軍港突破~アンジュ編~
天気が良くない。それがわかっているが私は屋根上から空を飛んで行くことを選んだ。結果は雷に打たれる事になり、屋根に転がってしまう。上から行く場合、この雷を避けないといけないらしい。
(ご主人!! 危ない!!)
「土海ちゃん!?」
閃光がまた走り……頭の上にいた土海竜がそのまま飛んで雷の盾になる。
(雷流し!!)
白い土海竜に雷が通り、別方向に落として屋根へ穴を開ける。その付近に私は降り立ち、落ちてきた土海竜を受け止める。
「大丈夫!?」
(大丈夫じゃ……おいしくなっておらん。じゃが……もう一発は無理じゃな。屋根伝いに避けて行くべきじゃろ)
「ごめん……」
(雷は高い所に落ちるからのぉ)
帯電する土海竜を頭に乗せてもう一度這い上がって屋根を走ろうとする。そして、一人……港の最短を立ち塞がる存在を見つけてその場に立ち止まった。杖を持ち、ローブに身を包んだ男に剣を構えて大きな声でその人物に声をかける。
「邪魔!! 退けて!!」
「邪魔するためにここにいるんですよ!! 雷撃!!」
バチバチバチ!!
「!?」
アンジュはその場から大きく後方に飛び、落ちてきた雷から避けた。一瞬で落ちる雷を前もって体が勝手に避けたのだ。それには目の前の男は驚き。笑みを深める。
「おっと……初撃を避けるなんて初めてです。ドラゴン、魔物、俺につっかかった勇者たちも避けれなかったんですがね」
自信たっぷりの笑みだ。それはある意味、強さに繋がる。
「……」
私は片手で大剣を掴み走り出す。近付かないとどうしようもないからだ。
「おっと、剣を向けるのですか? 雷が集まって来ますよ?」
バシュゥウウ!!
「うぐっ!!」
剣の先に雷が当たり、体に電気が抜けていく。ビリビリとする痛みを感じて歩が鈍った所に大きな雷が天から落ちた。
ドゴーン!!
「直撃」
膨大な熱量と閃光に私はまた吹き飛ばされ屋根を転がる。あまりの強さに少し意識が飛んでいき……大剣の握る手が弱まり、少し……頭がボーっとする。
(あっ……だめ……意識が……)
*
訓練所、相対するヴァルキュリアお姉ちゃんは私と向き合い。色々と質問に答えてくれる。疑問に思った事をそのまま聞いたのだ。先ずは他の事を聞き後で本題を聞こうと思う。
「なんでヴァルキュリアお姉ちゃんやネフィアお姉ちゃんは魔法使いぽい……魔法の方が強そうなのに剣や拳で戦うんですか? きっかけはなんなのですか? 一方的に遠距離から魔法を使ってれば勝てますよね?」
「それだけでは勝てないからです。あと、戦う武器のきっかけはそれぞれ違うわ。まずネフィアさんは旦那である勇者の影響が大きかった。風の魔導師である勇者はそれを隠し、大剣騎士として戦ったわ。理由は魔力がなくなっても戦える事、魔王であるネフィアを護れるために前に立つため剣を選んだ」
「……本当に愛が深い人です。その人」
「ええ、表面は飄々としてますが才能がないのを努力と力で物にしましたね。その勇者の持論は一人で戦えるための持久戦には剣を持つ事と言うものです。魔力は有限ですから。そしてネフィアさんはその旦那さんに魔法を教えてもらい。勉強し、結果、同じように剣で戦う事を選んだのです」
「……でもネフィアお姉ちゃんの魔法は有限に見えませんでしたけど。遠距離で一方的に焼けそうです」
「今では、そうね。では答えを言います。魔法を修練するため他が疎かになるのも魔法使いの定めです。そう、魔法使いには接近戦がすこぶる嫌いなのが多いのです。剣の達人は間合いでは魔法使いを越える。その事があり、剣も学んだと思われます。どんな状況でも戦えるように……一人で戦うために器用なのが求められるのです」
「じゃぁ、ヴァルキュリアお姉ちゃんも?」
「私は英魔の世界を救う使命を拳に乗せて戦うので違います。私の拳は思いがそのまま重くなります。その重さは何故か魔法を越え、魔導を越え。何物よりも不可思議に力を与えます。だから……私はね。絶対に敵を倒さないとダメなので拳を選んだのです。まぁ結局は相性ですけどね。ネフィアさんは炎と相性がよかった。私は炎とは対を成す氷と相性がいい。そんなものです」
