軍港突破~ウィンディーネ編~
私は体を溶かして路地に逃げ込んだ。路地にある排水口に隠れようと考えたのだが。顔を覗くと路地には数人の勇者らしきチームが指を差して声を張り上げている様子が見える。
「いたぞ!! 流石、予言持ち!!」
「うん!! 行こう!!」
「一攫千金だぁ!!」
なんと眩い雰囲気の勇者達だろうか。悪を仕留めるために己の仲間を信じて向かってくるだ。私はそのまま別の路地を探し走り出す。
「は、速い!! 逃げ足」
「皆さん!! こっちです!!」
一人の少女が能力を使い、逃げ道を見通しているようだ。ならばと私は一匹の丸いスライムとなり、プルプルし、皆はそれを無視をするように仕向けようと考える。勇者たちは過ぎ去ったあとに、すぐに振り返り。スライムの私に向き合った。大きな道でスライムの私を囲む。
「……プルプル。私は悪いスライムじゃないよ。変な人は向こうに走っていたよ」
「そっか、ありがとうスライム。よーしみんなぁ~詠唱!!」
「ふぇ!?」
「スライムは喋らねぇよ!!」
勇者たちの詠唱で現象が具現化する。
「サンダー!!」「ファイア!!」「アイスランス!!」
電気が走り、体を痺れさせられ、炎で焼かれ、最後に氷の槍がその炎の上から突き体を突き刺す。スライムだった形だったが人の形に戻り包囲を離れ飛んで。そして……私は……
バシュゥウウ
炎が消え、氷の槍を引き抜く。みずみずしい姿から、青い髪を持ったドレスを着た女性へと姿を変えて転がった。ムクッと立ち上がり。髪を揺らし睨み付ける。
「はぁ……もう。本当に……後悔しても遅いですよ!! あなた方が先に手を出したのですからね!!」
シュッ!! バシュゥウウ!!
私は水溜まりを生み出しそれを手に球として集める。水球はボール球ぐらいの大きさになる。
「かかってきなさい!!」
追っ手を殺す覚悟を決めた。その瞬間……一人の女性が震え出す。死球の予言を見たのだろう。もう遅い。
「行くぞ!!」
「ま、待って!? ダメ!!」
予言の少女が叫ぶと同時に……元気よく剣を抜いていた男の頭が吹き飛び体が大きく後方に倒れる。
「あっ……きゃあああああああ!!」
水球を投げて大きな水の塊が男の顔をぐちゃぐちゃにし、吹き飛ばしたのだ。一瞬の死。一瞬での出来事。仲間の死に勇者は驚く暇はなかった。
ガガガガガガ!!
私は金属バットを地面に擦りながら勇者たちの元へ走り出す。その速さと状況に……いとも簡単に死が近いと言う恐怖に一瞬で未熟者だと知らない勇者たちは逃げ出そうとする。予言の女の子はへたり込み。頭を押さえた。
「いやああああああああああ!?」
見たくもない未来を予言し、泣き叫ぶ。惨劇を止める術は……ないでしょうね。
「おりゃあああああああ!! インパクト!!」
勇者達の頭は凹み、泥々と血を脳漿をぶちまけていく。容赦のない虐殺に勇者の女の子がうずくまり体を抱き締める。
私は思う。仲良く、頑張ってきた人が。挨拶し、頑張ろうと応援していた人たちがどんどん倒れて行くのだ。それも一瞬で肋骨を折られ、内臓を壊されて恐ろしいほどの痛みを感じて悶絶し絶命していく。同じ事を仲間にしたらと思うと気持ちがわかる。だが……ここは戦場だ。
そして……残ったのは青い髪が返り血で染まり。とうとう赤く染まった金属バットを持つ私だけになる。血の泉に立つ化け物となって私は無慈悲と言う言葉を思い浮かべた。
「あなたが最後ですね」
「ひぃ!?」
予言は金属バットが深々と頭に当たり抉れる自身の姿を見ているだろうか? 逃げ出そうとする未来は足を水球に撃ち抜かれる予知だろうか? 身がすくむ少女を見ながら考える。
「許して……許して!!」
「……わかった。許してあげる。追いかけるなら容赦はしない。いいね?」
バットを降り投げ、泉に沈めては少女を一瞥し、その場から走り出して排水口に飛び込んだ。化け物が去ったあと少女は独り言を囁き、それを私は『ごめんね』と返す。
「……はは。助かった助かった……ははは。ごめん皆……ごめんなさい……ごめんなさい」
一人の少女の心をそのバットで砕いた事。仲間に懺悔し続ける姿に……私は無視をする。それが戦場なのだから。
*
排水口から海に流れる赤い血が海を汚す。体についた返り血を洗い、金属バットを取り出して綺麗にしたあとに水を移動し船を探す。
そして……出港しだした海賊旗の船を見つけて水面から飛び上がり、走り出す。
「みつけた!! 流石、姉さま。いる!!」
船より速く水面を駆け抜け、手に持ったバットを両手で持ち水面をジャンプし回転しながら海を叩きつける。
「インパクト!!」
声を張り上げて水面を叩き、衝撃が海に入る前に反発し大きな水柱と波を生む。そのまま衝撃の反発で持ち上げられる。
「お姉さん!!」
そして……雨のように船に海が降り注ぐ中で甲板にべちゃっと音を立てて乗り。滑っていき船の帆を張る柱にぶつかって止まる。ネフィア姉さんは全く気にもせず、翼の傘をやめて振り返った。
「2番乗りね」
「ネフィアお姉さん速い……」
「正面は薄くそのまま突き抜けましたからね。う!? ちょっとどぶ臭いし血の臭いもある」
「はは……排水から逃げてきたので。追っ手全員倒しました。予言能力で追っ手くるので大変でした」
「そうなんだ。それよりも体を洗いなさい。すっごい臭い」
「はーい」
軽く返事をする。血祭りに上げた事なぞ何も気にしていない素振りで海の水を汲み体を洗い流す。
「ごめん。こんどは磯臭い」
「ふぁあああ!?」
ネフィア姉さんに言われ今度は真水で洗う事になるのだった。




