海路~鯱との出会い~
航路の途中、釣りもすぐ飽きた頃。船の周りのバシャバシャと泳ぐ姿の大きな魚が並走する。アンジュはその光景を目を輝かせて見て指を差す。
「あれ? 黒と白のなんか可愛いお魚がいる。土海ちゃんあれなに?」
もちろん詳しいだろう頭の土海竜に聞く。
(あれは……シュチじゃな。黒と白の配色でわかる)
「しゃち? 味は?」
(味は不味い。筋肉質で固いの……魚と違い人間によく似ている。あとはまぁ油が取れるのでそれで揚げ物をするとよい)
「へぇ~、にしてもなんでこんなに囲んでくるの?」
(観察してるのだ。興味心から。まぁ危害は加えないだろう)
そう、周りを泳ぐだけで何もしない。何もしないと思っていたのだが……
バッシャーン!! ドダ!!
一匹が大きくはね上がって甲板に乗り滑っていく。ツルツルした質感に白い以外の所にある目がぱっちりとしていた。
「白いの目じゃない!? いや、それよりも!! 乗ってきた!?」
(黒いのが目じゃな)
キュ~~~
高温の音が響き、どこか可愛らしい声で鳴く。甲板でペチペチとヒレを動かしアンジュを見つめた。
(よう、土海竜。ま~た、お前さんそんな生物かい)
(お前……シュチの旦那かい)
(いやぁ、海の噂で知ってたが本当に女神に付き従ってるんだんなぁ~)
「えっと……土海ちゃんの知り合いなんだ」
(いがいじゃろ……)
(こんにちは。陸の女神さん)
「こ、こんにちは」
シャチに撫でながら挨拶するアンジュ。シャチは気持ち良さそうに目を閉じる。そんな所に騒ぎを聞きつけた船員の数人が顔を出したあと。なーんだと言って持ち場に戻っていく。ウィンディーネとネフィアは逆に物珍しそうに近づき。船長は頭を掻きながらシャチに近付いた。
「おい。また船に乗り込んで……お前……」
(よぉ~船長。久しぶり)
「久しぶりだな。シャチの旦那」
「わぁシャチだぁ。この世界にも居るんですね。アンジュちゃん食べちゃだめよ」
「食べないよ!? お姉ちゃん!?」
「アンジュ……土海竜さんに食べれるか聞いたでしょ?」
「……ウィンはなんでわかるの」
「なんとなく……聞いたんだ……」
船長は親しく。シャチの尻尾を撫でる。その姿に興味を示し同じように触るウィンディーネとネフィアにシャチの旦那は大人しく背ビレをダラーンと垂らす。
(気持ちええのぉ~)
(お主になにぬえに甲板へ?)
(そりゃ~全員に注意をな~と。せっかく会ったのだから教えておこう。土海竜の座を奪おうと野心を燃やす者が狙っておる。気をつけるのだぞ)
(……わざわざそのために干からびる危険を犯したのかえ?)
(せやせや。じゃから……海に戻してくれ)
シャチがペチペチとヒレを動かして海に帰してほしいと言う。それに船長は目を細める。
「おい。旦那。そろそろ油にならないか?」
(却下)
「……しょうがない。すまぬがこれを押して海に帰してやってくれないか?」
「「「はい」」」
シャチのツルツルした肌を押しながらズリズリと甲板を押していく。船の周りでは顔を出したシャチの群れがその様子を見ており、落ちるのを待っている。
(じゃぁ、最後に。三人へ)
シャチが3人の頭に思念を送り。落ちる手前でキュルキュル言い出す。
(旅にしゃちあらんことを)
(お前さん、それ言いたかっただけじゃな……ご主人、突き落としてやれ)
「「「そーれ!!」」」
(ありゃああああああ~)
バッシャーン!!
突き落とされたシャチに3人は笑いだす。立派な落ちと言う変なユーモアさにじわりじわりと効いてきたのだ。そして、短い出会いだったシャチに手を振り。三人で祝福の言葉を伝えた。
「「「旅に幸あらんことを」」」
(そこ、シャチ言うてくれよ)
突き落とされたシャチが海から大きくはね上がってそう。愚痴にしたのだった。




