルキュリア姉さん……言われた通りにするけど!! 何があるの!!」
「ネフィアさんがあなたにタコをトスするってことよ。海面をみなさい!!」
「トス……あっ!?」
ウィンディーネが海につけていた剣を引き上げると刀身部分に氷がまとわりつき。大きな大きな氷のバットが出来上がる。これにウィンディーネは目を輝かせて頭を片手で指を差した。ここもここもと言うウィンディーネにヴァルキュリア海に触れて氷の造形を再度行い……それをまたウィンディーネは掬い上げ被る。ヘルメットを。
「やる気でたぁあああああああああああ!! 一発で仕留めてやる!!」
「ウィン……げ、現金な……どれだけ好きなのよ」
ウィンディーネが掬い上げたのは氷のフェイスガードつきヘルメットであり。それをしっかりと固定する。片手でバットを振ってタコのトスを待ち、タコは詠唱が終わったのか魔法陣が海に浮かび上がった。
ボボボ!!
だが、魔法陣が水柱となって書き消される。測ったようにタイミングよく。ご都合のよいように。
「きたっ!! ウィンディーネ!!」
ボゴォオオオオン!!
「はい!! うわ!? 海が振動してる!?」
「ネフィアさんの爆発です!!」
タコの周りで水柱が立ち続け……そしてタコの近くの海面から衝撃がウィンディーネに伝えられる。タコも同様に泡立たしい動きでウネウネとした。その後に大きく大きく海が盛り上がり、そして盛り下がったと思った瞬間に大きな水柱を生み出して力強くタコを空へと押し上げる。
「ほえ!? 上がった!?」
「ウィンディーネさん。落下地点へ!!」
「!!」
一瞬で上がったタコは位置調整をしたウィンディーネの横に落ちてくる。爆発で押し上げられた力ではダメージはない。そのまま、ウィンディーネの間合いに入り……
「衝撃が効きにくいのだろう、ならそれ以上の衝撃を叩き込むまで!! 私のバットどどっちが勝つか勝負よ!! ゴットインパクトおおおおおお!!」
彼女は氷のバットを勢いよく振った。タコの頭を真芯で捉えてそのまま振り切る前にバットが砕け。氷がバラバラになり剣も衝撃で鋼にヒビが入り砕ける。タコはバラバラに体繊維が切れ、バラバラになって大きく空へと散り。そのままバシャッバシャッと海に叩きつけられた。
振り抜いたウィンディーネはそのまま、維持が甘くなりバシャッと小さくなった。最後はクラゲのような形でユラユラと浮く。やりきったようなクラゲを近くにいた船の網で掬われて甲板に打ち上げられる。その、クラゲを囲うようにアンジュとヴァルキュリアが降り立ち。ヴァルキュリアの肩には火の鳥が止まった。
「ウィンさすが!!」
「これはもう。海の女神を名乗ることができますね」
「……泉の女神でいいです。疲れた……」
クラゲのまま。プルプルするウィンディーネ。そのまま、アンジュはヴァルキュリアに向き直る。
「にしても、すごい衝撃。海の中から押し上げたんですか?」
「ええ、このネフィアさんが海の中でね。燃え尽きるかなと思ったら燃え尽きず驚きました」
(すっごい疲れたけどね。海の中で水を押し込むの……うまくバブルパルス出せてよかった)
「バブルパルス?」
(アンジュちゃん。気にしなくていいよ。ただ、爆発しただけだから)
そう、火の鳥はいい。体を返して貰ってクラゲを撫でる。ヴァルキュリアではなくネフィアとして近付く。
「お疲れ。ウィンちゃん」
「ふぃ~」
そのまま、ネフィアはクラゲを掴み抱き締めて魔力を流し……ウィンディーネを元の姿へと戻す。船長はその3人がいとも簡単に倒したことを喜ぶ様子を遠くで見ており独り言を囁く。
「ええじゃないか魔王。女神たちは……あんたに勝てそうだ」
独り言は誰にも聞かれずに静かに海風に乗り、空へと消えたのだった。
*
(では、今回の晩飯はの。タコの刺身に、焼きタコじゃ。大きいタコじゃったが~大味にはならぬぞ)
ネフィアが土海竜を頭に乗せて持ってきた皿をドンッと置く。皿には昼間の砕け散ったタコの料理が運ばれる。テーブルにはウィンディーネとアンジュがよだれを垂らして待っていた。他の船員もタコを食べており、中々美味と言う。
(倒した者をしっかりと食せよ。主人……こやつは生意気だったがまぁ美味しい生き物でもあった)
「うん!!」
「こら、アンジュ。箸を置きな」
「ウィンも置きな」
「ウィンちゃん、アンジュちゃん。いっぱいあるから取り合おうと火花散らさない。では手をあわせて」
アンジュは教えてもらった箸を置き。3人+一匹は手を合わせる。一匹は手がないので、どうしようもないが。
「(「「いただきます」」)」
「(「「うっま!?」」)」
土海竜も驚く美味しい敵であった。