いっぱい話してくれるヴァルキュリアお姉ちゃんに顔を伏せて本題を話す。なんとなくわかっていた。相性。
「……私は魔法使えないです。遠距離……一方的に叩かれるんじゃないかと思ったんです。器用じゃない……ので」
そう、実は薄々感じていたのだ。大剣が届かないならどうしようかと悩んでいる。
「使えないでも。今でもできる事はあります。私もあります。拳はすごくすごくリーチが短い。叩き込むのに遠いのは当たり前です」
「でも、どうやって?」
「見てたでしょう? 簡単です。近付いて殴るんです。攻撃をかわし、受け止めながら真っ直ぐ懐に入って一撃を加える。魔法使いとか関係ないです。私はそれしかできないです。魔法はおまけと一撃に付与し絶対相手を倒すという力を与えてくれる補助にとどめておきます」
そういえば見ていた。竜に氷の足場で近付き、真っ直ぐ近付いて殴り抜く所を。ヴァルキュリアお姉ちゃんはニコニコしながら彼女なりの考えを教えてくれる。
「私が思う女神って真っ直ぐ。世界を滅ぼす物を壊すためには逃げないと思うのです。それが私の中の信念です。英魔族のために……誰にも知らないところで頑張ろうと思います」
「……」
私は大剣を眺める。すると、ヴァルキュリアお姉ちゃんが頭を撫でてくれた。ほんのちょっと悩みが消えた気がする。
「大丈夫です……アンジュちゃん。魔法なんて無くても大剣を振れば倒せるのです。難しい事は考えずにね。行き当たりばったりでその場で技や相性がわかったり、思いつく時もあるんですよ。創造力です。全ては」
「……はい」
全く実感がわかない教えだった。だから……私は大剣だけを振り。剣の創造だけをやってきた。他が出来ないと諦めてそれだけを……やってきた……ずっと。
*
(ご主人!? 起きてください!!)
グッ!!
「……大丈夫、土海ちゃん。ちょっと気を失っただけだから……体は動くよ」
私は再度痺れる体に鞭をうち、大剣を握り直す。雷を浴びてふと思い出したのだ。遠距離、遠い場所で男が笑うのを睨み付けて距離を目測。とにかく近付こうと考えた。
「……ヴァルキュリアお姉ちゃんならそのまま進む。ネフィアお姉ちゃんなら逃げると言いながらも真正面で戦う」
胸の奥に熱い物を感じるアンジュは日々の訓練と二人の女神の背中を思い浮かべる。学んだ事をここで生かさないときりぬけられないと察した。これは私に課せられた試験だ。
「二人……私の尊敬出来る人はこんなのに負けない」
(ご主人……やるのか?)
「うん、土海ちゃん。頭にしがみついてて。振り落とされないように。すぅふぅ……思い付いたよ。私は」
深呼吸一回。それに雷の勇者は頭を押さえ笑いをこらえるように震える。私が吹っ飛んだのを見て弱者と考えて余裕を見せ……知って欲しそうに心の内を見せびらかせる。ぶっ飛ばすその面を。
「俺の魔法の威力がおかしいって皆言うんだ。弱すぎって意味だよな? 効いてないように見えるし」
「いい煽りです。その余裕……潰したい」
「うーん。やっぱり俺は強い!! 流石!! Sランクの勇者だぜ!! 謝ってハーレムになるんなら許してやるよ」
「……」
「異世界最高。来たばっかのこんな俺でも一つの能力でこんなに活躍出来てちやほやされるんだからな」
「……」
「女神様に感謝だな。ありがとうございます女神様……さぁ~俺の栄光のために剣を下ろしなよ」
「……ぺっ。お前のその感謝。汚れてるからいらない」
「あん? 偉そうに……犯されてもそんな事いえるかなぁ?」
首を振り、剣を片手に走り出す。今度は頭が落ち着いており……一歩一歩丁寧に力を込めて屋根を飛び回る。持つイメージはヴァルキュリアの氷を蹴り、竜に近づいた歩みだ。
「あん!? 速いじゃないか!! 行くぞ招雷弾!!」
天空から雷が落ち、勇者の構える杖からも雷の線が伸びて私を襲う。屋根を飛び越えて避けるが雷の数が増えていき、次第に避けるのも大変になっていく。
「くぅうう!! 当たれよ!! 何故当たらない!!」
「……」
勇者の声に反応せず。片手の大剣に魔力を込め始める。次の持つイメージは火剣をその上から炎を付与し、居合いを行ったネフィア姉さんの技である。
「……行ける」
夢で戦った日々が、見てきた日々が私に力を与え挑戦しようと言う気持ちを生み出す。
「くっ!! あたれええええええ!! 大雷竜!!」
勇者の杖から何本もの雷のジクザクする線が伸び、破壊をもたらしながら纏まり。雷で出来た竜となって私を襲おうとする。だが、今までの訓練を信じ避けず。大剣と己の肉体を信じきった私にはそれは恐怖も生ませない。
「はぁあああああああああ!!」
大剣を両手で掴み。雷の竜を横に振って切り払い。その勢いのまま回転し……ゆっくりゆっくり雷を剣に集めて帯電させていく。
「……付与!! 雷!! 耐えろ私!!」
叫び……大剣に魔力を流し続けて雷を抑え込み。大きく回転の力を加えて大気を凪ぎ払うように大剣を振った。その瞬間、大剣から雷が屋根を走る。それは鳥の形をとり、光ながら壁が壊れたような爆音の羽ばたきを起こして勇者に向かう。
「いっけぇえええええ!! 神鳴!!」
「……な、に!? だが!! 雷なら俺の能力のが上だ!!」
勇者は杖をふるい、雷を吸い込んでいく。
「おおおおおおおおおおお!! 負けるかあああああ!! 俺は!! 最強の転生者になるんだああああ!!」
バチバチと音を立てて杖に吸い込まれて魔力として放散されていく雷鳥がどんどん小さくなり。スッと消えて無くなる。それに勇者は満足し口元がにやけた。
「よしよし……俺の勝ちだ!! さぁ!! あれ?」
勇者は私を見失っているようで周りを見渡していた。背後も上も見るがいないため勇者は焦り出しているのか杖を構えながら周りを何度も何度も見渡す。私はそこに居ないぞ……
「ど、どこ行った? もしや……隙を見て逃げたか? 逃がしたかぁ……畜生」
「……うぉおおりゃあああああ!!」
ズバァアアアアアアアン!!
勇者の下、屋根の下から大きな声を発した。屋根を大きく切り払らい。その切り払いは斬撃が飛び、屋根の上に乗っていた勇者の右腕を肩から切りあげ、血が散る。
「あぎゃああああいたいいいいいいたいいいい!?」
「……」
切り払った屋根の亀裂から翼を広げて飛び出し、そのまま大きく剣を振りかぶった。
「ま、まて!? 神に選らばれた俺を殺すと神を敵に回すことに!!」
「目の前にいるのがこの世界の女神ですよ!!」
私は断罪を行うように容赦なく振り下ろし、勇者を脳天から大剣で切り落とした。大きな大剣に潰れて断ち斬り落とされる勇者は絶命して屋根の瓦礫と混じり、建物ごと衝撃で壊れる。飛んだままその状況を見続け。大きく大きく息を吸い溜め、息を吐きだした。
「はぁ~まだまだ私は弱いです……時間をかけすぎた。もっと速く、もっと速く距離をつめないと」
瓦礫をなに事も無かったように私は一瞥し。雷の音が止んだ空を眺めた。そして……雷が落ちても何とか出来る事がわかった私はそのまま、新たに産み出した雷鳥を避雷針に港まで飛んでいくのだった。
*
ネフィアは右手の炎を振り払い。ウィンディーネは水球を海に捨てる。アンジュの戦いを見届けた二人はそのまま飛んでくる彼女に手を振った。雲は消え失せ空は晴れ、アンジュを照らす。
「おーい。ここです」
「アンジュ~ここ~」
「うん!!」
可愛らしい返事をし降りていくアンジュをネフィアは受け止めた。
「お姉ちゃん。私が最後だったね……」
「そうね。でも、一番大変なルートと相手だったみたいだし~それに船には間に合った」
「そそ。アンジュ。まだ気を抜けないよ」
「うん!!」
甲板から、前方の方へ移動し3人は遠くを見ている船長に会う。
「全員揃ったわ、船長」
「ネフィアのお嬢さん。わかったぜ……帆をもっと張れ!! 魔法を唱えて風を吹かせる!! 切り抜けるぞあの包囲網を!!」
船長の怒声に船員はあわだたしく準備をし、詠唱が聞こえ陸から風が船を押し出して進みが速くなる。ネフィアとアンジュとウィンディーネは各々が遠くの軍艦を眺め……身を引き締める。
「突破は3人でって言ってましたね」
「ええ、お姉ちゃん」
「そうですね。お姉さま」
「では……行きます。私一人で」
「お姉ちゃん?」
「お姉さま?」
ネフィアは6枚の翼を広げ。包囲網を睨むのだった。




